89話 ゲーム少女は脅威のSRを操る
六文銭Z。アリスがせっかく手に入れて使用するのならば、色々と改造しないといけないよねと手を加えた機体である。素材に足りないマテリアルの混入。これはマテリアルを使用していない合金なので耐久力0と判断されていた六文銭を修復する形となった。というか耐久力0とは酷いですねと呆れたゲーム少女だ。これでは地球製の兵器が弱いはずだ。
そしてとろすぎる機動力を補うために脚部に6基、腕部に6基、肩部に6気、胸部と腰部には8基と各所に小型純マテリアルエネルギー噴射型バーニアを搭載。超電導はエネルギー変換システムをとりつけて、高出力のビームライフルへと改修した。ビーム系武器が大好きなのだ。何しろ質量弾ではないので安い。エネルギー弾は最高といういつもどおりのスタイルである。
操作方法を変更して思考トレース式へと変更して、高機動高火力型へと改修していた。ここまでいくと改修というか新型を作成したような気もするがたぶん気のせいであろう。
そんな六文銭Zに乗りながら、敵の動きを観察するアリス。すでに敵の機体名称もファントムと判明している。超高高度に隠れていた爆撃機を撃破する際に情報は抜き取っておいたのだ。
ここに来る前に逃走できないように、爆撃機を破壊してから到着したアリスである。
通信は傍受されているとも気づかれずにじゃんじゃんと情報が入ってくるので、それを鼻歌交じりに聞きながらファントムを観察する。
ファントムは戦闘機の後部エンジンをSRの機体に超電導エンジンとは別枠で搭載した機体だ。バックパックからのジェット噴射を使用したら、高速で機動できるが弱点もある。
「ある程度の敵なら翻弄できるでしょうが………。私には通じません。直線的にしか飛行できない機体なんか予測射撃で一撃ですね」
それに気になることもある。あの機体は慣性緩和装置はないように見える。なのにあの急加速を繰り返してパイロットは無事なのだろうか。かなりのGが身体を圧迫しているはずなのに、動きが鈍らない。
地球人の脆弱な身体ではあの動きをすれば急な加速に耐えられなく内臓系に深刻なダメージを受けるはず。
そう見えないという事は………。地球人ではない? いや、地球人であることは間違いないので
「改造していますね。サイボーグ化か遺伝子強化型………。どちらにしても無様です」
接近していくファントムを見ながら敵の正体を考えて、冷笑を見せるアリスであった。
さすがはゲーム少女である。あらゆる体験をしてどのパターンが当てはまるかすぐに理解する。
「ですが強化人間はハンターの相手にはなりません。常に最終的に勝つのは一から自らの身体を鍛えた者だけなのです」
生の改造していない身体が最高だと信じるアリス。改造体は好きではない。それは鏡の考えを反映しているのであるが、アリスはその考えを一番だと信じている。
加速及び速度はファントムが今のところ上だが、敵の攻撃は直線すぎる。ずらすように軽やかに横に機体を滑らせると、簡単に敵の攻撃は素通りしていく。
「ありえない! なんであんな機動をできるんだ? どうして」
戸惑いを見せるファントムへと、クスリとその慌てっぷりに笑いをみせて呟く。
「ではでは、アリスの舞を見ていってくださいね。お代は搭乗しているファントムでいいですので」
全バーニアを噴射させて、鋭角な動きを重たいはずの六文銭にて行い、一番近いファントムへと近づく。
地面がバーニアの炎で熱せられる。急加速によるGは慣性緩和システムの搭載されている六文銭Zには無意味である。なんならコーヒーを飲みながら戦闘できる。
砂煙をあげながら相手へと接近するが、コテンと首を可愛く傾げて考える。
「さて、鹵獲したいのですがどうしましょうか」
無傷で回収したいのだ。すぐにそれは思いつく。
ファントムがマシンガンへと切り替えて引き金をひく。フルオートでのその攻撃は超電導にて加速された銃弾となり、無数の銃弾が六文銭Zに接近するが、軽やかに小さくジャンプをして攻撃を回避する。
胴体への攻撃は機体を傾けて、バーニアを一瞬止めると眼前を銃弾が過ぎていくのをアリスは平然と見つめる。
すぐに加速を行い六文銭Zの手を突き出して、相手のファントムへと接触する。
「くそっ、離れろ!」
すぐに超電導ソードを展開させて向かってくるファントム。ぎこちなさが見える機械音をたててソードを突き出していくるが、急後退を行いその突き込みは六文銭Zの目の前で止まる。ぎりぎりの間合いでソードを見切ったアリスはそのまま潜り込むように接近させて、手を再び接触させて術を発動させる。
『クラッキング』
「簡単すぎて、ざるの方がましな程のセキュリティですね。まず1機」
接触された手のひらから機体へとクラッキングを行ったアリスはそのままファントムを停止させてハッチを解放させると、プシューという空気の抜ける音と共にハッチが開き戸惑い顔のパイロットの姿があった。
急に停止したファントムを再起動させようと、椅子横の再起動ボタンを何度も押していたパイロットは呆然となにもしていないのに開いたハッチを見て混乱して叫ぶ。
「なんだ、なんなんだ? これは一体?」
「はいはい、すぐに降りてくださいね。その機体は鹵獲しますので」
器用に六文銭Zの指を操り、パイロットを潰さないように掴み取るとポイっと適当に捨てる。
あーれーと放り投げられるパイロットを見ながら、アリスは次の敵へと移る。
「なんだ、今のは?」
「わからん! なにが起こったんだ?」
混乱しながら戦おうとするファントムへと加速をしながら肉迫していき、手をぺちぺちと接触させていくアリス。
「捕まえました、2機、3機と」
鬼ごっこみたいに捕まえて、同様にクラッキングで動きを止めていく。停止してパイロットを捨ててから、最後のファントムへと機体を向ける。
バズーカ砲を敵が撃ち込んでくるが、無駄である。トンっと足を地面からジャンプさせてバーニアを急加速させるだけで、高速で飛来する砲弾は六文銭Zの後ろへと過ぎていくのであった。
「あーあー、君は何者なんだー? これは撤退をしまーす」
スモーク弾を備えておいたのであろう。煙を機体から噴射させて空を飛んでいくファントム。ローラは性能差から戦いにならないと判断してすぐに撤退を判断した。
「むぅ。理性的な判断ですね。ですが、人型が空を飛ぶには残念ながらそのエンジンでは遅すぎます。音速へも到達できていないではないですか」
飛行していくファントムを見ながらアリスはフンスと息を吐いて呟く。あれではヘリにも劣る速度だと判断して。
「六文銭Z、戦闘機へ変形です」
変形コマンドを入力された六文銭Zが空中へと飛翔して戦闘機形態へと変形していく。ガションガションと変形して戦闘機へと可変した六文銭Z。もはや六文銭の原型はなかった。改造しすぎなアリスである。
「可変機動兵器は耐久力が本来の30%へと下がってしまうので嫌なんですが、この惑星では問題なく使用できますね」
ふふふと楽し気に微笑み、様々な死にスキルや技術をこの惑星では使用できるなぁと嬉しいアリス。なにしろ使えないと判断されたスキルや技術は山ほどある。それは銀河標準では当たり前のことであったが、ここではその技術レベルに至っていない。
充分にこの惑星を楽しもうと笑い、一気に音速へと速度を加速させて撤退をしているファントムへと追いすがる。
「まーまー、戦闘機へ変形ってアニメから出てきた機体なのかなー? こりゃダメだわ。脱出!」
ローラは敵の圧倒的な性能に舌打ちをして、緊急脱出装置を作動させた。この地域に潜入しているスパイたちと合流して、自分だけ脱出することに決めたのである。
ファントムが鹵獲されるのはまずいが、相手の機体を見る限り、こちらのSRの性能を大幅に上回っている。正直、目でみないと信じられないレベルだ。
なので鹵獲されても困ることはないだろう。相手はこちらの技術を見て奪うものなどないはずである。
バシュンとハッチが緊急脱出によりはじけ飛び、ローラは空中へと飛び出した。そのままパラシュートが展開されて、ふよふよと不時着をしていく。
アリスはパイロットをちらりと見たが、追撃はしなかった。相手の逃げっぷりの判断の良さに感心しただけだ。
そうして、緊急脱出によりパイロットを失ったファントムが墜落しそうになるのを人型へと変形モードを変えて、掴みとる。
そのままファントムを釣り下げながら他の鹵獲したファントムへと戻っていき、戦闘が終了した事を確認して輸送船を呼び出して回収するのであった。
パラシュートにて不時着したローラはすぐにその場から脱出して、万が一の合流地点へと走っていた。
「いやいやー、もう宇宙人の技術とやらを手に入れているのかなー? これは我が国はまずいかもしれないね~」
六文銭Zの圧倒的超高性能な力を見せつけられて呆れるローラ。もはやこの基地へと襲撃したときの性能の優位を信じていた自分が馬鹿だと思いながら。
夜の闇の中に走って消えていくのであった。
回収を終えて、満足なアリスはそのまま輸送船へと六文銭Zも回収させる。4機も鹵獲できましたとフンスと息をはいて、輸送船へと降りると鏡が泣き言を入れてくる。
「おーい、あの六文銭Zのことについて、太平洋連合軍の美少女が詰め寄ってくるんだけど? 見せて欲しいと詰め寄ってくるんだけど」
焦った声音での泣き言に、ふふっと可愛らしく笑い、口元に手をあてて上品なお嬢様を演じるアリス。
「あれは盗賊団から手に入れたんです。見せることはできませんねと答えてください」
「いきなりジェスチャーだけになったから、怪しまれているんだよ! 今は一発芸である蝶々の舞を見せて誤魔化しているけど、早く変わってくれ!」
手の平を翅を動かすように見せるおっさんアント。その一発芸を見せるから怪しまれたのではなかろうかとアリスは推察するが、まぁ、仕方ないかと頷く。
手をひらひらとふって、鏡へと再び自分が変わることを告げて、モニターを切り替えて守里たちの姿を映し出す。
目の前には鬼気迫る勢いでサラスが蝶々の手を握っていた。
「おー! あれは貴方たちの技術で改造した六文銭ですね? どうしてシヴァではないんですか~? 改造するなら、私の作った新型のシヴァが良かったはずでーす」
どうやら、自分の機体であるシヴァを改修しなかったことがご不満な様子のサラスである。
答えは簡単、六文銭の方が見かけがかっこよかったからである。あと無駄なスペースが多かったから改修しやすかったのだ。
どう答えようかと戦闘をあっさりと終えたアリスは考えるのであった。




