3話 ゲーム少女の異世界初戦闘
村へとアリスは颯爽と走り出した。姿こそ青いジャージにボロいリボルバー式ハンドガンではあるが。
美しい腰まで延びている艷やかな黒髪。ぱっちりとしている瞳。小さく可愛らしい唇。小柄で子供のような背丈の美少女は子犬を思わせる撫でたくなるような美少女であった。
風でたなびく黒髪をそのままに、村の簡単な門ともいえないボロい木の門前で人々が戦っているのを見渡して立ち止まる。
すぅ〜っと息を吸い込み、両手を拡声器の形にして口にあてて、鈴を鳴らすような、可愛らしい声音で叫んだ。
「村長さん! 村長さんはこの中にいませんか? 流れのバウンティハンターが、ここにいますよ! 格安で雇えますよ〜」
ニコニコと笑顔での売り込みだ。これで村長は、おお助かりました。報酬はこれぐらいで助けてもらえませんか?と言ってくるだろうと待ち受ける。それはいつものランダムで遭遇するイベントなのだからして。
アリスの掛け声で、戦いは一瞬止まる。そして、こちらをチラリと見たあとに、またうおぉと叫んで、すぐに人々は戦い始めてしまった。
あれれ?とぽかんと口をあけて、呆然となる。おかしいな?しょぼい盗賊襲来クエストなら、これですぐに助けを求めてくるんだけどと、首を傾げるアリス。
「わかるっ! 気持ちはよくわかる! 村長が助けを求めて来ると思ったんだろう? だけどな」
おっさんフェアリーが、またもやアリスの目の前でうろちょろして、話しかけてくるが
「ひゃー、ガキだけど美少女じゃねぇか! 1番いただきっ!」
大柄な背丈が高い盗賊が尻尾を文字通りふりながら、錆びた手斧を持って走って来た。下卑た笑いを口元に浮かべ、興奮した表情だ。
『解析』
アリスは近寄ってくる盗賊を見ながら、冷静に目を僅かに細めてスキルを発動させる。自分よりも戦闘力が低ければわかるはずだ。かけ離れているとわからないが。同等ぐらいまでは大体成功するスキルだ。そうしてすぐにウィンドウに敵の力が表示される。
『戦闘力71』
「そこそこの雑魚ですね」
戦闘力はステータスと武器防具の能力を足した単純な物である。そのために、あくまで戦闘の指針の1つにしかならないが、それでもそこそこは役に立つ。
いよいよ目の前まで来た盗賊が、手斧を投げ捨てこちらを押し倒そうと掴みかかってきた。
だが、そんなことはアリスは許さない。余裕綽々でハンドガンを抜きさると
『クイックドロー』
ハンドガンを銃技にて撃つ。超常の速度で6発全弾が、パンと一発の銃声のみで撃ち出されて、アリスの狙い通りに頭へと命中した。
全弾が、正確に頭へと。
あっという間に、盗賊は血の花を咲かせて、断末魔の叫び声もあげられずに、あおむけにドウッと倒れるのであった。
その光景を見て、シーンと静かになる戦場。予想外の結果だったからだ。今の光景が信じられない。
特に盗賊はそうだった。力自慢のあいつがあっさりと倒されるとは思わなかったのだ。
「ウルフニュートの盗賊団にしては弱いですが、こんなものでしょう。所詮辺境の盗賊団ですし」
つまらなそうに呟いて、リロードと呟くと、ハンドガンがカチャカチャと音がして、弾丸が不思議なことに装填された。
倒したことを確認して、経験値が入ったことも確認する。経験値は戦闘力=経験値なので。そして死体から、ドロップしたアイテムがある。それは71マテリアルの収入であった。マテリアルはエネルギーなので、倒した瞬間に所持金へと加算されるのである。他のアイテム類はちゃんと敵から剥がさないと取れないけど。
弱い6連発のリボルバー式弱小銃だが、6発までを同時に撃ち出すクイックドローと相性が良い。普段なら弾代を気にする技だが、無限に使えるこの銃ならば、まったく問題はない。
そして、キッと視線を細めて、人々へと視線を向けて
「村長さん! 村長さんはここにいませんか? 流れのバウンティハンターが、ここにいますよ。 格安で雇えますよ〜」
もう一度可愛らしい声音で笑顔で叫ぶのであった。もしかしたら聞こえなかったのかもしれないと思ったので。
その言葉は今度は無視されなかった。慌てた様子で、しょぼいロングソードを持つ老人が叫んだ。
「魔法使い殿! 魔法使いとお見受けしました。金貨30枚で雇いましょう!」
金貨とやらは聞いたことがないアイテムだ。ゲームの中の話かな?コロニーで遊んでいる人たちを見かけたことがある。いや、あれは寄生増殖型アストラル体の襲撃で全滅していたコロニーのテーブルに放置されていたゲームだった。でも、命がかかったこの状況で、そんな馬鹿な冗談は言わないだろう。
そこでアリスは気付く。いや、聞いたことはあるよ。たしか古代文明で使われていた超常の力を持つアイテムだと!
こんなしょぼい盗賊を倒すだけで、そんな物を貰えるなんてと驚愕して、自分の運の良さにむふふとほくそ笑んだ。ほくそ笑む姿も愛らしい。きっと魔法使いという呼び名もバウンティハンターの地方での別名だろうとアリスは思う。
いつもはガチャコインという名前で言われるので気づかなかった。古代神殿のガチャという像に捧げると未知のアイテムとかスキルが手に入るやつだ。アリスもその力を使い、希少なる空間術と状態異常耐性スキルをアンロックしたのだから、間違いない。
30枚あれば、たくさんガチャができる。なにか良いスキルとかアイテムが手に入るだろうと、両手をパチンと手を合わせて、村長さんへ、桜満開のような真の微笑みを見せた。誰もが見惚れるだろう微笑みで、軽く頭をさげながら
「雇用ありがとうございます。安心格安で確実に依頼をこなす魔風アリスに全てお任せ下さい。この盗賊たちは全滅させておきますので」
ころころと鈴が転がるような声音で、アリスはそう告げる。ご機嫌最高な少女であった。
「おい、アリス。それならばレベル、レベルを解放しないと! すぐにマテリアルを使うんだ。アリス!」
またもや、目の前でおっさんフェアリーがうろちょろしながらうるさく告げてくるが、安心させるように教えてあげる。優しくしておかないと、あとで報酬に影響でるかも。
「大丈夫です。経験値でレベルは上がります。マテリアルはいざというときにとっておかないと、使うとすぐに無くなりますので」
にこやかに微笑む、守銭奴アリスがその場にいたのであった。
無くなるどころか、腐りそうでしょとか、訳のわからない言いがかりを言うおっさんフェアリーを放置して、盗賊たちを全て視界に入れて、解析をかける。
『戦闘力57』
『戦闘力63』
『戦闘力56』
『戦闘力121』
『戦闘力66』
盗賊たちは、見たところ30人ぐらいだろうか。全てウルフニュートの人種らしい。ノーマルニュートの村長たちも解析に入った。
『戦闘力31』
『戦闘力35』
『戦闘力29』
『戦闘力30』
呆れてしまった。この人たち弱すぎないだろうか?50以下の数値は全然見たことはないのに。
でも、だからこそ報酬が良いのだろうと、アリスは納得して盗賊の1番数値が高かった121のやつへと走り寄った。
素早く移動するその速さに盗賊団のボスは一瞬戸惑うが、ニヤリと笑い自分の持っている大斧を構える。右目が潰れており、背丈は2メートル少しの筋肉質な大柄のウルフニュートだ。
「おい! やつの戦闘力の方が高いぞ! レベルをせめて10まで上げてくれ〜」
おっさんフェアリーが視界の端で叫んでいる。レベルは1上がる毎にステータスポイントが5だけ手に入る。スキルポイントは常に1だ。レベルが100になればステータスポイントだけは50、200レベルで100、以降は100レベル上がる毎に倍々となっていく。最終的には数百万の戦闘力となる。装備もスキルも込みだと1000万を超える怪物となり、国の宇宙艦隊とタイマンで戦えるのだ。
しかし、今はレベル2だ。なるほど、10まで上げれば楽勝だろう。だが、この程度の差なんて誤差である。おっさんフェアリーはそこらへんがわかっていない。
ムンと腕に力をこめて、大上段に振りかぶり、一気にアリスの頭をかち割らんとする盗賊。
『強撃』
薄っすらと、なにか力が斧に集束されるのをアリスは感じ取った。なんだろうか?エフェクトが無いのでしょぼい技だろうと推測しながらも
『空間シールド』
希少なる空間術が壊れスキル。空間シールドを発動させる。いかなる攻撃も次元術以外は1回だけ防ぐ絶対防壁。このためにガチャをかなりやったのである。手に入れた時は飛び上がって喜び踊ったものだ。
盗賊の頭領は目の前の子供にも見える人間族の少女が魔法使いだとわかっていたので、一撃必殺の技を繰り出した。そんじょそこらの魔法障壁など打ち破り魔法使いを殺す自分の特技だ。
だが、その一撃はカツンと乾いた音がして、あっさりと弾かれた。豪腕から生み出された魔鉱石から作り出した大斧の攻撃は目の前の少女を傷一つつけることなく、大きく弾かれて、頭領は弾かれた衝撃で後ずさる。
態勢を立て直さんとする頭領は、目の前に魔法の杖だろう物を突きつけられているのが見えた。
『クイックドロー』
その言葉が頭領が死ぬ前に聞いた最後の言葉であった。
敵の親玉らしきウルフニュートの頭に銃弾が全弾命中する。顔が穴だらけになって、あっさりと死んだのを確認して、アリスは周りを見渡した。全員で29人。全て逃すつもりは無い。貴重なる経験値とマテリアルを稼ぐために、あっさりと親玉が倒れて、怯み始めた盗賊たちへと、銃を構えて無邪気なる笑顔で歩き出す。
数十分後、数人は逃したが残りを全て殺して、アリスはにこやかにステータスボードを見た。
レベルは3へと上がっていた。たしかレベル10までは、経験値テーブルは全て500であるので、すぐに上がるだろう。
満足げに、死屍累々の地面を見て、盗賊からアイテムを剥ぎ取らないととウキウキしながら、近づく。
そっと手を翳すと、アイテム欄に何を取得するのか出てくる。服に財布に武器やらなにやら。見たことがないけど、攻撃力が5とか6であり、耐久度も低い。無限ハンドガンは耐久度は低いが自動修復される逸品だ。全部売って、マテリアルに変えようと考えながら、下着以外は全て回収する。
その瞬間、死体は下着姿となり、アイテムは全て亜空間ポーチへと収まった。それをほいほいとスキップしながら集めていくアリスに
「凄い精神力だね、アリス。正直、俺は気分が悪いや……」
死体に怯んだのか、おっさんフェアリーがそんなことを青白い顔で言ってくる。上品なフェアリーだなぁと思いながら、アリスは返答する。
「だって倒したら、あとはお宝の山じゃないですか? 私には財布が落ちているようにしか見えませんね」
「あぁ……。そうだな。そうだった。俺もそんなことを考えながら敵を殺していたからな……。それがアリスの性格に反映されているのか……」
落ち込みながらが意味不明なことを言ってくるおっさんフェアリー。さっきから何なんだろうか?
まぁ、考えてもわからないことは、いつかわかるまで放置にしておこうと、常に計画性のないアリスは考えることを放棄した。基本的に味方からは報酬をふんだくる。敵は殺してアイテムをふんだくるの精神なのだからして。
アリスがそんなことを考えながらアイテムを死体から剥ぎ取っていると、声がかけられた。
見ると先程の老人と数人が恐る恐るアリスへと近寄り、引き攣った笑顔で話しかけてきた。
どうやら、この惑星の私の名声度は低いみたいですねと思いながら村長らしき人へと、野花の咲くような淡い笑顔で出迎える少女だった。




