40話 ゲーム少女は異世界で活動を開始する
し〜んと酒場は静寂に包まれていた。別に客がいないわけではないし、それどころか大勢の人々が座っており、いつもは酒を飲んで騒いでいるにもかかわらず、今日は真面目な表情で中央のテーブルに座っている者たちの話し合いを固唾を飲んで聞いていた。
そんな中央の席で、最初に声を出したのは猫まっしぐら団の団長である強面の姐御であるのに世話好きなお人好しであるレイダであった。
ダンと拳を荒々しく机に打ち付けて、対面に座るアリスへと鋭い口調で尋ねる。
「本当なのかい? あんたの言うことは?」
睨むような目つきで尋ねてくるレイダへとムグムグと口に焼き肉を放り込んでいたアリスがコクリと真面目な表情で頷き返す。
「はい。この焼き肉はようやく食べれるレベルになっただけです。創造性もなく私が作ったソースを真似ただけで、落第点ですね」
ぐはっと聞き耳をたてていた酒場のマスターが自信のあるソースの手酷い評価を聞いて崩れ落ち、周りの傭兵たちが慌てて慰めの声をかけてきた。
「おやっさん。前よりも断然旨くなったって!」
「あぁ! 前なんか比べ物にならねえよ!」
「同じ味のソースをすべての料理にかけているから、最近飽きてきたけどな!」
「あと、俺は料理の達人になったんだというドヤ顔のおやっさんの表情もうざかったけどな」
最後の発言で慰めるのではなく、トドメを刺しにいっているとわかる傭兵たちであり、トドメを刺された酒場のマスターこと、おやっさんはガクリと肩を落として力なく椅子に座ってしまった。まぁ、塩だけの焼き肉を毎日か、ホワイトソースばかりを使った焼き肉を毎日では、しつこい味に飽きるホワイトソースが嫌がれるのは当然だった。その証拠に言ってやったぜと満足げな表情をしている傭兵たちだ。
そしてレイダは料理の評価を聞いたわけではもちろんない。
「料理が最近飽きてきたのはアタシも同意見だよ! そうじゃなくて魔の森を開拓して、神殿を築くだって? 正気かい?」
「私は自分の拠点を開拓して持ちたいのです。そのために大神殿からの物資を使いまくり、私の神殿を作るのです」
フンスと両手を腰にあてて、胸をはりながら答えるアリス。胸を反らしすぎて、あうっと仰向けにコロンと背中から転がってしまうが、気にせずに転がったまま話を続ける。ちなみに大神殿とは自分が支援を受けている本部だという設定で話してある。
「なので開拓民が必要であり、それを護る護衛団も必要なので、わんにゃん団さんに、私に雇用されませんかと聞いています」
「アタシたちじゃ魔の森の魔物を倒し切るなんて無理だよ? 精々護衛の真似事をするぐらいさ」
呆れた表情でレイダは椅子に深く持たれながら答えてきて、ギィギイと椅子の軋む音が響く。
「こいつら自分たちが傭兵団だということを遂に自分自身で否定しやがったな。こういう場合、面白え!とか叫んで話にのるもんじゃないの? 傭兵の意味をこいつらに聞いてみたいなものだな」
鏡もレイダと同じく、されどレイダが言った内容に呆れながら言って、やはり現実ではこんなものかと、やれやれと首を横に振る。
なんだかその素振りがうざいのでペチンと叩き落としたアリスは僅かに目を細めて、レイダへと自分が考えていた設定通りに提案内容を告げる。
「魔の森とやらは、私が撃破していきましょう。どうせボスを倒せば解放されると思いますし」
いつものことですねと、支配しているボスを倒せばエリアは解放されるとゲーム仕様を基本とするアリス。そこに疑問は持たないし、不思議なことがあっても変則的ですねで済ませる鋼鉄の精神の持ち主だ。なにしろステータス上の精神力は人間の精神力を遥かに超えているのであるからして。
「なので、倒したあとの話をしています。それと私が魔の森を制圧して、かつ大神殿から開拓用の物資を貰ってくる間のお金稼ぎですね」
「金稼ぎ? あんたがいない間に?」
首を傾げて、問い返すレイダに一緒に来ていたグリムが満面の笑顔で口を挟む。
「そのとおりです。アリス様から託された物を王都で売り払うことと、王都で人間族を雇用してここへ帰還するまでの護衛ですね」
「託された物? なんだい? 宝石でも売り払うのかい?」
フンスと鼻息荒く、その可愛らしい顔をドヤ顔に変えて、アリスはテーブルにドサドサと砂糖と香辛料を亜空間ポーチから山と取り出す。
「な! 今、いったいどこから取り出したんだい?」
「乙女の可愛らしい秘密ですよ。そんなことより売るのはこれらです」
「乙女の秘密って、あんたはまったく…。なんなんだいこれは? やけに白いけど塩かい?」
袋の一つを開けて、しげしげと手のひらに少しだけのせてペロリと舐めるレイダ。そうして、クワッと驚愕で目を大きく開いて椅子をガタンと荒々しく蹴倒して叫んだ。
「なんだ、こりゃ! 甘い、甘いよ! もしかしてこれは砂糖とかいうやつかい? 初めて見たよ!」
「ええっ! 砂糖ですか! これが甘い塩と呼ばれている砂糖なんですか?」
エヘヘと子猫が笑うような可愛らしい笑顔で、チャシャが人差し指をそ〜っと砂糖の袋へと伸ばして、ペロリと舐めて、ぴょこぴょこ飛び上がって喜びの踊りをニャンニャンと踊り始めた。
「凄いですよ! こんなに甘いんですね! 砂糖ってすご〜い!」
ニャンニャンと踊りながらも、また人差し指を袋に入れようとするちゃっかりなチャシャの手をペチンとレイダは叩いてアリスを驚愕の目で見る。
「噂には聞いていたよ。これが砂糖ってやつなんだね……これを王都で売って金に変えるのかい?」
我が意を得たりとグリムが身を乗り出して、得意気に返答する。トト伯爵もこれをプレゼントされたとき、物凄い驚嘆して神殿ができたときには必ず訪問すると約束していた驚きの代物だ。
「そうです。これを王都で売り払いその金で人間族を雇い、開拓民とするのがアリス様のご提案となります。それと一つ教えておきますが、普通の砂糖は混じりものが多くて黄色っぽいですからね? こんなに混じりっけ無しで真っ白な砂糖は初めて私も見ました」
「はぁん? アリス、あんたのいる大神殿とやらは凄いんだね。いったいどこからあんたは来たんだい?」
「他の惑星から来ました。ここは新惑星で久しぶりに発見された場所なんです」
正直に答える素直すぎるアリスであるが、レイダは惑星という意味がわからなかったので、他の大陸から来たのだろうと判断して、驚嘆の呻きをあげた。
「レイダ! 俺は姐さんにのったぜ! しがないきのこ探しより良さそうだ」
ドーベルが勢いよく立ち上がり、自分の部下たちへと視線を向けるとわんわんと叫んで部下たちも首を縦に勢いよく振り賛同し始める。
「雇用して私の家ができた際には、貴方たちは神殿騎士団へと命じますし、装備も支給しますよ」
アリスの追加の提案に周りがどよめく。再度、砂糖を舐めようとそろりと机の下に隠れてチャンスを狙っていたチャシャが驚きでまたもや飛び上がる。
「ええっ! 私たちが騎士ですか? 本当に?」
「神殿騎士団なので、領地ではなくお給料になりますが、そのとおりですね」
キャーッと、再度のニャンニャン踊りを始めるチャシャを横目にレイダはアリスの提案を腕を組んで考える。
アリスは正直に言うとよくわからない存在だ。最初の出会いもそうだったし、戦う腕も一流で治癒魔法も一流であるのに若く子供のように見えて、美しい少女だ。他の大陸からの宣教師だという話もなんとなく腑に落ちる感じがするが、それでも違和感は拭えない。支援している者たちの姿もみたことがないので、凄腕の魔法使いだと思われる。
しかしレイダは違和感を拭うまで、アリスへの返答を保留することはできないとも考えた。既にここほれわんわん団はアリスの話にのることに決めているから、猫まっしぐらがこの話にあとからのるとなったら後塵を拝することになる。
自分たちが先にアリスを仲間にしたのに、途中から仲間になし崩しになったここほれわんわん団に大きな顔をさせることは考えられない屈辱だ。
「それに若いうちしか傭兵団はできないしね。賭けに乗るしか選択肢はないと思うかい、ペイド?」
はぁ〜と嘆息しつつ、自分の信頼する右腕たるペイドへと声をかけると苦笑交じりだが頷き賛同してきた。
「ここで保留だなんて、もう言えやしないだろう? 俺たち名ばかりの傭兵団、いや、食いっぱぐれのならず者が成り上がるチャンスだし、部下も賛同しているしな」
ちらりと見るとここほれわんわん団も猫まっしぐら団もわんわんニャンニャンと踊っており、早くも自分たちが騎士になれると妄想して喜んでいた。
仕方ないねぇとアリスを仲間に入れた自分の判断が正しいかわからないが、のるしかないとパンと膝を叩いてアリスへと返事を返した。
「良いだろう! のってやろうじゃないか! あんたをうちらのボスとしようじゃないか」
「ありがとうございます。これでとりあえずの防衛兵はゲットしましたね」
ホクホク顔でレイダたちを上手く雇用できたことに喜ぶアリス。あとは開拓の準備をするだけであり、その補給場所は決めている。
「なぁ、アリスは人間族が哀れだから雇用して助けるのかい?」
難しそうな表情でレイダが重々しい声音で聞いてくるが
「いいえ? 話に聞く限り脆弱で厄介者扱いされていそうですし、それならば雇用の金額が安そうですし、簡単に多数の人数を確保できそうだからですが?」
キョトンとした表情で、レイダの質問をあっさりと否定して、効率を考えた結果だと当たり前のように答えるアリス。その返答を予想していたのか、顔を苦笑に変えて忠告をしてくるレイダ。
「今の発言は神官様としては言わないほうが良いよ、ボス。精々聖女面で誑かしたほうが楽に開拓民の支持を得ることができるからね」
「おぉ! なるほど、頭いいですね、レイダさん。なるほど、私はお金や食料をばら撒けば支持されると考えていましたが、そういった発言でも支持率が上がるんですね。勉強になります」
ホウホウと頷き感心するゲーム脳なアリスは支持率を上げるのは、物資ばら撒き作戦か、宴を開きまくれば良いでしょうと考えていたので、目から鱗が落ちる思いであった。たぶんこれからも鱗は落ち続けるだろうことは間違いない。
「アリス様。私もアリス様の補佐を頑張りますのでよろしくお願い致します」
「もちろん姐御を助けるのは俺たちの役目だからな! 任せてくれ!」
グリムとドーベルがアピールしてくるのを満足げな表情で頷いて、アリスは次なる行動を宣言する。
「では私は大神殿へと一旦戻り補給をするように頼んできますので、とりあえずは貴方たちは王都で開拓民を雇用してきてくださいね。移動距離からして、一ヶ月あれば戻って来られるでしょう、その時には全ての準備は終えている予定です」
各々がコクリと真剣な表情で頷くのを見て、補給先の地球へと久しぶりに戻ることに決めたゲーム少女であった。




