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1ー5 警報


 昨日イーターが現れた場所に着いた結は何か痕跡が残っていないか捜すべく辺りの探索を始めた。


「特に変わったことはないか」


 あの中型イーターが人為的に送り込まれた物だとすると、あの中型イーターが最初に現れた場所には、何かの違和感があると思い、ここまで来ていたのだ。


  恐らくここはすでに生十会が調べたと思うが、念のために自分自身の目で確認しに行ったのだか結局は無駄骨に終わっていた。


「あら、奇遇ね」


  探索も終わり若干の疲れを覚えその場に座って休んでいた結に後ろから声を掛けたのは会長だった。


「会長?こんなところにどうしたんですか……って聞くまでもないか」


「えぇ、ここをもう一度調査しに来たのよ。音無君と同じでね」


  どうやら会長も結と同様、ここになにか仕掛けられていないかを再度確認しに来ていたようだ。


「その顔を見ると何も見つからなかったようね」


「まぁな」


  その後会長と二人で再度確認をしたのだか結局何も見つけることはできなかった。


「結局なにも見つからなかったわね」


「そうですね」


「会長、あっついでに病人、ここにいたのですね」


  結に軽く喧嘩を売りつつやってきたのは生十会副会長、会長美花の忠実なる副官、柊六花だった。


「誰がついでた誰が」


「……ふっ……会長、そろそろ歓迎会が終了しますお戻りください」


「おいっ今俺見て笑ったなっ!!」


「そう、もうそんな時間なの、なら戻るわよ。音無君もムキになってないで戻るわよ」


「ちょっ、引っ張んなよ」


  出会い頭に六花に喧嘩を売られ、抗議をしようと声をあげるが、二人に完全にスルーされる形になってしまい、しまいには会長に腕を掴まれ強制的に連行される形になった結と会長の後ろを静かに歩く六花達三人は歓迎会の会場に向かうのであった。


「はーなーせー」


 結の叫びは虚しく響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  三人が着いた時にはすでに歓迎会は終わっていたらしく、ガヤガヤと騒ぎながら生徒達は教室へと向かって行っていた。


「すでに終わってしまったようですね」


「そのようね、問題はなかったみたいだし良かったわね」


「そんな雑でいいのか会長?」


「いいの、いいのっ。ほらっみんなと合流するわよ」


  会長は誤魔化すように結達を急かすとさっさと一人でみんながいると思われる生十会室へて戻って行った。


「……はぁー……六花、ぼーっとしてないで会長追いかけるぞ」


  その場に立ったまま、遠い目をしてぼーっとしている六花の頭を軽く小突くと、六花は恨めしそうに濡れている目で睨みながら結に小突かれた頭を両手で押さえていた。


「……そういえば」


「ん?なんだ」


  結が会長を追いかけようと歩き出した途端、六花が頭を押さえていた両手を下ろしながら思い出したかのように呟いた。


「すでにあなた自身、会長を追いかけることについてまったく疑問を思っていませんね」


「……あっ」


「もう、入会すればいいのではないですか?」


「……うるさい、ほらっさっさと行くぞ」


「……クスクス……そうですね」


  結はすでに自分が違和感なく生十会の仕事をしようと会長を追いかけようとしていることに恥ずかしくなると同時に悔しく思っていると、六花はそんな結を面白いものを見るように眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「戻ったわよっ!!」


「はぁー」


「ただいま戻りました」


  会長は生十会室に着くなり勢い良く扉を開くと元気に挨拶をしつつ自分の席に座った。


  六花とのやり取りで地味に疲れていた結は元気なさそうにすでに定位置の席となっている自分の席に座るなり、まるで力尽きたかのように机の上に突っ伏していた。


  反対に六花は自分の席に姿勢良く静かに座っていた。


(なんで六花が会長じゃないんだ?)


 なんというか、いつも雑でどこか子供っぽい 会長よりも、言葉使いも丁寧で常に冷静な六花こそ会長になるべきだったのではないかと疑問に思うのであった。


「今日はなにもなくて良かったですぅ」


「そうだねぇ」


  昨日とは違いまさしく平和と言ってもいい今日に感謝している日向兄妹。


「あたしとしてはイーターとやりたかったんだけどなー」


  机に体を預けながらなにやら物騒な事を言っている桜。


「グハハ、平和で良いではないか」


  その頑強な肉体や初対面時に喧嘩を売ってきた割りに平和好きらしい剛木。


「……退屈……」


  ただ単純に眠たそうな目をしている陽菜。


「確かに暇だよな」


  同じく退屈そうに頬杖をついている鏡。


「……」


  無言で器用に幻操術の『凍結』で氷の置物を作っている六花。


「ふんっふふん、ふんっふふん」


  楽しそうに鼻歌を歌いながら法具っぽい剣を磨いている会長。


 っとまるで責任ある学年のトップ集団とは思えない面々を行動を眺めている結だった。


「……って、なんでこんなに和んでるんだよっ!!」


「なによ、うるさいわね」


  結の訴えに対して先程の楽しげな雰囲気と一変して機嫌悪そうに答えたのはもちろんのこと会長だった。


「いやいや、うるさくないだろ!!なんでこんなに和んじゃってんだ!?」


「はぁー、和んでるんじゃないわよ、あたし達幻操師の実力は心の強さとまで言われてるのよ、術師は基本的に心に負荷をかけ過ぎることが多いのだからこうして思いっきりリラックスすることで心に安らぎを与えるのよ」


「それに今はゆっちの倒したイーターについての報告書を六花が書いてるからあたし達は暇なんだよね」


  結はイーターと戦った後に十分な休息をとっていたが、どうやら他の者にそんなものは無かったらしい。


 だから今、六花が報告書を書いてる間に休んでいるらしい。そんなふうに結の疑問に答える会長と桜だったが


「桜、ゆっちってなんだ?」


「音無結でしょ?だから結からとってゆっちOK?」


  こうしてこれから結は桜からはゆっちというあだ名で呼ばれるようになった。


「もう一ついいか?」


「なに?どうしたのゆっち?」


「六花の何処が書類を書いてるって?」


 結がそう言うと、同時に皆の視線が六花に向かっていた。


 皆の視線が集中している当の本人はというと


「うーむ。今回は細部の仕上がりが微妙ですね。やはり私もまだまだですね……あれ?皆さんどうしたのですか?」


 六花は『氷結』で作った蟹の置物を大事そうに両手で持って、真剣な目付きで色々な方向から細部の確認をしては、はぁーっとため息を交えつつ愚痴を漏らしていた。


 六花は皆の視線が集まっていることに気が付くと、無垢な顔で首を傾げていた。


 六花以外の皆が視線を合わせ、目線だけで会議を開くと、代表として会長が口を開いていた。


「六花?結が討伐した、中型イーターについての報告書はどうしたのかしら?」


「それなら既に会長に渡したはずですが?」


「えっ?」


 六花の言葉に、会長は本気で驚いた表情になると、次の瞬間、真っ青になっていた。


「会長、まさか……」


 会長の様子がおかしいことに気付き、桜が会長にそう声を掛けると


「あっ、あぁー。あれねっ!そ、そうだったわねっ!あたしったら忘れていたわ」


 慌てながらそう言う会長に、皆が疑念の込めた視線を送っていると、観念したのか会長は沈んだ表情で小さく「ごめんなさい」っと言った。


 どうやら会長は、イーター出現時の違和感をずっと探していて、途中で六花に渡された報告書を何処かにやってしまったらしい。


「はぁー。仕方がありません。また一から作ります」


「ごめんなさい。六花」


「いえ、内容は覚えていますので、問題ありません」


 六花曰く、会長のミスは副会長がフォローするべきなのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それじゃ本日の生十会終了、散っ!」


  会長の言葉を最後に本日の生十会は解散となった。


 結局、会長のミスは副会長である六花のフォローによって無事解決していた。


 結は楓やイーター討伐以降仲が深まった日向兄妹、同じクラスの桜の四人と帰りを共にするようになっていた。


「へぇー。結って幻工師目指してるんだー」


「あぁ、四人とも知ってるだろ?俺の幻操師としての才能は低いからな。幻工師なら優秀な知り合いが多いからな、昔そいつらから色々学んでいたんだよ」


「結君も幻工師志望だったんですねっ!僕も幻工師志望なんですよっ」


「私の法具は昔からお兄ちゃんに調整してもらってるですっ!」


 春樹は自分と同じ進路を目指している人に出会って嬉しいのか、とても生き生きとしていた。


 兄が元気になって嬉しいのか、真冬もまた、その場でピョンピョンと飛び跳ねていた。


 日向兄妹は、二人とも同じタイプの法具を使っていたが、どうやらその両方が春樹の改造が入っているらしい。


(どうりで見覚えの無いモデルだと思った)


 元々は既製品だったブレスレット型の法具を、春樹が色々と改造しており、既製品よりも式の展開が早くなっており、同じ式の連続発動が高速化されているらしい。


(確かに、あの蟹型と戦っていた時の春樹は、連続性に優れていたな)


 結は中型イーターとの戦いを思い出し、この年齢でここまでの技術力を持っている春樹に感心していた。


 どうやら春樹はここまでの技術力を、全て独学で手に入れたらしい。


(これもまた、才能か……)


 結は春樹の才能に、少しだけ、嫉妬の念を向けていた。


「結は自分で法具を作ったりしてないの?」


「そうそう、ゆっちも幻工師目指してるんなら、ハルッチみたいに改造したやつとかないの?」


 桜の言う、ハルッチとは恐らく、というか十中八九春樹のことだろう。


 桜のネーミングセンスから嫌でも分かってしまった結は、あえとそこに触れないようにしていた。


「あるにはあるぞ?」


「本当ですかっ!今後の参考に見せて貰ってもいいですか?」


「あー、悪い。それは出来ないんだ」


「どうしてですぅ?」


 断られると思っていなかったのか、春樹は目をまん丸にしていた。


 声が出せないでいる兄に変わって、真冬が理由を聞くと、結は気まずそうに頬を掻いていた。


「俺は春樹と違って、幻工師としての師匠がいるからな。門外不出の技術もあったりするんだ」


 結の説明に納得した日向兄妹は、「なるほど」っと頷くと、「それなら仕方がないですね」っと綺麗に諦めてくれていた。


  結たちがそんな雑談をしながら歩いていると、どうやら揉めているらしい二人の男子生徒を見かけた。


 ただ喧嘩するだけならそれもまた青春ということで放置するのだか、どうやら二人共、頭に血が上っているようで法具を起動し幻操を使った喧嘩を始めようとしていたため結達は止めに入ろうと駆け寄った。


「こらっ!幻操を使った喧嘩は校則で禁止してるわよ。二人とも辞めなさいっ!」


「うるせえっ!」


  桜の注意に逆上した男子生徒の内、携帯型法具を構えた一人がターゲットを桜に変えて術を発動しようとした。


「遅いっ!」


  結が止めようとするがそれを手で遮り、駆け出した桜は、袖からナイフ型の法具を取り出すと剛木も使っていた『身体強化』を一瞬で発動していた。


 桜は『身体強化』によって男子生徒との距離を一気に詰めると、ナイフを一振りし相手の持つ携帯型法具を弾き飛ばしていた。


 桜は続けて、一瞬のことで呆然としている男子生徒の喉にナイフをそっと突き付けると、小さく「動くな」っと警告をした。


「ひっ」


「ガーデン内における幻操の不正使用によって二人とも捕縛するわ」


「お、俺は発動してないぞっ!?」


「法具を構えているから同罪よ」


「そんなー……」


  桜はテキパキと二人の両手を鋼糸こうしを巻き付けで固定すると、一瞬でやられてしまい意気消沈している男子生徒の肩をポンポンと励ますように叩いた。


「そんな落ち込まないでよ、まだまだあたしたち若いんだしさっ!晩熟型だけなのかもしれないし、これから伸びるさ」


「……はい……」


「……」


  自分を負かした本人に励まされて、逆に落ち込んでしまった男子生徒を、さっきまで喧嘩していたもう一人が励ますという、ちょっぴりおかしな光景がそこにあった。


「それじゃあたしはこの二人を教務科に渡してくるから四人は先帰ってて」


「わかった」「ん、了解」「わかりました」「わかりましたです」


 四人がそれぞれ返事をすると、桜は「それじゃっ。また明日ねぇー」っと二人を連れて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  結と楓が生十会の皆と行動を共にするようになってから、さらに二日が経っていた。


「失礼しまーす」


  すでに、何度来たかわからないほど、毎日きている生十会室に結たちはまた呼ばれていた。


「今日来てもらったのは他でもないわ。歓迎会が終わって二日、生徒の様子がおかしいの」


「そうだね、なんかイライラしてる感じ?」


  実際二日前桜は喧嘩してる二人を教務科に連れてるし、どうやらこの二日間で他にも同じ様な事例が幾つかあったらしい。


「とは言っても原因もはっきりしねえし取り敢えずは保留でいいんじゃねえか?」


  鏡の言う通り、原因がわからないままグダグダ言っても仕方がないとはいえ、このままではガーデンの治安が悪くなってしまうそのため


「生十会としては直接的なことはせずに取り敢えず、今はガーデン内の見回りの強化ね」


「とはいえ僕達は八人ですよ?流石に中等部二年の領域だけでいいとは言え全部は広すぎじゃないですか?」


「グハハ、結と楓を忘れてはいかんだろ。つまり十人だ」


「いや、音無と楓は会員じゃねえからな?」


  会長の案は純粋な警戒の強化だ。


 原因がわからないためどうしても受け身になってしまうのたが、受け身になったとしても迅速に動くための見回りの強化に決めたのだろう。


  しかし、春樹が言う通り、中等部二年が主に使う場所だけで、他は他の学年でも警戒するだろうからいいが、それでも生十会は人数が少ないため全てをカバーするのは難しい。


  そして剛木はなんというか完全に結たちを会員だと思っているらしい。


 六花は生十会の会長がアレなため、書類関係の雑務を全て請け負っているらしく、今は動けないらしい。


「七人じゃ流石に無理かもね」


「俺はただ働きは嫌だぞ」


「結が参加するなら参加するってことで」


  会長が結に目で手伝ってと訴えてきたので結は自分の意思を表明した。


 楓は交渉さえも、面倒なのか、投げやりにそう言うと、テーブルに突っ伏していた。


「そう、なら二人に依頼するわ」


「ん?」


「だ、か、らっ!ただ働きが嫌ならあたしからの依頼としてお願いするわ。報酬は後で要相談ということで、どう?」


  結にとって会長の提案は悪くないものだった。


  生十会の会長に恩を売るのは結にとって有益だし、なにより生十会には世話になっている。ただ働きは御免だが報酬があるなら手伝ってやるのもやぶさかではない。


 なにより。


「お願い……」


  可愛い女に頼まれて断る奴は男じゃないってか


「わかった。手伝うよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  生十会会長からの直々の依頼によって、正式に生十会の手伝いをすることになった結と楓は取り敢えず、今回、結は桜とペアを組むことになり桜と二人、ガーデンの見回りをしていた。


「いっそのこと入っちゃえばいいのに」


「やだね。会長は俺の事多用するつもりだからその度に報酬もらってやる。今回は後から渡すと言われたがなにくれるんだろ?」


「法具とかじゃない?会長いっぱい持ってそうだし」


  依頼の報酬は会長との相談の結果、結の働きに応じて、後から貰えることになった。


(なに貰えるかは秘密って言われてるし。まぁそれなりのものが貰えればいいけどな)


「法具ならまぁそれはそれでいいけどな」


 結が歩きながら、体を伸ばし欠伸をしていると、ガーデン内に音が鳴り響いた。


 それはイーターの出現を表す警戒警報だった。


「警報っ!?」


 ガーデン内に鳴り響くのは前回同様イーターの出現を表す警戒警報だった。


「桜行くぞ」


「うんっ!!」


  結達二人は即座にそう判断すると、辺りにちらほらと見える生徒達に避難するように声を掛けながら、イーターの力が感じられる方に向かって走り出した。


 しかし


「えっ!?」


 二度目の警報が鳴り響いた。


 それは二度で終わらず何度も何度、最初のを合わせて計六回もの警報が鳴り響いた。


 それはつまり


「六体同時!?そんなのありえない!?」


「くそっ!発生したとこの近くには丁度他のメンバーがいるところだな」


  生十会と結と楓の十人は二人組になって、それぞれ離れた場所で警戒していた。


 それと比べてイーターは恐らく他のメンバーがいるだろう地点に丁度よく一体ずつ、そして結達の近くには二つ少し離れて現れていた。


 まるで誰かに操作されているような運命のイタズラだ。


「結なら一人でもやれるよね?」


「あぁ当然だ」


「ならあたし達は二手に別れてそれぞれやるよ」


「了解っと」


  結と桜は即座に方針を決めると二人は別々の方向に走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「見つけたっ!!」


  桜と別れてから数分、結は修練場に佇むイーターを発見していた。


「またかよ!?」


  ここにいる生徒はすでに避難が終わっているらしく、人っ子一人いなかったが出現したイーターは前回同様、今回も中型イーターだ。


 五メートルにも及ぶ鱗に覆われた細長い姿、チョロチョロと伸びる舌。


「まるで大蛇だな」


  蛇独特の波打つ様な移動は結が想像しているよりもずっと素早く、蛇型イーターの噛み付く攻撃をただ避けるだけで精一杯の防戦一方の戦いになってしまっていた。


(こいつを俺が倒さなきゃ一番近い桜が不利になる、それだけはだめだ……守るんだ)


  結は覚悟を決めると両目を瞑りながら両手を合わせた。


(こいつは速い、とりあえずカナで行くっ!!)


『ジャンクション=カナ』


  結が目を開けるとそこにあるのはいつもの結の目じゃない、冷静な戦士の目だ。


「……まずは動けなくする」


  結は両手を胸の前でクロスさせるように構えるとその手にはあの時にも使った純白の銃が握られていた。


『火速』


 結は まず、火速弾による高速移動を連発し、蛇型イーターを中心にして、その周りをグルグルと移動し続けるように宙を飛んでいた。


「……手始め」


  結は片方の拳銃の回転弾倉(リボルバー)を回し、弾を変更すると、今度は片手で火速弾による高速移動しながら、もう一方の手で剛木との模擬戦で使った衝撃弾を連射していた。


  結が撃った衝撃弾は、いとも簡単に全て蛇型イーターには避けられてしまっていたが、結は表情を変えることもなく、むしろその顔は微かに笑っているようにも見えた。


  結の撃った衝撃弾はその名の通り強い衝撃力を持っている弾だ。


 結は元々はこの弾で蛇型を仕留める気はない。


 衝撃弾を蛇型イーターを中心にして、大きめの円をなぞるように連続して撃ち込んでいた。


 衝撃弾から発生される強い衝撃によって、衝撃弾が着弾した地点はまるで小さな隕石でも落ちてきたかのように、丸く抉れていた。


 それを円状に作ればどうなるだろうか?


  結果。


「……動けないでしょ?」


  蛇型イーターを中心にしてその周りに大きな溝が出来上がっていた。


  その深さは軽く十メートル以上あり結の撃った弾数は軽く一○○を超えていた。


 一○○を超える弾をこれほどの短時間で正確に速射する拳銃のテクニックこれこそカナの実力だ。


 そして、リロードを必要とせずに、様々な弾丸を使い分けることの出来る法具【女神の二丁拳銃(イクス・ダガン)】の力だ。


 六六六の未知(イクスモデル)全てについている【イクス】と、二つを意味する英語【ダブル】。


 銃を意味する英語【ガン】からとって【女神の二丁拳銃(イクス・ダガン)】だ。


「……終わらせる」


  結は両手で同時に火速を使い、蛇型イーターの遥か上空まで飛び上がると、動けなくなっている蛇型に向けて、二丁の標準を向けると、二丁の銃口の間に多量の幻力を集中させていた。


  その力はだんだんと、白く輝く球体となって行き、その姿はまるで小さな月の様だった。


六月法(りげつほう)弾月(だんげつ)


  術の発動と同時に、二丁拳銃の間に作られていた純白の光球は、弾丸の如く、拳銃から放たれていた。


  放たれた光球は、結の作り出した大地の切れ目によって、動けなくなっている蛇型イーターに直撃し、盛大に土煙を撒き散らしていた。


「……ばいばい」


  結が冷たい視線を向けているなか、土煙が消えた時、そこに蛇型イーターの姿は既に存在していなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  一方、前回の戦いでは、惨敗という残念な結果になってしまっていた日向兄妹の目の前には中型……ではなく小型イーターが出現していた。


 一見小型=最下級と思ってしまうが実際には違い下から小型、中型、大型、超級、滅級、神級と呼ばれる六の階級のことを纏めて上位イーターと呼びこれらは全てゲームで言うところのボスのようなものだ。


 本来、幻操師が戦うのはこれよりも下の下位イーターと呼ばれるものであり、小型といえどその力は並の幻操師では太刀打ちできないほどだ。


「真冬やれる?」


「もちろんです!!お兄ちゃん!!」


  二人の前に現れたのは体長二メートル程度の熊の形をした小型イーターだった。


 小型や中型だなんていう呼ばれ方から大きさでその力を計っているように見えるが実際に計っているのは姿ではなくその身の中から溢れ出す幻力の量でその個体の力を計っている。


  小型イーターは一つ階級が上の中型イーターの持つ力よりも随分下回るとはいえ、その両手にはまるでナイフのように鋭く伸びている、存在感の強い、鋭利な爪が生えていた。


 万が一でも、あれで引き裂かれるようなことがあれば、たとめ体内の幻力によって、無意識的に肉体が強化されている幻操師とはいえ、一瞬で終わってしまうだろう。


「いくです!!『氷牢』」


  真冬は【氷属性】の基本術、『牢』シリーズの【幻操術】『氷牢』を発動していた。


 真冬の氷牢が熊型イーターを囲うように展開するが、熊型の爪による一振りでいとも簡単に壊され、粉々にされてしまっていた。


「なら、これでどうですかっ!!『嵐牢(らんろう)』」


  発動したのは【嵐属性】の『牢』シリーズ。


 荒れ狂う嵐による牢獄が、熊型イーターを覆い捕らえていた。


  真冬の『氷牢』を壊したように、その自慢の爪で牢獄を切り裂き、その場から脱出しようとする熊型イーターだったが、氷を一瞬で切り裂いた、自慢の爪を持ってしても、嵐を切り裂くことは出来ずに、嵐の牢獄の中から脱出できないでいた。


「今度は私がいくですっ!!!『氷弾(ひょうだん)(しん)』」


 『嵐牢(らんろう)』から 脱出しようと、周りへの警戒が著しく落ちている熊型イーターの隙を逃さずに、真冬は『嵐弾』の氷版、『氷弾』を連続発動した。


 真冬や春樹が使っている【幻操術】は、全てが基本術に分類されている術だ。


 【幻操師】の資格を持っているものには無償で公開、及び提供されている式であり、基本術にも


 発生地点と、着弾地点を設定して、弾丸のように飛ばす『弾』シリーズ。


 発生座標を立体的に指定し、対象者の周囲に、まるで牢獄のようなものを作り出す『牢』シリーズ。


 発生座標を平面的に指定し、その後に高さを追加指定することによって、最初に指定した部分から追加指定した分だけの柱を生み出す『柱』シリーズ。


 必要な大きさで発生規模を設定し、その後発生させた現象を固定、維持することによって、即席の刀剣を作り出す『剣』シリーズ。


 『弾』シリーズのように、勝手に飛んでいく機能を犠牲に、まるで手榴弾のように扱う『爆』シリーズ。


 指定した範囲に、指定した量の圧力が加わることによって、属性を伴った爆発を起こす『地雷』シリーズ。


 主に防御用に使われることの多く、『柱』シリーズとは違い、幅の広い突起物を作り出す『壁』シリーズ。


 『剣』シリーズと似ているが、固定をしないことによって、まるで鞭のようにしなり、拘束に使われることが多い『縄』シリーズ。


 体内を巡る幻力によって、いつも無意識的に行われている身体強化を意図的に活性化させ、身体能力を上昇させる『速』シリーズ。


 などと、九種類があるのだ。


 それだけでなく、『弾』シリーズ一つをとっても、着弾後に小規模な爆発を起こす『弾・烈』や、小さな弾を一度に何発もばら撒く、まるで散弾銃のよう『弾・散』などと、多くの種類に分かれている。


 今真冬が発動したのは、『弾』シリーズの発展系『弾・針』シリーズだ。


 通常の『弾』よりも、細く、まるで針のような形状をしている『弾・針』を使って、真冬は春樹の嵐牢によって氷弾が弾かれないように、春樹が『嵐牢(らんろう)』を操作して作ってくれていた、氷弾の通り道を通して、全弾を熊型イーターに見事命中させていた。


 氷弾のスピードは拳銃の速度を遥かに超えたの速力があり、幻力によって動体視力を含めた全ての身体能力が強化されていると言っても、弾速とそれを見る目、両方が同じだけ強化されているため、その軌道を目視した後に道を作ろうとしても本来は不可能だ。


 難易度的には、幻理世界の拳銃の弾を見切るようなものだ。


 しかし、この兄妹は並のコンビには真似出来ないほどの連携技を繰り出していた。


 これこそこの二人、生十会役員、日向春樹と日向真冬、本当の実力だ。


「やったかな?」


  春樹がフラグを建てていたが、真冬の術は通常の氷弾ではなく針のように鋭く、貫通力が高められている応用系だったため、どうやらとどめを刺すことが出来ていたらしく、熊型イーターはその姿を徐々に消していっていた。


「よかったですっ!!倒せました!!」


  日向兄妹は仲良さげに向かい合い、それぞれの両手を合わせるとその場で何度も飛び跳ね上位イーターを倒したという、感動と嬉しさ一杯な気持ちを全身で表していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  会長と鏡ペアのところには中型イーターが現れていた。


「あら、中型といったところかしら」


「そのようだな」


  二人の前に現れたのはカマキリの姿をした、体長三メートルほどの中型イーターだった。


「いくぜっ!」


 鏡は手の甲の部分に法具としての機能を取り付けられている、グローブ型の法具を右手に着けており、機関部分に幻力を注ぐことによって、法具としての機能を起動すると、早速【幻操術】を発動していた。


「『土柱(どちゅう)(しん)』」


 グローブを着けた右手を、地面に叩きつけながら術を起動すると、カマキリ型イーターの足元からたくさんの錐状の突起物が現れ、カマキリ型イーターの全身に、たくさんの風穴を開けていた。


「『炎剣(えんけん)(てん)』」


  会長は懐から愛剣を抜くと、両手で上段に構え、幻操術を発動した。


  術の発動と同時にその刀身は荒ぶる炎を纏い出していた。


 そして会長が炎の剣を構えカマキリ型イーターに踏み込みその剣を振り下ろすと


「ひゅー。相変わらずすげぇ威力だな、会長の『炎剣(えんけん)(てん)』は」


 カマキリ型イーターは真っ二つになり消えていった。


「まぁ、所詮中型、こんなものね」


「所詮って言うけどよー、中型って言ったら、Aランクだろ?Bランクの俺より上なんだが」


「そんなことないわよ。今の鏡は少なくともAランクの実力はあるんじゃない?あたしがいなくても、一人でどうにか出来たわよ」


  会長の言葉に、鏡は「そうかねー」っと言いながらも、満更でもない様子で、若干口元か緩んでいた。


「他は大丈夫かしら?」


  そんな鏡を無視し、会長は他のイーターと戦っているはずの他のメンバーを心配していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  剛木、陽菜ペアのところにも中型イーターが現れていた。


「グハハ、中型か。上等だなっ!!」


「……無駄口いらない、早く片す」


「グハハ、そうだな」


  中型イーターの出現に対して喜ぶ戦闘狂の剛木を、陽菜が静かに叱りつつ、二人は戦闘態勢をとっていった。


  対峙する中型イーターは八本の足を持つ対峙二メートルの蛸の形をしていた。


「グハハ、俺からいくぞっ!!『身体強化』」


  剛木は始まって早々に剛木の十八番おはこ身体強化を発動させたていた。


「……ふぅ」


  荒々しく力を強化していく剛木に対して陽菜は懐から苦無を取り出すと息を吐き出し全身の力を抜いていき脱力をした。


  脱力している陽菜を隙だと思ったのか蛸型イーターは足を二本陽菜に向かって伸ばした。


「ふんっ!!」


 剛木は強化されたその超人的な膂力を使い、一瞬のうちに陽菜の前まで移動すると、迫り来る二本の足のうち片方を両手でがっしりと掴むと力任せに引っ張っていた。


「ふんっ!!」


 剛木が両腕に力を込めると、あろうことかそのまま蛸型イーターの足を、素手で引き千切っていた。


「……はっ」


  対して、迫ってくふもう一本は、陽菜の小さな掛け声と同時に振るわれた陽菜の手に握る苦無によって、蛸の足はあまりにもあっさりと切り飛ばされていた。


  剛木は蛸型の足を引き千切るとすぐに体勢を立て直し今度は本体に向かって突進した。


「おらっ!!」


  蛸型イーターに急接近した剛木は目前に踏み込むと右腕を引き、全身の力を込めて振り抜いた。


  蛸型イーターは残りの六本の足で本体を守ると剛木の一撃によって六本とも消し飛んでいた。


  足を切り落とした後、空中に飛び上がっていた陽菜は苦無を右手で逆手に持つと思いっきり左側に腕を伸ばすと苦無に幻力を込め始めた。


「……とどめ」


  陽菜がさらに力を込めると今度は苦無の刃が電撃を纏い始めた。


「……『雷剣(らいけん)(てん)』」


  術の発動と同時に苦無が纏っていた電撃が急激に量を増し放電するように伸びそれはまるで雷の刀身となっていた。


  陽菜は蛸形イーターの真上から一直線に下降すると一閃、苦無を振るった。


 ヒットの瞬間、あたりに激しい電撃が撒き散らされ、同時に盛大に土煙を撒き散らしていた。


「グハハ、終わったな」


  土煙が晴れたそこには電撃によって感電し、丸焦げとなった蛸形イーターが消えていく姿があった。


「……他の増援行く」


「グハハ、他の連中なら問題ないだろう、音無も十分な実力の持ち主だからな」


「……念のため」


「む、そうだな」


  イーターの討伐が終わり、休もうとする剛木だったが陽菜の提案によってそのまま他の増援に向う二人だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 六花が書類整理のせいで、外に出れなかったため、六花と組むことになっていた楓は、一人で現場に向かっていた。


「あーぁ。一人なんてツイてないなー」


 楓は愚痴を漏らしながらも、全速力で現場に向かっていた。


 楓の移動スピードは余りにも早く、見た目は走っているよりも、スキップをしているように見える。


 何故なら、空中にいる時間が余りにも長いのだ。


 片足で地面を蹴ってから、もう片方の足が地面を蹴るまでに、その距離は一○mを容易に超えていた。


 楓のスピードがここまで速いのは

、たが単に幻力による身体強化の恩恵だけではない。


 楓は足が地面に着くと同時に、小さな『氷柱』を足元で作り出していたのだ。


 つまり、楓は一歩走るごとに、『氷柱』によって足を押してもらっていたのだ。


 もちろん、その難易度は決して低くない。それどころか、だいぶ高い技術だ。


 やはり、天才はどこまで行っても天才なのだろう。


「いたっ」


 車の全速力に近いスピードで走っていた楓は、とうとうこの【F•G(ファースト・ガーデン)】に侵入してきたイーターの一体を発見することが出来ていた。


「中型ね……面倒だなぁー」


 そこにいたのは、鹿の姿をした中型イーターだった。


 頭には二本の巨大な角が生えており、あの角で突かれたりしたら、相当のダメージをくらってしまうだろう。


 楓はそんなことを考え、鹿型をどう倒すか分析していた。


「んー、めんどい」


 楓はそう言いながら、分析を放棄すると、無防備な状態で一歩、また一歩と、鹿型イーターに向かって歩いていた。


 鹿型イーターが楓に向かって威嚇をするが、楓はそれらを一切無視し、鹿型に向かって歩いていた。


「はぁー。ぶっちゃけ、一人で良かったかもね」


 楓はため息をつきながらそう呟くと、唐突に左手を上げていた。


 突然上げられた楓の左手は、小指と薬指は曲げられており、人差し指を真っ直ぐと伸ばし、中指と親指は指の平を重ね合っていた。


「そのおかげて、あんたは楽に死ねるよ」


 楓が左手をパシンと鳴らすと、同時に目の前にいた鹿型イーターは、氷の彫刻へと姿を変えていた。


 楓はそのまま氷の彫刻となった鹿型イーターに近付くと、指でチョンと押して、氷の彫刻を倒していた。


 氷の彫刻は倒れた衝撃でバラバラになってしまい。次の瞬間、綺麗さっぱり消滅していた。


「……結は大丈夫かな?」


 楓は今は離れている友人のことを考えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 木々に囲まれた中庭は誰かが争ったように荒れ狂っていた。


 そしてそんな惨状の中心には人の形をした影が二つ。


「くっ……まさか、あたしがこんな様とはね、情けない」


  人型のなにかと全身に怪我を負い、力なくへたり込んでいる桜の姿があった。



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