02
「私は主の意志に従い、任務を遂行するだけだ。意図はない」
「教会のない村で、〈悪〉に怯える人間を助ける役目はないのか?」
「主の望むことではないからな」
平然と言ってのける天使に、シルヴィの眉根が一気に距離を縮める。
アンブシュールなど、ある程度の人口があり交通の便がある場所であれば、教会があったり、あるいは巡礼の聖職者が訪れる。そうであれば人々は〈天使〉の加護を受けることができるのだが、教会もなく聖職者の巡礼ルートにも入っていなければ〈悪使い〉に頼るしか道はない。
主どころか天使、人間すら知っている、世界にはびこる格差は、創造者である主によってもたらされている。
それが、シルヴィには気に食わない。とはいえ主に従うだけの天使に当たっても、なんら意味はない。
「……気に入らないな」
苦々しく吐き捨てるだけにとどめ、シルヴィは頭の後ろに手をやった。指ですこうとした髪束はなく、おろしたままの髪は思いのほか短い。空振りしたような感覚を何度も味わっているが、シルヴィはいまだに短い髪に慣れることができていなかった。
しかし、仕方ない。それに後悔もしていない。血によって傷みすぎたうえに、〈悪堕ち〉との戦闘中、かわした攻撃が髪を引きちぎったこともあった。そのままにしておくのは、あまりにも不恰好すぎる。
「拒絶は無駄だ。諦めろ」
「こっちの身にもなってみろ。と言いたいところだが、理解しないだろうな」
諦めのため息を吐きだし、シルヴィは海へ目を向ける。
青い空と海、白い雲と波。赤と黒とは正反対の色彩が、そこには広がっている。内陸育ちのシルヴィにとってこの景色はこれ以上なく新鮮なものだったが、天使に監視されることが判明してしまった今、純粋に楽しむことなどできそうになかった。
「それで、人間。これからどこに向かうつもりだ?」
フェリクスが問う。




