69話 ゲーム少女と貴族の少女
市場にてのいざこざで戦闘が発生するかもと期待して、そそくさと狼さんが逃げてしまい、しょんぼりとしたアリスへと裕福そうな少女が声をかけてきた。
「ふふふ、珍しそうな目で私を見るのね。私はドロシー・ヴォルスング。ヴォルスング一族の者よ」
ふわさっとロングの赤毛を手でかき上げながら、挨拶をしてくる少女にアリスも仄かな微笑みを見せて返答する。
「私は銀河を跨いで活躍する、安心格安、確実に依頼をこなす、今回は王都での面白いことを探しているバウンティハンター魔風アリスと言います。よろしくお願いしますね」
ドロシーを観察するに、ロングのボリュームのある赤毛にやんちゃそうな顔つきであるが可愛らしい、150センチは背丈はあり、胸のボリュームもありそうな15歳ぐらいの少女である。
裕福そうなノーマルニュートなんて初めて見ましたと珍しそうにアリスにたいして、ドロシーは微妙な表情を浮かべる。
「あの……私のことを知らないのかしら? ヴォルスング一族よ? あのヴォルスング一族」
「えっと……、有名なんですか?」
隣のチャシャたちを見るが、にゃ〜んと首を捻って知らないよと返してくるので、皆で首を傾げてしまう。
「そいつはこの国一番の強さを持つと言われている騎士シグムンドの一族だな。他大陸から来た俺たちが知らないのは当たり前だ」
渋いおっさん参上と、のそのそとおっさんうさぎが横道から現れて説明を始める。
まぁ、周りには普通のノーマルニュートに見えるはずだ。そんなおっさんうさぎは、なんだかかっこいい出方じゃない? 俺は今凄いかっこいいキャラじゃない?と口元が嬉しそうにひくひく動いていた。
アリスは鏡が当然アホなことを考えているのだろうなと、すぐに気づいたが、とりあえず黙っていた。なんだか面白そうなクエストの匂いがするからだ。それにおっさんうさぎはいつもアホなことを考えているので、放置推奨なのである。
騎士然とした姿でしかも高位っぽい鏡を見て、ドロシーは少し驚き目を見開く。
「人間族…。高位騎士かしら?」
「あぁ、俺はそこの姫様の護衛の騎士団長啓馬鏡だ。家名が啓馬で、名前が鏡だな。アリスも同じだ。」
ニヤリと渋く笑う鏡。実態はうさぎロボだけど。
「フフン、強そうな騎士ね。こんな市場で人間族の強者と会えるなんて幸運だわ。良かったら少しお話でもいかがかしら?」
「鏡を強そうな騎士と見るとは、なかなか目が曇っているようですね。ププ」
鏡にしか聞こえないように呟くアリス。笑いながらの呟きに鏡がコツンとアリスの頭を叩く。
「黙っていろ、今は俺のかっこいい登場シーンだからな」
「うさぎさんには相応しくないシーンだと思うのですが……おっさんだとますます相応しくないシーンだと思うのですが」
「いや、うさぎより下におっさんを置くんじゃない!」
コソコソとコントをする二人であった。
「それじゃあ、どこかの木陰で話そうかしら?」
よく見るとドロシーは後ろに護衛と思わしきキャットニュートとメイドと思わしき若いウルフニュートのメイドがいた。影が薄くて気づかなかったが。
二人を見て、鏡が目を細めて感想を言う。
「メイドはメイド服だよな。なんで普段着なんだ? やはりこの地の文明度を上げないとな」
どうでも良いことの感想であった。
「わかりました。メイド服は正義ですからね、私もそろそろ作成しないとと思っていたんです」
キリッとした表情でアリスも話にのるという駄目なコンビがそこにいた。二人共性格が似通っているので仕方ない。本当に仕方ないのかは不明だが。
「しかし、木陰で話そうとか貴族らしくないよな。まぁ、市場に歩いて来ているところを見ると自由気ままなヤンチャな娘なんだろうが。それに喫茶店なんかないしな……」
こういう時は家にご招待とかだろと鏡は思うが、見知らぬ人を客とはしないかと納得する。
「では、え〜と、ドロシーさん、木陰でお話しましょうか」
アリスは軽く頷いて、てってこと歩いていく。この王都は公園もそこかしこにあるのだ。これは文明度の低いこの世界では驚くべきことであるが、どうも古代文明からの引き継がれている風潮らしい。
多分火事などの延焼を恐れて作られたのだが、その意味は伝わらないで、公園を作っておけば、災厄から逃れることができるという伝承になっていると、道すがらドロシーから教えられた。
さすがは貴族、博識であると感心して到着する。
結構な大きさの公園であり噴水も設置してあり水をキラキラと噴き出していた。そこかしこにベンチが見えるので座って話すことにするアリスたち。
「人間族の騎士を連れているなんて、どこのお国の方なのかしら?」
ドロシーが興味津々で尋ねてくるので、一応覚えておいた設定を話すアリス。
「私は他の大陸から来た宇宙樹を信仰している教団の宣教師です。開拓した街を拠点に暮らしています」
「開拓した街? 聞いたことはないわ。貴方たち知っていて?」
ドロシーはその言葉に目を丸くして、護衛たちに声をかけるが、二人共首を横に振って否定する。
「一ヶ月程前に作ったばかりですからね。知らないのは当たり前です」
ウンウンと知らなくてもしょうがないよねと頷くアリス。
「一ヶ月前? できたばかりじゃない。それは街ではなくて村でしょう?」
「すぐに巨大な街へと発展するので問題はありませんね」
フンスと息を吐いて、ドヤ顔になるアリスを見て、開拓村の大変さを教育されているドロシーは呆れる。どうもこの娘は箱入り娘っぽいと。開拓村の大変さを知らないのだろうと。
できたばかりの開拓村ならば貧乏だろうに、アリスも護衛の騎士も上等な服装をしている。特に騎士たちは魔法の鎧だろう物に全員が身を包んでいるところから、お金に困っていないのだろうか?それに他の大陸から来たという。驚くべきことなので、もっと情報を得ようと話を続けようとすると
「木陰で休むのなら、おやつを食べながらにしましょうか。ドロシーさんはなににします?」
亜空間ポーチから、ひょいひょいとジュースの缶とクッキーを取り出すアリス。
何もないところから取り出された品物を見て瞠目するドロシーと護衛たち。
「オレンジジュースにアップルジュース、グレープジュースと今日はありますよ。あとはコーヒーですね」
「わ〜い! 私はアップルジュースを貰っても良いかな?」
コテンと首を倒して、ジュースを真っ先に貰おうとする護衛という意味を忘れているチャシャである。
子猫の餌付けは必要ですよねと、渡すアリスへまじまじと缶を見ながらドロシーが尋ねる。
「こ、これはいったいなにかしら?」
「こうやって開けるんだよ。プシュッて!」
チャシャがふふふと得意げな表情でプルタブを開ける。そして口をつけてごくごくと飲み始める。
「子猫が見本を見せてくれましたね。そのとおりに開ければ大丈夫です。どうぞお好きなのを飲んでください」
アリスもオレンジジュースを開けて、ちっこいお口につけてごくごくと美味しそうに飲み始めた。地球産なので、回復付与は起きないけど、美味しいから良いのだ。
恐る恐るドロシーもアップルジュースを手に取り、しげしげと眺めてから、プシュッと開けて中身を覗いてみてから考える。
飲んでも良いのかしら?毒ではないだろうかと考えるドロシーの様子を見て、メイドさんが受け取ろうと手を伸ばす。
「ドロシー様、よろしかったら毒味いたします。アリス様、申し訳ありませんが、失礼を承知の上でよろしいでしょうか?」
「はぁ、別に良いですよ? クッキーも食べますよね?」
既に自由気まますぎる子猫がぱくついており、鏡がいい加減にしろとチャシャの頭をペチンと叩いているが。
「では失礼致します」
一口だけ飲みますかとメイドは口にする。飲み口が一つしかないが特に気にしない。旅装の時は革の水筒をかわるがわる飲むときもあったのだから。
何気に人間族はスパルタ教育でかなり鍛えないと強くならないので、ドロシーは魔物を倒しに行ったりして、様々な面で鍛えられていた。
「こ、これは!」
コクコクと飲んだメイドは驚愕する。すわ、毒が入っていたかと身構えるドロシー。
「お嬢様! 毒ではありませんでした! とっても美味しかったです! 空にしちゃいました!」
えぇ〜とジト目になるドロシー。
「フォルテ、毒味じゃなかったのかしら? なんで空にしているわけ?」
「アリス様、申し訳ありませんが、もう一本頂いてもよろしいでしょうか?」
フォルテと呼ばれたメイドは尻尾をバッサバッサとご機嫌に振りながら聞いてくるので、アリスは軽く頷く。
なので、今度はこの葡萄の絵が書いている物にしますねとフォルテはプルタブを開ける。
「も〜。主人に恥をかかせないでよ!」
フォルテがジュースを渡してくれると思って、手を差し出すがキョトンとした表情でフォルテはこくこと飲み始めた。
「これは私のですよ、お嬢様? お嬢様の分はさっき全部飲んでしまわれたではないですか」
意外な言葉にアリスたちも目を丸くする。てっきりドロシーに渡すと思っていたからだ。ただ、キャットニュートの騎士は苦笑しているだけなので、これが日常茶飯事だと推測できた。
「フォルテ! あんたが私の分をとったんでしょうが! よこしなさい、ほら! この間も私のおやつの干し芋を食べたでしょうが!」
「仕方ないんです。毒味をしなければいけないので。お嬢様の命を守るためなんです!」
「だったら、もう毒味はすんだでしょう! それをよこしなさいっ!」
「やーでーすー! これは私がもらったんです〜」
ぎゃいぎゃいと醜い争いをする主従であった。本当に彼女は侯爵家なのだろうか?私のように名前ばかりの爵位ではなかろうかと、アリスは思うのであった。
数分後、むしゃむしゃとクッキーを食べ尽くす勢いで食べまくるドロシーとフォルテ、チャシャとアリスの姿があったのだった。何気にアリスも食べる面々に加わっている。仕方ないのだ、自分自身が持ってきたので、食い逃すことはありえないのであるからして。
「サクサクと甘くて軽い舌触り! これがクッキー? 私の食べてきたクッキーなんて固くて甘くもなかったわ! 何これすごい!」
「お嬢様、私の毒味まで手を出さないでください! そのオレンジ色のクッキーは私が食べようと思っていたんです!」
フランクすぎる主従だと判明した二人である。
食いしん坊な点で、あっさりと仲良くなったアリスとドロシーであった。




