え!お嬢様の恋人って・・・
前に書いた小説の方向性がずれたので、もう一度考え直して書き直しました。
この小説を進めていきたいと思います。
ジャンダルタン大陸の南側、海を背にして王都ルドを中心に半円形上に広がり、誕生してから既に800年の歴史を誇る大国、それがシェドゥール王国だ。
国の端側から中心部に向かって農業地帯、工業地帯、商業地帯となっており、王都ルドは海を面していることも合って、他国との貿易も盛んに行われている。
これはそのシェドゥール王国、国王様の話……ではなく、その国王の変わったお妃様(偽物)の話である。
某日、シェドゥール王国の西端に位置するロドナン地方の小さな町クルトの小さな喫茶店で「ある顔合わせ」が予定されていた。
喫茶店には既に「顔合わせ」するメンバーの内二人が席についていた。
一人は長く美しい黒髪をひとつの三つ編みに纏め、前髪は瞳にかからない程度に切り揃えられている。
瞳は薄桃色をしており、肌は程よく健康的な白い肌と言える。
その白い肌の上を纏っているのは諸相メイド服と言われるものであり、黒いワンピースの上にエプロンドレスを纏い、頭には白いカチューシャ、黒いブーツを履いている。
その女性の隣にはモーニングコートを身に纏った男性が背を曲げることなく座っていた。白髪交じりの黒髪、瞳は髪と同じ黒色で右目に金縁のモノクルをかけ、口髭を右手で撫でている。
二人は店に入り、ボックス席に隣り合って座ると十分なにも話さなかった。
しかし、メイド服の女性が俯けていた顔を上げて男性に話しかけた。
「オードリューさんはどう思いますか?」
無表情だが若干血の気が引いている女性の顔をチラリと見ると、男、オードリューは口を開き……
「どうとは?」
白髪交じりの口髭に手で撫でながら彼女の質問の真意を問うた。
オードリューのその問いに女性は口を一度閉じた後、まるで誰かが死んだかのような沈んだ声で話しだした。
「決まっています。お嬢様が私達に会わせたいという人のことです……恋人でしょうか?」
「だろうな」
「そう……ですよね」
オードリューの肯定の言葉に女性はまた顔を俯け、そのまま
ゴンッ
額を店のテーブルに打ち付けた。
「おい、アズサ。みっともない真似はよさないか」
オードリューは彼女、アズサの額の心配を口にすることなく彼女の行動に苦言を吐いた。
「お嬢様が恋人なんてまだお早いと思うのです、だってまだ15歳ですよ? 時期尚早です。まあ、お嬢様はそれはそれは可憐でお美しい方ですし、周りの殿方が放っておかないのは納得なのですが、まさか今までどの殿方のお誘いにも首を縦に振らなかったお嬢様がいきなり恋人を連れてくるかもしれないなんて、そんな、どうして、いつのまに……」
しかし、アズサはそんなオードリューの苦言など聞いていないかのようにテーブルから額を離さず、ブツブツとつぶやき続けた。
オードリューはそんなアズサの様子に思わずため息を漏らし、もう一度アズサに注意した。
「アズサ、お嬢様狂も大概にしないか、早く額を上げろ」
「お嬢様が恋人……恋人……お嬢様に相応しくなかったら八つ裂きにしてやる……」
「……」
それでも尚オードリューの言葉が届かないのか、聞こえていない振りをしているのか、アズサはつぶやき続けていたが……
ガシッ
「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ」
オードリューの大きな手のひらがアズサの小さな頭を覆うとそこからミシミシミシと音が響き始めた。
「痛いです、オードリューさん、頭を離してください、もしくは力を緩めてください」
「なら、そのみっともない格好をやめろ」
「わかりました。やめますから、離して……ください」
オードリューは掴んでいたアズサの頭を離した。
「……頭が割れるかと思いました」
「そうか」
アズサは自身の頭を数回撫でるとオードリューを見た、よほど痛かったのだろう、目に涙が薄ら膜を張っている。
「ふむ、無表情が通常運転のお前が涙目だと、人形が泣いているみたいで気持ちが悪いな」
「こんなに強く掴まなくてもいいじゃありませんか」
「ふん、お前がみっともない真似をするのが悪い。いい加減覚悟を決めないか」
「覚悟なんて、覚悟なんて……決まるわけがありません!」
この二人がなぜこの喫茶店のボックス席でこのようなやりとりをしているのか……それは数時間前に遡る。
数時間前、ある女性の一言から始まった。
「オードリュー、アズサ、今日夕方から時間取れるかしら?」
桃色のふわふわな髪を靡かせながら、その女性は首を傾げた。
「ええ、取れます」
「勿論です、お嬢様」
「よかった、じゃあ今日の夕方5時に喫茶店プアに来てくれる?」
二人の返答を聞いたお嬢様、アンナ=サンタマールはほっと息を吐き出し微笑んだ。
アンナ=サンタマール
シェドゥール王国ロドナン地方の地方貴族だったが、父親が不慮の事故で亡くなると彼の膨大な借金が明るみになり、その返済で家や土地を手放し、殆ど無一文となってしまった没落貴族のお嬢様だ。
今は昔サンタマール家に助けてもらったという老人の所有するアパートメントの一室を安く借りて生活している。
アズサとオードリューは地方貴族サンタマール家にお仕えしていたメイドと執事であり、サンタマール家が没落した今もアンナに仕え、一緒に生活しているのだ。
「わざわざ喫茶店で待ち合わせるのですか?」
アズサは首を傾げ、薄桃色の丸い瞳をテーブルの向こう側に座るアンナに向けた。
このときの時間は朝の7時、老人から借りているアパートメントの一室で四人用テーブルを囲んで三人で朝食を食べながらの出来事である。
ちなみにテーブルの席はアンナの向かい側にオードリュー、そのオードリューの隣にアズサが座っている。
「ええ」
「なぜです?」
「それはね……」
アズサの問いにアンナは中々答えようとはしなかったが、アズサはそれに焦れることなくアンナを凝視していた。
(楽しそうに答えを焦らすお嬢様もまたいいものです……!)
(……またお嬢様に萌えているのか、こいつは)
頭の中をお花畑にしながら凝視しているアズサにオードリューは呆れた様子でため息を吐く。
「ごちそうさま、仕事に遅れてしまうからもう行くわね」
そんなアズサやオードリューの内心を知ってか知らずか、アンナは朝食を食べるとバックを持って玄関に向かう。
「お嬢様?」
いつものアンナは焦らしても必ず答えをくれているため、アズサはアンナに声を掛けた。すると玄関のドアを開けたアンナは振り向きざまに答えを放った。
「さっきの問いだけど……二人に会わせたい人がいるの」
「え?」
「は?」
「待ち合わせ、遅れないでね」
ガチャン
アンナは二人の呆然とした声に「ふふっ」と笑みを零した後、すぐに扉を閉めて仕事に向かったのだった。
この後、アズサはショックで気を失って倒れたが、オードリューの容赦ないゲンコツによって文字通り叩き起された。
その後、アズサもオードリューも仕事があったが、ショックを受けたアズサの状態では仕事はできないだろうと判断したオードリューがアズサの仕事先に出向き、アズサの休みを伝え、そして、自身はそのまま仕事に向かった。
そして仕事が終わった後、家に戻って未だ茫然としているアズサを朝と同じ方法で叩き起し、喫茶店に連れてきたのである。
アズサが喫茶店のボックス席で自分の覚悟のなさを叫んだ瞬間
カラン
喫茶店のドアベルが音を鳴らした。
アズサは肩をびくりと上下に動かすと恐る恐るドアに目を向け、オードリューはそんなアズサを呆れた目で見ると、同じようにドアを開けた人物が誰かを確認した。
「待たせてごめんなさい。この人が緊張するというものだから」
「ああ、ハニーの家族への挨拶だからな、どうしても緊張してしまうのだ」
ドアのところにはいたのは二人の大切なお嬢様アンナと……そのお嬢様に微笑み掛けながら仲良く、恋人繋ぎで、手を繋いでいるのは、若くても40代前半にしか見えない金髪碧眼の男だった。
「「……」」
アズサはアンナの相手はどんな男なのだろうか、どんな男だったら認められるかを今日の衝撃的な朝からずっと考えていた。
(でも、でも、こんな!)
オードリューは没落したとはいえ、地方貴族サンタマール家の執事としてサンタマール家長女のアンナに近づく男は自身が見極めなければと考えていた。
故に、どのような男でも相手の本質を見抜く対応が出来るよう頭の中でシュミレーションしていたのだが
(これは予想外だ)
(まさかこんなおじさんを連れてくるなんて!)
(まさかこんな中年を連れてくるとは……)
二人は気がついていなかったが、お互いの内心はぴったりと一致していたのだった。




