51話 ゲーム少女は拠点を紹介する
ふよふよと地面から数十センチ浮いて移動をしているフライングカーペット。時速30キロぐらいしか出せないが、亜空間ポーチに入れられないアイテムを運ぶ際に使うアイテムである。20畳はある大きさのカーペットは何人かの人を乗せてのんびりと魔の森を移動していた。
グリムがキョロキョロと地面を見ながら、アリスへと疑問の表情で問いかけてくる。
「アリス様。この白い道はなんなのでしょうか? 継ぎ目もなく不思議な道路ですが」
ふふふと、得意げになりアリスは自慢げに教えてあげる。
「この白い道は特別な素材でできたアストラル体、いえ、弱い魔物が近寄ることを防ぎます。なので、この道をそれなければ、それなりにこの森を安全に通過できるというわけです」
弱い魔物の定義がおかしいアリスの弁である。オズは少しの違和感を感じただけだったが、通常の魔物は近寄ることを嫌がるだろうことは明らかであった。
レイダが道を見渡しながら、感心したように感想を言う。
「はぁ~。魔法使いってのは凄いんだね。かなり大きい道路じゃないか」
レイダの言う通り、道幅は100メートルとってある。これから先の交通の便を考えるとこれぐらいは必要だとアリスは考えたのだ。
「この道路は森を通過してダイショーの街から、王都まで直線状に貫いています。そして途中で私の拠点である港町まで丁字路になり続いているので、これからの交易は楽になりますよ」
えっへんと簡単に述べるアリスへと冷や汗をかく面々。こんな道路をたった1か月で作れるとは想像外だ。誰が魔物ひしめく森に作れると考えるのであろうか? 普通の平原でもこれだけの規模の道路を作るならば国家をあげた大工事になり数年は要するに違いない。
この少女の底知れぬ実力に戦慄して、その後ろにいるという大神殿の力に慄きを覚える面々であった。
その中でも、さすがは商人というべきか、グリムが最初に立ち直り
「いやはや、アリス様のお力は凄いものがございますね。私も骨を折ったかいがあったというものです。それにこの魔法の道具も凄い! 馬車よりも遥かに快適ですし速いですから」
「全力でお馬さんが走ると、その速度に負けてしまいますが荷運び用ですしね。これぐらいなら簡単です」
「さすがは姐さん! 俺たちの考える上をいくってもんだ!」
ドーベルがくぅーんと尻尾を振るように笑顔で媚びをうってくるので、むふふと褒められるのが大好きなアリスは胸をはり、はりすぎていつものように、うわぁと背中からコロコロと転がる。そんなアホで可愛らしいアリスへとちゃっかりと乗っていたチャシャが、はーいと挙手をしてくる。
「アリスちゃん、質問です! この先に村を作る予定なの? 私たちは魔の森といっても、きっと森のぎりぎりに作ると思っていたんだけど」
周りの意見を代弁して発言するチャシャの言葉に、みんながうんうんと頷いて同意する。まさか魔の森の中に作るとは考えていなかった。恐らくは森の木を少し切り倒して、空き地を作り拠点となる開拓村を作ると考えていたのであるからして。
それが、道路はできているわ、魔の森の奥に入っていくことになるやらと予想外であったので、疑問を口に出したのだ。
「その通りです。私の民にはこの奥にある港町に住んでもらいますよ」
「港町? と言いますと港をお作りになったので?」
グリムがまさか、そんな断崖絶壁しかないこの海辺に作れるわけはと思いながら恐る恐る聞くと、あっさりとアリスは頷く。
「当然です。港付きの方が拠点は色々と作りやすいのです。川でも良かったのですが、やっぱり交易も考えると港一択でした。もうできていますが、最初は使わないと思います。埠頭で釣りを楽しむ程度ですか。人が増えたら船を作るのを考えますよ」
「さ、さすがは………え~と、本当ですかな?」
冷や汗をたらりと額に垂らして再度の念押しをするが、答えは先程と同じくコクリと素直に首を縦に振る美少女の姿であった。
「ふふん、アリス様の眷属である竜たちが作ったのです。簡単な作業でしたね。ちなみに知性を持たない竜たちですので、第一の眷属の座は我であることは揺るぎませんよ?」
竜人へと変身しているオズが、周りを見渡してこれまた平原たる胸をはり、偉そうに言う。
彼女が竜であることは変身した姿を見ているから理解をしている面々はその答えに改めて驚愕する。
「はぁ、とんでもない雇用主に雇われたみたいだね」
レイダが疲れたように大きくため息をついて、
「あったりまえよ! なにせ強大な魔法を使う姐さんだぜ? ついてきてよかったぜ」
わいわいと嬉しそうな表情で会話をするわんにゃん軍団を見渡してから、アリスはグリムへと顔を向ける。わんにゃん軍団は魔法使いはなんでもできると考えている風がある。それは都会には何でもあると勘違いしている田舎の人の考えに近い。グリムはそんなわけないだろうと内心で大声で叫びたいのを我慢していたが。
「で、王都とやらで上手く人を雇えたみたいですが、どうだったんですか?」
その問いに揉み手をしてグリムが王都での出来事を話す。
「はい。王都ではこの砂糖や香辛料は大騒ぎとなりました。他の大陸からきた神官様が布教のために持ちこんだ金子の代わりですと伝えたところ、我も我もと面会を求める人が多かったのですが、そこらへんはいずれと言葉を濁しておきました」
ふんふんと子供のようにしか見えないアリスは偉そうに頷いて、続きを促す。社長ごっこをしている感じにしか見えないかもしれない愛らしさだ。
「そして布教のために魔の森を開拓して神殿を建立することと、スラム街での人間族集めをしたい旨、説明しましたところ、あっさりと大臣から承認するとのお言葉を頂き、人間族を連れてきた次第です。恐らくは魔の森の開拓は失敗すると考えているのでしょう。失敗した場合は王都に来れば便宜を図るとおっしゃっていました」
そこで苦笑いを浮かべてグリムは周りを見渡す。
「まさか、こんな立派な道路ができているとは考えてもいないでしょう。この道はどうなさるのですか?」
「この道は私が作ったので所有権は私のものです。ちゃんと魔の森の出口に石碑を置いておきました。侵攻する敵にはハンター流のお返しをしますが、交易のためなら自由に通過してよいと書いておきました」
ハンター流のお返しというところで、グリムはびくりとしたが、交易のために自由に使えるとわかり、顔を綻ばす。一気に王都が辺境から近くなるのだが、これから交易が増えることは目に見えている。この道路を使用しての儲け方を早くも頭の中で考えるのであった。
「ね~、ね~。アリスちゃん。私たちはこれから村に行くんだよね? そこで何をすればいいの?」
チャシャが無邪気そうに笑顔で浮かべてくるので、アリスはわんにゃん軍団の作業について話す。
「開拓民の護衛、そして森の中に入って魔物を間引きしていってもらいます。無理はさせないので、危ないところには行かないでくださいね」
少ない民が減ったら困りますので、副音声にしておいてにっこりと微笑みを返すので
「あぁ、任せておきな!」
「俺たちが神殿騎士になるまでは死ねないしな!」
わんにゃん軍団の団長も胸を叩いて自信満々の表情を浮かべるのであった。
「大丈夫かね………。こいつらなんちゃって傭兵団だよ、アリス?」
心配気なおっさんフェアリーがアリスに尋ねてくるが
「大丈夫ですよ。死んだら遺族へのお金は弾みますし」
それで問題はないはずですと、アリスはゲームの中での仕様をそのまま現実に当てはめて答えてくるので
「大丈夫かな………。たぶん大丈夫じゃないし、アリス、あとで良いことを教えてあげるよ」
「むむっ! もしやいらない置物かもしれないと思っていましたが、遂にサポートキャラっぽく教えてくれるですね?」
「お前は息を吐くように、俺をディスるね! 貴重なサポートキャラなんだから大切にしなさい!」
プンスコと両手をあげて怒るおっさんフェアリー。そして何気にサポートキャラであることを認める鏡であった。
そのままわいわいがやがやとわんにゃん軍団と一緒に道路を歩き、丁字路を曲がり2日後、拠点に到着した面々はまたも感嘆の声をあげた。
眼下に広がるは断崖絶壁を削って大きな平地となっている拠点であった。埠頭は完成しており、白い道がすでに碁盤上に張り巡らされている。街の真ん中には見たこともない美しさの白亜の屋敷ができており、広い庭と周りを塀が囲んでいる。
少し離れた場所には兵舎や宿舎がちょこちょこと建っており、池がありなにか鉄でできていそうな建物も見える。街になる予定だろう平地には街壁がぐるりと、これまた広大に囲んでいた。高さは20メートルはありそうな立派な外壁である。
外壁の外には広大な畑予定なのだろう場所が見て取れて、その周りをまたも壁が囲んでおり魔物の侵入を防いでいた。
元が森であるとは、見た人は信じられないほどの広大な平地がそこには存在していた。魔の森の魔物を撃退して、地形を削って変えており、森を切り払って拠点を作成する。開拓民が想像していた命を懸けての開拓作業は既に終了していた。
ここは単に家を建てていき、畑を耕していけば、そのまま暮らせるだろう。
誰かがごくりと唾を飲み込む音が聞こえて静寂が周りを包む。これまた村と呼ばれるまでは苦労をするだろうと考えていたのに、すでに人が住んでいないだけで、この平地の広大さは、拠点を囲む壁も考えて王都を上回るかもしれない。
後は人を住まわせるだけなのだと誰もが理解する。そしてたった一か月では絶対に無理だとも考えていた。
掠れるような声音でグリムが尋ねる。
「………こ、ここがアリス様の拠点でしょうか?」
わかりきっている問いかけだ。だが、頭がついていっていないのである。魔の森にこんな平地があるとは理解が及ばないのだ。
そんな問いかけに気を悪くすることもなく、アリスはニコリと微笑みを浮かべる。
「その通りです。これはアリスシティ。私の作ったワンダーランド。不思議にして強大な力を持つ私を頂点とする拠点です」
そうして、皆を見渡しながらスカートを摘まみ、ちょこっと腰を下げて挨拶をする。
「皆さま、アリスシティへようこそ。きっとこのシティの暮らしを気に入っていただけると思いますよ。ふふっ」
眼下の街の光景を信じられないと唖然とした表情で案山子のように立ち尽くして見ている人々へと、小さく可憐に口元を微笑みに変えて挨拶をするゲーム少女であった。




