8話 路地裏大戦(前編)
一行は街に到着する。その街並みはとても美しく、整然と並ぶ背の高い洋風建築は、ここが発展している街であることをその姿をもって表している。
宿の予約などをさっさと済ませて、街を散索することにした。
「美味しそうな匂いがあちこちからします!」
サヤは嬉しそうに話している。自分たち3人(ヴァルは姿を消してどっかにいる)が真っ先に向かったのは、レストラン街であった。勿論可愛い妹のためだ。可愛い子には食べさせろ、と昔の偉い人も言っている。
あれ?違ったっけな?カヤも鼻歌を歌って上機嫌だ。人の金で食う焼肉は美味いってことかな。まあ、美味しいものを食べると、みんな笑顔になれるさ。
ああ、でもカップラーメン食べたいなー。
サヤがここがいいと言ったレストランに入って、席に座る。サヤが注文したのはハンバーグ、何故か虹色の旗が刺さっている。どうやらなんかのアイドルグループのコラボメニューらしい。
でも見た目はどう見てもお子様ランチ。少し懐かしい気分に浸る。
カヤはステーキ定食、自分はパスタを頼んだ。
久しぶりの麺類を頬張っていると、隣の席に変な客がいることに気付いた。立派な狸のしっぽと耳が目立つショートヘアの20歳くらいの女と、がっしりした赤い短髪の男だ。
「俺らが泊まってる宿にでかい動力車が止まっていたな」
「そうじゃの。横の席の子らみたいじゃが、若い子らが大変じゃの」
聞き耳を立てると、こちらの噂をしていたようだ。
絡まれても面倒なので、聞こえてないふりをしてパスタを口に放り込む。
「おっと。遅れちまうな」
男たちはは立ち上がり、会計を済まして出ていってしまった。少し怪訝に思いながらも、食べ終わって店を出る。
また散策していると、
「マヤ、ちょっと1人で買い物行ってくれないか?」
「どうしてですか?」
「2人の服買いに行こうと思ってね、さすがに女性用衣料店は入りたくないだろう?」
確かに陰キャにアパレル店はきつい。
「わかりました。しばらくしたら迎えに行きますね」
待ち合わせをして、別れることにした。
「なんか1人って寂しいなー」
ボヤきながら歩き回ってみる。ここにはアニメショップなどないので、結構暇である。興味を引かれるものがない。
あまりにやることがないので、路地裏にいる猫を追いかける。しょうもないことをしながら、奥まで入り込んでから気付いた。
アニメあるある、路地裏で襲撃。
あまりにフラグビンビンな状況に戦慄し、ヴァルに気配を消して貰ってとにかく路地裏を出ることにした。
その時だった。近くで数人の話し声が聞こえた。
「やっぱり、もう1両どっか買って二手に別れた方がいいんじゃないのかの?」
「でもそんな金ないぞ?」
「じゃあ奪うのか?」
「馬鹿なこと言うな」
さっきのレストランの客だ。本来ならここで立ち去るはずだったが、またうちの車両が奪われかれない。情報だけ仕入れるために聞き耳を立てる。
「でももう妹が近くまで来てるんだよ!どうにかやり過ごさないと!」
少し覗くと可愛らしいドラゴン娘とさっきの客たちが何やら逃亡の相談をしているようだ。
「確かにグレイプニル姫の目撃情報は出ているが、いざとなればピャーチの魔法で動きを封じて逃げればいいさ」
「そうじゃ。儂らは資金難じゃからそこまでの余裕はないぞ?」
「でも私たちの車じゃあ、6人も乗ってたら追いつかれちゃう」
今、グレイプニル姫とか言ったな。誰かは知らないが、最低でも貴族かなんかの娘に追いかけられているということか。奪われることは無さそうだし、さすがにこれ以上ここにいるのは危ない。さっさと逃げ出そう。
ゆっくりと下のゴミを踏まないように移動し始める。大体こういう時に瓶を蹴ったりして気づかれるんだ。そんなヘマはしない!
ガチャン!
あっ!剣落とした。フラグ建築士2級実技試験合格おめでとうございます。
って、馬鹿野郎!なんでこんな時に限って、ちゃんと取り付けてないんだよ!おっちょこちょいなんてかわいいもんじゃないぞ!
「おい!誰かいるぞ!」
やばい!気づかれた!一目散に駆け出す。追いつかれたら1巻の終わりだ。ここで殺される訳にはいかない!
「まてえええええ!」
そんなことを考えていたものの、ドラゴン娘がとんでもない速さで追っかけてくる。数秒で追いつかれて、背中に突進される。そのまま地面に叩きつけられる。
ドラゴン娘にのしかかられて、身動きが取れなくなる。全く振り払えない。自分の相当な非力さに絶望していると、すぐにあとからついてきた2人に取り囲まれる。
「つかまえた!」
あっさりと捕まってしまった。あまりの自分の弱さに絶望する。
ドラゴン娘に雁字搦めにされて座らされる。とりあえず、やましいこともないので全部説明した。
「と、言うことで、俺はあなたがたのことを何も知らないので、情報を誰かに渡せるなんてことはありません!」
狸女と男は納得の行かないような顔をしていたが、
「お前さん、あの大きな動力車の子だろう?まあ、別に関係ない人なら別に解放してもいいかの」
どうやら、許して貰えそうだ。必死に説明したかいがある。
「ん?この人動力車もってるの?」
後ろのドラゴン娘が聞いてきた。
「いや、俺のって訳ではないけど乗せてもらっていますよ」
ドラゴン娘は少し黙ったあと、突然
「私実はこの国の姫の1人で許嫁として結婚するのが嫌だから、信頼出来る家臣と逃げ出してるんだー」
と早口で話し出した。
「それで、下の妹のグレイプニルが私のこと大好きらしくて追いかけ回されてるの!」
とんでもないことをベラベラと喋ること喋ること。
家臣の2人も口をあんぐりと開けて、呆然としている。自分もドラゴン娘が何を意図して、こんなことしてるのかわけがわからず、黙ってしまう。
「私たち世間に顔出してないんだけど、王家の追っ手が私たちを無理やり連れ戻そうと躍起になってるんだー」
ドラゴン娘は呆然としている自分を覗き込み、
「あ〜ごめんねー。私の秘密も知っちゃったし、顔も見ちゃったねー」
狸女が慌てて、
「姫さん、何をやってるんじゃ!せっかく情報を知られずに済んだというのに、全部話してしもうたではないか!」
ドラゴン娘はニヤッと笑って、
「これはもう逃げられないねー!どうしよっかなー?」
自分は恐る恐る聞いてみる、
「どうなるんですか?」
「死ぬか、道連れか」
男は頭を掻きながら、
「姫さん、最悪だな。関係ない子を巻き込んじまったのか!」
やっと状況が飲み込めた。この子、自分の逃避行に自分たちを巻き込んだのだ。
「マジで言ってんのか!?俺は全く関係ないんだぞ!?」
「ほんとに申し訳ない、儂もどうしたらいいのかわからんのじゃ」
必死に謝ってくる狸女が可哀想になってきた。これは相当振り回されてきたのだろう。まあこれは飛びっきりのやらかしなんだろう。
「やったね!仲間が増えた!嬉しい!」
嬉しくねえよ。絶対疫病神じゃないか。
「仕方ないな!」
男が近ずいてきて自分の肩に手を当てて言った。
「すまねえな!もうお前は逃げれない!知っちまったからな。」
男は一息ついて、
「お前にも大切な仲間がいるだろう。そいつらは絶対に守ってやる!俺の命にかけても!」
この人は一体なにを言っているのだろう。なんで少年漫画の主人公が言うようなセリフを、恥ずかしげもなく言い放てるのだろう。加害者側が。
「なんで…他人の連れを命をかけて守るだなんて、そんなの信じられないですよ」
男は真面目な顔で、
「そんなん決まってるだろう!巻き込んじまったや奴を死なせるなんて、絶対に俺がさせない!それは俺にとって当たり前のことだ!」
こんな状況で聞くセリフではない。とても臭いセリフだ。しかし、何故だかそのセリフはおかしなことに、自分の心に響いた。
「あの…凄い人ですね」
男は笑って
「すまんな、加害者が格好つけて!」
とんでもない事に巻き込まれてしまった。なんの能力もないのに。多分ドラゴン姫の狙いは車だ。もう逃げられない運命なのだろう。その運命を受け入れる前に、本日2度目の災厄が訪れる。
悪魔がヒタヒタと忍び寄る。
この話から沢山キャラが増えます。多すぎるキャラをどうにかして一人一人の個性を際立てていきたいです。




