101話 ゲーム少女のハンター流盗賊大事術
アリスは周囲を盗賊団と一般兵に取り囲まれながら、平然とした表情で肩に担いでいたバズーカを亜空間ポーチに仕舞う。
相手はアリスが何やら肩に担いでいた魔道具が消えてなくなったので、多少ざわめき動揺する。この辺境は亜空間ポーチを使うだけで騒ぐなぁと思いながら、おっさんフェアリーの忠告通りに、こんなクエストでいつも使っている武器を取り出しておく。
ごついガトリング砲のようなフォルムの武器だが、先端に銃口はなく、その代わりにその先端は扇風機のように小さなプロペラとなっている。
「これさえあれば、敵が一般兵でも問題ありません。ハンターは常に準備を怠らないんです」
ふんすと得意げに呟くと、小柄な体躯に合わない大きさのガトリング砲をんしょと腰を落として身構える。
「なぁ、やはりスニークミッションにした方が良かったんじゃね?」
敵の数が少し多くない? と早くもヘタれるおっさんフェアリーがアリスの後ろに隠れながら聞いてくるが、そんな選択肢は私はありません。
「スニークミッションにすると、大変なことになるんです。それはもう恐ろしい結果となります」
「あ〜、答えはわかっているけど、一応聞いておくよ。なんて返答するか予想できるけど」
呆れるような声音での鏡の問いに、知っているなら聞かなくても良いのになぁと思いながら、僅かに恐怖の表情となるアリス。
「スニークミッションだと、ボスを倒した時点でクエストが終了しちゃうんです。正面から襲撃すればアジトのアイテムを根こそぎ回収できるのに。スニークミッションだと、全く回収できないんですよ。大事なことなので2回言っておきますね」
あぁ、予想通りだねと鏡が答えるが、そのとおりなのだ。スニークミッションで敵に見つからずにボスだけを倒す。その場合はアジトのアイテムを回収できないのだ。各部屋に用意されていた弾薬箱とかがボスを倒すと回収不可となるのである。スニークミッション恐るべしである。ハンターはよほどのことが無い限り、スニークミッションは行わないのだ。特に私は選択肢にも入れません。
昔何回かスニークミッションをして、隠蔽やクラッキングアイテム代で赤字になった覚えがあるのだ。何という恐ろしいことであろうと思い出して、濡れた子犬のようにプルプルと震えちゃうアリスである。スニークミッションが必要な時は敵を皆殺しにしておくのだ。目撃者がいなければスニーク成功扱いになるからして。
相変わらず酷いゲーム理論といえるが、鏡のやってきたことを反映しているアリスが赤字となったことを思い出し怖がって見せると、何か知らないが勘違いをしたのか、目敏く震えるアリスの震える様子に気づき、デブうさぎが野太い声をあげる。
「魔法使いのようだが、恐怖しているぞっ、捕らえて衛士に突きだせっ」
その声に従い、傭兵たちがまずアリスに向かって来た。ウルフニュートに相応しい瞬発力を見せて、跳ぶように間合いを数歩で縮めてきて、剣を振るおうとしてきた。
「えいっ」
アリスはすぐに気を取り直し、ずしりとした重さの銃を腰だめに持ち、敵へと向けて引き金を引く。銃口のプロペラが勢いよく回転をし始める。
ピピッ
ベルのような銃声をさせて、目に見えないが、空間が僅かに弛むと、なにか圧力を持つ塊が先頭の傭兵へと命中する。
「グヘラッ」
先頭の傭兵はなにかに当たったかのように、顔を歪めその身体を勢いよく吹き飛ばされて、他の傭兵たちの間をボールのように飛んでいき、ドカラッシャンと地面を跳ねて転がっていった。
「はぁ?」
傭兵たちは思わず足を止めてしまい、吹き飛んだ仲間を見るが、それはもちろん失敗であった。
「えいっえいっ」
可愛らしい掛け声をあげて、他の傭兵たちへと素早く銃を向けながら、カチカチとアリスは引き金を引き続けて銃弾を放つ。
「グヘッ」
「ゴハッ」
「デハッ」
足を止めてしまった傭兵たちは不可視の銃弾をまともに受けて、突風にあった案山子のように、次々と宙を飛んで、ボールのように吹き飛び、バウンバウンと地面を人間がやってはいけないバウンドをしていくのであった。
そうして、一般兵たちは剣を使うこともなく、あっという間に全員が倒れ伏した。容赦なさすぎな少女である。躊躇という文字を知らないのだろうか。
ピクピクと倒れて痙攣する傭兵たちを見て、いい仕事をしたよと額にかいてもいない汗を拭うふりをしつつ、アリスは満足げにしちゃう。
「敵を無力化させるフォースカノン。いつ見ても良い性能ですよね」
「どこらへんがフォースなのか運営に聞きたいけどな。それにあれ大丈夫かなぁ?」
扇風機かよと思いながら、ピクピクと痙攣する敵を不安そうに鏡は見て不安がるが大丈夫。
「フォースカノンは敵の精神力にダメージを与えて、ちょっぴりの突風でスタンさせる銃です。一般兵を無力化させるのにバウンティハンターは愛用しています。国からも悪事に加担していなかった兵士を殺さないでありがとうと、何度も感謝されたことがあるんですよ」
「そうだね。AHOだと問題なかったね。よくよく思い出してみると殺さないでありがとうで、傷つけないでありがとうではなかったけどね」
敵を無力化させるフォースカノン。精神力をゴリゴリ削って気絶させるヘビーガンであり、少しでも精神耐性スキルを持つ兵士には効かない武器だが、だいたい盗賊団に混じる一般兵は精神耐性スキルを持っていないので効果的なのだ。カオスポイントももちろん稼がない。アリスは自称善人なバウンティハンターなのだ。
ちょっと倒れている人たちの手足が倒れたマネキンのように折れ曲がっていたりするが、後でヒールをかければ良いよねと、たじろぐ盗賊団へと向き直る。狡猾なことに自分たちは前に出ずに、一般兵で私を倒すつもりだったらしい。こちらも手加減をせずにすみ安心だけど。
どこらへんを手加減したのかと、この惨状を見たら第三者は問い詰めてくる可能性があるが、バウンティハンターの常識なのだ。問題はない。
亜空間ポーチにフォースカノンを仕舞い、新たに銃士のショットガンを取り出す。制圧戦開始である。
「風の魔道具の効果は切れたようだ。チャンスだよ君たち、その小生意気な人間族を殺しなさい」
フォックスニュートが殺しに慣れていると思われる冷然とした声音で指示を出すと、本当かよと新たな魔法の杖を取り出したアリスに顔を引きつらせながらも、盗賊団は改めて武器を身構える。
「う、うぉーっ! 死ねやこらっ」
「ぶち殺す」
「手加減するなよっ、魔法使いだっ」
ノーマルニュートではなくロイヤルニュートなんだけどなぁと思いつつ、必死の形相で走ってくる盗賊団の様子を確認するアリス。走り方から素人ではない。軍隊歩法レベル10程度はありそうだ。
『ダッシュスラッシュ』
ウルフニュートは武技を使い、その足元の地面を弾けさせて、急加速してアリスに肉薄してきた。手慣れたことに3人がそれぞれ微妙にバラバラに切りかかってくる。
急加速した速度を加算させた剣撃がアリスを斬ろうと振り下ろされて、眼前に迫るのでアリスも自身の武技を発動させて対抗をする。
『ローリングバレルショット』
ウルフニュートの剣により、アリスの頭が勝ち割られる瞬間、アリスの身体がブレて剣は当たらずに素通りしてしまう。
「なっ?」
3人組は目の前にいたはずのアリスが突如として消えたことに、驚きの声をあげるが、その時にはアリスは横っ飛びをしてショットガンを身構えていた。
数メートルの距離を飛ぶような横っ飛び。くるりと乾燥機に入った洗濯物のように激しく横回転しつつ引き金を引いていく。
ドカンドカンと2連発。轟音と共に金属の散弾が無数に放たれる。横回転とすることにより、敵の攻撃を回避しつつ、回転エネルギーが銃弾の回転と合わさって強力な一撃を与える便利な武技だ。
人間が回転しても銃弾にその威力は加算されない? AHOでは武技を使うと不思議理論により加算されるのだ。どれだけゲーム理論が酷いかわかる一撃である。
3人組は放射状に放たれた散弾により、足を吹き飛ばされて、もんどりうって地面に血を吹き出しながら倒れる。
「ダブルキル。リロード」
倒れた者たちがどうなったかを確認せずに、素早く薬莢を取り出して、新たな弾丸をリロードするアリス。空となった薬莢が地面に落ちて光の粒子と変わる間にリロードを終えて、他の盗賊へと銃口を向けて引き金を引く。
「けは」
「ま、まて」
「盾を」
敵が恐怖を滲ませて、一撃で足を吹き飛ばしたアリスを見て怯み後退る中で、恐怖を与えるぐらいにレベル差あるのかなと呑気に思いながら、次々と足を狙い撃っていく。
盗賊団と記載されているので、街中なら衛士に引き渡せば小銭を貰えるかもと思っているので、動きを止めていくのだ。死んじゃう敵もいるが、そこは仕方ない。そこまで気をつける相手でもない。小銭が入ったら良いかなという軽い感じからなので。
ランダムではないしっかりとした盗賊団のサブクエストは色々と有形無形の隠れ報酬があるので、アリスも予測不可能。そのために、とりあえずは達成できそうなものだけを一応やっていくのである。
金属の散弾は脚甲をものともせずに、敵の足を砕き吹き飛ばす。近寄ろうとする敵もいたが、足を踏み出し間合いを詰めようと考えた瞬間に、アリスは明敏に察知して銃口を向けてくるので、近寄ることも不可能であった。
ドサリと盗賊たちが倒れていき、粗方倒したかなと確認しようとアリスが確認しようとしたら、なにかチカッと光る石のような物が目の前に飛んできた。
『空間シールド』
正体がわからなかったので、念の為に空間シールドでアリスは肉体を覆う。陽炎のように空気が歪み、アリスを不可視のバリアが覆った時であった。
石から業火が爆発するように吐き出されて、アリスの身体を包み、燃やし尽くそうとしてきた。芝生が焦げる臭いと火の粉が辺りに撒き散らされて、中心にいたアリスが燃えていく。とはならなかった。
平然と逆巻く炎の中から、少女がてくてくと火傷一つなく現れるので、盗賊たちはぎょっと驚きで目を剥く。
「ふむ……。魔法を防ぐ魔法を使いましたか。なかなかやりますね」
その中で、冷静に薄ら笑いをしながら、様子を見ていたフォックスニュートがアリスを前に出てくる。
その両の指の間に宝石を挟みながら。
「あと、何回その魔法は使えるのか愉しみですね。クケケケ」
アリスは僅かに後退り、ポソっと誰にも聞かれない小さな声量で呟く。
「やりましたよ、鏡。私の盗賊大事術の見せ所です」
凶悪なるボスキャラを前に慄然として、真剣な表情で身構えるゲーム少女。激戦が始まろうとしていた。
ちなみに退治術ではなく大事術なのは……。




