35話 引き金を引く
「こちらアジン隊配置に着きました、どうぞ」
「こちら司令部マヤ、了解。現在トゥリー隊移動中。トゥリー隊配置に着き次第攻撃する、どうぞ」
「トゥリー隊配置に着き次第攻撃、了解。通信終わります」
無線機を置き、一息つく。ド素人が通信手気取りで無線をしているものの、今の所どうにか上手くいっている。
「マヤくん。KVは準備できたよ。エウス部隊とフィアット部隊もいつでも行けるって」
「よし、いよいよだな」
今から全面的な戦いになる。今回の作戦はシンプルな包囲戦だ。ニルヴァーナの拠点は2つあり、片方は森にポツリと建っている、予備拠点。もう片方が本隊が包囲する街中の本拠点だ。エウス、コメット、リズの部隊が屋根伝いに移動して攻撃。アジン、ドヴァーの戦車部隊が裏手と正面を塞ぐ。
基本的に降伏させるために精神的に追い込む作戦だが、降伏が遅れた場合はT34M、フェンリル試作150ミリ自走砲の榴弾で建物ごと破壊して、途中で出てきた冒険者をエウス部隊とフェンリルの歩兵で殲滅する。
トゥリー隊とフィアット、伊智代、トレントは予備拠点の制圧だ。残りの自分、サヤ、ヨミは中間地点で、強力な冒険者の乱入を防ぐための予備戦力として待機する。
「ニルヴァーナが他のギルドとも仲が悪くて助かった。周りの建物は被害に応じて弁償する契約に了承してくれたから、存分に暴れてもらおう」
「ふふふ、徹底的にボコしてすっきりしようね!僕は調子に乗ってた奴らが絶望するのを見るが大好きなんだよね」
「分かるなー、スッキリするよな」
ヨミは悪い笑顔を見せながらKV-1を撫でる。自分も綺麗に磨かれた砲塔の側面に堂々とフェンリルの狼の紋章が、砲の方向に吠えているのを眺める。すると、砲塔からサヤが顔を出した。
「トゥリー隊おっけーです!作戦開始です!」
自分は頷いて、無線機に顔を近付ける。
「こちら司令部マヤ、只今より総員作戦開始、こちらの被害は最小限に抑えろ!通信終わり!」
さあ、報復の始まりだ。
どうしよう、もう囲まれちゃった。よく分からない動力車のようなのと、獣人の兵士達が殺気立った目で、こちらを見てる。
「ふん、変な機械を並べて脅しのつもりか?獣人の考える事はよく分からんな」
「ラーマさんはまだ帰ってきてないし、あの数を俺たちで捌けるのか?」
皆、誰かとぶつくさと話している。そうしてないと恐怖に打ち勝てないんだ。私だって怖い。私は何もしてないんだもん。
そもそも無理矢理取り上げようとしてるのが悪いんだ。
『 今、投降するのならば正面玄関から、武器を持たずに手を挙げながら出てこい!投降すれば危害は与えない!』
小さい子達や怪我人の人は出ていったみたいだけど、戦える私たちは逃げてはいけないって言われて今は2階にいる。なんで皆そんなに意地を張ってここに留まろうとするんだろう。
ギルドマスターの彼女が自業自得で死んでも、どうでもいいじゃない。私は溜息をつく。
それを見てか、いつも面倒を見てくれている、サラお姉ちゃんが来てくれた。
「パルちゃん、もしどうしようもなかったらこの旗を使って」
そうやって手渡してきた旗は白旗だった。どこかのカーテンをちぎって旗にした不格好なものであった。
「やっぱり勝てそうにないですか?」
サラお姉ちゃんは頷く。
「あの鉄の化物を倒せるとは思わないし、屋根の上から異常な魔力がなだれ込んでくるの。多分本隊が居ない今、そんな奴らに勝つのは無理だと思う」
やっぱり上にも敵がいたんだ。もうどこにも逃げ場がない。ここを指揮する仮副リーダーは逃げることを許してくれない。
「お前ら絶対負けるなよ、あんな軍隊の真似事してるみたいな獣人共に!」
またやってる。威勢だけはいいけど、そんなに強い冒険者でも無いのに。
『もう十分待った。時間切れだ。攻撃を開始する』
やばい、待ちきれなくなったのかもう攻撃が来るみたいだ。私は壁の方によって杖を持って震えている。多分窓から魔弾が飛び込んでくる。
私はヒーラーだから何も出来ない。
「よーし、反撃用意、魔術師は正面のアイツらをこうげ…」
腹に響く衝撃音と共に壁が吹き飛ぶ。分厚い石壁は私達を守るどころか、石の礫となって壁のすぐ側にいた人達を穴だらけにする。
「きゃああ!」
誰かの悲鳴が聞こえる。私はハッとしてここにいたら死ぬと感じて逃げようとする。サラお姉ちゃんも逃げようと階段の方に走るが、飛び込んできた何かが爆発して、お姉ちゃんはこちらに吹き飛ばされた。
咄嗟に受け止めるが、身体中に擦り傷ができて、気絶してしまっている。片目からは血が流れている。
「お姉ちゃん、私が助けるから」
私は泣きながらそう言ってお姉ちゃんをおぶって階段を降りる。降りてる途中でも悲鳴と怒声がはっきりと聞こえてくる。どうにか1階まで降りると、1階の正面の壁は消え去り、瓦礫の山が出来ていた。
その前にはおそらく戦って負けたであろう死体が転がっている。自分はそっと瓦礫の後ろに行く。
そして上に向かって白旗をあげて、振る。助かるとは思っていない。でも少しの希望にでも縋りたい。死にたくない!
「エウス、あそこに誰かいるわよ!」
「まだいるのか!いや、白旗をあげているな、逃げ遅れた非戦闘員かもしれん」
敵の兵士が自分の所に歩いてくる。杖を放り投げて、降伏しているという意思をできるだけ伝えようとする。
厳つい男がこちらを発見して覗き込んできた。怖くて顔は見れない。
「戦闘員らしいが、もう戦える状態じゃないな。けが人を抱えている、運んでやるか」
男は自分とサラお姉ちゃんを肩に担いで、外まで歩いていく。周りを眺めて見ると戦闘は終わったようだ。増援の本隊も結局来なかった。
私達は見捨てられたんだ。どうせ王都の人間は、下っ端なんてどうでもよかったんだ。悔しさに唇を噛みながら壊れたギルド拠点を見つめた。
「ありゃ?予備拠点に敵の本隊が近づいてるみたいだね。予想外だね」
ヨミの魔物の索敵に敵が引っかかったらしい。
「よし、向かおう。あっちの戦力では抑えきれんだろう」
2人でKV-1に乗り込む。既に装填手席で待っていたサヤが無線機を渡してくれた。
「こちらマヤ。兄貴、そっちにラーマ隊。すぐに援護に向かうから、足止めお願いします」
「了解、拠点は攻め落とせた。籠って時間稼ぎする」
「直ぐに行きます」
無線を切り、ヨミに合図を送る。
「よし、飛ばすよ!」
KV-1は路地から飛び出し、石畳を沈めながら走り出す。街を猛スピードで走っていると前に遮るように冒険者が立つ。
おそらくニルヴァーナのメンバーだろう。ヨミは全く気にもせずにそのまま突っ込む。避けきれなかった奴が吹っ飛んでるのを見ながら、デジャブを感じる。
「ここの奴らが逆にあっちに転生したら、交通事故が耐えないだろうな」
そう独り言を言っていると、サヤは笑って、
「主人様の世界に行かなくても、よく馬車は事故起こしてますよ」
と言った。そういやよく道で事故現場を見かけるな。結構な頻度で。
自分達はどうにか事故を起こさずに森まで辿り着く。
すると遠くに敵の一団が見える。
「見つけた!さあ、攻撃するよ!」
ヨミは更に速度を上げる。自分もとりあえず狙いをつけて主砲を撃ち込む。敵の誰かに直撃してその体を吹き飛ばす。
「いっくぞー!突っ込めー!」
いよいよボス戦だ。久しぶりの戦闘に胸が熱くなった。




