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4話 ゲーム少女は交渉をする

 死屍累々の盗賊の死体が、長閑であった農村の門前に転がっており、少女がその死体へと近寄り楽しげに手を翳す。


 あっという間に、死体から下着以外の物が全てなくなるのを見て、村人はさすがは魔法使いと恐れ慄くでのあった。


 そんな魔法使いを雇った村長のハイショは、自分の英断を褒めつつ揉み手をしながら、どう見ても子供にしか見えない美しい少女へと話しかける。見かけは子供なのだから、見習いかもしれない。その場合、どう報酬が値引きができるかを算段しながら。


 愚かにも守銭奴なアリスへと、その考えをしながら。




 アリスは老人と他数人が近寄るのを、のんびりと眺めながら、アイテム回収をしていた。そのアリスへと揉み手をしながら、老人は話しかけてくるが、アリスはアイテム回収をしながら聞く。


 報酬を貰うときには先に死体からアイテム回収をしておかないと、稀に報酬の話が終わった時にはいつの間にか、死体が消えてアイテム回収ができないといったことがあるからだった。その悔しい思いをしないために、アイテム回収を終わる前に話しかけてきても、全部の回収が終わるまで、面と向かうつもりは無い。


 そんな態度のアリスを見て、口元を引き攣らせながら、老人がめげずに話しかけてくる。


「いやはや、魔法使い様、ありがとうございます。この村は魔法使い様のおかげで助かりました。お礼を申し上げます」


 そして深々と頭を他の数人と共にさげながら、話を続ける。


「わたくし、村長のハイショと申します。あのままでしたら、この村は悲惨なことになっていたでしょう。全て魔法使いのおかげです。どうでしょう。宴を開きますので」


 アリスは長くなりそうな話を手で止めた。面倒な話し合いはごめんである。これが貴族とかなら話は別だ。とっかかりがあるかもしれないし、新たな儲け話もあるだろう。


 しかし、ここはしょぼい寒村。このイベントもこれ1回限りで、2度とここにはくるまい。ならば話はスキップである。報酬だけ貰えればいい。


「話はいりません。スキップしますので、報酬下さい」


「は? はぁ、報酬ですか………」


 直球な物言いに村長は目を白黒させる。あまりに予想外であったからだ。予定では美辞麗句を述べて、良い気分にしたところを値引きを求める。もしかしたら宴の中で正義感からあふれる英雄ともてはやせば、タダにできるかもと考えていたのだ。


 アリスは、ん、と一言言って紅葉のような可愛らしいおててを村長への差し出した。早くよこせアピールである。


「あぁっ! たしかに、たしかにランダムイベントは会話のスキップをしてきたけど、現実でそれは厳しいよ、アリス!」


 なんだか懸命な表情でおっさんフェアリーが言ってくるが、お上品なアストラル体には、お金を稼ぐことが大変だとわかっていないに違いない。今度も無視をして、村長へと手を突き出すのをやめない。


 そんなアリスへと村長は、言い出しにくそうに媚びるような表情で、猫なで声で返答してくる。


「あの〜、わが村も盗賊に何人か殺されました。その葬儀やらなにやらで、大層お金がかかりまして……」


 揉み手をしながら、変なことを言ってくる。これは値引きイベントだとアリスは気付いた。内心でニヤリと笑い、ステータスボードから交渉スキルを取得した。


「それはお困りですね。これからはこの村も大変でしょう」


 悲しげな表情を浮かべて、アリスも同意したように演技をする。


 その言葉を聞いて、勢い込んで村長とコクコクと頷き返し話を続ける。


「ですので、報酬はですね、言いづらいことですが……」


「わかりました。それほどまで苦境にあるなら、このアリス。この村に滞在することとしましょう。月金貨30枚で、あらゆる敵を倒してあげましょう。お金がなければ物でも良いですね。適当に貰いますよ」


 村長の話を遮って、新たな提案を良いこと考えましたという、キラキラした表情でニコリと微笑み告げるアリス。


 その言葉に慌てる村長。冗談じゃない。ここらへんの魔物は村人でも狩れるし、危ない魔物なら街に出向き、領主に頼るか、日雇いの傭兵を雇う。こんな盗賊を簡単に殺す凄腕魔法使いなどに居座られたら困る。しかも給料も破格で、無ければ物を奪い取るという。許容できるわけがない。


「いえいえ、それには及びません。魔法使い様には報酬を持って頂けると大変嬉しく思いますがどうでしょうか?」


「それほど言うなら仕方ありませんね。報酬を貰うだけで、あとは村人さんのお力を信じて去ろうと思います。たしか金貨40枚でしたよね」


 目を細めて、眼光鋭く笑顔で告げるアリス。


「いえ、それは最初の」


「え? 私が滞在した方が良いと?」


「…………わかりました。40枚の金貨お支払いしますので………」


 肩を落として項垂れながら了承する村長を見て、さすがは交渉スキルと内心で喜びながら話を終えるアリスであった。


 交渉スキルは相手が1でも取得していれば、なにがしかの対抗はできるが、持っていないと、かなりのぼったくりをされる。なので商人はお客に定価をしっかりと見せてぼったくりをしませんよとアピールするのと、定価を見せない商人がいる。その場合は交渉スキルと話し合いの勝負となるのだ。


 ジャラジャラと金貨を悔しそうな哀しそうな表情で、村長が渡してくる。アリスはそれをちっこいおててで受け取りながら不思議な表情となる。


 なんだろうか、これ?という感じ。だって、何も力を感じないただの金鉱石に見える。でも、村長の表情を見るに貴重そうである。この場は平気な表情を見せて、あとでこの金貨なるものを調べようと考えた。


「では、これで報酬の件は終わりですな、魔法使い様」


「そうですね。雇用ありがとうございました。今後とも安心格安で確実に依頼を遂行するバウンティハンターの魔風アリスをよろしくお願いしますね」


 そう答えて、苦々しい表情をする村長の家を出る。周りの村人はアリスが出てきて、英雄を見るような人と、不安げな表情の人がいた。まぁ、そんなことを気にするアリスではない。


 それじゃまたね〜と、子供が手をふってくるので、アリスも笑顔で胸の前で小さくふって、村を出ることにした。その姿を見て、ようやく村人たちも安全な人だとわかったのだろう。ありがとうありがとうと手を大きくふって見送ってくれたのであった。


 てってこ歩いて、村を出たアリス。これからオリハルハに戻らないと艦が放置されたままだと思い出した。たしか亜空間倉庫には入れてなかったよねと、ステータスボードを開き、一応確認すると


「あれれ、私の艦が格納されている。ラッキーだということで良いのかな?」


 驚いたことに、自分の万能にして、金食い虫な超戦艦が格納されていた。


 どうやら、自分はご丁寧にアイテムや艦も全て格納されてから転移されたらしい。


「まぁ。よくあることですよね」


 たまにある長期クエストとかでは、そんなことが起きたことが多々ある。今回も長期クエストなのかな?久しぶり過ぎて、以前の長期クエストをあんまり覚えていないなぁと思いながら、まずはどこに行こうか考える。


 そうしたら、おっさんフェアリーが、また顔の前に躍り出てきた。真剣な表情で声をかけてくる。


「いいか、アリス。今から驚くべき場所に転移する。心構えをして、叫んだり泣いたりするなよ?」


 怖がらせる常套手段をおっさんフェアリーは言ってくるので


「大丈夫です。そういうのは慣れていますので。久しぶりの長期クエストですね。楽しみです」


 機嫌良くおっさんフェアリーへと答えて、可愛く小首を傾げて微笑む。


 どうやら、このおっさんフェアリーが今回の長期クエストの道案内らしい。ならば交通費もタダのようだし、のるしかない。


 どうぞどうぞと進めると、おっさんフェアリーは


「現実化すると、こんなに可愛くなるのか……。課金して良かった。性格は酷そうだけど」


 なんかアリスをディスってるような口ぶりで、腕を掲げた。


 その瞬間移動にて、アリスは知らない場所にいた。いや、先程も知らない場所であったが、今回は違う。


 どこかの部屋らしい。旧型のパソコンらしき物が置いてある机。ガラスのテーブルにはペットボトルの飲み物が飲みかけで置いてあり、本棚にはなんと紙の書籍が置いてあった。カーペットが敷かれており、窓ガラスの外には家々が覗いていた。


 なんとなく旧世代の部屋だなぁと、物珍しくてキョロキョロと周りを見る。どうやら外も旧世代型の家々みたいだ。


 こんな家があるなんて、まさかの古代文明探索クエストかなとあたりをつける。古代文明探索クエストは発生すると、皆が噂をしながらも、この目に見ることは無かったクエストである。


 そうなると、とんでもない財宝やマテリアルが手に入るかもとウキウキし始めたアリスへと、おっさんフェアリーが話しかけてきた。


 腕を組んで。空中に浮かびながら、至極真面目な表情で語ってくる。


「ようこそ、俺の家へ。俺の名前は、啓馬けいま かがみ。お前を作成したプレイヤーだ」


 どういう意味だろうと、首を傾げる不思議な表情になるアリス。作成した?連れてきたの間違いだろう。このおっさんフェアリーは言葉の使い方を間違えている。


 その表情を読み取って、おっさんフェアリーは沈痛な声音で重々しく語り始めた。小さいので、そんなに重々しくはなかったが。


「実はな……。アリス、お前はゲームの中の存在だ。俺が操っていたゲームキャラなんだ」


 はぁ?と困惑するアリス。なにをこのおっさんフェアリーは言い出すのだろうかと。


 おっさんフェアリー、たしか鏡だったか。鏡は片手をあげて告げてくる。


「気持ちはわかる。自分がゲームキャラだということは、物凄いショックだろうからな。だが」


「あの、ちょっとすいません。お腹が空いて11%しか満腹度がないんです。ご飯を食べても良いですか?」


 話は長そうだ。話のあとに戦闘が発生する場合もあるから、強制的に止めてご飯を食べたい。飢餓状態だとステータスが半分になってしまうので。


「はぁ〜。そうだよな……。お腹が空いたらいつもイベント止めて食事をしてたもんな。皇帝の前でご飯を食べたりしてたもんな……」


 鏡のその言葉に瞠目する。なんでそんなことを知っているのだろうか。たしかに皇帝の前でご飯を食べたことはある。うっかり満腹度が2%なのに、報酬欲しさに行った時だ。でも皇帝は怒らずにクエストを頼んできたのだ。


「なんで、それを知っているのですか? もしかして、皇宮にいました?」


「いや……。俺が操っていたからなんだけど……まぁ、いいや。とりあえずなにか食べなよ。冷蔵庫にたしか昨日の焼き鳥の残りを入れていたし、他にもあるなら食べても良いから」


 鏡の申し出に驚くアリス。ぴょこんと小さく飛び上がるほど驚いた。


「本当に食べても良いんですか? あとでやっぱりダメとか無しですよ?」


 確認するために、恐る恐る聞いて見るが


「あぁ、食べな食べな。この身体だともうご飯は食べれないみたいだしな……」


 手をひらひらとさせて、どこか哀しそうに言う鏡。


 ちょっと言っている意味がよくわからないが、それどころではない。とにかく食べても良いらしい。初めての食べ物の報酬だ。


 てってこと部屋を飛び出て厨房を探す。大きさからして、この家は金持ちっぽい。どこだろうと探して、冷蔵庫がある台所を見つけた。


 アリスは満面の笑みで冷蔵庫を開く。いつもは半分腐ったサンドイッチやら、毒性のある飲み物を飲んでいたから。状態異常耐性を上げるには必要だったし、ない時はいつも満腹度が高いリンゴを2つだけ食べていた。安いしお腹いっぱいになるし。


 高級な料理、強敵と戦う前だけに食べていた。それも最近は強くなったので、食べることもなかったのだ。


 そして誰も食べ物を食べて良いという報酬にする人はいなかったのだ。食べ物自体を報酬にする人はいたが、全部受け取ったら売っていた。なので、わくわくしながら、胸をドキドキさせながら冷蔵庫を覗き込むと


「やったー! 山串が入ってる! これを食べるのは久しぶりです」


 なにか透明な物に包まれた肉の串が何本も入っていたのだ。今回のクエストは早くも当たりだねと思いながら、透明な物を取り払う。


 そして、満面の笑みでアリスは焼き鳥を頬張り、パクパクと食べるのであった。

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[一言] >いつもは半分腐ったサンドイッチやら、毒性のある飲み物を飲んでいたから。状態異常耐性を上げるには必要だったし、ない時はいつも満腹度が高いリンゴを2つだけ食べていた。安いしお腹いっぱいになるし…
[良い点] アリスの際立つゲーム脳!そしてそれを自身やり慣れているためいちいち理解した上でツッコむオッさん(´Д` )ワロた! [気になる点] オッさんネームは啓馬鏡、ほうほうこっちは日本人らしい名前…
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