9話 路地裏大戦(中編)
「やっほー!諸君!」
立派な角と禍々しい羽、それらに似合わない、いたずらっぽいが可愛い顔した悪魔らしき少女が立っている。
「ごめんね〜冒険者くん、今日2回目の面倒事参上!」
周りの空気が変わった。ずっとそこにいるだけで死んでしまいそうな程の禍々しく、重い感覚。
「逃げろ姫!」
家臣の男は叫ぶ。すぐさま姫と狸女が駆け出す。
「おっと、早いねー。流石に魔力が漏れすぎたみたいだね」
「誰なんだお前は!」
舐められてはいけないと、啖呵を切る。
「私?まあ、自己紹介は大事だよね!」
そう言って手を大きく広げる。その些細な動作だけで、こちらに魔力の波が押し寄せる。魔力に対して鈍感な自分でも、触ってるかのように感じ取れる。
「私はヨルムンガンド!君の世界の神話にも同名の魔物がいるだろう?君の名前は?」
正直知らない。ヨーロッパ系の神話なのかなとは推測できるが。
「マヤだが、なんか用なのか?」
ヨルムンガンドはニヤッとして、
「いやーちょっと暇だったからねー、襲っちゃおっかなーって」
ヨルムンガンドは家臣の男の方を向く。
「君はお呼びでないから、どっか行っちゃってね」
ヨルムンガンドが一瞬で家臣の男をつかみ、空へと放り投げた。一瞬で男は見えなくなり、本当にどっか行ってしまった。もう頼れるものはない。
「2人っきりになったね♡」
ゾワッと寒気がした。こんなラブストーリーなんかあるもんか。
「一体何をするつもりなんだ」
「死闘ごっこだよ」
どうやらお遊びでこちらを殺しにくるようだ。多分奴は自分が死なないことを知っている。
「そんなのに付き合ってられるか!」
そう言って逃げようとする。
「逃げたらお仲間2人を殺すよ?」
だろうな。そんなことだと思っていたよ。やっぱりやるしかないようだ。
ヨルムンガンドと向かい合う。勝てる気などしない。しかし、どうにかやり過ごさないと2人が危ない。やるしかない。
「今はセーブしない方がいいよ!これは絶対詰みセーブだからね!」
こいつも転生してきたのか?ただ知識を持っているだけ?よく分からないが、謎は深まる。
「じゃあ、行っくよー!」
来る!右手にワンドを、左手に剣を握り、重心を落とす。
ヨルムンガンドはただ手を横に振っただけだった。それなのに、その瞬間とんでもない魔力波が飛んでくる。
どうにかしゃがんで躱す。あれは掠っただけでも死ぬだろう。
「ナイス回避!当たり判定ギリだったねー!」
軽口を叩きながら、次々と魔力波を飛ばしてくる。右へ左へ避け続ける。どうにか近付こうとするが、あまりのスパンに避けることしか出来ない。
避け続けていると急に攻撃が止まる。好機と捉えて飛び掛るが、尻尾でベシッっと言った感じで容易く弾かれた。
着地すると、ヨルムンガンドが自分の後方を指さしてくる。振り返ると、後方にあったはずの建物が崩壊していた。自分が通ってきた通路までなだれ込んできている瓦礫の山を見て、呆然としてると、
「すっごいでしょ!多分、街の直径の3分の1くらいの距離1列に、ぶっ壊れた建物が並んでるよ!すっごいね!」
他人事のように話すと、
「これ以上はやめとこうかな、次は近距離攻撃だ〜!」
急にヨルムンガンドが飛びかかってくる。咄嗟にワンドで受け止めるが、重すぎる。それはただのチョップであった。
力を逃がすために後ろに転がる。まともに受け止めていては体が持たない。
「今からはゆっくり動いてあげるから、どんどん打ち込んで来てねー!」
そう言って拳を打ち込んでくる。冷静にそれを躱して、剣を振るう。
しかし、空振った。体を少し捻っただけで躱された。
すかさずワンドを胸の中心に向かって突く。渾身の一撃だったが、また体を捻って躱される。
「うーん。スピードが足りないねー。もうちょっとステ振りした方がいいね」
そういいながら、手を振る。蝿を払うような動作で、とんでもなく重い一撃が腹に飛んできた。避けるのは不可能なほどの死角への素早い一撃。
耐えきれず、呻き声をあげて膝をつく。
「攻撃って、こうやってやるんだよ?」
ヨルムンガンドは自分の肩を持って無理やり立ち上がらせてきた。
「ほらほら、こんなとこで終わってたら、2人を殺しちゃうよ」
その言葉でどうにか体に力を入れる。そうだ。2人を守らなくては。どうにか一撃だけでも入れてやる。
窮鼠猫を噛む。あのヘラヘラした顔を崩してやる。
気合を入れて剣を振る、軽く躱されるが、これは本命ではない。攻撃を躱す振りをして後ろに下がり、ワンドを思いっきりぶん投げる!
ヨルムンガンドもさすがに驚きそれを大振りに躱す。その隙を見逃さず剣で切り込む。ヨルムンガンドはそれを腕で受け止める。
傷は付けれなかったが、どうにか攻撃は当てることができた。ヨルムンガンドは腕を振って自分を吹き飛ばす。
その瞬間剣が飛んでいった。自分はどうにか受身をとって起き上がる。
「もー。武器両方無くしちゃったら闘えないじゃん!いくら当てたかっらってそれじゃあ意味ないよ!」
そう言ってゆっくりとこちらに詰め寄って、拳を打ち込んできた。自分を丸腰だと思い込んでいるせいで、動きが単調だ。
片方の手を下に下げ、ヴァルからワンドを受け取る。そして隙だらけの腹に貫通の一撃を叩き込む。刺さった。
どうにか攻撃が通った。ヨルムンガンドは後ろに大きく下がる。そしてすぐにワンドを抜き、傷跡をさする。
効いてはいないだろう。あまり奥まで刺さらなかった。
「なるほど、防御無視攻撃か。なかなか強いじゃん。シンプルにね」
ヨルムンガンドはこちらを見る。その顔は笑っていた。
「攻撃面は合格だね!じゃあ足りないところの補習と行こうか!」
やっぱり、微塵も効いていない。周りの魔力の感覚がさらに重さを増した。普段、近接で闘っているように見えるが、多分本職は中遠距離魔法だろう。
相手の土俵では、どれだけのハンデを貰ったとしても、勝てる気がしない。
もう一度ワンドを受け取り、ヨルムンガンドに向き合う。
ヨルムンガンドの攻撃が来る。さっきよりも断然スピードが上がっている。それをどうにか避け続ける。避けているうちにどんどんスピードが上がっていく。時々避けきれず、ワンドで受け流すが、それでも腕が軋むような衝撃を受ける。ヨルムンガンドは攻撃しながらも、話しかけてくる。
「格闘漫画みたいだよね、この攻撃!」
「スタミナゲージは大丈夫?持ちそう?」
「そう!そこで緊急回避だ!」
とか言っているが、正直こんな敵が出てくるゲームなんか糞ゲー確定だ。
どうにか避け続けていたものの、限界が近づいてきた。あまりにも重い一撃が体力をすり減らし続ける。連撃のうちの一撃が腕ごと武器をかちあげる。そして隙だらけになった自分の腹にヨルムンガンドは正手を叩き込む。
自分はそのまま吹き飛ばされて、仰向けに地面に叩きつけられた。そのまま意識が遠のきかけるが、何とか持ちこたえる。我ながら根性がある。
しかし、起き上がることはできない。ヨルムンガンドは自分の所に歩いてきた。
「お疲れ様!楽しかったよ!」
そう言って馬乗りになってくる。ああ、こんな状況でこんな体勢になりたくない。もっとちゃんとした所でドキドキするイベントとか起きるやつなのに。
「じゃあ、ここからはお楽しみターイム!」
なんも楽しめねえよ。こっちはもう起き上がれないくらいにボロボロなんだよ。
ヨルムンガンドは顔を近づけてきた。鼻息が顔にかかる。生暖かい。
「マヤってキスしたことある?」
あるものか。まともに女子ともふれあって来なかった男だ。まさか、お前がしてくれるのかい?遠慮したいのだが。
そんな思いも届かず、思いっきりキスされた。こんなことなら、サヤちゃんに頼み込んで、ほっぺにキスでもしてもらえば良かった。ファーストキスが悪魔となんて、縁起が悪すぎる。
「キスついでに回復魔法ぶち込んどいたから、宿には戻れると思うよ!」
無理矢理回復魔法をぶち込まれた自分はふらふらと立ち上がり、ヨルムンガンドを睨みつける。
俺をおもちゃにしやがって、と感じの目線を送ったが。ヨルムンガンドはどこ吹く風で、
「まあ、鍛えてあげたってことで許してね☆」
ヨルムンガンドは手を振って飛んで行った。自分は呆然とその姿を見つめることしか出来なかった。なんだったの…これ。やってらんねーよ、こんなクソゲー。




