34話 撃鉄を起こす
アマテラスと別れて、街をぶらつく。あまり知らない道を探検がてら、冒険者街と言われる。ギルドや集会所とかいった施設が、ぐちゃぐちゃに並んでいる。個性を出しすぎるせいで建物の色や形が統一されずに、凸凹しているのだ。
正直冒険者でもなんでもない自分がここをぶらついていても、何もすることはないのだが、このカオスを眺めるのは楽しい。
「いやー、友達のゲームを覗いているような気分だな。訳分からん」
何とかドラゴンやら、何とかウルフやら、魔物にそんな名前あったのかと驚いてしまう。自分達は美味しやつと不味いやつくらいでしか判別してないからな。
そんな阿呆なこと考えながら道を歩いていると女剣士の様な冒険者が声をかけてきた。
「君はあの城に住んでいる奴らのリーダーだよね。ちょっと話があるんだ」
「誰だ、何の用だ」
なんだ、強盗か?とりあえず、うちの仲間に何かあったら困る。素性は確かめないと。
「私はギルド、ニルヴァーナの副ギルドマスターシータよ。あなた達の城についての話よ」
「分かった、よく分からんが話してくれ」
シータは話し出す。
「お前らはふざけているのか?そんなのが通用すると思っているのか?」
「当たり前よ。元はこちらの持ち物ってことになるじゃない」
こいつの話によると、あの城は元々ラーマ家の城だったが、持ち主が転々としていただけで、所有権は今もラーマ家にあると言うのだ。
暴論すぎる。フェンリルはあの城を買うのに街の資金の8分の1を投入して、更に高価なテレポーターまで設置しているのだ。
「今更何処の馬の骨かも分からないやつが所有権を主張できると思っているのか?馬鹿らしい、帰れ」
馬鹿らしくなり、踵を返して立ち去ろうとすると、
「さっさと引き渡さないと、とんでもない事になるわよ」
脅しまでかけてきやがった。これは警備を変更しなくてはいけなくなるな。全く自分が一番偉いと考えている奴は嫌いだ。話し合いが出来ないからな。
城に戻ると、フィアットが城門で待っていた。
「お前、ニルヴァーナと会ったか?」
見るなりニルヴァーナについて聞かれた。やはりかと言ったところだ。
「会いましたよ。今から会議開きましょう」
「ああ、もう準備してある。面倒臭い事になったものだな」
2人で歩いて城に入って、2階の広間に行く。そこではトレント、ヨミ、雪風が既に座っていた。
「マヤ、そこに座って」
自分が席に座ると、フィアットは部屋の外に出る。今からは代表者だけでの会議ような格好になる。
トレントは街の哨戒班の担当、ヨミは近くの森で魔物による警備、雪風は敷地内の警備長である。
自分はフェンリル軍第1師団所属第1戦車大隊…長いから略して第1戦車部隊の隊長である。大層な肩書きだが、そこに居たから決まったレベルの任命である。
「マヤくん、どこの警備を強化するかについてだけど、そっちから軽戦車出せるかな?」
「そんなに多くは出せない。10両程度なら森に回せるけど、それ以上出すと上に叱られちまう。警備範囲縮めて対処してくれないか」
ヨミは頷き、森の地図を広げて何か書き込み始める。
「私も城内警備範囲の縮小を行ったよ。試験場付近は本隊に頼める?」
「了解、指示出しとく」
「お願いします」
雪風は席を離れて、無線で連絡を入れ始める。
「なんだかピリピリしているな。皆は慣れてないだろうからな。そういやマヤくん、威嚇として哨戒班に戦車を加えるのはどうだろうか?」
トレントは優雅に紅茶を飲みながら聞いてきた。さすが死線を潜り抜けてきた男は、迫力が違う。
「あまり手の内は明かしたくありません。余計に刺激することは避けたいですし、街の目があるので自分は賛成しかねます」
トレントはカップを置き、笑う。
「そうだな、パレードはまたの機会に取っておこう。それでは各々警備の連絡をしなければならないだろう。解散だ」
そう言って部屋から出ていった。それとすれ違うように、うちの部隊の中隊長のケルンが入ってきた。
「マヤ兄貴、1式全車整備完了しましたっす。スタ6とサンヨン、FVもほとんど確認済みなのでいつでも行けるっすよ」
「了解、ご苦労様。皆しばらく忙しい日が続くだろうから、調子悪そうだったらすぐに休ませて」
「はい、伝えてきます!」
ケルンは足早に部屋を去った。ヨミと顔を見合わせる。
「なんかすごい忙しいね、マヤくん。僕マヤくんと遊びに行きたかったんだけどね」
「俺も行きたかったよ。でもここで働かないと、どこで働くって感じだしな。終わったらどっか遊びに行こうな」
ヨミはにニコッと笑って、親指を立てる。そしてすぐに地図に向かう。自分も街の地図を開いて、もし戦車が必要になった時、どのルートを通るか調べ始める。とりあえずルートを絞って、後は部下に細かいところを指摘してもらう。
まだ組織の1部として動くのには慣れていないが、しっかりしなくては。
「くそったれ。偉そうな口聞くくせにみみっちい事しやがって」
エウスとともに、仲間の死体を遺体袋に入れる。うちの哨戒班が暗殺されたらしい。しかも殺したことをこちらに報告してきたのだ。
全く性根が腐ってやがる。そんなに欲しいなら、こちらが納得するような案を持ってくればいいのに。
「これは酷いな。3人相手に何人で襲撃したんだ。完全に殺す気で襲ったんだろうな」
周りを見ると、隊の獣人たちから殺気が漏れ出している。これは衝突は避けられないだろう。勝手な行動をされる前に行動を起こさなければ。
報復の始まりだな。
「エウスさんは街の巡回中のメンバーの撤収の援護を頼みます。自分は報復の準備を整えます」
「了解、ついでにニルヴァーナについて探ってくるわ。まだ手は出さない事でいいよな」
自分は頷き、歩き出す。またあの時の気持ちが蘇ってくる。復讐しか頭に浮かんでこない。毎回冷静さを失ってしまうのは何とかしたいのだが、頭は既にどう始末するかの計画を練り始めている。
真顔で帰っている道の途中、急にやってきたヨルムンガンドが話しかけてきた。
「ほんとギルドは嫌いやわ。だからギルドを支持している国教はクソ。王都側の種族にしか救済がないとか言ってる時点で政治的な弾圧のために作られたことが見え見えやし」
まあ、悪魔が神を信仰してたらやばいけどな。
「どしたん?今忙しいんやけどなんか話でもあるん?」
「いや、今抗争なりそうやん?私も力になりたいんやけども、参加出来へんって話」
「わかっとるよ、ヨルムンは核兵器みたいなもんやし、参加したら王都と戦争なるわ」
ヨルムンガンドみたいな強力すぎる戦力は持っているだけで目をつけられる可能性が出てくる。今戦力が整ってない今、攻められたら一巻の終わりだ。
「まあ、いざとなったら私が兵貸したるよ。そんなに数はおらんけど」
「大丈夫やよ。自分の事は自分でやらなあかんからさ。あんまり人に頼ってたら自分で出来んなる」
それを聞いたヨルムンガンドは自分の肩を叩き、
「あんまり背負い込んだアカンで、マヤはただの人間なんやから。皆で立ち向かうんやで」
自分は頷き、ヨルムンガンドと別かれる。
シータを城を譲り渡す話だと、呼び出す。
「やっと譲る気になりましたか。遅いくらいですよ」
シータは席に座って上から目線で話している。
「はい、ここにサインをどうぞ」
自分が紙を差し出す。それに嬉しそうに読みながらサインをしているシータの頭にリボルバーを突きつけて引き金を引く。
シータは椅子から転げ落ちて思考を停止させる。
「護衛も付けずにノコノコと、どんだけ自信があったのやら」
フィアットは呆れながらシータの死体を運び始める。
「相手がこいつみたいに、全員馬鹿だったら楽なんですけどね。それじゃあ、始めましょうかね」
そう言って自分は無線をとり、作戦の始動を通達した。




