71話 ゲーム少女は王都でも噂になり始める
目の前には大金貨と金貨の山が積まれていた。煌めく黄金の光は人々を魅了する。アリス以外は。
アリスはキラキラして奇麗なものですねとしか思わなかった。金貨という響きは良いが、こうして見るとやはりマテリアルが入っていないので、単なる玩具の通貨にしか思えない。
平然とした表情で金貨の山を見ているアリスを鏡以外の周りは感心する。金貨の山を前にしても動じない方であると。
実際は同じ量のマテリアル通貨が積んであったら狂喜しただろうことは、鏡だけは知っていたので苦笑いする。
「だいぶ金を稼げたようで、なによりだ。私の方にはアリス嬢のことについて、問い合わせが殺到している」
ソファの対面に座っているシグムンドがにこやかな笑みで楽しそうに伝えてくる。
ここはグリムの応接室にて、夜会から数日後が経過していた。今はこの間の売り上げを集めた結果を話している最中だ。
メンツはいつものメンバーで、アリス、鏡、グリム、レイダとシグムンド、マスコット枠でチャシャ。ドーベルは他の仕事中。
「意外と集金は楽でしたな。売れたと言っても高位貴族にとっては楽に払える金額でしたのでしょうか? 他の貴族方は少量でしたし」
グリムが簡単に集金ができたために疑問で首を捻るが、シグムンドは否定する。
「いや、そうではあるまい。大金を得ようとする貴族たちは砂糖を受け取ったらすぐに他の街へと子飼いの商会を行かせている。転売目的なのだろうな」
「そんなに安く売ったつもりはなかったのですが、安かったでしたっけ?」
アリスも首を捻って不思議に思うが、まぁ、この周辺の国家は砂糖やらを手に入れるのが難しいので、高く売れるのかもしれない。
「もっと高い金額で売りたいかね?」
目を鋭く細めてシグムンドが聞いてくるが、首を横に振り答える。
「すぐに売れる金額なので問題はありませんね。転売目的なら継続的に買ってくれるでしょうし」
継続的に買われるのが重要なのだ。一回しか買ってくれない大口よりも、継続的に買ってくれる中口の方が重要だ。
その言葉に満足するシグムンド。この少女は状況をよくわかっていると。なぜならば継続的に買う貴族はアリスを守るだろうし、儲けて資金が増えたらシグムンドの派閥はそれだけ強くなるのだから。
「それに本当に街をつくったのだな。部下に見に行かせたら本当に道路が魔の森を通過してできており、君の街が海岸にあるのを確認している。かなり驚いていたが、見ないとあの驚きはわからないとも言っていたな」
部下の報告では街とは言っていたが、村レベルだろうとシグムンドは考えていた。なぜ部下が見なければわからないと報告していたのが気になるので、視察に向かうか迷っている。
「フフフ。まだ人口は村レベルなので、人が必要なのです。大工を含んで雇用したいんですが」
相手を侯爵とわかっていても、態度を変えないアリス。常にハンターは態度がでかいので仕方ない。鏡も侯爵ってどれぐらい偉いかわからないので気にしない。
そんな二人なのでシグムンドはかなりの高位の貴族出身だと二人を見て推測しているのには気づかなかった。
「大工は無理ではなかろうか。あれは金になる職業だからな。見習いなどならば可能かもしれぬが」
期待にはそえないだろう。鍛冶や大工、薬師は金になる仕事なので王都にいる職人は尚更開拓村などには行かないだろう。
はぁ〜とため息をつくアリス。そうじゃないかと薄々思っていたのである。ならば仕方あるまい、大工を自前で用意するしかない。
あ〜、コールドスリープから回復させる人物を考える。誰が良いだろうかと考えて、教師の能力を持つ部下ならば他の職人も作れると気づいた。
教師、教師………。後で一覧から見て考えようと気を取り直して尋ねる。
「職人は諦めます。なら開拓民として集めたいのですが」
「それならば問題はあるまい。困窮している人間族は数多いからな。スラムから下層居住区の人間族を集めれば良いだろう。私が手を回しておこう。もちろんそれなりの報酬は頂きたいが」
ホイッと大金貨を無造作にちっこいおててで掴んで渡そうとするアリスへと気が早すぎる娘だと苦笑して、手を差し出して止める。
「金は結構。実は様々な問い合わせがきてるが、その中でもパンを膨らませて柔らかくしていた粉があるだろう? たしかペーキングパウダーだったかな? あれが砂糖よりも欲しいとの問い合わせが多いんだ。日頃口にするパンだからこそ、欲しいのだろう」
ふむふむと頷き、アリスはなるほどねと納得した。ペーキングパウダーも価値があるみたいであるとは考えなかった。ならば色々仕入れる必要がありそうだと、ちらりと鏡へと視線を向けると微かに頷きを返した。
「わかりました。それらも次の貿易で持ってきましょう。なら、次は人間族は何人集まるかですね。私の希望は6000人です。元農家の人も希望します」
1万人までは可能であるが、余裕は持っておきたいので6000人だ。食料も余裕がそれならばあるし、もう田畑で収穫もできているし。
「わかった。用意しておこう。それとグリム殿、私の御用達商会として名乗って頂いても構わない。あとで許可証も渡そう」
へへ〜とグリムは頭を下げて了承する。頭の回る侯爵だと考えながら。
「それじゃあ、これでひとまずやることは決まりましたね。では、準備が整うまで私はハンター業をするとします」
パンと両手をうって、満面の笑顔でアリスが告げる。ハンター業を最近やっていないので、ストレスが溜まっているのであるからして。
「ドーベルが酒場でいくつか魔物退治の仕事を拾ってきているよ。好きなのを選ぶといいさ」
レイダがアリスへと仕事内容を教えてくるので、立ち上がり移動を開始する。
「それでは酒場に向かいましょう。直接話さないとこういうのは駄目ですよ。ドーベルさんを呼んで来てください。案内求む、です」
ルンルン気分で言うアリスへと、あいよと答えてレイダたちもついていくのであった。
残ったグリムはシグムンドへと話を詰めるために話しかけるが、シグムンドは慌てたようにグリムへと詰め寄る。
「今の言葉はいったい? まさか傭兵の仕事をするのか?」
冗談だろうという表情だ。まぁ子供を鍛えているといっても、部下が護衛しながらである。まさか、傭兵の仕事をするわけはあるまいと。
なので、柔和に微笑み、グリムは答えた。
「アリス様は御自分で戦うのを好むのです。なので、魔物退治も簡単にこなすでしょう」
本当かという表情のシグムンドへとグリムは微笑みながら仕事の話を続けるのであった。
大商会であるブックス商会。中級貴族をも勝る資金力と王都にありながら一等地の大通りにある広大な屋敷。その執務室にてフーデは当主である父親に怒鳴られていた。
豪華で品のある調度品、机には様々な書類がある。神代の時代に開発された植物紙の書類を散らばらせて、当主は怒鳴る。
「どういうことだ、フーデ! 何故付き合いのあったグリムの商会と手をきった! 見ろ、この山程の貴族からの問い合わせを! シグムンド侯爵の夜会にて売られた砂糖などをなぜ最初に買った我らに売りに来なかったのだと言う苦情入りだ!」
「仕方ありません。まさか、ここまで早くグリムが高位貴族とのコネを作るとは思っていませんでした。きっとわたくしたちに泣きついて謝ってくると思っていたのですが」
頬に手をそえて、はふぅ〜と疲れたため息をつくフーデ。
「他の商会もグリムへと近づくだろう。王都一のブックス商会の立場はかなり悪くなるぞ」
「王族からの作物を一手に扱ううちが王都一からおちることはないでしょうが……。どうでしょう、お父様? 謝罪を入れて、水に流して貰いましょう。多少のお詫びとしての物を渡せばよろしいかと」
ここで報復は悪手であるとフーデは考えた。まさか侯爵とのコネができるとは考えていなかったのだから。本来は王都にいない辺境伯を頼ることもできずに、せっかくの砂糖も売り払うこともできずに、泣きついてくるのが計画的であった。
それがあっさりとコネを作れるとなれば計画は練り直しが必要だ。今度は相手の情報をしっかりと集めないとならないだろう。
だが、当主である父親はそうは考えなかった。苛立ちながら爪を齧り、指示を出してくる。
「開拓村への物を売ることを禁じるように部下たちへと手を回せ。干上がらせてやろうじゃないか」
グフフと兎人族には見えない悪質な表情で笑う当主にフーデは大丈夫かと不安になるのであった。
その頃のアリスは酒場でフンフンと鼻息荒く酒場の店主と話していた。荒くれ者の中で、目立つ美少女っぷりであるので注目の的で有ったがそんな視線は気にしない。
「グリフォンですか。群れで森林奥に巣を作っている……。そのために縄張りから逃げ出てくる他の多数の魔物が街道を通る旅人を襲う。一体につき金貨100枚……素材は含まないが死骸の確認は必要……なるほど」
「ある貴族からの依頼だ。軍を動かすには森林だと厄介極まるし金もかかる。なので傭兵に話がまわってきたのだか、大丈夫か?」
護衛は強そうだから大丈夫だろうと酒場の主人は思うが、なぜ傭兵の仕事をやるのかは疑問に思う。
紙束に書いてある依頼内容を読み終えたアリスは、パンと依頼書を叩いて、ニッコリと笑った。
「了解です。街道に現れる敵もあわせて撃破しちゃいましょう。グリフォンアストラルも倒してレベル上げですね」
「何人で行くんだ? 大勢では行かないんだろ?」
鏡の答えに頷き、アリスは答える。
「私とチャシャたちで十分でしょう。4人でバギーで行けば日帰りで帰れますよ」
「俺は?」
自分を指差す鏡へと、小声で伝える。
「おっさんフェアリーに戻ってもらいます。高位の仲間がいたら経験値が入りませんから」
「へいへい、了解だ。んじゃ、サポートキャラの出番だな」
「今まで戦いに役に立たなかったので、おっさんフェアリーには期待していませんから安心してください」
辛辣なるアリスの言葉に鏡はプンスコと怒る。
「たちます〜! 俺のサポートキャラっぷりをあとで見て驚くなよ?」
驚くことなんてあるのかなぁと思いながら、新たなるクエストを受注するゲーム少女であった。




