39話 ゲーム少女は領主と会う
ギギィと立派な木の扉が開いていき、応接室だろう部屋へと案内されたアリスは、部屋の中を視線を走らせて、すばやく確認した。
さすがは辺境であるとぽかんと可愛らしいお口を開けて、感心をする。なぜならばガラスの窓すらなく木窓であり、ソファも上品そうに作られているが、布地からしてペラペラで安っぽく、木目の美しいテーブルが辛うじてアンティークとして価値があるという感じだ。壁には銀の燭台を置いたチェストが見えるが、意匠もそこまでではなく、自分が母星にしていた帝国なら二束三文で売られていることだろう。
感心するのベクトルが下方向な酷い感想を思うアリスである。
領主らしきエルフニュートがテーブルを挟んだ向こう側に立っているのを確認して、この惑星に来てようやく本当に文明が遅れていると内心で驚愕してようやく納得した。
なんだかんだ言っても、実は貴族階級は科学力が高く、単に平民を騙して搾取しているのだろうと思っていたのだが、面会できたこの時にその考えは間違っていたと痛感した。貴族階級がまさか自分の家の応接室を偽装とはいえ、しょぼい内装で平民に見せることはしない。それこそ貴族のこけんにかかわるからだ。
これは私の活動を大幅に見直すことにしようと考え始めるアリス。今までよりももっと開拓者的な行動が必要であり、それがこのクエストの隠れクエストだと思いつく。きっと開拓を進めると珍しい素材とかが手に入ったり、マテリアルがドカンと手に入るのだと、取らぬ狸の皮算用どころか、取らぬ金鉱の皮算用をしてムフフとホクホク笑顔でするのであった。
これは楽しくなってきましたよと、もう領主との面会は終わりで良いかな?私はやることができたんですと、アクティブ的に行動をしようとする、まだ領主と話してもいないのに、次の行動に移ろうとしているゲーム少女である。その行動はたしかに適当に行動する鏡の思いついたら、即行動なゲームキャラそのまんまであった。
そんなアリスの内心を知らずに、両手を広げて歓迎の意を見せる領主。もう適当で良いやと考えているアリスの内心がわかったら嘆くことは間違いない。
この惑星では上等だろう服にエルフといっても、その体格はガッチリとした肉体の中肉中背であり、穏やかそうな男性である。細身でなく戦士のような筋肉質に見えるので、つけ耳ですかと聞いていいかもしれない。実際に聞いたら、キリブ戦再びという流れに入っていたかもしれないが、さすがに貴族相手には手加減するのである。手加減であり、なにかがあったら、ハンター流と自分では言い張る強盗も同然な行動を取る予定なのが恐ろしいアリスでもある。
そうしたエルフの領主は内心で非常に焦っていた。せっかく会えた貴重な治癒師である。それが家宰であるキリブがこともあろうに襲いかかったというのだからして。
人間族の幼い少女と聞いて、たしかに領主も手品かなにかの売名行為かもとは考えたが、そんなものは見ればすぐにわかる。怪我をしている使用人を治癒してくれないかと頼み込み、その結果を見て対応を考えれば良いのだから。
キリブがエルフ主義であり、下等種族として人間族を見下していたのは知っていたが、人間族の中には凄腕がいるのは知っていたはずだ。結果も見ずに襲いかかり、あっさりと撃退されたと聞いて、私に迷惑しかかけていないと歯軋りをしたい気分であった。
戦闘後にキリブはあっさりと慈悲深くも治癒して頂いたとも聞いているので、凄腕の治癒師ともわかっている。ならばこそ、歓迎の意を見せて、先程のことは自分の意を汲んだ行動ではなく、ただの使用人がやったことだと知らしめる必要があった。
明るい笑顔を浮かべて、会えて嬉しいという柔和な表情を見せて、領主が挨拶をアリスへとしてくる。
「おお! お会いできて光栄です、治癒師殿。先程は馬鹿な使用人が暴走したと聞いておりますが、それは私はまったくあずかり知らぬことゆえ、御容赦を頂けないでしょうか? もちろん先程の馬鹿者は厳罰にしておきますゆえ」
なんだか歓迎されているので、アリスも対抗しなきゃと謎の子供っぽい対抗心を出して、ちっこい両腕を広げて、可愛く声を発する。
「むおぉ〜。初めまして、安心格安で確実に任務を遂行する挨拶もしっかりできるバウンティハンター魔風アリスと言います。よろしくお願いします」
子供っぽい感じを見せて、なんだか可愛らしい挨拶をするアリスに虚をつかれて、その愛らしさに癒やされる領主。
子供が背伸びをしているようだと、微笑ましく思いながら、アリスの服装が見たこともない上等な物だと見抜いた。何処かの貴族だろうと見当をつけて、是非とも友好関係を結ぶと決意しながら自己紹介をする。
「申し遅れました。私の名はトト・フォン・ダイショー。この領地の采配をしており、王から伯爵の爵位を頂いております」
辺境伯ですねと、特段驚くこともないので、小さく口元を可憐に見える微笑みに変えて、スカートではないが丁寧に挨拶を返す。
その姿を見て、やはり貴族の出なのだろうと予測して頷きながら、会話を楽しみ友好関係を築こうと食事に誘ってくるトト伯爵。
「どうでしょう? 食事をしながら会話を楽しもうではありませんか。今日は良い鹿肉が手に入りましてな」
「さぁ、食堂はどこですか? 美味しい食事をこの辺境では食べたことがないので楽しみです」
食事と聞いた途端に欠食児童に変身するアリスは、輝くような笑顔でトト伯爵へと近づいて、ワクワクとした声音で返事をするのであった。
まぁ、当たり前のように数分後には騒ぎが勃発するのであるが。
ドデンと置かれた鹿肉に荒々しく塩を振っただけの焼き肉に、炒めた野菜たちとゴロゴロと肉が入ったスープに黒パン。
それを見て、鏡は苦笑しながらアリスへと宥めるように声をかける。
「まぁ、こんなもんだよな。この惑星の技術レベルは古代付近で、辛うじて本当に魔法があるせいか文化的な世界なんだろうよ」
何様だろうというドヤ顔で説明を始めるドヤ顔のおっさんフェアリーなので、アリスは面倒そうにペチリとはたき、ワクワクとした表情を失わなかった。
「それはすなわち、私が開拓者になるクエストということですね。開拓クエストはあまりしなかったので楽しみになってきましたよ? いつも都会に住んでいて開拓を頑張るハンターを助けることをメインにしていましたし」
ハンタークエストの中には、新たなレシピや技術を広げて自分の村を作ろう、そしていずれは国へと変えようというクエストはあったが、面倒そうでアリスは自分の基地しか作らなかったのであるからして。
なので、シェフを呼べ!などというグリムが気絶しそうなことはせずに、にこやかな笑顔で、パクパクと出されたご馳走を食べるのであった。
小動物が食べるような様子に見えて癒やされる美少女へとトト伯爵が窺うように尋ねてくる。
「神官殿がこの領地にいらしてくれて助かります。なにかあったときに助けを求めてもよろしいでしょうか?」
貴族らしからぬ直球な物言いであるが、どうやら治癒士は本当に珍しいのだと、考えを大幅に修正しているアリスは美しい所作で塩味しかしない不味い焼き肉を切り分けながら答える。
「もちろんです。私の信仰している神は気の向いたときに適当に善行を施しなさいと言うのが、教義なので助けを求められましたら、それなりの謝礼をもってお助けします」
そんな適当な教義があるのかと、そして報酬を求めるその態度に口元を引き攣らせながらトト伯爵は大人の態度で鷹揚に頷いた。
「もちろん適時、アリス殿には報酬を約束いたしますが、領地にはどれぐらいの間、いらっしゃるのでしょうか?」
そうですねと考えるふりをして、可愛らしい小首を傾げるアリスは思考を加速させて、開拓クエストではなにが欲しいかを考えていた。気分は無人島に行くなら、何を一つ持っていくと言われた時みたいなものだ。もちろんアリスは躊躇いなく宇宙戦艦と答えて、実際に宇宙戦艦が貰えたら速攻脱出するゲーム少女である、ゲームの趣旨を考えないバランスブレイカーである。この場合はゲームはあまり関係なく鏡の思考を反映しているかもしれないが。
「そうですね……。実は私は宇宙樹の教えを広めに来た戦凶師なのです。みんなたまには善行をしましょうと人々に教えを広めるため、この地にやってきたのです」
厳かに語るアリスであるが、見かけは子供のような美少女なので、可愛らしさしか感じないし、しかも良いこと思いついたと、子供のような足をパタパタとさせているので、全然厳かではなかった。あとなんだか宣教師のトーンが違ったような感じがしたが気のせいだろうか?たぶん気のせいだろうが。
それに、そんな適当な教義を本当に広めに来たのかと、神官の頭はやはりわからんと戸惑うトト伯爵へと、さらにアリスは言葉を連ねる。
「で、この近くに神殿を作っても良いでしょうか? この街から少しだけ離れた場所であり、開拓しても自由にできる場所です」
「自由に……ですか? 通常未開地を開拓に成功したものは騎士爵へと王より任命されますが、不文律な地域を欲しいとおっしゃるのですかな?」
なかなか聡い人だと思いながら、ふわりと花が咲くような微笑みを浮かべて、両手を合わせて頬にあてながら上品そうな女性を演じるアリス。その演技っぷりは子供のような美少女でなければ悪女と呼ばれそうである。実際に先程の騒ぎを見ていたグリムとレオはさっきまでの子供とまったく違う雰囲気に目を疑わせて驚いている。ちょっと失礼だよねと内心で怒るアリスであるが無理はなかろう、なにしろ煽って1戦交えたあとなのだから。
「そのとおりです。なにしろ神殿というのもうるさいものでして、王であろうとも土足で入り込むことを嫌がるのでして」
「ふむ……それならば本当の未開地を開拓せねばなりませんぞ? ここから一番近い王が関わらないと決めている未開地は南西の海に繋がり、北西は王都に繋がる魔の森です。あそこは凶悪な魔物がた」
「ご協力ありがとうございました。そこを開拓地にしますね、なるべく海に近い場所にしようかと思います」
トト伯爵の言葉を遮る傍若無人なアリスは聞くことは聞けたので、イベントはスキップですと思っていた。
単純な押しで話を遮るアリスに苦笑しながらトト伯爵は少しだけ身を乗り出して尋ねてくる。
「我が領民を連れて行くのですかな? まさかとは思いますが一般市民を大量に連れて行かれると困りますぞ?」
ふふっと軽く笑って、その回答は予想済みと考えていた内容を話す。そして、これまでの情報からノーマルニュートが虐げられていると感じていたので
「連れて行くのは貧乏な人間族とかでどうでしょうか? それとこれを穴埋めにできればと思いますが」
ふふふと怪しげな表情を浮かべて、トト伯爵たちに用意していた物を見せると驚嘆の声が食堂に響き渡り、トト伯爵はあっさりと頷くのであった。




