100話 混乱の風が吹き始める
無骨なる石造りのトーギ城。枯れぬ花々が咲き誇る「永遠なる花園」で寛いでいたトーギ王は王妃たちとお茶をしていた。
手にするのはグリム商会から手に入れし、美味なる食べ物の数々。砂糖とミルクをドバドバ入れた甘さしか感じることのできないコーヒーと称する飲み物。真っ白な生クリームの山にしか見えない、山盛り生クリームで覆われたベーキングパウダーを使用した、もはや胸焼けしかしないだろうふわふわパンケーキ。
平民の1年分の稼ぎを、まっとうな料理人なら泣いて悔しがる食べ方をして歓談をしていた。
だが、息せききって走ってきた侍従の報告を耳にして、思わず椅子から立ち上がり、この間手に入れた真っ白であり、その単純な色合いが美しいコーヒーカップを、トーギ王はガチャンと荒々しい音を立てて置く。
やはりコーヒーカップも高級品であり、その白さを出すことのできないフロンティア人は高値でカップを買っていた。カップの底に貼られているシールが作者の名前だろうと、シールも見たことがないので剥がさない。作者の名前は日本語で100円と書かれていたりするが。知らないとは幸せなことなのである。
なにはともあれ、侍従が慌てて報告にきた内容に驚きと、これからのことを考えて頭が痛くなると、手を額にあてて口元を大きく歪めて苦心する。
「アリスシティをイーマ王国が急襲しただと? それは真なのか? それならばすぐに取り返しに行かなくてはなるまい」
すぐに将軍たちを招集して善後策を考えなければなるまい。戦をする準備を始めなければと、対応策を考えて、トーギ王国への侵略の橋頭堡にされるわけにはいかないと、顔を険しく詰問するように告げると、侍従は身体を縮こませながらも、王の言葉を否定してきた。
その言葉は想像を超えていた。防衛ができたと、上手く策を巡らせて、敵の襲撃を跳ね除けたという答えが返ってくるのかと、希望を持って、話の続きを促すが信じられない内容であったのだ。
「襲撃に使われた帆船6隻。その全ては赤竜により焼失。帆船から出撃したナーガの軍は港に設置されていた爆発する魔道具により殲滅。森林からも襲撃部隊がいたようですが、確認はとれておれませんが、これも神殿騎士団が迎撃した模様であります。殲滅されたイーマ軍その数……2000」
跪き震える声で説明する侍従。彼は常に冷静沈着であり、王自身が頼りにする者である。いかなる事柄でも動揺を見せない侍従が震えて報告する。それだけ想像を絶する情報なのだ。
2000の兵を、しかもイーマ軍の精強なるナーガ族を殲滅した? 赤竜が現れた? 爆発する魔道具? ハイエルフたる自分でも理解不能な情報である。どれ一つとっても、信じ難い。
しかも、さらに侍従は報告を続けて、隣で聞いていた王妃も声も出ないほどに驚き、はしたなくも口をぽかんと開けてしまった。
「係争中のモート鉱山をそのまま奪取しました! 急ぎ指示をとアリスシティに常駐している騎士より報告が来ておりますっ」
「係争中のモート鉱山を奪取? ……むぅ、それほどアリス嬢の兵は多かったのか? トト伯爵は軍の通過を許可したのか?」
係争中と言いながらも、もはやモート鉱山はイーマ王国の手で要塞化されており、トーギ王国は自国の鉱山であるという態度は変えなかったが、実効支配をしているのはイーマ王国であり、時折イーマ王国へと非難をするだけに終わっていた地だ。銅鉱山であり、鉱山の重要性が低かったこともあった。
されど、他国の、しかも外大陸からやってきた軍隊に制圧されたとなると問題である。
「いえ、どうやら少数での強襲をし陥落させた模様」
「ぬぐぐ……。赤竜はどこから来た? 魔道具は? それだけの力をアリス嬢たちの軍は持っていたのか? どのような力なのか、騎士に報告させよっ! なんのために常駐させたと思っておるのだ。波風を立たせるわけにはいかぬ。現状の詳細を報告させ、アリス嬢には城へと詳しく話を聞きたいと呼び出すのだ」
聞きたいことは山ほどある。そして、敵の襲撃を跳ね除けて、少数でモート鉱山を陥落させるほどの力。王都に近い場所にアリスシティは位置していることから、ここで敵対されると非常にまずい。挑発しないように、威圧や脅迫じみたことはしないように命令をする。
トーギ王は自分の騎士たちのことをあまり信用していない。勇猛さと向けられる忠誠は信用しているが、政治的な事柄になると、まずは威圧から入るためだ。
脳筋であると考えているが、その頃の常駐している騎士団は子猫のように縮こまり、なんとか王国に入ってくれと泣きそうな表情でアリスにお願いをしていたりする。インパクトありすぎな戦いであり、騎士たちは自分の力が通用しないと嫌でも理解していたのだからして。
誰でも大空を駆る凶悪な赤竜を地上から仰ぎ見れば戦うことなどしたくはない。
それを知らないトーギ王は声を荒げて指示を出していた。
ドカン
轟音が街から聞こえてくるまでは。
「は? なんだあれは?」
「なんの音でしょうか? 魔法?」
「だれぞ、なにが起きたのか調べて参れっ!」
なぜか、この騒動もアリス嬢が絡んでいるのではと嫌な予感がしつつ、トーギ王は部下へとさらに指示を出すのであった。
ドカンと爆発音がして、分厚い鉄の大扉が空をくるくると飛んでいく。侵入者を防ぐはずの強固なはずの扉は真ん中からくの字のようにひしゃげて。
その様子を、アリスは肩に拠点破壊用携帯バズーカを背負いながら、ウンウンと嬉しそうに頷き眺めていた。
「やはり、バズーカを用意しておいて良かったです。扉とか破壊するのにピッタリですよね」
現在、バウンティハンターアリスは盗賊団のアジトの前に立っていた。
綺麗に剪定された木に鉄の扉は落ちていき、その重さでバキバキと木が折れていく。
「盗賊団のアジトでも、扉などの耐久力は馬鹿にできません。意外と硬いので」
過去でも盗賊団のアジトから、エイリアンの軍基地を襲撃した覚えのあるアリスの体験からだ。正面からの襲撃はすぐに扉を破壊する。常套手段であるからして。
「正面からの侵入とは大胆すぎないか、アリスさんや? 本当にここが盗賊団の拠点?」
おっさんフェアリーが目の前をぶんぶんと飛びながら、疑り深そうに尋ねてくるので、ウザいですねとペチリとはたき落としながら、このおっさんフェアリーはたまに常識を知らないなぁと教えてあげる。
「クエストには、イーマ盗賊団の拠点のひとつ。ブックスのアジトを制圧せよと出ています。私の情報収集から手に入れた連鎖クエストです。間違いはありません」
ふんすと鼻を鳴らして胸を張る。捕まえたスパイを尋問して手に入れた情報。ブックス商会が関わっていると判明したら、発生したクエストなので間違いないのだからして。
「いや、尋問って、部屋に閉じ込めて尋問と呟いただけだよね? なんで、あれで判明するわけ? いや、わかるけどさぁっ。わかりすぎるぐらいに理解できちゃうけど!」
頭を抱えて、器用に空中で転がりながら、絶叫するおっさんフェアリーである。AHOでは、敵の尋問は相手との精神力の差、精神抵抗やダメージ軽減、根性などのスキルを持っているかで成否判定が行われた。
その時の尋問方法は簡単。尋問するとコマンドで選ぶだけである。ちなみに成功するまで尋問可能だが、連続して行うと失敗の可能性が大きくなる仕様だ。
なので、捕まえたスパイの前で、アリスはニコニコと尋問と呟いただけで終わった。すぐにテキストフレーバーに尋問した内容が成功したと表示されて記載されたのである。
そこでアリスはふんふんほうほうと、テキストフレーバーのスクロールバーを下に一気に押し下げて、新たなるクエストを確認したのである。
バックグラウンドの情報はスルーである。アリスは説明文は必要となれば読めば良いのだのスタイルなので。
新たなるクエストには、盗賊団のアジトと敵のボスの名前が書いてあった。それだけあればハンターは充分なのだ。
というわけで、盗賊団のアジトに急襲したアリスである。
ちなみにトーギ王都の上級地区。金持ちが住む地区である。
目の前には広大な金持ちに相応しいよく手入れされた庭園と、大きく立派な屋敷が見える。庭園の木には鉄扉が突き刺さっているが。
下手な中位貴族よりも金と力を持つ王都1の商会であるブックス商会の本拠地。その屋敷の前にアリスは堂々と立っていた。
砕かれた門の前には恐怖の表情で門番がへたりこんでいる。
「何者だっ!」
「ここをブックス商会の屋敷と知ってのことかっ」
「子供かっ?」
バラバラと屋敷の中からよく手入れのされた鉄の胸当てを身に着けて、磨かれた剣を持ち、その足取りは鍛えられた兵士のものである。
どうやらこの盗賊団はそこそこ鍛えられているようですねと、クスリと可憐に微笑み、小柄なる少女は声をあげる。
「安心格安、確実に依頼をこなす、今日は盗賊退治に来ました銀河を跨ぐバウンティハンターアリスと言います。よろしくお願いしますね、盗賊団の皆さん。美味しいドロップを期待しています」
周りを囲む盗賊たちを見ながら、ちょこんと会釈をして、相手の種族を確認する。ウルフニュートにキャットニュート。少し後ろにエルフ。どうやらこの惑星の前衛は獣人が多いのだろう。
こちらの挨拶を聞いて、盗賊団の面々は顔を見合わせて戸惑う。アリスの態度が強襲してきたにしては、暗殺者でなさそうで、随分と堂々としており、後ろ冷たさそうにもしておらず、人殺しが趣味そうな狂った相手にも見えないからだ。
「アリス。敵の種類に気をつけないといけないぞ。これは難易度の高い、事情を知らない一般兵と、盗賊が混じっているタイプのクエストだ。……ねぇ、本当にイーマ盗賊団でとおすわけ?」
敵の種類を確認して、今回のクエストの内容に注意を鏡は促す。対応を間違えると面倒くさいので。それとギャラクシーライブラリはイーマ王国をあくまで盗賊団として扱うようだと呆れもしていた。
「さすがは鏡。サポートキャラに相応しい的確な説明ですね。そろそろ殺虫剤を作ろうかなと思っていましたが保留にしておきます」
「保留なの? そこは止めるところじゃないの?」
ねぇねぇと、髪を引っ張ってくるおっさんフェアリーだが、このおっさんはいつも髪を引っ張ってくるので放置しておき、敵を確認する。
剣を身構えて杖を持ち上げて、身構える敵だが、アリスは目を光らせて不敵に微笑む。
「バウンティハンターの目は誤魔化せません。いかに隠蔽しようとも、戦闘になればその正体は丸見えです」
囲む敵が黄色と赤色に色分けされて、アリスの目に映る。たまにあるのだ、こんなクエストが。
敵味方わからない状況で、戦闘になるのだが、味方や一般兵を誤って倒すと報酬が激減しちゃうのだ。まぁ、その場合はオーラを表示させれば、よほどの高位隠蔽スキルを使われなければ誤魔化されない。黄色は敵であるが一般兵、交渉のやり方で味方にもなる。赤色は明らかに敵である。交渉は倒してからになる場合が多く、クエストで倒す対象でもある。
アリスの目には屋敷から慌ただしく出てきたラビットニュートの姿も目に入った。たしか耳がフサフサで触り心地の良い少女。それにでっぷりと肥ったおっさん。その隣に狡賢そうな表情の痩身のフォックスニュートもいる。
少女以外は赤色である。しかもフォックスニュートとデブうさぎはオーラに星マークもついていた。ボスである。
「き、貴様っ! ここが儂の屋敷。王都1のブックス商会の屋敷と知ってのことかっ!」
つばをはき、喚くデブうさぎへと冷たい眼光で睨むアリス。
「王都1の盗賊団ですね。どうやらバウンティハンターの治める街を襲った末路を知らない模様。ハンター流のお返しをしますので」
誰もがゾクリと恐怖を覚えてアリスの姿を見る。なぜか恐怖を覚える雰囲気を小柄なる少女から感じ取ったのだ。
「よく覚えておいてください。その恐ろしさを」
この辺境では初めてかなと、ハンター流のお返しをするべく、ゲーム少女は戦闘態勢へと入るのであった。




