43話 ゲーム少女の地球での初戦闘
レバーをぐいっと大きく傾けて素早く緊急回避するアリス。モニタ画面が目まぐるしく移り変わり、木から木へと素早く飛び移っていき、移動したすぐ後になにかが飛んでいくのが確認できた。なにかが枝に当たるとバキバキと枝が折れるのが見える。
それをちらりと見て、アリスは楽しそうに微笑む。
「このインスタントカマキリ君では、私のスキルは機械操作以外は意味をなしませんからまずいですね」
「全然まずそうな表情をしていないだろ。楽しそうにしか見えないけど、レーダーも碌にない格安使い捨てだぞ? どうするんだ? というかやつらは何者なんだ?」
レバーをくいくいと動かしペダルを軽く踏み込み、重量を感じさせない動きで森林を縦横無尽に空中機動をしながら移動するカマキリ。思考対応なので、レバーとペダル。そしてキーボードだけで繊細な動きができるゲーム仕様なずるい操作方法だ。
ふふんとアリスはドヤ顔になり、荒事になれてなさそうなおっさんフェアリーへと教えてあげることにする。
「あれは盗賊ですよ。ランダムでハンターに襲い掛かってくるやつですね、たまに会うんですが、弱くて小金しかもっていないので、しょうもない雑魚です。おっさんフェアリーと同じですね」
「俺は雑魚じゃありませーん! 53万の戦闘力を持っているといっているだろ! そして、この地球は日本にあんな盗賊はいないはずだ。ちょっとあいつらをもっとよく見れないか?」
平然と嘘をつく雑魚な鏡はアリスへと敵の正体を確認するように要求するが
「ダメですよ。このカマキリ君はステルス迷彩以外は雑魚なんです。ライトすらしょぼくて辛うじて素材がわかる程度なんですよ? 装甲もガラス装甲ですし」
かぶりを振って、相手の正体がわかるように近づくのは無理だと否定をするアリス。ドンドンと銃声をうるさくたてて撃ってくるので近づくのは自殺行為であるからして。
どうしようかと迷うアリスへとカナタが疑問そうに声をかけてくる。
「ねーねー、アリスちゃん。コンテニューのボタンはどこかな? 200円でコンテニューってできる?」
それを聞いて、鏡が呆れた声音でツッコミを入れる。
「ゲームじゃないから! コインを入れる場所なんてないからね! あ~、この変な少女に俺の声が届けばなぁ」
「カナタさん、残念ながらコンテニューはありませんよ、またこの基地から出撃させないといけません」
「え~。それじゃアリスちゃんがなにをしているか見に行く~」
自由奔放なカナタは、コックピットを降りて、アリスのコックピットを開けて、なにが起こっているのか覗こうとするが、もちろんロックがかかっているので見れない。
「むぅ~。私もみたいのに~、ぶーぶー」
しょうがない人だなぁと思いながら、モニタ画面をアリスが変更すると、コックピットの外側の壁にアリスが見ているモニタが映る。
「おー! やったね! ありがとう、アリスちゃん!」
上手い人のゲームを見ている気分でカナタが観戦モードとなり、ようやく静かになるのを見ながら、回避を繰り返すアリス。
「段々とあの人たちの攻撃パターンがわかってきました。質量のある砲弾を使用しているグレネードランチャー使いですね」
もう少し攻撃を回避すればパターンが判明するだろうと、観察を続けるアリスへと、いや操作するカマキリ君へとバンバンと強い光が当てられてくる。
すぐにその正体に気づいて鏡が驚愕の叫びをあげる。
「サーチライトだ! え? なんで? 俺たちルパンの孫だっけ?」
バンバンと囲まれる感じでサーチライトでライトアップされるカマキリ君。そして、囲んでいる人間たちも誰かが判明した瞬間であった。
「機動隊だ! 完全装備の機動隊だぞ! え? もしかしてこれ罠?」
戸惑いを見せる鏡へとアリスが声をかけて尋ねる。
「機動隊とはなんですか、鏡? 盗賊の上位バージョンですか?」
真面目な表情で尋ねるアリスに対して、慌てて鏡が答える。
「いや、あの人たちは警察だよ。どうして俺たちがここに来るとわかったわけ?」
顎に手をあてて考える鏡へと、アリスもそれを聞いて推測する。
「昨日のインスタントモスキートの入手したデータが少しおかしかったかもしれません」
「なにかおかしいことあったっけ?」
「はい。不法投棄特集。不法投棄を回収するならここしかない! という見出しのニュースが大量にあったので、なんと便利なニュースだろうと喜んだんですが………もしかして罠だったんでしょうか?」
「わなぁぁぁぁぁぁ! なんでそんなアホみたいなニュースに乗っかるわけ? 罠しかねぇぇだろうぉぉ」
男泣きをしながら、おっさんフェアリーが地団駄を踏んで喚き散らすが、このおっさんフェアリーはいつも喚き散らしているので、スルーして確認する。
「では、彼らは国家権力なんですか?」
「あぁ、そうだ、これはまずいことに………」
「では、ハンターに手をだした国家権力がどうなるかをハンター流のお返しで見せましょう。どうせインスタントカマキリなら出所はばれませんし」
むふふと悪戯そうに微笑む可愛らしいアリスは、もう敵のパターンは見切りましたとレバーをグイッと鋭く速く押し倒す。
「アリス。彼らを殺すなよ? さすがに資源回収してきた工作用ドローンに殺されるとか可哀そうすぎる」
「了解です。非武装でも戦えるということを教えてあげましょう」
グオンと翅を震わせて、急速接近させるカマキリ君に機動隊が慌ててグレネードランチャーを撃ってくる。
「その程度ではもうダメージを与えることは無理ですよ」
シュピンとシックルを振るい、飛んできた弾丸を斬ると、ポトリと地面に二つに分かれて落ちる。
「暴徒鎮圧用の砲弾だな。あいつらはカマキリ君をできるだけ無傷でとらえるつもりなんだな」
斬り裂かれた砲弾をみて、鏡がしたり顔で呟く。
「ですが、インスタントカマキリ君はガラスパウダーでできています。あんな攻撃受けたら粉々になることは確定ですが」
「そんなに脆いとは考えていないんだろう。それに最初は投網で捕獲しようとしたに違いない。カナタの方を見てみろよ」
鏡の言う通りにカナタのカマキリ君へと視線を向けると、粉々になって単なるガラスパウダーになったカマキリの粉の山とレーザーで切り裂かれたと思われる投網がバラバラに落ちていた。
「なるほど。100マテリアルで作れるしょぼいこんな機体を回収しようなんて、この惑星の科学技術もかなり低いんですね」
うんうんと頷いて、目を光らせて機動隊とやらを観察して、楽しそうに口をにやりと笑わせてアリスは言う。
「ですが、ハンターに手を出したのです。殺しても良いですが、今回は彼らに金額的ダメージを負ってもらいましょう」
ふんふんと鼻息荒く、平然と殺すという凄惨なゲームの世界に生きてきたアリスは再びシックルを閃かせる。
シュインとまたもや砲弾が斬り裂かれていき、周りの機動隊もドンドンと撃ちまくるが、全体的に数が圧倒的に足りない。たぶん全部で10丁もないだろうに、グレネードランチャーを持っている人間を囲んで守るように盾を構えているので、少し笑ってしまう。
「そんな盾でビームシックルが防げると思っているとはお笑いですが、今回は貴方たちが目的とはしません」
翅を震わせて、機動隊を大きく飛び越して、サーチライトの設置されている場所に肉迫して、そのままシックルを振るい斬り裂く。ガシャンと壊れる音がして、サーチライトが消えて慌てて周りの人間たちが離れていく。
「さて、指揮車はあそこですね」
カメラアイをぐるぐると動かして、機動隊の遥か後ろにいる何台もの大きなキャンピングカーのような車を確認して、再度ペダルを踏んで大きく飛翔する。
「まずい! 射撃! 迎撃しろ!」
「撃て、撃つんだ!」
「しかるべき許可を頂けませんと、実弾は撃てない状況でして………」
オロオロと銃も構えるだけで、撃つことをしない機動隊に呆れながら、車の前に立ちシックルを振るい真っ二つにする。シュインと音がして、バターでも溶けるように二つに分かれていく車を尻目に、次の車、そしてまた次の車とどんどんと破壊していくカマキリ君。
「ふふふ。車が破壊されては大赤字決定ですよね。残念でした」
悪戯そうに笑いながら、次々と車を切り裂いていき、高価そうな機材も切り裂いていく。本当は資源回収も行いたいが、さすがに敵が周りにいるので無理であろう。
「それにしても呆れてしまいますね。未だに銃を使わないで周辺を囲むばかりなんて。殺そうと動いたら、死体の山になりますよ」
「あぁ、日本は警官の発砲にうるさいんだ。だから滅多なことじゃ撃たないだけど………。本当に撃たないな? 平和ボケすぎるだろ………。太平洋連合軍ならあっさりと撃ってきそうだけど」
「軍隊がいないで私たちにはラッキーでしたね。っと、これで最後です」
一際大きな車を斬り裂いて、満足するアリスは、シックルを何回か振り回して砲弾を叩き落とす。もうこんな遅い砲弾は当たりませんよと余裕であるからして。
そんな一際大きな車が真っ二つになる中で、車からお爺さんが出てきて、こちらへと蘭々とした表情で近寄ってくる。周りが止めようとしているが、乱暴に振り払いながら近づいてきて老人とは思えない大声を張り上げた。
「ようこそ、地球へ。お前は自動ドローンなのかな? もう一体はただのガラス片となったことから、パイロットは乗っていないのじゃろう。だが、リモートでは操作をしているのかな? 先程の機体とは動作が全く違う。まるでベテラン兵と新米兵のような感じがするからな」
顔を真っ赤に興奮の表情で両手を掲げて、語り掛けてくるお爺さん。
「資源回収用のドローンなのじゃろう? パイロットがいるなら、私の声が聞こえているか? 私たちと交渉をする気はないのか? 交渉の余地がないのか? 教えて欲しい異星の民よ!」
なかなか面白いお爺さんですねと感心するアリス。命の危険があるとわかっているのに、物怖じせずに話しかけてくるとはなかなか面白いノーマルニュートだ。
「ですけど、このカマキリ君は通信不可の安物なんですよね。それにノルマは回収できたので、また今度機会がありましたらお会いしましょう。ポチッとな」
自壊ボタンを押すと、カマキリ君のモニタ画面が真っ暗になり自壊完了と表示されるので、楽しかったと満足げにコックピットからでるアリス。カマキリ君の回収はインフレ後の実装ドローンのために素材を持ち帰るのではなく、食べた瞬間に倉庫に転送される仕様なので、回収は終わっている。これが高級な晶石関係なら転送はできなくて、回収して帰還まで行わないといけないのだが。
まぁ、今日はここまで良いかとカナタへとご飯を食べましょうと嬉しそうに告げるアリスであった。




