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1ー2 生十会


 桜は結だけでなく、結と同じ転校生である楓も誘うと、友人らしい三人の男女を誘い、合計六人でガーデン内にあるカフェにきていた。


 たくさんの生徒が同時に使うことと依頼を受けた際、グループで内密に相談することを想定しており、千人以上の生徒を同時に受け入れられることのできる大部屋と十人前後が入れる小部屋が無数にある。


 結達は無数にある小部屋の一つを借りていた。三席三席の計六席の内、結は端に座ろうとするが桜が無理やり結を連れて行き、桜、結、楓の順で座り。反対側には桜の正面から結以外で唯一の男子、隣には銀髪の少女、その隣にはマフラーをしている少女が座った。


「さて、改めましてあたしは雨宮桜ランクはAだよ」


 桜は人数分それぞれ飲み物と軽くつまめる程度の軽食を注文すると、「今日はあたしの奢りっ」っと結にウインクをすると、改めて自己紹介を始めていた。


  幻操師は皆がそれぞれの実力を表すため数字とアルファベットが与えられている。


 生徒手帳と一緒に渡されたカードはステータスカードと呼ばれ、そこに書かれてあるローマ数字とアルファベットによってその者について多少わかることがある。


 このローマ数字はその幻操師の資格を表すものでクラスと呼ばれ下から3rd(サードクラス)2nd(セカンドクラス)1st(ファーストクラス)、の三つがある。


 1stは資格の中でもトップクラスで特に実力のある者にしか与えられてない。


 結がもらった3rdはガーデンに入学している間もらえる資格で最低限の権限しかもたず。


  2ndはガーデン卒業後にもらえる資格で在校生は2nd獲得に向けて日々訓練している。


 そして1stは資格の中でもトップクラスで特に実力のある者にしか与えられていない超一流だけのもので幻操師界における一種の貴族の様な扱いをうける。


 3rd(サード)はアマチュア。2nd(セカンド)はプロ。1st(ファースト)は一流と言うことだ。


  資格は幻操師として活動するのに必要なものであるが最上資格である1stは次元が違う、貴族と例えたがそれは比喩ではなく1stの幻操師は個人で国に喧嘩を売ることのできるような超人のことであり幻理領域において圧倒的な権限を持っている。


 そしてもうひとつそのものの実力や才能を示すものとしてランクがある。これはガーデンで定期的に行われる計測によって出た数値と実績によって決まり、上からX.G.R.S.A.B.C.E.D.E.Fの十一段階ある。

とは言ってもX.G.Rは世界で数人しか確認されておらず基本的にはAからFの七段階だ。


 一般的にCから一人前と言われており、Eが最低限の力を持っている証となっている。


 桜のAというランクは中学生でありながらすでに卒業した者達と比べても負けないぐらいか十分勝てるほどの位地に達しているということだ。


「おっ、なかなか驚いてるね」


  桜はイタズラが成功した子供のように笑うと自分のステータスカードを結に見せ付けるかのよう取り出した。


  そこには桜の発言通り、Aの文字とローマ数字のⅡが書いてあった。


(ん?Ⅱだと?)


「あはっ、気が付いた?あたしはすでに2ndの資格、貰ってるんだ」


  桜は無邪気に笑うとステータスカードをしまった。


 桜は軽く言っているがそれは並のことじゃない。わかりやすく答えるなら中学二年生の段階で中学の卒業賞状を貰っているようなものだ。


(いや、中学どころか高校かもしれないな)


 2nd(セカンド)はガーデン卒業後に習得とあるが、正確には高等部卒業時だ。つまり桜は中学二年生にして高校を卒業しているようなものなのだ。


「じゃっ次は真冬ちゃんいってみようか?」


  桜が次に推薦した少女は白銀の雪のような長い髪を、うなじの近くで二つに結んだこれまた雪のように白い肌をした桜よりも小柄でセーラー服を着た美しい少女だった。


「えぇーと、そのぉ日向真冬(ひなたまふゆ)です。ランクはBを貰ってますです。よろしくです」


 真冬はどうやら内気で、まるで白うさぎのような印象を受ける少女だった。


 自己紹介をしているだけなのに、恥ずかしがっているのか、頬は微かに赤くなっていて、目元にはキラキラとした涙が少し溜まっていた。


(これは、保護欲が刺激されるな)


「次は僕かな?僕の名前は日向春樹(ひなたはるき)ランクは真冬と同じでBだよ。あっ真冬とは兄妹で僕が四月生まれで真冬が三月産まれなんだ。よろしくね音無君っ」


  春樹はブレザーを着ており、髪は日本人にとってシンプルな黒で長さは長過ぎず短過ぎず、身長も同じくで言い換えるとなんというか普通だ。


 顔立ちは美少女である妹の真冬と違い、これといった特徴もなく、イケメンでなければブサイクでもない、その姿はまるでモから始まりブで終わる二文字のキャラクターのようだ。


「……あの、なんとなく酷いこと言われた気がするんですけど」


 ……うん。


「……次は私……」


  最後に残ったのは肩に掛かるくらいに伸ばした黒髪を後頭部で纏めた俗にいうポニーテールしている少女だった。


「……私の名前は宝院陽菜ほういんひなランクはAよろしく」


  陽菜は眠たそうな目をしていて首にはマフラーを巻いている。制服はセーラー服をきていて元々短いスカートをさらに短くしてよくみると右側と左側に切れ込みがあって白くて綺麗なふとももが姿を覗かせていた。


  四人中、二人がAランク、残りの二人はBランク。


 桜に至ってはすでに2ndだ。


 四人とも一人前以上の実力を持っているのだろう。


(凄まじいグループに興味を持たれたみたいだな)


「それじゃ次は転校生組いってみようか?」


  桜は結と楓の二人に順に目配せをすると、結が先に自己紹介をするように催促していた。


 この中で自分のランクを晒すのは躊躇う気持ちもあるが、四人はすでに明かしており、言わない訳にもいかないことは火を見るよりも明らかだった。


「俺は音無結、ランクはFだ」


「「「「「えっ?」」」」」


  本来ランクはEが最低限のラインになっている。


 しかし結のランクはF、Eの下。


 これが意味すること、それは。


 幻操師にとって絶望的な非才。


 劣等生だ。


 ランクは定期的に行われる計測とは幻操術を扱うのに必須とされる力の源、幻力の総量と幻操術を扱うのにこれまた必須の式と呼ばれるものを刻むための心の無意識領域と呼ばれる所にある幻操領域の規模だ。


  幻力総量が少なければ術の多用が出来ず、又レベルの高い術の使用ができない。


 そして幻操領域が小さければどれだけ幻力総量が多くてもレベルの高い術の式を刻むことができない、つまり用意することができない。


 ランクは一人前とされるC以上はこの数値だけでなく実積や実力を示さなければならないがD以下のD.E.Fはこの数値によって決まると言ってもいい。


  つまりFランクとは強力な武器はおろか、最低限の武器さえ用意できず最低以下の武器を連発することもできない幻操師界における圧倒的弱者だ。


  驚き過ぎて固まってしまった四人に対して結は自分のステータスカードを見せることによってとどめをさした。


「えぇーとその、あまり落ち込まないでくださいです?晩熟型なだけかもしれないですし」


「だっ大丈夫ですよっ!きっと僕が虫けらみたいな幻力とミジンコみたいな式で発動できる凄い幻操術を開発してみせますからっ!」


「……どんまい……」


  真冬はオロオロしながら自分のことのように若干泣きながら、春樹もさりげなく酷いことをいいながらも優しげに、陽菜に至っては一言だけど結のことを励ましていた。


 楓は結がFランクだと知った瞬間は眠たそうなにしている目を大きく見開き、驚きを露わにしていたが、すぐに眠たそうな目に戻っていた。


 ただ桜だけはいつもの明るさが消えその目には真剣な眼差しをしていた。


「えーと、励ましてくれてるとこ悪いが別に俺はなんとも思ってないぞ?……なんたってこれは仕方が無いことだからな」


  結が明るげに言うと皆安心したのか落ち着きを取り戻していた。


「それじゃ最後は楓ちゃんだね」


 桜は元気な桜ちゃんに戻ると、結のFランク宣言以外ずっと眠たそうに肘をついている楓に自己紹介を要求した。


 楓はため息をつきながら「やれやれ」っと小言を漏らしつつ桜が願うとおり自己紹介を始めた。


「あたしは望月楓。ランクはS」


「「「「「はっ?」」」」」


 楓の言葉に思わず変な声を出してしまっている五人に、楓はさっき結がしたようにトドメを刺すべく、ステータスカードを取り出した。


 そこに刻まれていたのはローマ数字の三にアルファベットのSだった。


「さ、さすがにこれはびっくりだね」


「……はいです。さすがにびっくりです」


「は、はは」


「……流石」


「……マジかよ」


 Sランク。その数は少なく、世界全国全ての幻操師を集めてもその数は千未満だ。


 今の時代、幻操師の割合は人口の約○,○一%。一万人に一人の割合だ。


 幻操師は日本だけではなく、アメリカやイギリス、フランスやドイツなど、多くの場所で秘密裏に育成されているのだ。地球全土の人口はおよそ六○億人だ。その○,○一%、つまり約六○万人の幻操師がこの世にいるのだ。


 六○万人に対して、Sランクの人数は千人以下。その割合は六万分の一。%で言えば約○、○○二%だ。


 この【F•G(ファースト・ガーデン)】中等部二年にもSランクは少なからずいる。


 まず一人目は生十会会長の神崎美花だ。他には確かに生十会の副会長もSランクだったはずだ。後は何故か生十会の入会を断ったSランクの一般生徒が三人ほどいるらしい。


 そしてこのF•G中等部二年で六人目となるSランクが現れたのだ。


「あっ、そうそう。あたしがSランクってことはあまり言いふらさないでね?」


「どうしてですか?……あっ、分かりましたですっ。能ある鳥は爪を隠すですっ!」


「いや。そんな立派な理由じゃないよ」


「真冬ちゃん?ちなみに鳥じゃなくて鷹だからね?」


 桜が真冬の間違いを指摘すると、指摘された真冬は「あっ」っと小さく声を漏らすと、雪のように白いその肌を、ゆでだこのように真っ赤にしていた。


「どうして望月さんは隠したいのですか?」


「ん?面倒でしょ?だからだよー」


 春樹の質問に楓は眠たそうに欠伸をしながらそう答えていた。


 力があるもの、実力があるものには、それ相応の責任が生まれる。


 強い力を持っていることがバレてしまえば、いろんな所からその力を求められるだろう。


(なるほど。楓はそういう奴か)


 楓を除いた五人は、楓の性格をなんとなくつかむことができていた。


(つまり、ただのめんどくさがりか)


 クーデレでなければ、もちろんツンデレでもない。あえで〜デレで表現するとすればダルデレだろうか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  その後、結と楓は四人から【F•G(ファースト・ガーデン)】について色々と教わっていた。


 今後の日程などもなんとなく教えてもらい、気が付けばただの雑談会になっていた。


 元々親睦を深めるための会だったため結果オーライだろう。


「そういえば音無君は【A•G(エンジェル・ガーデン)】のことは知ってますか?」


「【A•G(エンジェル・ガーデン)】と言えばあれですよね?約三年前から二年間程度活動していたというグループ」


  春樹の問いかけに真冬が代わりに答えると話の中心はその【A•G(エンジェル・ガーデン)】になった。


  聞けば聞くだけ妙な話だ。


 たった二年間だけ活動していたらしく片っ端から依頼を受けては一切の依頼料を受け取らなかったらしい。


  その特異性から当初は話題によく持ち上がり、様々な噂が流れたがどれも確証はなく目撃者からの情報から幾つかのことだけがわかったらしい。


  まず、構成員の全てが美しい少女で構成されているらしく、トップと思われている少女はまるで女神の如く凄まじい美しさと可憐さを併せ持っていたらしい。


  人数は特に多いわけではなかったがその戦力は世界でもトップクラスであり、依頼経過を見ていた人曰く、個人個人の実力も圧倒的だったがなにより連携が完璧であり、軍隊のごとく統率性があったらしい。


  女神を頂点として動く美しい少女達はまるで天使のようでいつしか女神のことも大天使、天使姫などと呼ばれ、ただのパーティでありながら天使の庭、【A•G(エンジェル・ガーデン)】とまで呼ばれるようになっていた。


 しかしたった二年間で姿を消してしまい、今では微かな情報も出て来ないらしい。


 一時は各地のガーデンが自国の戦力に加えるべく探し回ったらしいが、結局なにも成果をあげることなく捜索は打ち切りになったらしい。


「それにしても【A•G(エンジェル・ガーデン)】ってなんだったんだろうね」


  桜はイチゴパフェを食べなら「気になるよねー」っとぶつぶつ言いながら足をバタバタさせていた。


「それにしてもカッコイイですよね。無償でどんな依頼でも受けるなんてまるで正義の味方ですよね」


  春樹はヒーローに憧れる少年のような目をしていた。


 まぁ年齢を考えればそういったヒーローのような集団をかっこいいと思うの普通のことかもしれないが。


「……不思議……」


  陽菜は相変わらずの無口キャラだった。


「……すぅー……すぅー……」


  真冬はすでに……眠っていた。


「……すぴーすぴー……」


 楓もまた、同じように眠っていた。


「あはは、真冬ちゃんは春樹が連れてかえるとして楓はどうしよっか?」


 真冬は寮ではなく、春樹と共に宿を取っているため、兄である春樹が運ぶことになっていた。


 結たちは、真冬が風邪を引いたらいけないと思い、二人を先に帰らせると、真冬と同じく寝てしまっている楓はどうしようかと考え、消去法で男が寝ている女の子を運ぶのはあまり良くないため、桜が運ぼうとするのだが。


「楓の住むことになってる寮の場所わからないんだけど?」


 F•Gの寮はそれぞれ男子寮と女子寮が十棟用意されている。


 男子寮と女子寮はなにかの間違いがないように遠い場所に設置されており、男子寮は男子寮。女子寮は女子寮で密集しているのだが。いかんせんその規模が大き過ぎるのだ。


 一つ一つの棟が巨大なため、女子寮から女子寮までにはかなりの距離があるのだ。さすがに桜でも人一人担ぎながらそれだけの距離を歩き続けるのは大変だし、そもそも楓の部屋がわからない。


「……んん?」


「あっ。桜、楓起きたみたいだぞ?」


「おっ!本当だっ!」


「……眠い」


「ままま待ったっ!」


 なんとか自力で目覚めたものの、またすぐに寝ようとする楓を桜は必死に止めると、楓の部屋を聞いた。


「……部屋?」


「そうっ楓の寮の番号は?」


「……」


「……」


「……忘れたのか?」


「……テヘッ」


 あろうことか、自分が寝泊まりする部屋の番号を忘れてしまっている楓の頭に結はチョップ(もちろん加減はしている)をしていた。


「うぅー。痛い」


「自業自得だ」


「ねえ。結局どうするの?」


「ねえーー」


 楓をどうするか考えていると、現在の話の中心人物である楓が結たちにとある質問をした。


「ーーみんなは第何棟?」


「へ?あたしは第九だけど?」


「……十」


「俺は六だそ?」


 結にチョップされて、少し目が覚めた楓だったが、またもや眠たそうな目になると、楓は欠伸をすると結の方を向いて言った。


「泊めて」


「「は?」」


 結と桜の声は綺麗にハモって、素晴らしいデュエットを奏でていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしてこうなった」


 楓が結に向かって、泊めてと言ってから色々あった。


 具体的に言うと、意外に初心だった桜が頬を赤らめ、陽菜は外見上の変化はなにもなかったが、その後の会話に一切反応を示さなくなってしまっていた。


 桜は赤い顔を横にブンブン振りながら「だだだだ駄目だよっ」っと言っていたが、この混乱を作り出した張本人である、楓が眠ってしまったため、結局ここから一番近い結の部屋に運ぶことになったのだ。


 本来男子寮に女子は立ち入り禁止なのだが、見張りの教師がいる訳でもないため、楓を運ぶのは実に容易だった。


「はぁー。全く、なんでこいつはこんな無防備なんだ?」


 結はため息をつきながら、男子寮の一室、結の部屋のベットで無防備に寝息を立てている楓に目をやっていた。


 楓は口元をむにゃむにゃさせながらも、規則正しい寝息を漏らしていた。


「たくっ、俺はどうするかなー」


 流石に楓の隣で寝るのはヤバイと思い、自分はどこで寝るかを考えていると、急に楓は起き上がっていた。


「おっ、楓起きたのか?どうする部屋に戻るか?戻るなら送ってやるぞ?」


「ふぁー。眠い。戻るもなにも、場所がわからない」


(そういえば、部屋番がわからないんだったな)


 結はやれやれとため息をついていた。


「結は寝ないのか?」


「何処かのお嬢さんにベットを占領されちまってな。寝るところが無いんだよ」


「あぁー。そのお嬢さんってもしかしてあたし?」


「もしかしなくてもお前だよ」


 楓は「そっかー、そりゃ悪いことしたね」っと言うと、起き上がっていた上半身を一度倒すと、ベットに付けてあるスプリングの勢いを利用して上半身を起こし、そのままベットの上から跳ね起きると、綺麗に両足で着地していた。


「いやー悪かったなぁー。あたしはソファで寝るから、結はベットで寝なよ」


 楓が「寒いから掛け布団一つ貰うよー」っと言いながらソファーに向かうのを結は止めていた。


「まさか、掛け布団無しとか言わないよね?」


「まさか」


「ふー。そりゃ良かった。流石に掛け布団無しは寒いからね」


 不安そうな顔で結に聞く楓は、結の返事に安心したように表情を和らげていた。


「それで、何か用?」


「女子をソファーで寝かせて、自分はベットで寝るなんてしたくない。だから楓がベットを使え、俺がソファーで寝るから」


 結がそう言いながら、楓の持っている掛け布団を奪い取ると、結は手で楓をベットに向かって軽く押すと、自分はソファーに向かっていた。


 結がそのままソファーで横になろうと手を掛けると、結の後ろから突然現れた楓に掛け布団を奪われていた。


「……どういうつもりだ?」


 結がソファーに手を掛けたまま、突然の奇行に走った楓にそう聞くと、楓はニヤニヤとした表情で口を開いていた。


「ここの部屋の持ち主は結だろ?あたしがソファーで寝る」


 結は楓に振り返ると、ため息をついていた。


「女子にそんなことはさせたくない。俺がソファーで寝るからそれを渡せ」


「嫌だね。そんなにソファーで寝たいなら掛け布団は無しで寝なよ」


 こいつ、なんてこと言いやがる。


 結はため息をつきながらも、どうせ楓は意見を変えないと思っていた。


 運がいいことに、今日はさほど寒くはない。


 掛け布団無しでも眠ることは出来るだろう。


 結がそう思い、楓に背中を向けて、ソファーで横になろうと再び手を掛けると


「とりゃぁー」


 楓は結が背中を見せた瞬間に、結のサイドに移動し、気の抜けた掛け声と共に、結に向かって蹴りを放っていた。


 蹴りが飛んで来るなんて、全く想定していなかった結は、まともに蹴りをくらい。ベット(・・・)のほうに向か(・・・・・・)って(・・)蹴り飛ばされていた。


「痛っー、なにしやがるっ!」


「おりゃぁー」


 結がベットの上から起き上がりながら、楓に文句を飛ばしていると、また楓の気の抜けた掛け声と共に、今度は楓が飛んできていた。


「なっ!」


 思わずビックリしてしまい、体が硬直してしまっていた結は、飛んでくる楓を避けることも出来ずに、呆気なく楓に押し倒される格好になっていた。


「なんのつもりだ。そこからどけっ」


「やなこった。あたしのワガママで泊めて貰ってるのに、結をソファーで寝かすなんて出来ないよ」


「俺がそれで良いって言ってるんだからいいだろっ!それともなんだ?それなら一緒に寝ようとでも言うのか?」


「おっ?よくわかったね」


「……はっ!?」


 いつも眠たそうにしている目をまん丸に見開き、驚いている楓に、結が絶叫をあげていた。


「ほらっ。早く寝よっ。あたしもう眠たくて仕方がないんだから」


「なら一人で寝ろっ!俺はソファーで寝るっ!」


「逃がさないよーだ」


 必死に逃げようとする結を、楓は抱きつくことによって拘束すると、結の上からどいて、結の隣に着地すると、そのまま結のことを抱き枕にしていた。


「おやすみー」


「おいっ!寝るなよっ!」


 結の絶叫も虚しく、楓はそのまま規則正しい寝息を立てていた。


「はぁー」


 結はため息をつくと、どうにか楓の腕の中から抜け出そうとするが


(……抜け出せない)


 どうやらSランクは伊達ではないらしく、まるで寝技のように結の体は完全に拘束されてしまっていた。


「はぁー」


 結のため息だけが部屋の中に響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  登校二日目。


  結局あの後、ほとんど眠れなかった結は、目尻に涙を溜め、両手を挙げて大きな欠伸をしながら自分の配属された二年C組に向かっていた。


「結ー。そんなに怒んないでよー」


 そんな結の隣には、結が睡眠不足となった原因。楓の姿があった。


 朝となり、楓が起きたため、二人は楓がお礼として作ってくれた朝食を食べると、こうして一緒に教室に向かっていたのだ。


 しかし、楓は朝からずっと結に話し掛けているのだが、結はまだ一言も返していなかった。


「結ー?おーい」


「結に楓、おはよっ!」


  後ろから声を掛けられた二人が降り向くと、そこには小走りで近付いてきた、元気少女こと桜の姿があった。


「おはよう、というよりかはこんばんはじゃないか?」


  物理世界では今の時間は深夜なので、こんばんはが正しいはずなのだか、ここでは夜に来て朝に帰るためこの時間でも挨拶はおはようが一般的らしい。


 というより、この【幻理領域】では朝だ。


「さてと早々で悪いけどついてきてくれるかな?」


「ちょっおいっ!」


「えっ……」


  桜はそういうと二人の返事も聞かずに二人の手をがっしりと握って走り出していた。


  走ること数分たどり着いたのは。


「生十会室?」


  正式名称は生十風紀会室だが生十風紀会が基本的に略称で呼ばれるためここも生十会室と呼ばれている。


「ほらほらっそんなところでたってないで入りなって」


  桜に無理やり背中を押されて生十会室に入るとそこには昨日知り合った、真冬、春樹、陽菜と会長、そして他に三人の男女が座っていた。


「桜、その子が例の子なの?」


 会長がそう問いかけると、桜は軽く頷くだけで返事をし部屋から一番近い席に二人を座らせていた。


 桜も一つ空いていた席に座ると結を置いて話が進んでいった。


(なんだこれは?なんで俺たちは呼ばれたんだ?それよりも四人ともやけにレベルが高いと思っていたがまさか生十会のメンバーだったとはな)


  生十会は元々生徒の代表である生徒会と校内の治安を守るための風紀委員会の二つが融合したものであり合計十人いるため生十風紀会と呼ばれている。


 メンバーはガーデンから指名された成績上位者がやることになっており拒否権は有るものの生十会メンバーというだけで特典が割と多くあるため拒否する人間は少ないらしい。


 十人という人数の少なさは生十会が一学年に一つ設立されているためでありその学年のトップ達であり後に行われる校内幻心大会こうないげんしんたいかいの参加メンバーでもある。


「それで桜、なぜ彼を生十会のメンバーに推薦するの?」


「はっ?」


 会長の言葉で結はつい言葉を滑らせてしまっていた。


 一人別のことを考えていた結にとってあまりにも唐突な内容だったからだ。


(メンバーに推薦?昨日の話を聞いていなかったのか?)


「あら、その様子じゃ彼も推薦について聞いていなかったようじゃない、説明してくれる?」


  一同の視線が桜に集まる中、溜め息をすると話し始めた。


「昨日、彼と話をしていて疑問に思うことがありました、彼の情報はすでに皆さんも知っていると思いますが彼はFランクです」


  生十会メンバーである以上生徒の情報は知っているのだろう、だか知っているということは結がFランク、劣等生であることを確かに認識しているということだ、そんな彼を推薦する桜に一同困惑を隠せていなかった。


 なんせ結さえ困惑していたのだった。


「疑問?桜、疑問とはなにかしら?」


「……ただのFがここにいるのはおかしい……」


 会長の当然とも言える質問に対して答えたのは桜ではなくクールビューティー陽菜だった。


「確かにF•G(ここ)は言ってみればエリート校です、ただのFランクが入れるのはおかしいとは思いますけど……」


  春樹はそれでも推薦理由がわからないといった風に頭を抱えていた。


「Fランク風情が二年代表である我らが生十会の一員に推薦されるだと?グハハ、ふざけるのもいい加減にするべきだぞ雨宮」


  大声を出したのはまだ知らない三人の内の一人だった。


「おいっそこのF、俺様の名前は木村剛木きむらごうき、Aランクだ、おまえのような軟弱な者など認めぬからな」


  木村剛木は背が高く二メートルに近い巨体を持つ男だった。


 C組担任の森下先生同様着ているブレザーの上からでもわかるほど筋肉に覆われてまるで巨人だ。


「盛り上がっているところ悪いがそれは桜が勝手に言ってることで俺に入る気はこれっぽっちもないぞ」


  結が入る気がない事を伝えると剛木はこちらをバカにするような目をしていた。


「ふんっF風情が生意気だな。まったくこんな輩を連れてくるとはAランクの名が泣くな桜」


  今度は結を連れてきた桜をバカにすると桜を見下ろすかのように桜の前まで移動していた。


「俺のことをとやかく言われるのは事実だしまぁいいんだが、桜まで侮辱されるとなると話は別だな」


  桜と剛木の間に割って入った結は先程とは一転、冷たく、鋭い目をして剛木を見上げていた。


「グハハ、F風情が粋がるなよ?」


  すぐにでも一悶着ありそうな空気のなか初めに声を発したのは話の中心、言い換えれば元凶の男、結だった。


「剛木といったか?そこまでいうのならあんたの力とやらを見せてみろ」


「なんだと?」


  結の挑発ともいえる言葉に対してあからさまに苛立ちを覚えている剛木に向かって結は次の言葉を紡いだ。


「俺と模擬戦しないか?」


「ちょっと結君っ!?」


  桜だけでなく真冬や春樹、陽菜までも心配そうにしている中、結は四人の顔を見渡した後、剛木に目をやって。


「俺を舐めるなよ」


  宣戦布告をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  AランクvsFランク。

  一見あまりにも無謀過ぎる模擬戦、いや桜の名誉をかけた決闘は会長の名のもとに、中等部二年生十会用訓練室で行われることになった。


「結、大丈夫なのか?」


「ん?あぁ、大丈夫だって。勝算もないのに喧嘩を売る馬鹿はいない」


 自信ありげな結に安心したのか、楓は「そっか」っと言うと、笑顔で結を見送っていた。


 結は楓と別れて部屋の中央に向かうと、剛木と離れた場所で向かい合っていた。


「グハハ、一瞬で終わらせてやるぞっ!」


「……」


  二人は距離にして約十メートル離れた位置で向かい合っていた。


「二人とも準備はいい?いざ、尋常に始めっ」


  桜は二人がそれぞれ頷くのを確認すると、手を上げ開始の合図と同時に手を振り下ろした。


「いくぞっ!『身体強化』」


  開始と同時に剛木は結に向かって一直線に向かっていった。


「相変わらず凄い『身体強化』です」


 真冬が思わずつぶやいてしまった身体強化とは剛木の使っている幻操術だ。


  幻操術には様々なものがあるが、個々で個人差もあるが性別によって得意とする術が分かれている。


 男が得意とするのは元々女よりも優れている肉体をさらに強化して戦う肉弾戦だ。


  剛木は全身を強化することにより元々ある膂力もあり圧倒的肉体性能を誇っていた。


「……」


 それに比べて結はその場から動かずにただ両手を合わせて祈るような仕草をしていた。


「『ジャンクション=カナ』」


  結が呟くと同時に剛木はすでに結の目前まで迫っていって目の前で縦に回転しそのまま強烈なかかと落としを繰り出した。


 バンッ


「あれ」


  誰の呟きだったのか剛木の強烈なかかと落としが結に当たり終わると思った途端小さな破裂音が起こり、その瞬間、結の姿がその場から消えてしまっていた。


 バババンッ


「グハッ……」


  今度は三連続の破裂音がした途端、剛木は苦しげな声を漏らしその場に倒れ込んでしまった。


「え?」


  あたりを見渡すと、開始時、剛木が立っていた場所に先程まで持っていなかったはずの拳銃を左右に一丁ずつ計二丁を持った結が両手を剛木に向けて立っていた。


「しょ、勝者、音無結っ!」


  桜は同様を隠せないまま結の勝利宣言をした。


 一同が驚いているなか四人だけその顔に違う表情を見せていた。


 楓は心から嬉しそうに。


  桜は同様しつつも嬉しそうに。


  会長は面白いものを見つけた子供のような微笑みを。


 そしてもう一人、会長の隣に佇む副会長と書かれた腕章をした銀色の長い髪を靡かせたの少女は悲しそうな目でそれぞれ見ていた。


  AランクvsFランクの対決はFランク音無結の勝ちで幕を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すっすごいですね、まさか勝ってしまうだなんてっ」


  春樹は我に返った途端今度は興奮していた。


 目の前で弱者のはずのFランクが強者であるAランクに勝ったからだろうか、春樹は【A•G(エンジェル・ガーデン)】が大好きと、なんとなく子供っぽくところがあった。


  春樹は結の両手を握るとブンブンと上下に振り回した。


「こ、これってまさかっボックスリングじゃないですか!?」


 激しい握手の際、結の左側の裾が捲れてしまい左手首につけてあった銀色の腕輪が露出していた。


 これはボックスリングと言って幻操師にとって必須のアイテム、幻操法具の一つだ。


  幻操法具とは【幻操術】を使う際に、どのような【幻操術】を行うかを決める幻式が刻まれていて、大きく分けて契約法具、特化法具、特式法具の三つに分かれている。


 契約法具とは一人につき一つ資格を得た際に貰えるものでその者の幻操領域の規模によって貰えるランクが上がる。


 質が高ければ高いほど多くの式を刻むことができるがこれの効力はその者の幻操領域を投影して刻むことによって効果を発するため、自分の才能以上の物を手に入れたところで意味がない。


  多くの式が扱えればそれだけ臨機応変に対応できるようになる。


 そのため幻操領域の規模が重要視されている。


 特化法具とはその者の幻操領域を投影せずに幻力を注ぐだけで中に刻まれている式が発動できるものだ。


 そして特式法具とは上記のものとはまた違うその他の総称だ。


  本来幻操師は契約法具をメインウェポンとして幾つかの特化法具をサブウェポンとして扱うことが多いい。


  ボックスリングは特式法具に属するものでその効果はこのリングの中に物を保存ができるというもので幻力を注ぐことによって中に保存した物を近くに取り出したり逆にリングを付けている手で触れている物を入れることができる。


 もちろん限界はあるが、それでもリングの作り出した異空間に入るものなら幾らでも入るためメリットが多い、そのため高価な物だ。


  生十会の皆もそれぞれ腕に腕輪タイプの法具を着けているのが数人見えた。


「それにその銃なんてナイト&スカイ、X(イクス)モデルですよねっ!!」


「そうだけど……」


  テンションの上がってる春樹に引きながらも見えやすいように銃を持ち上げた。


  ナイト&スカイとは四年前から活動している幻操法具を作っている幻工師だ。


 そして活動を始めて二年後、Xモデルと呼ばれるシリーズを世に出していた。


 今では普通の物を売り出しつつXモデルも新作を世に出しているらしい。


 噂によると、Xモデルはすでに六六六の設計図が準備されているらしいが、まだ技術のほうが設計図に追い付いていないらしい。


 ナイト&スカイほどの技術力があっても、形にすることのできない化け物のような設計図を書いたのは一体誰なのだろうと、噂しれたほどだ。


 今ではナイト&スカイが理想の設計図を書いて、技術が追い付き、形として完成すると同時に売っていると言われている。


  ナイト&スカイが有名になっているのはもうひとつ理由がある。


 ナイト&スカイは素顔を晒したことがない、会話も全て筆談で済ませ、大きめの白のコートとぴっちりと顔に着けられている白の仮面のせいで素顔も素性も一切わからないらしい。


 ただ大人にしては身長が低く、子供ではないかとされている。


 ナイト&スカイの代表作とも言えるXモデルはその神秘性から今では六六六の未知(イクスモデル)とも呼ばれている。


  結の持つ銃は全てのパーツが純白で作られており、見た目としては基本的にはオートマチックだか機関部分の少し前にリボルバーを思わせる回転弾倉が付いてあった。


「終わり」


 結は一言呟くと両手に持っていた銃をボックスリングの中にしまった。


「グハハ、まさかここまでの実力を持っていたとはな」


  肩を鳴らしながら歩いてきたのはさっきまで気絶していたはずの剛木だった。


(もう起き上がったのか?)


  結は心の中で驚愕すると同時に剛木の回復の速さに感心していた。


「音無と言ったか?先程までの非礼を詫びよう。この通りだ」


  剛木はどうやら本当に悪いと思っているようで結に向かって頭を下げていた。


(根は悪い奴ではないようだな)


「謝るなら俺じゃなくて桜に謝ってくれ」


「む、そうだな。桜、侮辱してしまいすまなかった」


  剛木が桜に頭を下げると桜は「気にしてないって」と言って和解していた。


「音無君、一体何をしたの?」


「恐らくだけど、さっき持っていた拳銃による『火速』と銃撃、でも、剛木さんの身体強化の防御力は拳銃の弾程度では貫通できないはずだけど?」


 会長の質問に答えたのは日向春樹だった。


  春樹の言った火速とは火の推進力を利用した高速移動術のことだ。


 結の持つ法具はリボルバー部分を回転することにより六種類の弾を撃ち変えることが出来る機能があり、今回の場合は弾頭が出ずに火炎だけを放出する弾をを使った火速で、爆発による推進力を利用したものだ。


 そして結はもう一つある技術を使っていた。


 それは水滴が何度も降り注ぎ石を削るかの如く、三発の衝撃力の高い銃弾を全くズレることなく撃ち込むことによって剛木の身体強化の防御力を突破していたのだ。


 結が説明をすると、納得いったののか、会長を両手を組みながら、うんうんと頷いていた。


「あはっ。これで結君の実力が認められた訳だし入会させてもいいよね?会長」


  桜がドヤ顔で会長に相談すると。


「そうね、ここまで実力があるなら問題ないでしょ入会を認めるわ」


  会長は結の入会をあっさりと認めた。


「これからよろしくね結君っ」


  桜は楽しそうに結に手を差し出すが


「ん?最初に言ったけど入会する気なんてないぞ?」


「へ?」


  結はあっさりと断った。


「えっと、あれ?音無さん入会するために木村さんと決闘してたのですよね?」


「真冬それは違う俺は桜が侮辱されたからやっただけだぞ?」


「……」


「さてと、俺が入会する、しないに関わらず立ち話もアレだし生十会室に戻らないか?」


「……なんだかなー」


 一同は生十会室へと戻ることになった。


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