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39話 1.6メートル級の大物

 

「あっちに行ったぞ!…嘘だろ、壁まで登れるのか!」


 最初はゆっくりと葵と戦っていたが、段々と調子をあげてきたのか、動きがアクロバットになっていく。壁から地面から色んな場所から飛び出してくる葵に翻弄されながら、どうにか突破口は無いかと探す。


「とりあえず、地面に引きずり出さないと攻撃も当たらないわ!」


 そう言いながら、雪風は家の壁から飛んできた葵を弾き飛ばして叫ぶ。こちらの攻撃は当てられず、あちらは一方的に攻撃を仕掛けられる。圧倒的に不利だ。いくら地面を叩いても葵にダメージはない。


「最初は地味だと思ってたけど、めちゃくちゃ強くね?全部通り抜けるってことは、全ての物体が盾になるって事だろ!」


 自分の方に飛んできた葵を掴もうとするが、体を捻って躱される。相手も殺してきてないために、特に攻撃を受けることは無い。しかし、このまま避け続けれない。相手は相当余裕そうだ。


「さあ、もう諦めて私に身を任せなよ!」


 下から飛び出しながら葵はウインクしながら、着地した。剣を後ろ手にくるくる回してこちらを誘うように近付いてくる。ギザギザの歯から舌を覗かせて笑って居るのが、小物の悪役のようだ。


「そうはいかない。絶対に地面から引きずり出してボコボコにしてやる」


 葵はこちらを鼻で笑って、剣を肩にかけて地面に潜る。ウザイやつだな、おい。俄然やる気が湧いてきた。雪風は指示を仰ぐようにこちらを見る。とりあえず状況を変えなくては。


「雪風ちゃん、場所を変えるぞ。着いてきてくれ!」


 自分は走り出す。雪風もワンテンポ遅れて後ろを着いてくる。葵も勿論ヒレを見せつけながら追いかけてくる。さながら鮫映画のワンシーンみたいな状況で街を駆け抜ける。

 暫く走っていると、家の数がまばらになっていき、ルルイエの街を抜けた。そこはほとんど何も無い平原である。

 近くに池があるくらいで、家などは見当たらない。


「よし、ここら辺でいいかな」


 自分は立ち止まって後ろを振り返る。きっちり着いてきた葵が既に地上に出てこちらを見つめている。雪風も辺りを見渡して不思議そうな顔をしている。


「なんでこんな所までにげてきたの?私を倒す気ならもっと何かあるのかと思ってたんだけどなー」


 葵はつまらなさそうに、剣の模様ををなぞっている。


「いや、策はあるさ。俺はそんなに頭が良くないからよ、単純な方がやり易いんだ」


 そう言って自分はワンドを構える。ワンドをクイックイッと振って、葵を煽る。


「単純な策でやられるって思われるほど、なめられてるのは心外だなー」


 葵は地面に潜って姿を消す。自分は雪風にワンドを掲げて合図を送る。最初はなんの事か、と言う顔をしていたものの、気づいた途端ニヤッと笑って自分から離れていく。

 自分は最近覚えた防御魔法を唱えるために、ワンドを掲げる。その瞬間、下から葵が飛び出してくる。その腹目掛けて、剣を振る。

 その剣を蹴り上げて、葵は空に飛び上がる。


「リトルカタストロフィ!」


 範囲外ギリギリの位置から雪風の滅却魔法が飛んでくる。それを受け流すために自分も少し飛び上がり、防御魔法を貼る。空中で滅却魔法を見て、慌てながら体をくねらせる葵を眺めながら、受け身の体制をとる。

 葵と2人で高エネルギーの魔力波を受けながら、池の方に飛んでいく。自分は最初から狙っていた池の真ん中に浮いているボートに着地する。


「うわ、なんだ!」


 そこに乗っていた釣り人の男を掴んで池に放り投げる。


「すまんな!釣りはまた今度にしてくれ!」


 近くに葵が大きな水しぶきと共に着水する。じっとその水面を見つめていると、顔を青ざめている葵が浮かんでくる。


「やばい攻撃だね!でも作戦は失敗だね、距離が遠すぎたみたいだ!」


 水面でぷかぷか浮きながら、気を取り直した葵は笑っている。雪風が池のそばまで駆け寄ってきた。


「ごめん、距離感を間違えたみたい!ピンピンしてるの!」


 釣り人は陸まで泳ぎきったようだ。自分は周りに人がいない事を確認して、雪風に向かって手を振る。


「釣った魚を網ですくうのは頼んだぞ!」


 そう言って葵に向き直る。葵は怪訝そうにこちらを見ている。自分はワンドを構えて、水に飛び込む。そして葵の方に泳いでいく。

 葵は自分の周りを煽るようにぐるぐる回り始める。自分は泳ぐのを辞めて沈みながら、自分の中の魔力を思いっきり溜め始める。


 雪風はじっと水面を見つめていたが、急にバシャバシャ音を立てて、葵が浮かんでくる。その数秒後に10メートル近くまで水が吹き飛ばされ、それに巻き込まれて葵も飛ばされる。

 雪風は驚きながらも、その着地地点に向かっていき、空中でバタバタしている葵の所にジャンプして、腹に向かって思いっきりパンチを食らわせる。地面に転がり落ちた葵は腹を抑えて悶えている。


 自分が雪風の所に戻ると、葵は羽交い締めにされて項垂れていた。


「酷いぞ、これは!1回大爆発で吹き飛ばされて、水中でも自爆でもう1回吹き飛ばされるって、どういう事?」


 はは、自分には自爆しかまともな高火力技がないからな。我ながら悲しくなってくる。


「観念しなさい!なんと言おうとあんたの負けよ!私達はメンバーの中でも屈指のバ火力組なのよ」


 雪風は葵をブンブン振り回しながら、こちらに笑いかける。自分はニヤニヤ笑いながら葵に近付き、その額に思いっきりデコピンをする。


「ぴゃあ!痛いなー、辞めろよー!襲ったのは謝るから解放してくれよ」


 葵は体をバタバタさせて逃げようとする。だが、雪風はがっちりと掴んだまま離そうとしない。


「残念だったな!喧嘩を売った相手を間違ったな。タダで返すとは思うなよ!」


 葵の頬を両手で掴み、みょーんと伸ばす。しばらくグリグリした後に離す。葵はもう涙目だ。


「じゃあ、なんでも情報あげるからさー。もしくは探ってきてやるよー」


 自分は頬をつんつんしながら、聞く。


「例えばどんな情報とか渡せるんだい?そこまで凄い情報なんて持ってなさそうだけどな?」

「何処にでも侵入できるから、なんでも盗んでこれるぞ!何処でも安全に盗み聞きもできるし」


 ほう、確かに能力的には素晴らしい隠密行動が出来るだろう。実は正直、そんな1回くらいでこいつを離すのは惜しいから、留めておきたい。


「んー、それは有用そうだな?それは2回目は有償で頼めたりとかはするのかい?」


 葵はニヤッと笑って鼻を鳴らす。


「ふふ、私は使うのには高いからねー。私を小間使いにするなら君の生気をたっぷり吸わしてもらわ…」

「雪風、ギュッてしてやれ」


 雪風は愛の無い抱擁をたっぷりと葵に食らわせる。


「いででででで!ごめんなさい!ごめんなさい!ほんの少しだけ吸わして貰えれば、この街を幾らでも捜索致します!呼べばすぐに向かいます!」


 雪風は手を少し緩める。葵はほっと息を吐き出して、安堵したようだ。葵は顔を上げて、引きつった笑顔でこちらを見てくる。


「いいよ、これ以上虐めると可哀想だし、もう行っていいよ」

「じゃあ、離すよー」


 雪風のロックからやっと逃れた葵は少しよろけてから、こちらに通信機の番号を渡してきた。


「今回は何を探す?それとも何を盗んでくればいい?」


 自分は無線の番号の書かれた紙を受け取って考え込む。悩んでいる自分をみて、雪風は飽きたような顔で言う。


「じゃあ、怪しいヤツ見かけたら報告してくれたらいいよ!今は敵なんて居ないし」


 もったいない気がするが、どうせそんな期待は出来ないから諦めるか。葵は口を大きく開けて笑い、敬礼の真似事をしている。


「了解だ!任せてくれよ、暇だから幾らでもやってやるさ!」


 葵は地面に潜ってどこかに行ってしまった。雪風と顔を見合わせて、遊びの続きに行くことにした。この街でも変なのによく会うな。


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