21話 アルターエゴ
「やっぱりか。この店なんだな」
見覚えのあるレストランの前に着く。中を覗くと少女がカウンターで暗い顔をしている。店内に入ると、こちらを認めた少女は震える。
「やっぱり…そうですよね」
もうわかっているようだ。本当はこんな事したくない。
「殺人鬼、いるよね?」
カインは率直に聞く。少女は黙って首を縦に振る。そして店の裏に手招きする。ついて行くと少し広い場所があった。
「もう、覚悟はできています。あの人がやった事は許されるべきことではありません。弟も獣化で何人も殺しました。私は皆で皆は私です」
そう言って少女は薄い靄のようになり形を変える。そこには殺人鬼が素顔で立っていた。その顔には深い隈ができて、無精髭が生えている。
「俺のやったことは正義ではない。でもお前らも正義ではない。なら俺は皆と生き延びるために戦う。ただの少女と要らない能力で苦しむ少年とな」
そう言って殺人鬼は手に力を込める。すると、その両手が獣のように変化する。
「弟は使いこなせない能力だが、俺は一部だけなら使えるからな」
自分はワンドと剣を構え、カインは煌びやかな剣を鞘から引き抜く。伊智代は後ろで静かに見守っている。
「オラァ!」
カインの雄叫びと共に戦いは始まる。殺人鬼はとんでもない速さで走り、壁を蹴って方向を変えながら襲いかかってくる。その爪を剣でいなしながら、ワンドを突き出す。
カインも剣で切り掛るが難無く躱され、逆に顔に一撃を入れられる。自分のワンドもなかなか当たらない。
「カインっ!お前はなんか能力あるのかよ!?」
正直いってあまりカインは強くない。動きも鈍い。だが、流石に戦い慣れはしているようで、致命傷は与えられていないが。
「俺の能力は、こいつには効果がありません!普通に倒すしかないんです!逆にマヤは持ってんのですか?」
自分は殺人鬼の爪を受け止めながら
「大した能力なんてない!まず当てなきゃなんにもならねーしな」
殺人鬼も必死の形相だ。時々こちらの攻撃が掠った時も、焦り顔が目立つ。最初は順調に躱していたものの、段々連携が取れてきたこちらの攻撃に耐えきれなくなってきた。
そして、すぐにその時が訪れる。
「とりゃあ!」
カインの渾身の一撃を殺人鬼は空中で躱す。そこに自分はワンドを投げ込む。体をねじるものの、避けきれず足にワンドが突き刺さる。
「ぐがあっ!」
体勢を崩した殺人鬼は墜落した。足を負傷したため、もう殺人鬼は動けない。
「もう負けだ。命乞いはしない」
殺人鬼は諦めたように身体を投げ出す。カインとともに近付く。
「お前、なんで人殺すようになったんだ」
殺人鬼は俯き、話し出した。
「偽善だよ。この街を正したいなんて勝手に思い込んでさ。この街には賄賂を貰って孤児院の子供を奴隷にして売り捌いている奴がいたからさ。」
殺人鬼は更に俯き、
「でも、ある富豪を殺した時、その娘に見られてさ…」
「咄嗟に口封じで殺してしまったんだ」
カインは目をそらす。
「そっから、倫理観が壊れちまったんだよ。馬鹿だろ?正義のヒーロー気取って、同じ穴のムジナってことに気付いてなかったんだよ」
きつい。こんな話聞きたくなかった。
「もういい」
自分は殺人鬼に近付く。殺人鬼は覚悟したように、目を閉じる。
「お前は死ぬべき男だ。でも、ほかの2人は死ぬべきとは俺は言えない」
殺人鬼は少し目を開ける。
「お前のために、2人を死なせるのはもったいない。だから、お前は罪を背負って2人を生かした方が建設的だ。俺はお前を殺さない」
カインと殺人鬼は目を見開いてこちらを見てくる。
「但し、お前のやったことは変わらないし、2人を巻き込んだ勝手な行動は、許されない」
自分は殺人鬼を真っ直ぐ見る。
「…これから2人を悲しませるなよ、わかったか?」
殺人鬼は黙って頷く。その瞳はもう暗いものではなかった。踵を返し、カインと共に外に出る。
「マヤさん。自分はこれが良い事なのかは分かりません。でも自分はあなたの選択を正しいと信じています」
カインはそう言って連絡先を渡して、小走りで帰っていった。自分たちも車に向かう。その途中で、伊智代は、
「殺人に正解はないが、儂もマヤの選択と同じ選択をするじゃろう。これからも、苦しい選択や悩む事もあるじゃろうが、自分の事を信じて行動するんじゃぞ」
そっと頭を撫でながら、そう言ってくれた。帰ったあと、自分は宿のベットで深い眠りについた。そっと横で寝てくれたサヤを抱きしめながら。
次の日の朝、やかましい声が聞こえてきた。
「やっほー!また出た、ヨルムンガンドちゃんです!」
ほんとにまた出たって感じだよ。毎回毎回なんで出てくるんだよ。こっちはゆっくりと朝食を食べたいのに。
「遊びに来たよ!どうやら大分、強くなったみたいだね!」
自分たちの改造した車両を見ながら言う。そしてヨミ達のKV-1を見てほれぼれと、
「いいねー、KV-1だっけ。ソビエト戦車は専門外だからあんまり分からないけどね!」
「じゃあどこが専門なんだよ」
「イギリス兵器、特にパンジャンドラムが好きだね!戦車で言えば、チャーチル歩兵戦車かな」
ああ、英国面を感じる。あの珍兵器大国イギリスの兵器が好きとは、やっぱりド変態じゃないか。パンジャンドラムって確か、でかいボビンを横にして転がしただけの兵器じゃねえか。しかも、まっすぐ転がらない。
「変態淑女はお帰りください。変な知識うちのパーミャチに入れ込まれたら嫌だからね」
ヨルムンガンドは笑って、しっぽを揺らす。
「いいじゃない!我らが英国面にご招待しましょう!」
ヨルムンガンドは急に真面目な顔になって、
「そういやグレイプニルがこの近くまで来ているみたいだよ。あんまり長居すると、この街が地獄絵図になるから気をつけてね」
「了解、ご忠告どうも」
わざわざ言いに来てくれたのか、ついでに教えてくれたのかは分からないが、情報はありがたい。
「そういやヨルムンガンドはあっちでの記憶あるの?俺は自分に関することだけほとんど抜けてるんだけど」
もはや帰ることは諦めているが、気になることは気になる。ヨルムンガンドはため息をついて、
「私はもっと記憶無いかもしれない。もうこっちに来て、5、6年経つしね」
驚きだ。5、6年前の人なのか。まあ、自分が西暦何年に飛ばされたのかあやふやだからなんとも言えないのだが。
「飛ばされた時って最初から悪魔だったのか?」
「うん、5人中3人の魔王に崇拝される悪魔として、既にそういう設定だった」
魔王いるんだ…てかすごいやべー奴だったんだなこいつ。
「正直、そんなん関係なく普通の悪魔と同じくらいお気楽に生きてるんだけどね」
そう言ってヨルムンガンドは席に座る。
「今、悪魔族は人間から疎まれる存在だからさ。私はどうせなら打ち解けて欲しくて。打ち解けられなくても、幸せにしてあげたくて頑張ってるんだ」
ヨルムンガンドはこっちを見て微笑んで、
「マヤも皆を頑張って守ってね!あとヨミちゃんのこと大事にしてあげてね、私が1番気をかけてあげてた子だから」
そう言ってヨルムンガンドは本を渡してくる。その本には見た事の無いような魔術が書かれていた。
「それは私がまとめたマヤのこれからに役立ちそうな魔術を集めたもの。しっかり読んで自分の兵器開発に役立ててね!」
そう言ってヨルムンガンドは飛び去って言った。自分の事、大分気に入ったんだろうか、あの悪魔。チラッと本の内容を読んでみる。
〘 戦車の重量を軽くする!浮遊魔術回路!〙
あいつもオタクなんだろうな…同類の。




