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鬼界の掟  作者: 弐兎月 冬夜
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緑 髪 鬼  ①

 苦手なんだよな。前書きとか、あらすじとか・・・。 ん~ん。後で思ったんだけど、この話って、基本的にはメン・イン・ブラックなんだよな。でも相手は宇宙人ではないのですが、妖怪とかでもありません。幻獣や幽霊の類でもありません。UⅯAというのが一番近いのでしょうか。まだこの話しか出来ていないので、今後どうなるかは分かりませんが・・・。よかったら感想お待ちしております。


<<< 緑 髪 鬼 >>>


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~田中 健太の日記~


=6月14日=

 今日は嬉しいことがあった!

朝、鏡を見ると産毛が生えていたのだ。新しい育毛剤が効いたのか、この調子でガンガン生えそろってくれると嬉しい。

昨日は酔ってどうやって帰ってきたのかよく思い出せないし、なんだか朝から頭が重くて・・・二日酔いなのか気分は最悪なのだが、そんな気分は吹っ飛んだ!

 髪が生えたら、スーツアクターはもう終わりだ! オーデションを受けて顔が映る役者になるぞ~~~!


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 辞令を受け取ってからすでに1週間が経っていた。

伊吹は机に向かってさっきから退職願いを書いている。警察官中途採用試験を受けて、警視庁に配属されてからまだ半年ほどだが、すでに嫌気がさしていた。

 自衛隊に居た時よりもずっと楽だろうとは思っていたが、ここはあまりにも暇すぎた。交通課から公安部への転属願いが受理されたのだが、公安第4課第2公安資料:第2係2部別室という公安の中でも訳の分からない部署へ配属されたのが1週間前。仕事が無いどころか、上司はおろか同僚さえまだ会っていない。窓のない地下室のような小さい部屋に机が5つほどあって、その一つをあてがわれただけである。机の上には空のブックエンドがあるだけで電話すらない。資料室なのにパソコンどころか資料すらない。いったいここでどんな仕事をすればいいのかすら分からないのである。

 同僚すらいないと言ったが、実は同僚が一人いる。年は30代半ばくらいか・・・安食佳織(あじき かおり)というオバサンである。見た目は美人だが恐ろしく不愛想で、一日中2台のパソコンとにらめっこしている。

 最初は彼女が上司かと思ったのだが、初対面の時に「ここの上司は別にいる。」と告げられ、名前を名乗ったあとは自分の席を指示されただけで、仕事の内容すら教えてはくれなかった。話しかけてもガン無視なので、30分後には話しかけるのもやめた。彼女は常に色の濃いサングラスをしているので、パソコンを見ている振りをして眠っているのではないかとさえ疑った事もある。

 彼女はパソコンで資料でも見ているのかと思いきや、主にいろんな動画を見ているだけのようである。時々覗いてみるのだが、いつもオカルト物や事故など残虐な画像や動画ばかりを見ている。

 ネット投稿の削除業務をしている人間は、あまりの残虐さによる心的過負荷に耐え切れずに(うつ)を患ったりするらしいが、彼女のメンタルは常人よりもずっとタフなのだろう。

 伊吹は自分で言うのもなんだが、自分のスキルには自信がある。このような閑職に回されるのは不本意極まりない。辞めてヤクザにでもなろうかと考え始めていた矢先だった。しかし、退職願を書いたとして、渡す上司にはまだ会えていないのである。彼女に出すべきか、それとも総務部にでも出そうか・・・?


 ペン回しに失敗してボールペンが床に落ちた。その時である、安食女史の机の電話が鳴った。(言い忘れていたが、彼女のデスクともう一つのデスクにだけは電話がある。多分それが上司の机だ。だがそこも非常に殺風景で電話以外何もない。)

「伊吹君、室長から。」と、ぶっきら棒に受話器を渡された。

 伊吹は文句を言うつもりだったが、相手の方はこちらに喋る暇を与えずにしゃべり続けて一方的に電話を切った。

「なんだったの?」

珍しく女史が自分から話しかけた。

「一方的にまくしたてられ、切られました。なんだか郊外の施設に来るようにと言われました。」

「そう。早く行った方がいいわよ。多分、急いでるから。」

 女史はそういうと、再びパソコンのモニター画面に目を向けた。もうこちらから話しかけてもガン無視だろう。

「なんて、奴らだ!」伊吹は言葉を飲み込んで部屋を出た。電話の内容は覚えている。都内のある駅で降り、レンタカーを借りて指定された施設に行く。どうして電車で向かい、レンタカーで行くのか? 意味不明だが、とりあえずは指示通りに行動してみる。電車で移動中にナビアプリで指定された施設を検索してみるが出てこない。言われた道順を反芻(はんすう)して、覚えているかどうか確認する。

 おそらくテストだろう。どういう理由か分からないが、この程度のテストは造作もない。戦争を前提にした模擬訓練を何度もやらされた伊吹にとっては、このくらいは出来て当然と言えた。

 指定された駅で降り、駅前でレンタカーを借りて、山に向かう。東京とは思えぬほど田舎の風景の中を車で移動し、おそらく目的地であろう施設の入り口についた。

 「大日本国立科学捜査研究所」と書かれた看板の脇には守衛所があり、暇そうな守衛が一人、新聞を熱心に読んでいた。伊吹は車から降り、守衛に要件を伝えると、すんなりと鉄柵の門は開けられた。やはり間違ってはいなかったらしい。

「この道をまっすぐ行くと、白っぽい建物があるからね。車はその前に適当に停めてください。建物の正面に玄関があるから。そこから入ってください。」

 人の良さそうな守衛は、それだけ言うとぺコンと頭を下げた。伊吹は守衛の言う通り舗装の良くない一本道を進むと、白っぽい建物が見えてきた。作りからみて学校のような印象を受ける。おそらく廃校なのだろう。車が数台停まっていた。

 伊吹は黒のSUVの脇に車を停め、玄関へと向かう。玄関にはまた大日本国立科学捜査研究所という胡散臭い名前の木の看板が掲げられていた。

 玄関のガラスの扉は施錠もされていなくて、恐ろしいほど簡単に開いた。

「伊吹君だね。待っていたよ。」

 玄関で待っていたのは、初老の男だった。

その初老の男は顔じゅうを深い皺に刻まれ、相当量の銀髪をきれいになでつけている。なのに背広は意外にもつるしの安物らしかった。ずっと着ているのか、こちらもあちこちに皺が刻まれている。身長は160㎝くらいだろう、背が低く、188㎝ある伊吹の顔を見上げてにこやかにほほ笑んでいる。しかし、その目は笑ってはいなかった。目の奥底に武術の達人のような光を宿している。

「予想通りの時間だ。」

「・・・やっぱりテストですか?」

 男はすぐには答えず、伊吹の顔を見つめた。

「テストというほどの事ではない。それより自己紹介がまだだったね。私が室長の土岐(とき)だ。」

伊吹 尊(いぶき たける)です。前は自衛官でした。」

「君のプロフィールは読ませてもらったよ。孤児で親近者なし、小中は格闘技を好み、高校では試合で2度対戦者に大けがを負わせて出場停止。目だった友人もほとんどなく、高校中退後は自衛官となるも、教練中に教官に重傷を負わせて自衛隊を辞めた。」

 その通りだった。伊吹は身じろぎもせずに土岐の言葉を聞いていた。

「表向きのプロフィールはこんなところだが、中学から高校時代にかけては、暴力団につながりが出来、薬物売買や恐喝、時には暴行と悪どいこともけっこうやってきたようだね。」

 伊吹の顔から表情が消えた。そのことは一人の友人を除けば、誰も知るはずのない事実だった。

「心配しなくとも、君の友人からの情報ではない。我々は、君のDNAもすでに調べ上げているし、君の過去の影の部分については問題ないと考えている。素材としては実に理想的だ。」

 伊吹の拳がギュッと握られていた。手のひらは粘つく汗で湿っていた。

「退職願を渡したまえ。私が預かっておこう。」

 土岐は左腕を後ろ手にしたまま、右手を伊吹に向けた。

伊吹は一瞬躊躇した。このままこの男を殴り飛ばして、逃げ出そうかとも考えた。

退職願いをどうするというのか? 

クビだということなのか? 

 伊吹は一瞬躊躇したが、おとなしく内ポケットに入れっぱなしになっていた退職願を土岐に渡した。土岐は中身を見ようともせず、そのまま自分のポケットにしまった。

「儀式のようなものでね。新規で採用されたものは、たいてい退職願を書いてここに持ってくるのだ。これは有効に使わせてもらうよ。」

「どういう意味だ?」

「ついてきたまえ。」

土岐は伊吹の質問に答えずに歩き出した。土岐が直立不動の姿勢で会話していた時には気づかなかったが、少しばかり右足を微かに引き摺っているようだった。伊吹は仕方なく土岐の後ろに続いた。

 まるで無防備に先を歩く土岐なのだが、スキを見せない。襲われることを前提として前を歩いているのが伊吹には分かった。

「この部署は警視庁の公安部という組織の一セクションではあるが、本当は宮内庁の管轄なのだ。警視庁はおろか、政府でもこのセクションが存在することを知らない。宮内庁の中でもごく少数の人間しか知らない極秘のセクションだという事は肝に銘じてほしい。」

 無人の廊下を歩きながら、土岐は階段を降り、地下へと向かった。もしこれで、へんてこな宗教団体とかなんかだったら、この上司を倒して逃げ出そう。伊吹は腹を据えた。

 階段を降りると、また薄暗い廊下が続き、やがて重そうなドアが現れた。顔認証装置でもあるのか、土岐がドアの前に立つと、しばらくしてドアは左右に開いた。

 中は日本ではお目にかかることもないだろう本格的な射撃訓練場である。冗談としか思えなかった。目測で最大50mくらいのターゲットを撃てる仕様になっていて、いくつかの射撃訓練パターンも出来そうな感じである。横幅にしても20mくらいはあろうか、その中央に貧相な机が置かれ、その上に拳銃、ゴーグル、イヤーガードなどが置かれ、土岐はそこで止まるとどうぞという風に手を差し出した。

「何を考えてるんだ? デザートイーグルじゃねえか。」

 伊吹は呆れたのか、ぞんざいな口調になっていた。デザートイーグルは日本では密輸でもしない限りお目にかかれない銃である。拳銃としては最強と言っていいほどの破壊力を持つ50口径の大口径銃であり、50AE弾というマグナム弾を使用する。しかも用意してある弾丸はハローポイント(弾丸の先端が窪んだ弾丸で、着弾すると茸のように広がる殺傷能力の高い弾丸)

「熊でも撃とうってのか?」

「撃って見せてくれ。弾は十分にあるから、好きなだけ。」

土岐はくるりと背を向けると、防弾ガラスに囲まれた操作室に入った。10m地点にマンターゲットが姿を現した。

 伊吹は背広を脱ぎネクタイを外すと、ゴーグルとイヤーガードを装着し手袋をはめた。渋々だったが、デザートイーグルを持つ。モデルガンやエアガンではない。ズシリとした重みが手首に伝わってくる。やけに重いスライドを引き、フル装填されたマガジンを入れ、スライドロックを外すと、カシャっという小気味のいい音とともにスライドが閉じた。デザートイーグルは映画などでも有名な銃である。大口径ゆえに、撃つと肩が外れたりするという妄言もまことしやかに信じられていた。

 伊吹はダブルハンドで構え、セーフティレバーを外す。ターゲットに向けて1発撃った。さすがに反動はきついが、それよりもターゲットに向けて銃口を維持するほうが難しいかもしれない。伊吹は銃口の跳ね上がりを予想して、やや下向きに狙いをつけたが、下すぎたせいか、銃弾はターゲットに当たらず、その下で土煙を上げただけだった。

 2発目以降は、着弾点を予想しつつ、連続で数発。4発目からマンターゲットに着弾した。そのままマガジンが空になるまで撃ち続ける。スライドオープンした銃身が熱くなっていた。

 ボロボロになったマンターゲットは隠された。新しいのが出てこないところをみると、構えてから出す気らしい。もともとあるターゲットを狙うより、突然現れるターゲットを狙うほうが難しいのは自明の理である。

「まだ慣れてねえんだよなあ・・・。」

伊吹はボソッと呟いたが、口元が上に上がってきていた。

マガジンを2個掴むと、1個は腰のベルトに挟み、もう1個を素早く装填して構える。瞬間、複数のマンターゲットがこちらを向く。伊吹は次々に現れるターゲットを撃ちぬいてゆく。2つのマガジンが空になるころには、ターゲットに2発ずつ正確に撃ち込めるようになってきていた。

 伊吹は銃を置いた。熱で銃の周りの空気が微かに歪んでいる。

「武器に関しては、順応力が高いという評価は本当のことのようだね。」

 聞きなれぬ声は伊吹の後ろから聞こえてきた。


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