49話 各個撃破
「サヤさん、時間になったわ。行きましょう」
フェイブルは5階建ての宿の屋根に、縄を括りつけてそれを垂らす。
「はい、行きましょう!」
フェイブルは縄を掴んで、3階のベランダに飛び込む。私もそれに続く。窓を割って中に入ると、桃色の髪をした少女が、驚いた顔でこちらを見ている。
「え!今襲撃来るの?しかも鬼が来るなんて聞いてないって!」
少女の名前はミゼラブル、エンジェルダイブではガブリエルと言う名前で活動している。
今回の私たちのターゲットだ。しかし、少女はすぐにドヤ顔をして戦闘態勢になる。
「天使は生命力だけはすごいと聞いてるわ。ならば叩き斬ってやるだけよ」
フェイブルはそう言って大太刀で斬り掛かる。
「無駄よ!神の盾!」
ミゼラブルが言った瞬間に大きな盾が出現して、大太刀の攻撃を阻む。ガギンという金属がぶつかり合う音がして火花が散る。
「くっ、意外と強いわね!」
フェイブルは後ろに下がる。ミゼラブルはドヤ顔をしながら盾を見せつける。
「これは神の盾、そんな攻撃じゃあ傷すら付けられないわ!いくらでも斬りつけてくるといいわよ!」
ものすごい自信だ。自分は慌てずに刀の鯉口を切る。別にあんなのただの鉄の塊だ。自分はミゼラブルに詰め寄り、盾に斬り掛かる。
「てやぁあ!」
「ふっ、無駄よ!そんな剣くら...い?」
ギンッと言う音ともに自分の刀が盾の中心を横に通り抜ける。すると、すぐに盾の半分が床に落ちる。
ミゼラブルは呆然としていたが、その状況を理解すると叫び出す。
「え、ええええええええええ!?一撃でまっぷたつにされたあああ!?」
「えいっ!」
叫んでいる途中で容赦なくフェイブルに切り捨てられた。
「ぐぎゃあ...」
ミゼラブルはぶっ倒れて気絶してしまった。それを見て刀を鞘に納める。
「ありがとう、サヤさん。素晴らしい剣の腕前ね。惚れ惚れしたわ」
そう言ってフェイブルはミゼラブルの荷物を漁り出す。暫く2人で探したが、情報らしきものは何処にも見当たらなかった。
「じゃあ、帰りましょうか」
そう言って窓から逃げようとするが、フェイブルはいきなり、ずた袋を引っ張り出して、ミゼラブルの私物を袋に詰め始めた。
びっくりして見つめていると、フェイブルはこちらを向く。
「せっかく倒したんだから身ぐるみ剥がさないと、勿体ないわ。あっこれも貰ってこ」
そう言いながらミゼラブルのスカートの中に手を突っ込んでパンツを引きずり下ろして、そのまま袋に入れる。
「これも、裏でマニアに売れそうね!もういいかしら、行きましょう!」
そう言ってウインクをしてきた。思ってたより、逞しい人でした...
「サヤちゃんとヨミはもう終わったらしいわ。マヤは未だターゲットが帰って来ないから、待機中だって」
「はい、了解しました...私達はこのまま待機でいいですね」
思いのほか弱くて、簡単に倒してしまった。そりゃ歌って踊ってる子達が全員戦闘狂とかありえないからね。
この子はカワセミとか言う子だけど、室内で飛び回ろうとして、天井に頭ぶつけて痛がってたから、アホの子だったのだろう。
「後は2人だけかー、すぐ終わるかな。あっちはマヤも居るしなー」
フィジーはこちらに寄ってきた。
「そんなにマヤさんって...強いのですか?」
自分は笑ってマヤの事を思う。
「強いよ。何が一番強いって精神力が強いよ。いくらやられても立ち向かうの、仲間の為ならね」
正直、今は火力が加わったから弱っちくは無くなったけど、それまでは何も特徴のない冒険者だった。
それでもここまで来れたのは、その精神力によるものだろう。一体元の世界では何してたんだろう。
今、自分はホテルの一室で扉の後ろに隠れている。もうすぐ、敵がここに入ってくる。
「ふう、疲れたわね。...えっなんで私の部屋に!」
ターゲットは部屋に入って窓際にいたリードを見つけると、すぐに魔法を撃つ構えを取る。その後ろに近付いて、首に腕を巻き付けて、締め上げる。
暫く暴れていたが、締め付ける力を強めていくと、ぐったりと体の力が抜ける。
「スニーキングミッション完了だな」
ターゲットを床に下ろして、持っていた荷物の中身を確認する。しかし、普通の服や本以外に何も入っていなかった。
「無かったですか?じゃあみんなと合流しましょう」
「ああ。とりあえずこいつ縛ってここを出ようか」
そう言って、気絶した天使を縄で縛ろうとするが、急に部屋に誰かが入ってきた。
「お疲れ様ですー。残念ながら、ミッションは失敗ですよ」
まさかの事態だ。最後のターゲット、アニマ・ブーゲンビリアが入ってきた。
別に完全に予想してなかった訳では無いが、相手がこちらの存在を知ったような口振りで近付いて来るのが怖い。
「何が失敗なんだ?」
そう言いながらワンドと剣を構える。フェンリルの能力を使おうかと考えたが、あれは初見の相手には使わない方がいいだろう。
ただの馬鹿力というのは小回りのきかない能力だからな。
アニマはこちらを穏やかに見つめている。美しい金髪のロングヘア、そして純白の翼。まさに天使と言えば、こんな感じといった少女だ。
「私は最初から、み...マヤが来ることがわかっていたんですよ。そしてマヤはここで敗北します」
アニマは戦う構えすら取らずにこちらをじっと見る。凄くむかつくが、迂闊に近寄れないな。大体勝機があって、堂々としているのだろう。
「リードちゃん、弓構えて」
そう指示して、自分もワンドを構える。しかし、アニマはその様子を見て、にこやかに笑う。
「流石、ですね。何時でも変わらないです。でも無駄ですよ」
アニマは手を挙げて空で何かを掴むような動作をする。その瞬間に自分とリードの体が浮き上がって固まってしまった。
どうなってんだ!サイコキネシスは確か生物には通用しないはずだぞ...こんな能力聞いたことがない。肉体でも魔力でも非接触なんて、ありえないことなのだ。
「ヤバい奴が残っていたな...全く動けない」
アニマを睨みつけていたが、アニマは自分の顔を見つめながら、歩いてくる。
「こっちの世界でも頑張っているみたいですけど、私の事は覚えてないみたいですね。残念です」
こっちの世界でも...こいつ転生前の俺の事を知っているのか。こいつには記憶があるのに俺には無い。
若しくはこいつは思い出したのか。
「俺の前世を知っているのか?お前は一体...何してんの?」
アニマはいきなりカバンからサンドイッチを取り出して食べ始めた。
「ごめんなさいね?私はそこまで真面目に戦うほど弱くはないから」
そう言いながらくっちゃくっちゃとサンドイッチを食べている。見た目とは真逆の汚い食べ方だ。
そのまま、あと1口と言った所まで食べ終わると、自分の目の前まで近付いてくる。
「お腹空きました?じゃあ、アーンしてください」
そう言いながら食べかけのサンドイッチを自分の口に近づけてくる。歯型が残っていてパンの所が湿っている。うわあ、気持ち悪い。
「やめろ、そんな食べかけなど要らん!」
そう言って口を閉じたが、謎の力によって口をこじ開けられて、サンドイッチを捩じ込まれた。
その行動の異常さと、気持ち悪さに体が勝手に吐き出そうとしているが、また謎の力によって無理やり飲み込まされた。
「てめぇ...なにが目的でこんな事するんだ!」
そう言って精一杯に睨みつけるが、アニマは微笑みながら自分の頬を優しく撫でる。自分は目の前の女が、優しそうな顔をしているものの、その目に狂気が写りこんでいることに、気づいてしまった。
「さあ、楽しみましょう」
自分はその目から視線を外せないまま、怯えるしか無かった。




