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38話 深い底から浮かび上がるるもの

 

「マヤ、遊びに行こ!今日暇でしょ!」


 食堂で紅茶を啜っていると、いきなり雪風がお出かけに誘ってきた。


「ああ。いいけど、急だね。雪風ちゃんはいつもカヤさんと遊んでるイメージだから」


 いつも食堂や仕事で顔を合わせるものの、そこまで遊んだりはしてこなかった。


「私、1番後にメンバーに加わったから、マヤのこと深くは知れてないからね。親交を深めようってことで!」


 自分は快諾して、部屋に戻って身支度をする。外行きの服に着替えて、ホールに行くと既に雪風はオシャレをして待っていた。薄水色の可愛らしいワンピースだ。


「さあ、行こー!」


 雪風は自分の手を引いて外に出る。うちのメンバーは積極的な子が多いから、振り回されてばっかりだな。

 しばらく歩いて、レストラン街まで行く。この街は基本的に似た施設は同じところに固まって建っている。聖戦後に計画的に作られた街のために区画が整備されている。

 場所が足りなくなると外へ外へ新区画が増えていく。そのためいくつも同じような場所がある。


「ここ、サンドイッチ美味しいんです!何故か量が想像以上に多いんですけどね」


 雪風はオシャレなカフェを指差して言った。そろそろ昼時だ。


「いいな。そこで昼食を取ろうか」


 2人で店に入り、注文をする。注文した品を待ちながら、話をする。


「そういえば、雪風ちゃんの滅却魔法っていつ覚えたの?あまりにも火力が高すぎるから、どうやって手に入れたか気になる」


 雪風はメニューを眺めながら答える。


「実は貰い物の能力なんだよね。一人でいた時に森で魔物の群れに襲われた時に神様がくれんだー」


 神様下界に降りすぎな気がする。そんなポンポン能力与えたら駄目な気がするんですが…


「100体近く居て、半分倒したところで疲れきってしまったのよね。その時にバステト様が私に滅却魔法を渡してくれたんだ。私の本職はヒーラーだったんだけどね」


 ヒーラーって50体近くの魔物を1人で殺せるのか、ということの方が気になるけど、1人で森を歩けるくらいなんだから普通に強かったんだろう。


「バステトって猫の頭したエジプト神だろ。この世界って神様入り交じりすぎだよな」

「ふふ、私達も不思議なんですよね。こっちの神様と同名の神様がそちらにも存在しているなんて」


 こちらの神様はそっちほどラフじゃないんだけどね。よく人間虐殺したり弄んだりするし。


「お待たせ致しましたー!桃パフェ、チキンサンド、卵サンド、アイスコーヒー2つです」


 そんな話をしていると、注文した品が届いた。


「マヤさん、パフェとか頼むとは思わなかったな。女の子とかはよく頼ん出るの見るけど」

「甘いものは嫌いじゃないし、久しぶりに桃味の何かを食べたくなったんだよな」


 そう言いながら、自分の注文したパフェとチキンサンドを前に持ってくる。なんかメニューの写真よりでかい気がする。いや、明らかにでかい。


「美味しそうですねー。パフェまで頼んで大丈夫かなーっておもってたんだけど」


 まあ、これくらいならギリだ。多分...


 2人でサンドイッチを頬張りながら、メンバーの裏話などを話した。カヤが彼氏作りに勤しんでるだとか、フィアットが変な女に引っ掛けられたとかしょうもない話をグダグダとしている。


「マヤ、手がベトベト。食べるの下手くそじゃない?」


 雪風は笑いながら自分の手を指さしてきた。


「これが食いにくいだけだよ。垂れてくるから仕方ない」


 チキンのタレで濡れた手をタオルで拭いてから、コーヒーを啜る。異世界のコーヒーも意外といけるな。会計を済ませて外へ出る。


「次はどこいく?本屋でもどうかな?」


 雪風が周りをキョロキョロ見回しながら、次に行く場所を探す。それを横目に見ながら考え事をしていると、急に嫌な気配が近づいて来る気がした。

 感覚を集中させて、その気配の場所を探す。やっとの事で大体の場所を特定出来た。自分はその事実に戦慄してしまった。

 地面の下にいる。

 やばい、ちょうど雪風の真下まで迫っている!


「危ない!」


 雪風の腕を掴んで、自分の方に咄嗟に引き寄せる。その瞬間に雪風の居た所から、凄い勢いとともに何かが飛び出してきた。そいつは5メートルほど飛び上がり、空中で数回転して自分のすぐ側に着地する。


「うひひ!いいなあ!活きがいい獲物は狩りがいがあるってもんだな」


 そいつは顔を上げてこちらを見る。長い灰色の髪をツインテールにした少女であった。その手にはその身長と同じくらいの長さの剣が握られている。見た目は馬鹿でかい刺身包丁のような、見たことの無い武器だった。


「お前、どこの刺客だ!殺しに来たのか?」


 少女はギザギザの歯をこちらに見せて笑う。


「違うぞ!ただの暇つぶしだ。その獣人の姉ちゃんの乳がでけーから揉みたいって思っただけだよ」


 そんなダイナミックにセクハラしてくんなこの野郎。てかどうやって地面から飛び出してきたんだよ。


「私は深霧 葵、よろしくな!鮫の獣人で暇だからさー、かまってくれよ!」

「いきなり襲撃しといて、構ってくれはないだろう。帰れ!」


 周りの人達は遠巻きにこちらを見つめている。巻き込みたくないから、戦うのは避けたい。


「えー、ケチだなあ。ん、お前中々可愛い顔してるじゃないか!」


 葵はジロジロとこちらを見る。そのセリフはそっちが言うセリフではないだろう。俺は男だぞ。


「気に入った!お前の生気を吸い取ってやる!」


 ダメだ、これは戦闘にならざるを得ないタイプのイベントだな。自分はワンドと剣を背中から取り、構える。雪風はワンドを構えずに、拳を構える。


「そう来なくっちゃな!私に負けたら、たっぷりその口から吸い上げてやる!」


 生気吸い取られたらどうなるか分からんが、どうせ碌なことにならないだろう。そんな危険はお断りですな。


「そうはさせない!ヨミちゃん達の悲しい顔は見たくはないから!」


 雪風ちゃんは俺本体よりそっちの心配かい!ちょっと脈あるかなー、って思ってたけど無かったな、これは。まあ、別にいいけどさ。


「じゃあ、私から行くぜー!」


 葵は剣の峰を肩に乗せて地面に飛び込む。どうやらそういう能力を持っているようだ。飛び込んだ後にちょうど剣の先が少しだけで出て、鮫映画の鮫のヒレみたいになっている。


「B級映画の予感がするなあ!さあ、かかってこいよ!」


 ヒレはこちらにゆっくりと向いた後、真っ直ぐにこちらに向かってくる。それを躱して剣先を掴んでやろうとワンドを手放して近付くが、急に速度を上げて離れていく。


「どうやらこちらを知覚しているみたい。今は剣を見せて煽ってきているけど、見せなくなったらどうしようも無くなるわね」


 確かにやばいな。これは確実に特殊能力と呼べるような代物だ。能力者とのバトルはグレイプニル以来経験していない。自分は剣の向かう先を見つめながら、ヴァルからワンドを受け取って構え直す。


「来ます!」


 ヒレはこちらに向かって来るが、途中で地面に沈む。構えたまま待っていると、地面から飛び出して雪風に飛びかかる。


「おりゃあ!押し倒してやるぜ!」


 飛びかかったものの、葵の手を雪風はがしりと掴み、投げ飛ばす。葵はぴゃーって叫びながら地面を転がって、途中で地面に潜った。


「遅いね!それくらいでやられる獣人じゃないよ!」


 めっちゃ流れるように投げ飛ばしていた。この子滅却魔法以外に回復魔法しか撃てないって、言ってたけど…これは物理キャラの回復魔法持ちだったか。

フェンリルの襲撃の時は、俺がほとんどやってたからな。

 じゃあ今回はどれくらい強いかをじっくりと見せて貰おうかな。自分は雪風を横目に見ながら、ワンドを構えた。


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