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4話 初陣

 

 サヤが仲間になってから1週間がたったが、少しふっくらきて、みすぼらしくは無くなった。自分たちが優しく接していると、笑顔を見せ始めた。

 しかし、ひとつ問題がある。


「カヤ様!ご主人様!いつもごはんありがとうございます」


 ご主人様ってやめて欲しい。メイドカフェみたいな状況になってるんです。てかなんで、カヤはカヤ様、自分はご主人様なのか。カヤが何か、変なこと吹き込んでるかもしれない。


「そんなへりくだらなくてもいいよー。大した額でもないし」


 カヤは何も気にしていないようだし、突っ込んでいいものなのだろうか。サヤはパンを、口いっぱいに頬張っている。


「サヤちゃん、どうして俺の事ご主人様って呼んでるの?」


 思い切ってきいてみる。サヤはパンを急いで飲みんこんで、嬉しそうに、こちらを向く。


「マヤ様は、私をずっと看てくれていて…ずっと尽くしたいと思っているので、そのきもちの表れです!」


 尽くすとか言うのやめて欲しいな。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。こんな経験した事がない。


「良かったな、マヤ!信頼されてるじゃないか!」

「信頼してくれているのは嬉しいんですが、ご主人様呼びはちょっと…サヤちゃん、変えてくれない?」


 サヤは少し首を傾げる。


「それでは、マスターってどうですか?」


 その呼び方も気恥しいなあ。そんな大層なものじゃあないしな。


「ほ、他にはないの?」

「主人様でどうでしょう?」


 ダメだ、この子引かない。てか最初とほぼ変わってない。


「うん、もういいよ」

「『主人様 』!これからもよろしくお願いします!」


 強調してくれた…よろしくね、サヤちゃん。自分はサヤの頭を撫でる。サヤは自分の手に頭を押し付けてくる。



「マヤー、サヤちゃん。ちょっといいかい?」


 2人で食事を終えて、食器を洗っていると、カヤが話しかけてきた。


「どうしたんですか?」


 カヤは剣をいくつかこちらに放り投げてきた。自分はどうにか剣を受け取る。


「2人で戦いの特訓しときな!個人個人で多少は戦えないと足でまといになるからね」


 そう言い放ち、カヤは弓の素引を始めた。手馴れた手つきだ。弓使いなのだろう。だが、特訓と言われたものの、こっちの2人はど素人なのだ。何をすればいいのかさっぱり分からない。

 オドオドしていると、サヤは木刀をとり、


「とりあえず打ち合ってみましょう!行動あるのみです!」


 そう言ってこちらにも木刀を渡してきた。サヤの目はやる気に満ち溢れている。自分が情けなくなってきたので、食器を片付けてさっさと外に出る。

 サヤはちょこちょこと、ついてきた。そもそもこんな細っこい子も戦えないといけないとは嫌な世界だ。

 そんな考えを他所にサヤは木刀を構えやる気は上々。あまり気が進まないが、自分も木刀をとり、打ち合いを始める。


 打ち合っていくうちに、意外と戦いの勉強になっていることに気付く。最初はぎこちなく、木の棒を叩きつけあってるかのような、チャンバラごっこであったが、徐々に様になっていく。

 右へ左へ、前に詰めてバックステップ。だんだん動きが激しくなっていく。木刀を受け止め、弾いて追撃。それを躱され、すぐに向き直り、振り下ろされた木刀をもう一度受け止める。

 サヤは1週間前まではひ弱な奴隷少女だったとは思えない、軽快な動きで打ち込んでくる。こちらも下手くそながらも、冷静に受け止めて反撃する。 そんな激しい運動をしばらく打ち合い続けているとさすがに疲れてくる。その疲れを読み取ってくれたのか、カヤは自分達の間に、割って入ってきた。


「そろそろ休憩しなよー」


 カヤはそう言いながら、たくさんのパンを渡してきた。



 3人でパンを頬張りながら、次の目的地について話し合う。近くには街は少なく、魔石を動力源とする動力車には辛いらしい。補給ができなくなれば、平原で車を押す羽目になり、一巻の終わりだ。

 出来るだけ早く補給出来る場所に到着するために、地図とにらめっこしている。全く馴染みのない地図を見ていても、こちらとしては何も出来ないので、眺めるだけだ。

 その様子に気付いたのか、カヤは外を指さす。


「あー、2人は散歩でも行って来たら?地図見ても分からないだろうしねー」


 2人はカヤの提案に乗って散歩に出かけることにした。


 横の少女を眺めながら街をブラブラと歩いている。この子はなんの獣人なんだろうか。尻尾はふさふさとしているが、耳は犬っぽい。狼かそこらのイヌ科動物だろう。

 街の人で獣耳がついている人は、まあ見かけない。たまに冒険者らしき集団に紛れているくらいだ。自分たちは浮いた存在であろう。


「おいしそうな食べ物がいっぱいですね、主人様!」


 まあ、多少浮いてようがこの子が幸せそうなら別に構わない。どうせすぐにこの街を去るのだから。なにか買って来てあげようかと思ったが、それほど多くはお小遣いを貰ってないので、りんご飴もどきのような物をひとつ買い与えた。

 このまま何事もなく散策は終わると思っていた。


 だいぶ歩いて街の外れに来てしまった。ほとんど人も通っておらず、寂れている。


「すごく嫌な予感がするなー。襲ってくださいみたいな状況だよ」


 そう呟いた直後に、後ろから数人の足音が聞こえてきた。振り返ると3人の男たちがこちらに武器を持って走ってくる。

 明らかにこっちを見ているため、狙いは自分だちだ。


「まじかよ…フラグ立てちまったよ」


 そうボヤきながら持ってきた護身用の剣に手をかける。


「オラァ、待ちやがれ!クソガキ!」


 殺気だって、男たちが叫ぶ。


「なんだ、お前ら強盗か!」


 叫び返して、サヤに目配せをする。サヤも剣を抜く。


「お前だろ、奴隷逃がしたやつは。その奴隷返したら逃がしてやる」


 焦っているが、意外と頭は冷静だ。すぐにこいつらの魂胆、もとい奴隷商人のやり方がわかった。

 買わして、買ったやつが弱っちいやつなら奪い返す。実に簡単な話だ。

 馬鹿が考えることだ。馬鹿と言っても悲しいことに、こちらが弱っちいことには変わりない。しかし、奪われる訳にはいかない。


「やるんならやってやるぞ!盗賊風情切り捨ててやる!」


 啖呵を切って剣を抜く。


「チンケなガキがほざきやがって!」


 男たちは各々の武器を持ち上げ、見せつけるように軽く振るう。

 剣を持っているやつが2人、斧が1人。どいつも自分より一回りは大きい。必死に勝ち筋を探す。


「主人様!」


 サヤは不安そうにこちらを見つめる。


「お?来ないのか?」


 1人の男が剣を構え、


「じゃあ俺が殺してやる!」


 こちらに切りかかってくる。しかし、予想していたよりも随分とゆっくりだ。その舐め腐った太刀筋を軽く避けて、思いっきり剣を突き出す。気持ちの悪い感覚とともに男の腹に剣は突き刺さる。


「うぎゃあっ!」


 男の呻き声が聞こえる。自分はそのまま剣で男の腹を掻き回す。剣が抜けないので、男を蹴り飛ばす。

 剣が抜け、男は倒れた。あたりは血に染まり、赤く濁った水溜まりが広がっていく。人を殺した。その事実を受け止めきれず呆然としていると、


「てめえ、やりやがったな!くそが!」


 斧の男がおおきく振りかぶってその手の斧を振り下ろしてきた。咄嗟に剣で受け止めようとするが、弾き飛ばされてしまう。


 (やばい!剣を落とした!)


 自分は焦って件を拾おうとするが、剣は遠くに飛ばされている。

 斧の男はもう一度斧を構える。ダメだ、間に合わない。死を覚悟した瞬間だった。サヤがその男の頭に剣を叩きつける。男は即死だっだ。倒れてきた男の体を寸で躱し、転がった死体を見る。とてもグロい。

 残った1人を見ると既に逃げ出していた。追いかけるか。いや、もう追いつけない。


「主人様!逃げましょう!」


 サヤの声でハッとして、ここにとどまってはいけないと気付いた。


「急いで帰ろう。出来るだけ人に見られないように」


 顔を隠しながら街をひた走る。車着いた時、カヤは状況を察したらしく、宿に料金を払って急いで街から出発する。


 カヤは心配そうにこちらを、慰めてくれた。

 血塗れの2人は車に揺られ、呆けることしか出来ないままであった。


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