87話 博士と取引をするゲーム少女
会話はインパクトのある内容から始まった。
なにしろ、シャドウバタフライは自分をウチュウジンダーと驚きの安っぽいボイスチェンジャーを使ったような声音で発言したのだから。
正直、たんにドッキリでしょうと言われる方が納得できるだろう感じだ。そんなアホな発言もアリスにしてナイス演技みたいな得意げな表情なので、ツッコミを鏡はしにくい。
そして、ツッコミをしようか頭を抱えて迷う鏡を放置して、アリスは話し合いを続ける。
「えっとですね。わかります? 私はウチュウジンダー」
凄いぜ、アリスちゃん、真実は小説よりも奇なりだねと鏡は思うが、壮絶な戦闘をサラスとしていた守里はなんとか気を取り直して返事をする。
「あ~っと………。本当に宇宙人なのかな? いや、疑うわけでは………。いや疑いたいところなんだけど………」
守里は周りが思うことを代弁して尋ねてくるが、アリスはクククと子供が黒幕ごっこを楽しんでいるような表情で、シャドウバタフライを頷かせる。
「地球のことは勉強しました。私はウチュウジンダー」
心底楽しそうに無邪気に繰り返して挨拶をするアリスへと、天を仰いで呆れる守里。
「あ~。宇宙人が勉強をするとこうなる可能性もあるのか………。ちょっと想像できなかったよ」
「本当でーす。日本で勉強した異星人がこうなることは考えられました~。アニメや小説ありすぎでーす」
プンスコと頬を膨らませて不機嫌になるサラス。手をオーバアクション気味に振りながら言う。
「どうするんですか~? こんな間抜けな一言がファーストコンタクトの一言になるなんて、私は嫌でーす。凄い間抜けですので、やり直しをもとめまーす。宇宙人さん、もう一回最初からやり直しをしませんか?」
うんうんと周りの人々も頷く。どうやら、あの私はウチュウジンダーはご不満らしい。歴史にのるとなると確かに恥ずかしいかもしれない。少なくともこんなへんてこな覚え方をしたのは日本のせいだとか言われそうな予感。そして歴史的イベントに立ち会ったのに、間抜けな科学者と言われそうで焦るサラスたちである。
「むぅ。ご不満ですか? 私は色々調べたのですが。頑張ってアニメや小説を読みこんだのですが」
「なぜ、最初にアニメや小説を読みこむのですか~? もっとまともな資料があったはずでーす。色々宇宙人さんは情報を集めているはずでーす」
もっともな質問をサラスがしてくるが、アリスは平然とした声音で答える。
「物語形式をしていない資料なんて読んでもつまらないので、読まなかったんです」
ぽかんと口を開けて、想像の埒外の言葉を耳に入れる守里たち。まじかよと思うが、たしかに面白くもない歴史を勉強するより、アニメや小説のほうが読むのは楽しいよねと納得してしまう自分たちが悔しい。
「あ~、仕切り直そうじゃないか? えっと、君は宇宙人で良いんだね? まぁ、監視カメラがある部屋なのに、いつまでも異常に気づいて兵士たちが入ってこないということは、カメラに映っていないとわかるから、それが証明になるんだけど」
なぜか疲れた様子で守里が口を開く。なんで疲れているんだろう? 先程の激闘で疲れたのかなとアリスはコテンと可愛く小首を傾げて素直に答える。
「宇宙人、地球人は皆それを言うんですね。では私も聞きます。貴方たちも宇宙人ではと」
アリスのからかうような返答にすぐに守里たちは、相手が言いたいことを理解した。そこらへんはさすが選ばれた科学者たちである。
「あ~。申し訳ない。では言い方を変えよう。君は地球外生命体、異星人なのかね?」
おぉ、カナタとは違うねとアリスは感心しながら、シャドウバタフライを頷かせる。
「その通りです。私はオリハルハ帝国を中心に活動するハ、行商人です。新しい航路を探していたところ、偶然にもこの惑星を見つけたため、降り立ちました。放浪者さんたち」
ガヤガヤと人々が騒ぎ始める。そして、危うくハンターと言いそうなアリスであった。危ない危ないと舌をチロッとだしてテヘへと反省する。そんな反省する姿も愛らしい。
守里とサラスはアリスの言葉を聞いて、お互いの視線を素早く合わせた。今の発言に聞き逃せない内容があったからだ。
「ようこそ地球へ、異星人さん。今の発言に気になる内容があったんだけど聞いていいかい? 私たちをなぜ放浪者と呼ぶんだい?」
まるで国を持たない流れ者という感じで尋ねてくるアリスの発言にひっかかった守里とサラスたちである。
「それは言葉通りです。貴方たちは放浪者。国を持たない者たちだからです。それはですね………。
しばらく説明を始めるアリスと、それを熱心に科学者たちは集まってきて聞き始めるのであった。なお、その間に警備員を呼ぶ人はいなかった。自分の知的好奇心を優先する真っ当な科学者たちであった。
研究室はざわめきに包まれていた。それぞれの科学者たちがお互いに顔を合わせて厳しい表情で会話をしている。
その中で守里は難しい表情で眉を顰める。
「その古代に作られたギャラクシーライブラリー? というものが認めなければ国として認められないと。銀河ではそういう決まりなんだね?」
「そうです。ギャラクシーライブラリーは単なる知識蔵。それを人々は利用しています。ギャラクシーライブラリーに善悪の基準はなく、知識を教えてくれるだけです。その中で、国として認められなければ、そこは単なる空き地となります。そして今までに国を作って、ギャラクシーライブラリーに認められない国はありませんでした」
ハンターが作ったどんなにちっぽけな小国でもギャラクシーライブラリーに表示されるのだ。どんなにちっぽけな小国でも。
うぅむと唸るサラス。苦々しい表情で不安を口にする。
「これはまずいですよ~。それが本当なら、地球の国は一切銀河の民に認められていないということです。恐らくはある程度の科学技術などがないと認められないのでしょうが………。本当にギャラクシーライブラリーに小さな国でも登録されるのですか?」
「登録されます。個人が作ったなんちゃって小国ですと、その領土に入らない限りは表示されませんが、そこに例外はありません」
「………なるほど、だから君は自由にこの国で遠慮もせずに行動していたのか。国がない単なる資源地として法的に扱われるのであれば、当たり前の話なのだな。そして、資源回収中の相手を攻撃すると相手側が盗賊扱いされる………。なんてことだ、これはまずいよサラス」
苦し気に呻く守里にサラスも深刻そうに相槌をうつ。
「それが本当なら、この地球で自由に略奪しても問題ないという事になりまーす。それどころか、相手がこの地球を自分の国として名乗ってギャラクシーライブラリーとやらに登録されたら、私たちは不法住民として扱われる可能性が高いでーす」
冷や汗をかきながら、この先の展望を予想するサラス。他の科学者も蒼褪めて今の発言に聞き入って動揺を見せている。なにしろ戦闘になったら敵わないことは先日で証明されている。しかもこの蝶々は武装してはいるが行商人らしい。
これはまずいと騒ぎが大きくなる。宇宙人が来訪するならば、きっと優れた技術とそれに合わせた高度な精神を持っていると考えていたのであるからして。
それが、前提が崩れた。銀河は大航海時代みたいな世界らしいのだ。そして地球での大航海時代では、武力を持たない人々がどうなったのかを嫌というほど彼らは学んでいた。
「え~っと、いつまでも異星人というのも悪い感じがするんだけど、君の名前と種族を教えてもらえるかい?」
守里が気づかわし気に尋ねてくるので、アリスはおっさんが考えた言葉を伝える。
「この地球では蟻の種族。その中でもワーカーアントというのが私の地位ですね。名前はフーテンのワーさんとでも呼んでください」
それに苦笑いをして、守里がツッコミを入れる。
「教えてくれる気が無いのか、それは偽名だよね? 種族は本当なのかな? まぁ、とりあえずはワーさんと呼ぼう。ワーさん、なんで私たちの前に姿を現したんだ? 先日はあれほどの騒ぎを起こしておいて命知らず………というわけでもないのか。それでも私たちが悪感情をもっているとは考えなかったのかね?」
「あれは盗賊団を退治しただけですので、私は気にしません。そしてあの騒ぎで、彼我の戦闘力はわかったはずです。偶然にも通りかかった守里さん」
「こちらの名前も把握済みか………。そういうやり方が銀河で流行っているとなると恐ろしいんだが………。それをおいておいても私たちは君たちとの交渉をしなければならないだろう」
理性的に話す守里にサラスも他の科学者たちも黙って成り行きを見つめる。
「では聞こう、ワーさん。そちらの目的はなんだね? なにが欲しくて姿を現したんだい?」
ごくりと唾をのみ込み、アリスの返答を待つ。
「色々です。雑貨品も食料その他諸々。とりあえずは砂糖と香辛料が欲しいですね」
「………それは地球の大航海時代をあて擦って言っているのかな? 本気かい?」
意図が分からずに戸惑う守里。だって、宇宙人だ。宇宙から来た物が今さら砂糖や香辛料? ありえないと考える。なにか裏があるのかと。
「本気です。大量の砂糖や香辛料を貰えれば、銀河標準で使用されているエネルギー結晶にして通貨を払おうではないですか。なにがギャラクシーライブラリーに認められるかわからないですよ?」
うぅむと再び唸る守里。そこへサラスが慌てたように口を挟む。
「私たちは科学者でーす。商売ならば、それ専門の人材を用意しますので後日に」
しかし、最後までその発言は終えることができなかった。なにやら爆発音が聞こえてきて警報が鳴り響く。
「警戒態勢。警戒態勢。所属不明機多数飛来中。警戒態勢。警戒態勢。所属不明機多数飛来中」
なにかクエストが発生しましたねとアリスはその放送を聞いてほくそ笑むのであった。常にこういう時にはこういうパターンが発生するんですと。




