38話 ゲーム少女は騎士と会う
ゆらゆらと炎のトカゲが揺らめき、炎の舌をちろちろと見せているのを動揺もせずに恐怖の色も見せずに、アリスは眺めていた。
だって、あんな敵は慣れているのであるからして。いくらでも召喚系の術を使う敵はいたが、さすがは序盤ですね、弱そうな敵ですと感心していた。感心する場所が違うのではないかと思われるアリスであった。
とりあえず弱そうな敵と思われるが、一応解析を使用しておく。
『戦闘力220』
ほむほむと頷いて、淡々と感想を述べるアリス。想像通りの弱さであるからして、アリスの相手ではない。
「すごい弱いトカゲさんです。ちょっと戦闘に使うのは可哀そうですよ? 召喚を解除した方がトカゲさんも痛い目にあわずに良いと思いますよ?」
召喚の維持のために集中していたキリブは、その飄々とした態度にイラついてハッタリだと考えて怒鳴り返す。
「ふんっ! 人間族が死にそうだからサラマンダーを差し向けるのをやめてくださいという命乞いか? なら地面に這いつくばって許しを請うがよい!」
はぁ~とため息をついて話を聞かない人だなぁと呆れるアリス。話を聞かない事に関してはアリスの右にでる人はいないと思うが。
自分自身のことは省みないことに決めている常に前を向いているアリスは一応目の前のエルフニュートにも解析をかけてみる。
『戦闘力177』
驚愕することに、トカゲさんより弱い脆弱すぎるエルフニュートであった。ちょっとそのひ弱で大丈夫ですかと尋ねたいアリスである。
「ちょっとひ弱すぎると思うのですが、大丈夫ですか? 主に貴方の頭ですが」
ムキャーと煽りまくるアリスのブチ切れてキリブは手をアリスへと向かい振りかざす。
「やれ! 我が親愛なるサラマンダーよ!」
その指示により、サラマンダーがパカリと口を開けて、炎のブレスを吐きだす。ごぉっと細い炎が伸びてきてアリスへと接近するが、余裕である。
「空間シールド」
常に次元攻撃以外は防いでしまうゲームブレイカーな術である。まぁ、ディスペルや連続攻撃に弱くクールタイムも長すぎるが、初撃を防げれば戦闘を終える事ができる序盤では無敵である。
あっさりとサラマンダーの炎は防がれて、消えていってしまう。持続的に吐かれるブレスでも一撃は一撃。相手の攻撃が終わるまで消えない素敵仕様なバリアであった。
炎を吐き終わり、ぜーぜーと息を整えているトカゲさんへと、若干きまずくなりながらエネルギーガンを向ける。
ピチュンピチュンと安っぽい音がして、安っぽい音にもかかわらず凶悪なエネルギー弾はサラマンダーへと命中する。あっさりとその攻撃により霧散してしまうサラマンダーであった。
その攻撃を見て驚愕するキリブ。自身の強力な精霊がこんなにあっさりと倒されるとは信じられない思いで、アリスへと視線を向ける。
アリスは驚愕しているキリブへと情け容赦なくエネルギーガンを向けて、敵の無効化を行おうとするが、攻撃がくるとわかったのであろう。キリブは新たな詠唱をしていた。
「土よ。わが友よ! 我を守り給え『アースウォール』」
ずずずと2メートルばかりの正方形の土の壁がキリブの前に生み出されていく。
「射線を防いでも無駄ですよ」
ふふんと土の壁をみて笑って、アリスは手慣れたもんだと、新たな銃技を発動させて引き金をひいた。
『ラピッドショット』
エネルギーガンから撃ちだされた光球は空中にて不自然にバウンドして土の壁を越えていき、壁向こうへと着弾した。ラピッドショット、それは跳弾による敵へと攻撃を可能とする銃技である。攻撃倍率もよく障害物の向こうに隠れている敵にも命中可能な技だ。
「ぐぎゃっ!」
命中したのだろう、キリブの呻き声が聞こえて土の壁が術の維持が解けたため、ただの土くれへと変わる。
そうして土の壁の後ろには肩を撃たれて、地面に倒れ伏して苦しみもがいているキリブがいたのであった。反撃もせずに肩から血を流して苦しんでいるので戦士失格だとアリスは呆れた表情で見てしまう。こんな攻撃は耐え抜いて敵へと反撃するパターンなのに、キリブとやらは苦しんで立ち上がる様子も見えない。
恐怖の表情でアリスを見てくるキリブを見て、こんなに弱くてよくハンターに喧嘩を売ってきたものだと呆れながらとどめをさすべく銃を向ける。もう少しダメージを与えて気絶させておわりですねと考えるアリスだが、果たして次の攻撃を受けて生きているかも不思議だろう。そんなことには無頓着にゲーム少女はいつものことだと、引き金をひこうとするが
「そこまでっ! キリブは戦意を喪失している。それ以上は必要あるまい!」
強い口調での声を聞いて、引き金をひくのをやめるのであった。声がかけられた方向を見ると金属鎧姿のキャットニュートたちがガシャガシャと金属音をうるさくたてながら走ってきていた。
「あれ? あいつらキャットニュートにしては変じゃね?」
鏡が騎士だろう相手を見ながら呟く。アリスはその疑問に思った声音の鏡の声に反応してよく相手を見てみる。
「たしかに猫にしては鬣とかありますし、尻尾も先が膨らんでいて猫っぽくないですね」
「だろう? あいつらなんとなくライオンに見えるよな」
不思議そうな表情を見てとったグリムがやれやれ戦闘が終わったかと蒼褪めながらアリスへと声をかける。
「あの方たちは獅子族の方ですね。領主様の強力な騎士団ですよ」
「獅子族? 猫じゃないんですね。ここではそんな種族がいるんですか?」
ほへぇ~と、この惑星は面白いですねと思うアリス。獅子族ってキャットニュートのくくりに入れて良いのだろうか? たぶんハイキャットニュートな感じだけどと迷う。
そんなアリスたちへと汗だくになりながら騎士がやってきて、声を荒げて問いただしてきた。
「これはなにごとだ? なぜ領主様の家宰であるキリブ殿が傷を負っている? 返答次第では牢獄行きだぞ?」
騎士の中でも大柄な体格で、いかにもライオンですといった鬣をした騎士が尋ねてくるが
「なんだか、人間に鬣がついているとアホっぽいですね。なにか玩具の髭をつけているみたいです」
素直なアリスはあっさりと相手が怒るだろう内容を口にするのであった。
あぁ~ん?とそれを聞いて凄みを見せる騎士。このまま第二ラウンドに入り込むかと思われたが、不穏な空気を読んで、この少女に会話をさせたら命がいくらあっても足りないと気づいたグリムが口を挟む。
「この方は神官様です。領主様へと顔合わせをするために訪問したのですが、あいにく人間族ということで神官であるのが嘘だとのキリブ殿との言い合いで決闘と相成りました」
へへぇ~とお辞儀をしながら、口八丁手八丁で身振りを交えて焦りながら話をするグリムである。
その返答に苦々しい表情をして騎士がキリブをちらりと見るが、キリブは苦しんでいる様子で反論もなかった。血が流れておりかなりの重傷だとわかる。
頭をガリガリとかきながら騎士は眼光鋭く威圧感を与える恐ろしい声音で言葉を返した。
「それは神官様には悪い事をした。だが、キリブ殿をここまで傷つける必要はなかったのでは?」
その返答にコクコクと、我が意を得たりとアリスは答えた。
「そうですね。可愛いトカゲさんをドヤ顔で強いと言い張る弱い雑魚さんでしたので、もう少し手加減をするべきでした。まさかあそこまでダメージを負うとは思っていなかったのです。貧弱過ぎてちょっと笑っちゃいました」
ひぃ~とグリムが両手を頬にあてて、アリスの発言を恐れる。この少女は傍若無人すぎると。
仕方ないなぁとアリスはキリブへとちっこいおててを翳して
『ヒール』
いつもの治癒術を使うと、ぽわんと光がキリブを覆い血を流して焦げていた肩をあっさりと癒す。
おぉっとどよめく騎士たち。救急所まで連れていこうとしたら、あっさりと治されたことに驚いたのだ。ここまで見事な治癒魔法を人間族の少女が使えるとは考えていなかったのであるからして。
治ったにもかかわらず、地面からブルブルと震えて立ち上がらないキリブを見て、震えて恐怖に襲われていると判断した騎士は嘆息してアリスへと声をかけた。
「どうやらキリブ殿は調子が悪いらしい。俺が領主様のところまで案内しようではないか。あぁ、俺はここの騎士団の団長、獅子族のレオだ」
「私は安心格安で依頼を確実に遂行するトカゲを退治できるバウンティハンターの魔風アリスです。よろしくお願いしますね」
そう答えて、にっこりと微笑むアリスであった。ようやくイベントが進みましたとほくそ笑んでいたのは内緒である。
ふへぇと額の汗を拭ってグリムが弱々しい声を出す。
「アリス様………。お願いですのでもう少しおとなしい発言でお願いします………。頼みますから、領主様の前ではおとなしくしていてくださいよ?」
フンスと息を吐いて、アリスは両手を腰にあてて自信満々に頷いた。
「大丈夫です。全て私にお任せを。相手との交渉でぎりぎりまで報酬をもぎ取りますから」
「いやいや、全然大丈夫じゃないですからね? それは大丈夫とは言いません。できるだけ発言はしないでもらえるでしょうか? 私が代わりに話しますので」
とんでもない少女であったと認識を改めてグリムは汗をかきながらアリスへとコンコンと切実に伝える。この少女に会話をさせると危ない。
むぅと頬を可愛く膨らませてアリスは不満そうに渋々頷く。
「しょうがないですね。でも報酬の話には口を挟みますからね? ハンターとしてそこは譲れません」
「今回は顔合わせのみです。報酬などの依頼はないはずです………。たぶんないですよ………。はい」
そこはかとなく大丈夫じゃなさそうなアリスであるので、グリムは不安顔だ。
「ここが領主様のおわす応接室だ。くれぐれも失礼のないように!」
レオもアリスとグリムの会話を聞いており、冷や汗を流していた。貴重な神官様だから、まさか斬ってすてるわけにもいかない。フォローが大変そうな少女である。
周りがやきもきとしているとは露とも思わずにアリスは領主からはどんな依頼がくるんでしょうと楽しみに思うのであった。




