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81話 ある日森の中

 

「かっこいい〜似合うよ〜」


 自分の背中には立派な黒い羽が、バサッと広がっている。自分の予想に反して直接刺さっている訳ではなく、自分からちょっと浮いた場所に存在している感じだ。しかも自分の意思で完全に収納出来る。


「うーん、中々にふわふわだな。これ飛べるんだよな」


 自分は羽を羽ばたかせて宙に浮く。流石に自力で飛べると感動する。しかも全くぶれずに飛べるお掛けで、腰に着けていた鞄から取り出した銃で木を狙う。これは使い易い。


「おーい、改造終わったぞ!受け取れ、このバカ!」


 後ろから頭にワンドを投げつけられた。自分が落ちたワンドを拾って、傷がないか調べるが、元と全く変わっていない。ひとまず安心と言った所だろうか。


「で、何したの?」


 マリーはワンドをコンコンと叩く。その瞬間に戦車の砲のような物が自分の横に2つ展開された。


「なんじゃこりゃあ!」


 自分が驚いて羽のせいでいつもの二倍近く飛び上がるとヴァルがスーッと浮かび上がってきた。


「この子すごいのにぇ。勝手に魔弾の威力を馬鹿みたいに強くしちゃったにぇ。てかなんで私クラスの武器を軽々しく改造できるの…」


 自分は砲を木の方に向けて撃ち込む。今まで可愛らしくAPとか言ってたのは、何だったのだろうか。目の前の木は真っ二つに引き裂かれた。明らかに口径も貫通力も上がっている。


「うわあ、なんか凄いことに…」


 口が開きっぱなしで閉まらなくなってしまった。マリーはドヤ顔でこちらを見ている。

 するとルトラが嬉しそうに走ってきた。自分はそちらの方を向く。おお、改造が終わったようだ。…ん、なんだあれは?どう見ても自分が知っている剣では無い。持ち手がどう見ても鋏だ。


「改造が終わったぞ!」

「ちょっと待ってくれ!なんだそれ!それは一体なんだよ!」


 自分は手渡された元自分の剣を見る。

 鋏だ。黒と白の持ち手は自分の手に馴染み、その2つの刀身は普通ついているはずの方向と、その逆の方向にまで刃がつけられている。


「これには私の能力を少し混ぜてある。マヤは普段の姿では火力が出ないと聞いた、しっかり使ってくれよ!」


 自分は微妙な顔で手の上にある武器を眺める。どうしてこうなった。まあ、軽いから使えないことも無いか。元が地味な剣だったから派手になったから…まあ、仕方ないか。もう頭がついていけないけど。


「マヤー!見て見てー!!」


 ああ、パーミャチの声が聞こえる。すごく嫌な予感がする。後ろを振り返ると、フリフリの衣装を来たパーミャチが近付いてくる。

 さっきまでは軍服の上にローブを着込んだ姿だった筈なのだが、いわゆる魔法少女のような感じになっている。


「見て!魔法少女って言うんだって!」

「そうか…可愛いんだけど、何だか元のパーミャチが死んでしまったような気分…」


 そう言うと、パーミャチは口を尖らせながら右手に持っていたステッキを、腰につける。すぐに魔法少女の姿からいつもの軍服姿に戻っている。


「まあ、この姿魔力を消費しまくるから、元に戻っとく…」


 自分はほっと胸を撫で下ろす。


「それにしてもマヤ!その羽いいねえ!かっこいい!」


 パーミャチのセンスにクリティカルヒット!やはりと言った感じだが、パーミャチは自分の漆黒の翼()をたいそうお気に召したようだ。


「中々強くなれたようだな。それじゃあ明日同時に攻撃を仕掛けよう。ビワ!奴らの監視と誘導は任せたぞ!」


 皆隠れ家に戻り、明日の作戦を練って床に就く。使った事のない武器で強い敵と戦わなければ行けない。心配で仕方がない。



「それじゃあ、皆頼むぞ!」


 自分達は3チームに別れてエージェント達の討伐、若しくは撃退のための作戦を行う。魔法少女組、大小コンビ、余りの自分とルトラだ。

 ルトラと共に今回の目標である、エージェント・サンクチュアリの元へ向かう。

 歩きながらルトラが話しかけてくる。


「マヤ、お前私にだけ敬語だが、私は別に歳を食ってる訳では無い。タメ口でもいいのだぞ?」

「じゃあ、敬語は辞めときますか。でもなんか自分より背が高くて、自分よりリーダーシップがありそうな人には敬語使ってしまうんですよね」


 ルトラは自分を悲しそうに見下ろす。結構この身長がコンプレックスだったらしい。森の無害なコンカラー達にも畏敬の目で見られていたらしい。

 ビワは180センチは有るのに、そこまで怖がられていなかったらしいから、余計だろう。


「じゃあルトラちゃん、今回は自分が前衛で戦うから盾にして戦ってもらおうかな。いつもはビワちゃんが盾役だったらしいし」


 自分が今回の戦闘の話をし始めると、ルトラは何やらモジモジし始めた。


「ルトラ…ちゃん?私ちゃん付けで呼ばれたの初めてで…」


 やばい、この人ちょろい!恋愛なんてした事ないのは分かるけど、即堕ちだけは辞めてくださいよ。ヨミでさえ、もうちょっとガード硬かった。


「別にそこまで不思議な事じゃないですよ。背が高いだけで、普通に可愛い顔してますし」


 ルトラは恥ずかしそうに下を向いた。見た目に反して、いや逆に見た目通りのピュアっピュアだ。初めて会った時のヨミみたいだ。このまま放っといたら変な男に引っ掛けられそうだな。


「ありがとう…容姿で褒められるのも…悪くは無いな!」


 ルトラは照れ隠しに眼鏡をクイッと上げて前を向く。ここまで照れられるとこちらまで恥ずかしくなってくる。気を紛らわすために、自分は鋏剣を取り出して眺め始める。

 何度か素振りした感じ、そこまで違和感は無かったが、形からして異質だ。だが、見覚えのある狼の彫り込みがこれが自分の剣だと言う事を示している。


「よし、このまま行けば見つかる筈だ」


 2人でどんどん歩いていると、横の方で大きな生き物が動く気配がある。2人で構えながらそちらの方見ると、灰色の狼の獣人の少女が顔を出した。それを見ると、ルトラはほっとして元の方向に向き直るが、自分は気になって見つめてしまう。


「色んな子がいるんだな」


 自分は鞄からビーフジャーキー(サヤのおやつ)を取り出して少女に向かって振る。ルトラはそんな自分を慌てて止める。


「マヤ!ストップ!その子は意思疎通が難しいんだ!下手な事したら殺されるぞ!」


 自分はハッとする。ルトラみたいなのが普通ではないことを思い出した。手帳に書いてあった子もめちゃくちゃ殺しにかかってたしな。

 自分はビーフジャーキー(自分のおやつでもある)を仕舞おうとするが、持っていた手に生ぬるい感覚がする。

 手の方を見ると、20メートルほど離れていたはずの少女がビーフジャーキーを平らげて、自分の指をしゃぶっていた。


「ふぎゃっ!」

「ヒィッ!」


 ルトラと2人で小さな悲鳴をあげる。いきなり横にいるのは怖すぎる。少女は自分の手を涎だらけにしてから、こちらを見る。


「おかわりくれ!」


 野良犬に餌をあげないでください。

 しまった、いざと言う時は飛んで逃げればいいとも思っていたが、これは逃げられない奴だ。自分は鞄の中の肉類を全部少女に押し付ける。


「これ全部あげるよ!」


 そう言って、立ち去ろうとするが、少女に袖を掴まれる。


「ありがとう!オイラに優しくしてくれるだなんて、珍しいな!」


 少女は尻尾を振りながらお礼を言ってきた。だが、そんな事よりも、一人称オイラって何だ!可愛いんだけど、その一人称を女の子が使うのは…逆にいいのか?


 自分は少女の頭をそっと撫でて、微笑む。とりあえず機嫌を損なわないうちに立ち去ろう。


「礼は要らないよ。美味しく食べてくれよな」


 そう言ってルトラと共に立ち去る。本当にこの森はカオスすぎる。早く自分の布団でゆっくり寝たい。


 歩いていく2人の後ろ姿をじっと見つめる狼の目は、どこか悲しそうであった。


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