20話 偽善の殺人鬼
少女を連れて路地裏から出る。死体は、死体の発見者なんかになれば足を取られることになりかねないので、置いていくことにした。まあ、自分たちには関係ないのに関わるほど馬鹿ではない。
しかし、あの殺人鬼はほっとく訳にはいかない。少女はお礼を言って去っていった。
もっさりした服装や眼鏡をかけて地味さをアピールしているものの顔立ちも整っているし、髪も綺麗な濡羽色だ。誰かは知らないが美少女って、ああいう子の事を言うんだろうなって顔だった。多分、他の流れ者と、運命的な出会いでもするんでしょう。ペッ!
うちには癖が強すぎる奴ばっかりだ。シンプルな美少女枠がいないんだよな、ほんと。
「マヤ、帰って報告しなくちゃ!あの子がまた狙われる前に仕留めないと!」
「そうだよ!僕達だってあれに付きまとわれるのは嫌だしね!」
まあ、癖は強いが可愛いし、仕事はできるので助かる。頷いて帰路を急ぐ。
「よし。伊智代さんとマヤくん、2人でそいつを倒しに行った方が良さそうだな。人数が多いと奴も逃げてしまうだろうからな」
トレントは話を聞くと、すぐに作戦を立ててくれた。
「私達も索敵には出かけよう。通信機を渡すから、見つけ次第連絡しよう」
作戦としては、伊智代の式神による索敵と夫妻の超能力と、肉眼での索敵で虱潰しに怪しいところを探っていく予定だ。途方もないが、また金持ちの所に現れる可能性が高いため、豪邸を巡れば確率は高くなるだろう。
「夜に出発だ。それまで仮眠をとっといてくれ」
言われた通りに仮眠をとりに行く。行く途中で、グランに
「いつもなんかに巻き込まれてるよね。お祓いした方がいいかも」
と笑いながら言われた。自分を巻き込んだ特大災厄が何を言ってるのか。誰のせいでグレイプニルの鎖に引きちぎられる恐怖に怯えながら、暮らさなければいけないと思っているんだ。このおバカドラゴン。
夜が来た。伊智代に叩き起されて、捜索に出る。
「さっさと倒して帰るぞ、明日もゆっくり遊びたいからのう」
伊智代におんぶしてもらって夜の街を高速で駆け抜ける。恥ずかしい格好だが、効率を考えるとこうなってしまうのだ。まあ、歳はおばあちゃんだが見た目は若いから、嬉しいイベント扱いでいいかもしれない。でも、350歳越えってどういう反応したらいいのか分からない。
「敵は見つかりそうですか?」
「まあ、そこまではかからんと思うがの。速度あげてもよいか?」
了承すると、人間離れした動きで屋根を伝っていく。全く瓦も壊さずによくそんなこと出来ると、感心する。しかし、おぶわれている身としてはこの速度はきつい。できるだけ体をひっつけて振り下ろそうとする。
ほぼ伊智代の後頭部に顔を埋めている状態になっている。なんか複雑な気分だ。
しばらく探索すると、伊智代の式から仮面の男がいると連絡が来た。
「見つかったようじゃな、行くぞ」
伊智代はひとっ飛びで、殺人鬼の場所にたどり着く。いきなり現れた自分たちに殺人鬼は、驚いて固まっている。しかし、自分の姿を認めるとナイフを構えてこちらを威嚇する。
「さあ、さっさと殺ってやるよ!いくら悪い金持ちを倒すとかの信念があっても、関係ない奴巻き込むんなら、正義ではないぞ!」
自分は伊智代の背中から降り、ワンドを構えて殺人鬼の心臓を狙う。その時だった。
「待ってくれ!早まるな!」
いきなり昨日の三人衆が現れた。その瞬間殺人鬼はこちらの隙をついて、逃げ出してしまった。
「くそったれ、逃げられたじゃないか」
悪態をつきながら3人に近寄る。しかし、横を見ると伊智代が顔をあんぐりと開けて、少年の連れの少女を見ている。少女は逆に伊智代を見て、びっくりしている。
「ひいっ!スルト様じゃないか、なぜこんな所におられるのじゃ!」
「あなたは伊智代さん!?まさかグランもここに?」
あらら。知り合いみたいですね。確かグランって四人姉妹だった気がするな。あんまり話は聞かないけど。まさかね…
「何故、これから女王の補助役ともなろう、スルト王女がこんなところにおるのじゃ!」
ですよねー。どうせチート能力とかで姫様救って、惚れられてハーレムドーン!でしょうね。
こっちなんか能力使う暇なく姫様に取り押さえられて、悪魔にボコボコにされて無理やり引き回される…なのにな。そんな僻んでばかりもいられないが。
「私も逃げてきたのよ!お姉様の言いなりなんてもう嫌よ。流れ者のこの人にお願いして一緒に逃げてるのよ」
王女の4分の3が逃げ出す王政ってすごいな。身内にも信頼されてないじゃないか。
「まあ、今は王女であろうとなんであろうと関係ありません。続きを話させてください」
流れ者の少年が話を遮る。
「俺の名前はカイン、こっちのエルフがニーナ。
今からさっきの殺人鬼の正体について話します」
何だかサバサバした奴だな。調子に乗った奴ではなさそうなので安心した。
「結論から言うとあの殺人鬼は3人が1人の化け物です」
どういう事かよく分からない。キメラかなんかみたいに言うなよ。
「あいつは三重人格の、肉体が存在しているバージョンなのです。あなたが昨日戦った少年がその1人です」
「つまり、あいつは体ごと人格を交代しながら生きていると言うことなのか?」
カインは頷く。
「もう1人はある小さいレストランの少女です。チーズハンバーグが有名な。たまたま変身したのを確認しました。あとを尾けると更に変身したので、最低3人重なって生きているのです」
なんて事だ。とんでもない事じゃないか。あいつを殺すと言うことは、少女も少年も全員殺すことになる。最悪の展開だ。しかも、全員顔見知りかもしれない。
「でもあのままほっとけるわけないだろ。殺人鬼だぞ」
「ですが、何の罪もない少女も殺すことになるなんて、許せません!」
自分は詰め寄り、カインの胸ぐらを掴む。
「じゃあ、あいつが殺した奴は全員死んでも良い奴って事か?甘ったれたこと言ってんじゃない!」
しゃあしゃあと正義ぶるカインに切れた。カインをぶん殴ろうとするが、伊智代に止められる。
「やめるんじゃ。そいつを殴ったってなんも変わらない」
カインは暗い顔で俯いている。
「すみません、確かにあいつが何人も殺したことは、到底許されるべき行為ではありません。でも…あの優しい子が、巻き添えで死ぬなんて…」
カインは震えながら言う。本当に最悪の状況だ。確かに敵でもないのに殺すのは躊躇われる。でも、今は敵でもあるのだ。
みんな黙ってしまった。どうしようもない選択に苦しめられる。
「俺が殺る。お前は手を汚すなんてできないだろう」
自分の手はもう汚れている。もう既に、追っ手を容赦なく殺している。誰もがしたくない選択ならもう俺が決めてしまおう。
「でも、あなたに責任を押し付けたくない。自分は偽善者になりたくないんです」
カインは覚悟を決めたように言う。
「なら勝手についてこいよ。後悔しても知らないけどな。」
カインは頷く。
「2人は帰って。俺達がケジメをつけてくる。関わってしまったのに見て見ぬふりはできない」
「わかったわ。私は姫を警護しておくから、こっちは任せて」
カインの連れの2人は帰っていく。
「伊智代さんも帰っていいですよ」
伊智代は首を振り、
「儂は見ておく。350年も生き延びてきたんじゃ。マヤがどう考えているのか見るチャンスだからの」
覚悟を決めた3人は殺人鬼を探して歩き出した。




