6話 呪われた装備
青年と別れたあと、車は森を突き進む。木々を避けながらどんどん突き進む。しかし、突然車が大きく揺れる。
「うわあ!」
カヤは車を急停止させる。どうやら石か何かを踏んでしまったようだ。カヤは車から降りて、破損がないか確認したが、
「あちゃー、車輪がやられた!」
どうやら6輪の車輪のうちひとつが壊れたらしい。
カヤは黙々と車輪を交換し始めた。手伝おうかと聞いたものの、手伝えることはないと言われた。手持ち無沙汰になって何を踏んだのか確認すると、墓石のようなものであった。
どかしてみると、なんと下に階段があった。未開のダンジョンだ。サヤは車で眠っている。
「ちょっと覗いて来ようかな」
好奇心が湧いてきた。ダンジョンなんて元の世界で見ることなんてない。
魔物の気配はないので、こっそり調べてみることにした。近くにあった乾いた木に火をつけて松明にする。いささか不安だが、そう長居するつもりもない。
地下はジメジメしていて陰気臭い。とりあえず、多少価値がありそうなものだけ持って行くことにした。入ってすぐの場所に宝箱があった。中を覗くときらびやかな剣が入っている。
「あからさますぎて笑うなー。外せなくなるやつじゃんか」
ゲーム脳を発動させながら恐る恐る手に取る。何も起こらない。それを床に置いてみる。何もない。
「まあ、さすがにないか」
ちょっと安心しながら、それを持って先に進む。すると開けた場所に大層な台座があった。その真ん中には杖のような、槍のような武器が鎮座されてあった。
「置き方、エクスカリバーやんけ!」
どう見ても剣ではないが、垂直に突き刺さっている様は、まるで勇者にしか抜けない伝説の剣だ。興奮気味に近寄り、その武器に手をかける。抜けるとは思っていなかった。
だが、予想に反してスルッと抜けてしまった。拍子抜けだ。途端に興味を失い、さっさと帰ろうとするが、なにか変な予感がする。その杖から手を伝って、気持ち悪い感覚が伝わってくる。
「やばい、デバフかけられたか?」
気持ち悪くなってその杖を放り投げる。音を立てて杖は転がった。その場から踵を返して立ち去ろうとする。
しかし、目の前に杖が浮いている。一瞬でここまで戻ってきたのか。もしかして…呪われた装備?よく考えたらあからさまな罠だ。自分の思慮の浅はかさに霹靂する。
すると、いきなり杖が喋りだした。
「捨てるなんて酷いにゃ〜。責任もって使ってくれないとにぇ〜」
うざったい喋り方だ。喋るタイプの武器って大体うざいのかも。しかし、どうやら杖が喋っていた訳ではないようだ。うっすらと姿が現れ出す。
とても薄い青色の髪に、野暮ったい服、そして明らかに浮いている。変な少女の幽霊がそこに立って…浮いている。
「やあ、こんにちは!やっと見つけてくれたにぇ〜!」
そう言って杖を渡してくる。多分…この武器呪われてて…これもついてくるんじゃないのかな。そんな気がする。フラグの神もそう言ってる。
「ゴメンにぇ〜、残念だけどその武器は呪われていてにぇ〜、捨てれないの!」
知ってた。
「私はこのワンドの守護者であり、本体!」
当たらなくていい予想まで当たった。フラグ建築士2級学科試験、文句無しの合格でしょうね。とりあえず、聞いてみる、
「もしかして、ついて…」
「来るよ〜!」
被せてきた。
「私何百年も待ってたんだよ〜!やっと新しい持ち主が現れったってとこにぇ!君で〜2人目!」
すっごい面倒臭いのがついてくるようだ。3人目の仲間にしてはキャラが濃すぎる。RPGとかじゃなくてソシャゲ出身のようなキャラだ。しかも好き嫌いわかれる系の。
「まじでついてくるの?」
「憑いていくよ!そんなに嫌?」
意外にげんなりしている。別に危害を加えてくるわけではないようなのに、露骨に嫌がりすぎた。さすがに心が痛い。
「まあ、戦力が増えるのは悪いことではないし、別にいいかな」
「やった〜!許された!」
少女は小躍りしている。
ふとこの杖はもしかしたら、とても強大なものなのかもしれないと気づいた。これはチャンスかもしれない。
「ねえ、この武器ってなんの能力があるんだい?」
少女は動きを止め、目を逸らして、
「ん〜っとにぇ〜、君って流れ者だよにぇ?」
「うん」
「だったらにぇ〜、特にスーパー能力とかはないかにゃー」
神は自分が嫌いなようで、どうしてもチート能力はつけたくないようだ。甘えるなってか。
「で、でも!シンプルにつよつよだよ〜!」
少女は焦りながら言った。
「なんと、鎧などを無効に出来る技が使えたり、気配を消したりできるのです!」
まあ、すごく使えるけどなんか地味だな。
「まあ、1番の能力は死なない事なんですけどにぇ〜」
ん?ちょっと待て、今なんて言った!
「いや、それめちゃくちゃやばい能力じゃんか!」
少女はびっくりしたようにこちらを見て、
「ありゃ!?まさか君って死んでないの?」
そりゃー人生にリスポーン機能なんて…あるのか?
「死んだ流れ者の子って神殿や教会で生き返れるんだよ!」
初耳だ。場所移動はあるものの復活できるのは強い。残された味方がどうなるのかは不安だが。
「まあ、君は今から死んだら幽霊になっちゃうの〜」
超展開だな、ついていけん!
「そこでちょっとずつ復活して、完全に肉体が戻ったら完全復活!死なない!」
なるほど、場所移動がないのはありがたい。ただ復活に時間がかかるのはちょっと気がかりだ。結局あまり元と差がないってことだな。
「まあ、便利っちゃあ便利か」
「そうでしょ〜」
「後、教会で復活すると力が弱くなってるらしいにぇ」
少女は嬉しそうに答える。
「しかも、魔法、物理火力も高いからどんなやつにもある程度は通じるのにぇ」
いや、意外とつおい。大した能力値もない自分にとって火力の底上げはありがたい。どうせ取れないなら自由に使わしてもらおう。
「そういや、ついてくるんなら名前教えてくれよ。俺はマヤって名前」
「私はヴァル!これからずーっとよろしくにぇ☆」
ちょっと面倒臭いやつだが、戦力として期待するとしよう。
地下から這い出でると、ほぼ作業は終わっているようだった。作業が終わるのを待ってから、2人を集めて事の顛末を話した。
「と、言うことで〜よろしくにぇ〜!」
カヤはクスクス笑いながら、
「マヤ、次変なのに出会ったらお祓いしないとな!」
サヤは苦笑いしながら
「なんか…すごい人が仲間になっちゃいましたね」
同感だ。しかもずっといるよ!
話し終わり、準備をしていると近くで唸り声が聞こえる。魔獣だ。結構大きい。
ヴァルはこっちを見て、
「私たちの出番だにぇ!」
なんですか、チュートリアル入っちゃいましたか?多分今操作説明が端っこに出てきているのだろう。まあ、残念ながらこちらからは見えないので、感覚で慣れるしかない。
槍とも杖ともつかない武器を構え、戦闘態勢に入る。小さい魔物なら何十匹も殺してきた。最初より大分様になってきた。顔をあげ、魔獣を睨む。
「じゃあ辻斬りとでも洒落込むかな!」
戦闘が始まった。