44話 地球人の異星人との初戦闘
時間はアリスが警官と戦う数日前に戻る。
がやがやと会議室は紛糾しており、これが日本最高峰の科学者の集まりかとロボット学の権威と言われている立花博士は鼻で笑った。
今も鉱物学と生物学の権威と称する博士が喧々諤々のつばを飛ばし合う罵り合いに似た会話の応酬をしている。
「だから! 彼らは遥かな昔に地球に来た昆虫型異星人の末裔だよ! 昆虫が異星から来たという根拠になる! 昆虫だけはなぜ他の生物とまったく違う進化なのかを説明できるのが、彼らが昆虫を模したドローンを使用していることから、わかるではないか!」
「そうとは限らない! 彼らは珪素系生物かもしれないんだ。あの蚊モドキの残骸はガラスだった! これこそ私たちと違う生命体の証拠では?」
「待て待て! そうなると私たちが使っているドローンを異星で落としたら、彼らは私たちを金属系生命体だとおもうのと同義だぞ? そんな馬鹿なことがあるか!」
いつまでも堂々巡りを繰り広げており、数時間が経過していることから、立花は苛立ちを隠せなかった。相手の正体をドローン一つで解明するなど、最初から無理だとわかっているのに、彼らは自分の主張が正しかったと異星人の正体がわかったときに言い張り名声を求めているに過ぎないからだ。
「先生方、不毛な話し合いは、そのへんで矛を納めてもらえるでしょうか?」
静かなそれでいて威圧感を相手に与える感じをもつ声音が会議室内に響き渡り、なぜかそれほど大声でもないのに皆に伝わる。
博士たちは気まずそうにお互いの顔を見合わせて、椅子にゆっくりと腰掛ける。
「ほぉ、やるではないか。どうしてどうして、昨今の警察も有能な人材があるか」
呟くように感心して、相手を見ると、たしか警視副総監であった。眼光鋭く、今までに挫折を見たことがないのか、自信にあふれる中肉中背の体格の良い男だった。
「今回、博士たちに集まって頂いたのは、以前の蚊モドキの正体を知ることではありません。異星人に新たな動きが見られたからです」
目を僅かに見開き、その言葉にようやく動きがあったかと、口元を曲げる立花博士。ざわざわと他の博士たちもまた騒がしくなるが無視を決め込み、壁際に座っている職員へと合図をする副総監。
壁に埋め込まれているモニターが点灯して、一つのニュースが表示されるのを博士たちは見つめる。
「不法投棄されていた森林から、一夜にして粗大ごみが消える?」
誰かが声を出して読むのを軽く頷いて、次の画面に遷移すると鉛筆で書いたカマキリらしき昆虫が大きく映し出された。
腕を組み、机に肘をのせながら副総監は口を開く。
「これは森林の地主が不法投棄する奴らを捕まえようと夜中に見張りをしていた際に見つけた昆虫です」
息を呑む博士たちはそれがただの昆虫ではないと予想をしている。
「もちろんタダのカマキリではありません。ガラス状の身体を持つ3メートルはある大きさのカマキリです。粗大ごみを餌だと考えて、ガツガツと食べていったのだとか。そして証拠に撮ろうとした写真はなぜか写っていなかった、どこかで聞いた話です」
ニヤリと警察とは思えない悪そうな笑みを浮かべる副総監の言葉に騒然となり、また各々で話し始めた博士たち。
「彼らは金属を食べる生命体。やはり珪素系生命体ですよ!」
「食料を求めて来たというのか? バカバカしい! これはその森林だけなのかね?」
かぶりをふって副総監は苦笑交じりに返答をしてきた。
「いえ、この問題はマスコミがピックアップするまでわかりませんでした。なにしろ不法投棄された粗大ごみが無くなるというメリットと写真に写らないというミステリーなことを考慮すると、警察に訴える必要は地主にはありませんからな」
ちっと舌打ちして、儂はこの現象を考えながら話し始め、周りがその言葉に注目して見てくる。
「蚊モドキはどんなに調べてもナノマシンなどでは無かった。いや、その痕跡を儂らが見つけられないだけなのだろうから、技術水準の差がわかるというものだな」
口惜しいが、どんなに調べても電子顕微鏡でナノマシンではと、回路の痕跡、エンジンらしきものが無いかと調査したが、結果は極めて普通なガラスの粉としかわからなかった。地球の科学技術では対抗できないとその時点で判明したのだ。
「そのような技術力を持つ彼らが粗大ごみを漁る、その点に注目をした私たちは未だに蚊モドキが日本で、いや、関東で活動をしていると結論づけました。なにしろ粗大ごみの特集をニュースで扱った次の日から回収作業を始めたようなので」
「まぁ、そうじゃろうな。今、そこのパソコンの上に蚊モドキがいても、儂はまったく驚かんよ」
その言葉に書記だろう男がギョッと驚いて、恐る恐る議事録を打ち込んでいたパソコンの上に手を翳すがなにもいなかったので安心の吐息を吐く。
ドローンがあの図書館の一グループだけだとは到底思えんから、当たり前じゃろう。偵察用など無数に解き放っているに違いない。
「そうなると、なぜ粗大ごみを回収するかがわかりませんな? この宇宙には鉄などいくらでもあるでしょうし」
不可解な異星人の行動に疑問符をつける他の博士だが、それには理由はつけられるかもしれん。
「彼らは金属精製システムを持っていないか、精製された鉄を最初から集めようとしているか?」
「それか、我々との交渉のための行動かもしれません。私たちがいらない金属を集めまわっていることで交易を求めてる姿を見せているとかですね。なにしろ文化どころか、言語も思考も違うのですから」
文化専門の博士も口にするが、それにしては隠れて行動する理由がわからん。なにか儂らが理解できない理由で粗大ごみを集めているやもしれん。なにか閃きが必要じゃ。
「例の才媛を召喚しますか……」
「今は太平洋大学の講師をしているんでしたね?」
「しかしあんな若者に名声を取られるとは……」
ボソボソと手詰まりの様子に困りながら話し合う博士たちだが、わざと呼ばなかった小娘を呼び出すつもりらしい。名声がとか若いからとかそれらしいことを言っておいて、呼ぶのを妨害してというのに、現金なものだと儂は苦笑する。
「どちらにしても私たちはアクションを起こさないとなりませんので、総理は密かに捕獲命令を出しました。新たな不法投棄のニュースを流し、密かに人員をそこに配置して捕獲をしたいと考えます」
副総監の言葉にどよめきが起こる。捕獲?正気なのか?
ハッと儂はこの会議のメンツに気づく。
「副総監、あんただけなのかね? 官僚はどこじゃ? 政治家は?」
疲れたように顔を曇らせて、ようやくそこに気づいたのかと副総監は口を開いた。
「いません。今回のはあくまでも盗難に対する警官の行動とするらしく、彼らは管轄外だと来ませんでした。恐らくは成果が出るまでは責任の擦り付け合いをするだけです」
「なんとまぁ、国難の時も対応は変わらずか……呆れたの」
名声を求める博士たちと、責任逃れをするべく出席しない官僚たち。呆れた対応であった。よく副総監がこの会議に来たものだと思うが、それ以下の管理職ではさすがに動くことができない案件なのだろう。
「投網を利用しての捕獲、失敗時は暴徒鎮圧用ゴム弾で動きを止められるかですな」
重々しい表情で語る副総監に、他の博士が血相を変えて怒鳴りつける。
「異星人のドローンを攻撃? 戦争の発端になるかもしれんのだぞ? 信じられん!」
そうだそうだと周りも迎合するが副総監は余裕そうにかぶりをふる。
「どちらにしても戦争になりましたら勝ち目は無いでしょう。それは既に蚊モドキの残骸を見てわかっています。まさか風邪などの病気や敵母船に突撃してわかりやすい弱点をついて人類が勝利できるなど、皆さん信じていないでしょう?」
その問いかけに黙り込む面々。たしかにそのとおりだ。地球人がセキュリティに注意して病気なども気にしているのに、儂らを上回る技術をもつ異星人がそれを考えないなどあり得ん。
「ですので、この攻撃でなにかを変えたいと思います。相手もまさかドローンの一機や二機で目くじらをたてないでしょう。まぁ、そう信じたいところですが」
苦笑いの副総監の言葉に儂らは頷き、なにが変わるかを科学者らしい知的好奇心で期待したのだったが………。
夜の森林にはバラバラになったトレーラーや高価な観測用機材がごみと化して散らばっていた。人々は忙しなく怒号をあげて態勢を立て直そうとするが相手は既にガラスの山となって、儂の目の前にある。
「立花博士、カマキリとの対談は上手くいきましたかな?」
カマキリの残骸の前に佇む儂に副総監が汗を拭いながら近寄って声をかけてきた。
顎に手をあてて、先程の対談を思い返す。ジッと儂の顔を見ながら会話を聞いていたように見えるカマキリ、いや、恐らくは中身のパイロット。
「先に倒したのは新米パイロットなのだろうな、動きに楽しんでいる様子と無駄が見えたからな」
「そうですな、ようやくパイロットになれて嬉しかったという感じがしました。あっさりと倒せましたしね」
「うむ、予想外に脆い装甲じゃったな。いかにも使い捨ての機体といった脆さじゃ。そしてその機体を無駄なく動かして怪我人を出さずに儂らの車両やらを破壊するという嫌がらせもできるやつじゃ。ベテランなのじゃろう」
簡単に自壊できる機体だ。恐らくは彼らにとっては廃棄してもなんの問題もないとわかる。そして性能もあの脆さなら悪いはずなのに、恐ろしい腕前で車両などを怪我人を出さずに叩き斬っていった。
「ですが、戦闘になりましたからね。これで日本軍か太平洋連合軍が動くでしょう」
手をひらひらとさせて、副総監の狙いを見抜いて睨む。
「最初からそれが目的だったのじゃろう? 警察などでは手が余る内容じゃからな」
ちらりと離れた場所を見るとマスコミが集まって来ているのがわかる。既に情報も広がっているのだ、明日のニュースは騒がしそうになりそうじゃ。
「どちらにしても小娘を呼ぶのが最善じゃろう。これからは総合科学の人間が必要となるじゃろうからな」
そう答えて、これからの地球は大きく変わるじゃろうと、激動の時代に入り込んだことを感じた立花博士であった。




