27話 不穏な出発
反乱成功から一週間が経った。今日は出発の日だ。
今自分はグランとともに伊智代に引きずられている。グランと一緒にメイドカフェ的な所で遊んでいた所をとっ捕まえられたのだ。まさかバレるとは思わなかったのに。
「もうすぐ出発するというのに、まだ未練があるのか。今回のマヤは情けないのう」
「別にいいじゃないですか…いやらしい店ではないんですから」
確かに未練タラタラの自分は情けない。でも…ここは自分にとってのパラダイスなんだよ!普通の男性諸君にわかるように説明するなら、自分にとってここは男性諸君にとっての巨乳の女の子ばっかりの街と同義なのだ。
横ではグランが名残惜しそうに店を見ている。グランも獣人の尻尾でモフるのが好きだったらしい。
「あ〜、やっと尻尾が触り放題の店見つけたのに〜。マヤ〜、尾けられたんじゃないの〜?」
「尾けられてねーよ!お前が目立ちすぎたんじゃないか?五月蝿いドラゴン娘は悪目立ちするからな!」
ギャーギャー言い合っている自分たちを見て、伊智代はやれやれと言ったように首を振る。
「全く、まだまだ子供じゃのう」
伊智代にぼそっと言われて、自分たち2人は恥ずかしくなって黙ってしまった。そのまま引きずられていき、ファイアフライに放り込まれる。中でグランと見つめ合い、苦笑いする。
「まあ、また落ち着いてから来ようね」
「そうだな」
2人で席に座る、ちゃんとシートベルト的なものもつけた。これで頭をぶつけずに済むね!
座って出発を待っていると、ケーニヒが中に入ってくる。
「出発前にすみません。これを」
手渡されたのは、リボルバー式のハンドガンであった。よく西部劇で見るような、6発しか入らないやつ。いや、これに至っては4発しか、装填できなさそうだ。
「これは我々が開発した魔力火薬を使ったリボルバーです。相当反動がキツイので、撃つ時はお気を付けて。その分火力は十分です」
そのリボルバーの弾もケースで渡される。
「無事、ルルイエまで着いてくださいね!」
そう言い残して、ケーニヒは車両を降りた。手には重たいリボルバーが残された。なんだか、異世界で銃ぶっぱなすのは気が引けるが、対人では協力だろう。ありがたく使わせてもらおう。
フェンリルシティの人達に暖かく見送られながら、出発する。ああ、もうちょっと居たかったな。
「マヤ、連絡来てるよ!」
車両の中で、うたた寝をしていると、カヤに起こされ魔術通信機を渡される。
「急にすみません。カインです」
誰かと思えば、流れ者の子だ。まさか連絡なんてよこすなんて思わなかった。
「どうした?」
「いや、そこまで重要な話ではないんですけど、面白い話がありまして」
怪訝に思いながらも耳を傾ける。
「実は最近何人か流れ者に会いましてね。そいつらチート能力を持っているらしいんですよ」
「へー、やっぱり持ってる奴は持ってるんだな」
てっきり全員が何も無しで飛ばされてきたのかと思っていたが、チート能力を持っている奴も居るんだな。関わりたくない。
「でも、そいつらめっちゃ目立つんで、避けるのは簡単だと思います。さっき俺が会った奴は魔力を天文学的なほどの数値まで高められてなんでも好きな魔法を使えるそうです。それを会う人会う人に言いふらしているみたいですね」
やっぱり調子に乗るんだろうな。いつか後ろから能力使う前に、暗殺するとかやってやりたいものだ。
「情報ありがとう。まあ、そんな奴らは大概山脈超えて魔王討伐に行くだろうから、関わることはないかな」
実は自分たちが通ってきた道の北側には大きな山脈が見えるのだ。そこを超えると超強い魔物や悪魔たちの巣窟らしい。
「そういえば、自分たちはルルイエの東南にある島を目的地としています。ぜひ遊びに来てくださいね。それでは用事があったら、気軽に連絡ください」
そう言ってカインは通信を終了する。なんだか変な気分だ。自分と同じ世界から来たはずなのに、別世界の人間と話しているような気がしてくる。何故か、そう思ってしまう。
出発してから2日目、面倒なことに巻き込まれそうだ。今冒険者の集団に車両を止められている。
「私たちは王都直属の警備ギルド、ディルムッドです。車両を止めてください!」
ファイアフライで休憩していたリズは、明らかに不機嫌そうになる。せっかく広い所で疲れを癒していたのにと言いたげだ。とりあえず、自分だけが降りる。
「何か御用ですか。自分達は急いでいるので、手早くお願いします」
集団の長らしき青年が、自分の前に立ち説明し始める。
「実は我々は人探しをしておりまして、スルト姫をご存じでしょうか」
どうやらやり過ごせそうだ。グランさえ隠せれば、関わらずに済みそうだ。おそらくグランなら、もう座席の下にでも隠れているだろう。
「名前なら聞いた事があります。しかし、ここには居ませんよ」
「調べるんならさっさと調べてよね」
答えていると、リズが出てきた。早く終わらせてしまいたいようだ。しかし、リズを見たギルドのメンバーはどよめく。その中で1人が叫ぶ。
「汚らわしい吸血鬼じゃないか!」
その言葉の後に他のメンバーから聞くに耐えない、罵詈雑言が飛び交う。
青年は急に怖い顔になり、
「お前ら汚らわしい魔物を囲いこんでいるのか!全く理解出来ん、気持ちが悪い!」
酷い言われようだ。王都の人間ってみんなこんな差別主義者なのか。グランも逃げ出すわけだ。
「別に大量殺人を行なったわけでもないですから、無害ですよ。そこまで言う必要はないと思いますよ」
しかし、青年は苦虫を噛み潰したような顔で、リズを見る。もうリズは泣きそうだ。
「存在自体が汚らわしい物を擁護すると言うのか。そいつは生きているだけで国家に反逆しているのと同意だ。下等生物め!」
リズは泣き出してしまった。それを見た瞬間、自分の中で何が切れた。自分でも制御出来ない怒りが湧いてくる。次の瞬間には青年の首にワンドを突き立てていた。
ワンドから血が滴り落ち、服にはベッタリ血糊がついている。周りには死体が転がっている。自分でも理解できない程の力が出た。まるで復讐に囚われた怪物のように、無慈悲に殺していた。
目の前の光景を見て、自分が信じられなくなる。このように感情に任せて、暴走なんてしたことは無い。
10人近くの冒険者を1人で全滅させるだなんて、普段の自分には不可能だ。フィアットが自分を揺さぶり、呆然としている自分を正気に戻してくれた。
「お前、どうしたんだ。戦っているとき、まるで別人だったぞ」
ふらふらしながらどうにか立っていたが、膝をつき吐いてしまった。目の前の惨劇が気持ち悪くなった訳では無い。自分の中に潜む得体の知れない何かに怯えているのだ。
「精神的な疲労が溜まっているのかも知れません。少し休みます…」
フィアットはそっと背中を撫でてくれた。車両に乗り込む。精神を安定させるためにしばらくは休もう。サヤとヴァルは安心させようと、話しかけてくれた。モヤモヤとした雰囲気の中、そのまま車両は出発し、次の街へと向かうのであった。




