03
反抗の意志すら持たず、主の命令に従って動く天使は、その任務に必要な情報を集めるためだけに会話を成り立たせようとしているようだった。
感情を知らない声だ。こればかりは、長く付き合わなければどうしようもないことなのだが、シルヴィからすれば長い付き合いになること自体を断りたいところだった。
問いには無視を決めこもうかとも思ったが、それでは駄々をこねる子供のようだ。青と白の色彩から目を反らし、金髪碧眼に向きなおる。
「北の島国に」
「……北?」
怪訝そうな表情を作るフェリクスに、シルヴィは彼の背後ろを指さして応える。
フェリクスが振り返って視線をやった先には、一隻の帆船が浮かんでいた。若干距離は離れているものの、その巨大さはアンブシュールの港にあって一際目立っている。
「前に、話を聞いたことがある。……まぁ、それだけの理由なんだが」
北にある島国が、どんな状況にあるのか。シルヴィは全くと言っていいほど知らない。
しかし、村で聞いた「村以外の土地の話」で印象に残っていたのは、すぐ近くにあるという港町・アンブシュールと、そこから船に乗って向かうことができる異国だけだったのだ。
家族も、家も、村もなくしたシルヴィに、これといったツテはない。であれば、なんとなく聞いたことのある土地に行ってみるのも手だろうと思えたのだ。
「金はあるのか?」
「天使も俗なことを言うんだな」
シルヴィは軽い調子で返し、
「……船乗りの一人に勝ってみせるから、用心棒として雇えと言ったんだ。海の上にも賊はいるらしいからな」
「それは──」
「〈悪使い〉になる前から、村の中で最強を目指していたんだ。殴りかかってきた大人を投げ飛ばすくらいはたやすい」




