52話 ゲーム少女は拠点で人々を住まわせる
てこてこと街へと入っていたアリスたち御一行。最初の畑を囲む塀には弱々しいエネルギーバルカンが設置されている。攻撃力はそんなに高くなく初心者用なので仕方ないという感じだ。
その壁の側には大きい合金製の門がドデンと置いてあるので、アリスは手を翳す。アリスを感知した拠点の簡易AIはウィーンと音をたてて門を電動ウィンチで開け始める。
おぉっと驚く人々。どうやら人の手を借りずに自動で開く分厚い合金製の扉を見て驚いているようだ。
「こんなもので驚くなんて、さすがは開拓クエストですね。初期レベル0からスタートですよね、これ?」
「ん~。もしかしたらマイナスかもなぁ、ここの連中は科学の科の字も知らんし、字も読めないしな」
ふむふむと楽しそうに頷くアリス。これはやりがいがあるぞと密かにほくそ笑んでいた。楽しくなりそうな開拓クエストである。
ぞろぞろと田畑を歩いていき、街の扉まで移動するなかで、グリムがこちらへと恭しそうに声をかけてくる。
「アリス様。すでに畑は耕し終わっておりますが、これはアリス様のお力で?」
「そうですよ。初心者救済拠点キットは簡単明快、作物は病害に襲われず天候は常に温厚、多少耕すことを行えば普通に収穫ができるんです。まぁ、1万人までですが」
「救済………。人々を救済する力ですかな? いやはや聞いているだけで物凄い力ではないかと思うのですが」
アリスの平然とした当たり前のように語る内容に戦慄を禁じ得ない様子。まぁ、そうだろう、この古代とも思わしき機械がない世界での農業は恐ろしく大変だ。それなのに、それをほとんど無視できる力の畑と言っているのだから。
「これは最低の力です。今はまだこれ以上の力を使うことはできません」
のんびりと街へと、てってこと歩きながら話すアリスに
「ふふふ。アリス様! 信仰心が集まり元の力を取り戻すまで、この第一の眷属にして神龍候補オズが常に御側にいますので、ご安心してください」
ふんふんと鼻息荒く、ドンと胸を叩いて自分をアピールする迂闊な言動を繰り返すオズであるので、それを聞いていたグリムとわんにゃん傭兵隊は先程から耳をぴくぴくと動かしている。
「さ、さようですか………。アリス様は神官様でいらっしゃるのですよね?」
グリムが先程からの竜の言葉を聞いて、少し恐れるように聞いてくるので
「その通りです。私の職業の一つは神官ですね」
全然安心できない言葉を吐くアリスは悪戯そうに微笑む。
まさか、そんなとグリムたちは想像している内容を頭から振り払いながら、一夜にしてできたと思わしき街並みを見渡す。
レイダがぼそりと汗をかきながら、呟く。
「2000年ぶりに受肉をしたというのかい? いや、まさかね………」
それが本当ならば、大騒ぎになり世界中から人々が押し寄せてくるだろうことは間違いない。こんなアホそうな少女がまさか神様とかじゃないよねと思いつつ、アリスにまとわりつく忠実さを見せている赤竜を見て、まさかとも思うのであった。
一行は街の門を潜り抜けて、宿舎の前に到着する。立派な宿舎であり、窓ガラスの透明さを見てあれは何だろうと思い、壁の新築のレンガでできたと思わしき石の隙間も見えない頑丈な作りに驚愕した。スラム街どころか普通の家屋でも石積みにより隙間ができるのは当たり前であるからして。
わいわいと騒ぐ人々へと、パンパンとちっこいおててを叩き皆に注目するようにするアリス。
先程からのやり取りで、この少女が只者ではないと思っている人々は静かになり、注目の視線を向ける。
皆の注目が集まったことを満足げにみて、アリスは言葉を発する。
「では、一般人の方はとりあえずは家を作れる人は大工、他の人々は農家として活動してもらいますね。大工の人~?」
ぱっちりおめめで、期待をしながらわくわくと見るが、誰も名乗り出ない。暫く待っても誰も名乗り出ないので
「グリムさん。もしかして、この人たちは農家希望な人たちばかりですか?」
純粋に疑問に思いながら問いかけると、グリムは焦った様子で滝のように汗をかきながら答える。
「も、申し訳ございません。最初は木を伐採しながら、のんびりと開拓するものとばかりに思っていたので、農家の者たちでもございません。そ、その………スラム街のなんの技術も持っていない人々です」
失敗をした、もっとまともな人間族を集めるべきであったと後悔をしながらの言い訳をしながら、アリスが怒るかと顔色を覗き込むが特に気にした様子もアリスにはない。
「そうですか。まぁ、そんなに期待はしていなかったので問題はありません。では、ここの人々は農家ということで。家はとりあえずは宿舎だけで良いですよね」
職業をもたない人々たちだが、まぁ、いっかとアリスは気にせずに思う。拠点パワーがあれば、なんとでもなるのであるからして。
「では、宿舎に入ってお風呂で体の汚れを落としてから、お話ししましょう。こっちです」
風呂ってサウナ風呂のことかな、貴族は入っているらしいがと思っている人々を宿舎に案内する。
両開きの大きな扉を開けて、中に入ると合宿所のような内装だ。皆がおぉ~と声をあげるのをスルーしてお風呂場に案内する。
大きな風呂をみて、これはなんだろう?炊事場だろうかと疑問顔になる人々へと、蛇口をキュキュッと捻って見せる。
ジャーとお湯がでるので、誰かに体験してもらおうと見渡すと、ちょうどこちらを見ている青い髪をもつ少女と視線が合う。
手招きで、きてきてとするアリスに気づいて、オロオロとする青い髪の少女。困惑しながらも近寄ってきた。
「あ、あの僕をお呼びでしょうか?」
「はい、お呼びです。この蛇口からでたお湯を触ってください。それと貴女の名前を教えてください」
「僕っ娘きた~! 磨かないと! 可愛らしく飾り立てないと!」
突如興奮して大声をあげるおっさんフェアリーをぺちりと叩き落として話を続ける。
「あ、あの僕はレーテルと言います。こんな姿ですが女です! 生娘です!」
いらんことも発言するレーテルである。かなりテンパっている模様。生娘だからどうだというのだろうかとアリスは首を傾げるが、考えてもわからないので放置してお湯を触るように促す。
そ~っとお湯に触って、驚愕するレーテル。そ~っとお湯に触って、驚愕するチャシャ。
どさくさ紛れにチャシャも触ってきたのであるが、可愛らしい子猫な感じなので別に気にしないアリスである。
「わっ、温かい、これお湯ですね!」
「アリスちゃん、なんでお湯がでてくるの? 魔法の道具?」
二人がばちゃばちゃとお湯に触りながら聞いてくるので
「科学の力ですが、まぁ良いですよね? 気にしても仕方ないことですよ。なので次の指示を出します。ここにある石鹸、シャンプーの使い方も教えますので全員身体を洗ってください。チャシャさんたちは兵舎でお願いします。傷を負っている人は治癒をしますので、言ってきてくださいね」
そうして石鹸などの使い方も伝えると、レーテルが怖々と尋ねてくる。
「あの、私たちがこんな高価そうなものを使っていいのですか? 凄い高そうですが………」
「異世界住民が驚くテンプレの一つがきたな! ここは一つ寛大になんでもないように」
「大丈夫です。このお代は貴方たちの働きで簡単に返せますので遠慮なく使って綺麗になってくださいね。脱衣場にはすでに貴方たちの着るものも用意してあるので。それを着てください。靴もありますし靴下もありますので」
おっさんフェアリーの言う通りに、寛大な言葉では返さない正直アリスだが、それでもどよめきは止まらなかった。まさか服まで配給されると思っていなかったのだ。いつもならアリスもそんなことはしないが、拠点には住民1万人分の衣服が用意されているのであるからして、安い衣服だし備え付けアイテムなので惜しまずに配るのであった。
もちろん兵舎にも同じ分の服が用意されていますよと言うと、わんにゃん軍団も嬉しそうな表情になり兵舎へと去っていく。
それを見送りながら、お風呂からでたあとの指示を出す。
「とりあえず、私のマイハウス前に来てください。そこでご飯も配りますので」
そう言ってお風呂場を出て台所へと足を伸ばす。
「鏡、彼らはなんでもいいでしょうか?ご飯ですが」
「あぁ、いいんじゃない? まずはパン2個にお代わり自由の豚汁といこうじゃないか。これこそ異世界チートの始まりっぽいしな」
「では、そうしますか」
1分もあれば600人程度分は簡単に作れる。なにしろ素材をマテリアルで掛け合わすだけだ。とりあえずは2000人分のパンとスープを作る。素材は拠点セットにもちろんついている。1年間分の1万人が食べていける量があるのだ。
ゴゴゴと音がして空中に光の球体が現れて、その中で料理が作られる。光が収まったあとには熱々のやきたてパンと豚汁がドデンと寸胴でテーブルに山とあらわれたのであった。
「お~! これが神の奇跡というものですね、アリス様! 神は光の中から食物を作り出す奇跡を使うと昔のおとぎ話に何回もでてきますが、本当だったのですね」
料理スキルの仕様に驚き、輝く瞳を尊敬の念をこめてみてくるオズ。その言葉にたしかに今のはそういうものにしか見えないかもと苦笑をする鏡。
「神様ねぇ~。まぁ、神様とせいぜい出会わないように気をつけるか」
「出会ったら倒せばいいんですよ。きっと凄い良い素材が手に入りますから」
極端すぎる考えを持つゲーム少女であった。
雑談をしてしばらく時間が経過したら、食堂にぞろぞろとレーテルたちや、わんにゃん軍団もやってきた。お風呂に入ってピカピカであり、新しい服。すなわちジャージを着こんで清潔にも見えた。結構ぎゅうぎゅう詰めであるので、食事を外にもっていくようにチャシャへお願いをする。
「こんな狭い場所では食べた気になりませんしね。今日はいい天気ですし、外で食べましょう」
再びてこてこと外に出ると、周囲を見渡すとアリスは食事をちっこいおててで指さす。
「では、食べても結構ですよ。お腹いっぱいに食べてくださいね」
その食事の指示にわぁわぁと人々は集まり、パンを手に取り、豚汁をもう片方の手に持つ。
そして目の前のパンがやけにふわふわと美味しそうだとかぶりつくと、今日は何回目かわからない驚愕の声をあげる。
「な、なんだこれ! 白い! 中が白いパンだ!」
「このスープ、すごいお肉や野菜がたくさん入っているし、塩だけじゃないよ、この味付け!」
「おかわりっ、おかわりっ!」
ふふっと貪り食うようにしている人々を優しい瞳で見ながら、次は拠点の住民にするイベントですねと思っていたゲーム少女であった。




