第十ニ章、励まし
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
その夜の事である。
一人玲菜を自宅に残し行き付けの、
ダーツバーのカウンターで、酒を呑んでいた竜彦。
隣には真理が居た。
真理、「あらあら繊細でか弱いな妖精を、
家に一人にして置いていいの」と、
訪ねると竜彦は笑いながら、「俺が側に居ると頼るばかりで、
自分ではどうする事も出来ない。
少し一人で考えさせる様にして置いた。
自分の柵は強い精神力を持って望まないと、
今後スケート人生を貫いて行けないからな」と、
喘ぐと真理は、「飴ばかり与えて来たから、
今度はムチなのね」と、問いかけた。
竜彦は、「相当俺が飴を与えてしまったから、
俺と知り合う前の玲菜よりも、精神的に弱くなっているんだ。
だがスケートを行う最には、
玲菜は飴の方が成長したからな」と、思い返した。
真理、「そうね私も人の事は言えないけど。
スタッフを育てる時に、今時の若い子は褒めて伸ばすの。
でもいざトラブルと焦るばかりで、自力で対処出来なく成る。
そこは経験豊富のオーナーが、
対処してそれを見てスタッフは知恵を得る。
但し全く予期せぬ経験した事の無い、大きな事態を抱えると、
ただ呆然と立ち尽くすだけで、対応出来ないのが現状よ。
玲菜も今までは自分 一人で逃避行して来て、
寂しい思いだけが心に募っていたけど、
優しい竜彦と婚約をして、幸せ絶頂期にあの女が現れた。
決して予期せぬ事態では無かったけど、
出来ればこのままあの女が、自分の前に現れない事を祈ってた。
でもいざあの女が自分の幸せを脅かすと、
居た堪れなくなり泣きじゃくるしか無く、
自分ではどうする事も出来ないからね」と、
悟ると竜彦はウィスキーのロックを 一口呑んで、
「何度もその時の対応を、シュミレーションして、
玲菜の精神力を高めたが、やはり甘やかし過ぎた結果だ。
ベッドにもぐって枕抱えて、泣きじゃくってる」と、呆れた。
真理は心配になり、「ねえそれで一人にして置いて大丈夫なの、
手首でも切ったらどうするのよ」と、
咎めると竜彦は、「大丈夫だよ。
そうさせない様な処置をして来た。
実は以前もあの女が現れる前に、やり損なっているんだ。
朝台所で掛け布団を体に巻いた姿で、包丁見詰めていたよ。
理由はあの女に殺されるくらいなら、
幸せ絶頂期のこの家で、死にたくなったらしい」と、
告げると真理は、「ははーん、玲菜は私にその事を言うと、
怒られると思って言わなかったな。
たまにはコーチしていて私も怒るからねあの子に。
スケート以外で時々玲菜は、急に体が震え出すの。
理由は裕子が追い掛けて来る恐怖で。
その時、玲菜に忠告するの。
『玲菜がしっかりしなければ、竜彦はもっと辛いんだよ。
玲菜が泣いていれば、
絵画の創作活動にも影響が出るんだからね』ってね」。
それを聞いた竜彦は、「可愛いもんだなその程度なら。
ただ玲菜は真理を怒らさない様、心掛けている様だが。
初めてあんなに優しく、専属のコーチから指導を受けたから、
何でも真理の言う事は、素直に受け入れているらしい。
と、言うより今玲菜は心底信用出来るのは、
俺と真理そして、サファイヤの秋山兄貴の家族だけだからな」と、
語ると真理は、「素直だからね玲菜は。
それ故に裕子にコントロールされてしまった。
でもあの位素直じゃないと、
スケートがあんなに上達しないだろうけど、
一長一短ね」と、思いに更けた。
竜彦、「俺から言わせると、それを承知で操って来た裕子が憎いが、
俺とは全く逆な生き方をして来た玲菜が切なくて、
俺は逆らい続けた人生、玲菜は従い続けた人生。
その二人が今こうして婚約し、互いを補っている。
俺はろくでなしな女とばかり今まで付き合い、
玲菜は頑なに信じて来たコーチの裏切りに遭い、
ワルと妖精がくっついた訳だが、そこに現れた玲菜の支配者。
元ワルである真理と俺は、その世界では出会う事の無い妖精と出会い、
ワルの世界に居た俺達は、その妖精の繊細な心を知ると、
頑なに汚され無い様に守る」。
真理、「弘美の表現で言うならば、
悪い魔法使いにその身を拘束されていた妖精が、
自力でそこから飛び出して、安住の地を見つけた。
そこは秘密の妖精の隠れ場所、大滝スケートリンク。
そこで舞う喜びを得た妖精は、
ワルだった私達や、
そこに関わる人々にも魔法を掛けて笑顔を与えた。
だけど妖精は悪い魔法使いに見付かってしまった。
魔法使いは妖精を取り戻そうと、
秘密の妖精の隠れ家に忍び込んで来た。
すると妖精に笑顔に成る魔法を掛けて貰った、
闇の世界の住人だった者は、
奪われまいとして妖精を守るのであったとさ。
その続きは我々がこれから作るのね」と、
語り終えると竜彦は、「お前道間違えてないか、
美容師よりも童話作家がお似合いだぜ」と、笑ったのであった。
そう言われた真理も笑ったのであった。
竜彦、「今頃玲菜は枕を、びしょびしょにしているな」と、
予想すると真理は、「玲菜専用抱き枕ならぬ、
泣き枕って言うのを買って上げなさいよ。
多い日も安心の」と、言うと声を上げて笑った。
すると竜彦は、「既にもう買って与えて有るんだよ」と、
告げると更に笑いが込み上げる真理であった。
そして真理は、「そんなに毎日泣いてるのベッドで」と、尋ねると。
竜彦は、「真理お姉さんに告げ口すると、
玲菜が口聞いてくれなくなりそうだが、
外では見せないが玲菜をベッドで抱いた後、
現実に戻されると、裕子に追いかけられる恐怖感と、
自分の編み出した技のせいでチームメイトが死んだ事。
この頃は裕子に見付かり、
俺との仲を引き裂かれるだろうとする恐怖感で、
胸いっぱいになるらしい。
甘い時を過ごした分、その事を考えてしまうと居た堪れなくなり、
ただ泣くしか無い様だ」と、呆れると真理は、
「それが現実味を帯びると、玲菜は怯えるばかりで、
ベッドの中にもぐって、
恐怖に耐えるしか手立てが無くなる訳か」と、納得した。
竜彦は一つ溜息を付いて、「さて、
これから彼女をどう強くして行くかが課題だが、
逃げていても解決の糸口は見付からない。
彼女を裕子から守りながら、玲菜の精神力を強くさせて行くさ。
玲菜はスケートを続けるのが、心からの願いだから」と、覚悟を決めた。
そして玲菜が待つ自宅に帰る、竜彦であった。
竜彦は自宅に戻り冷蔵庫から、
ペットボトルの天然水を出して寝室に向かうと、
ベッドの上のスタンドの、明りだけが灯されていた。
掛け布団の中にもぐりこんでいる、
玲菜の姿を目にした竜彦は玲菜の名を呼ぶと、
掛け布団の中からもそもそと、裸の玲菜が出て来た。
左手には青いリボンが巻いてあった。
竜彦はベッドに腰掛けると、ペットボトルの蓋を開けた。
玲菜は上半身を起こして切ない顔で、竜彦を見詰めた。
すると竜彦はそのペットボトルの口を、玲菜の口に付けて上げると、
天然水を飲ませて上げた。
ペットボトルの容器の半分位飲ませると、
ペットボトルを玲菜の口から放し、
蓋を閉めベッドの上のスタンドの横に置いた。
玲菜はこの時、顔が少し腫れていた。
泣きじゃくった事を伺わせている様であった。
玲菜は虚ろな眼差しで 一言、「こんな顔をデッサンしないでね」と、頼んだ。
竜彦は微笑んで、「しないよ」と、答えた。
そんな竜彦に玲菜は、「さっき真理さんから、携帯にメールが入ったの。
[あんまりグズグズベッドで泣いていると、竜彦とエッチしちゃうぞ]って」。
それを聞いた竜彦は笑いながら、「今の玲菜にはキツイなー。
不安でしょうがないのに」と、答えた。
玲菜、「弱いね私。
自分でもよく解っているの。
でも真理さんからそんなメール貰ったら、少し落ち着いたの。
真理さんの私に対する励ましだと思ったから」と、
玲菜は真理のそんな思いを、理解した様子であった。
竜彦、「常に真理が玲菜をコーチしているから、
真理のそんな思いが伝わるのだろ」と、言って玲菜にキスをした。
そして掛け布団の中を手で探って、枕を出した。
枕はびしょびしょに濡れていた。
それを見た竜彦は、「随分涙を流した様で、
もう涙が枯れてしまった様だな。
給水してまた泣くか。
泣いても泣いても裕子は玲菜の前から、立ち去らないぞ」と、
脅かすと玲菜は泣くのを我慢した様子で、下唇を噛んだ。
竜彦、「悔しい恐ろしい、この愛を奪わないで欲しい。
そして皆んなから自分を、引き裂かないで欲しい。
そう顔に書いてあるぞ」と、告げると玲菜は唇が震え出していた。
そう泣くのを堪えていた為に。
竜彦、「だが大滝スケートリンクで、
スケートは止めさせたりはしないからな。
今止めさせたら玲菜の負けだ。
どれだけ大勢の人々に、玲菜は応援されているか、
リンクに行けば分るだろ。
あの狭いリンクに大勢の人々が詰め掛けている。
玲菜の華麗な姿を見たい為に。
もう一人じゃなんいんだ。
確かに裕子は何もかも出来上がった玲菜を奪えば、
一石二鳥だが奪われる事をされない、
精神的に強い自分自身を作り上げなければ、
自分の夢は達成されない。
メダルは一瞬の輝き、ホームスケーターは一生の輝きに満ちている。
強く成れ。
裕子に何を言われても、何をされても揺るがない自分を作り上げるんだ。
俺達はそのサポートをして行くのが使命だ」。
話終えると玲菜は泣かずに我慢していた。
それを見た竜彦は、今後の玲菜に希望が持てた。
玲菜、「今まで技を磨く事に専念していたけど、
今度は泣かない自分を作り上げる事に専念するわ。
そうでなければ竜彦君に、哀訴をつかされてしまうから。
今気づいたの。
私を甘やかしてくれたのは、
氷のフィールドでは、強い自分でいる事で疲れた体や心を、
竜彦君が癒すから、また華麗な演技を氷のフィールドで、
演出する事が出来る。
今度はあの人と打ち勝って、傷ついた心を竜彦君に癒して貰うから。
それがあなたから、私への願いなのね」と、
語ると竜彦はベッドに入って、玲菜を強く抱き締めて、
「そうだその通りだ。
その時、俺達がサポートして行くから、
一瞬の輝きよりも、永遠の輝きを勝ち取るんだ。
君は年老いて死期が訪れても、君の名は歴史に残る。
そして語り継がれる。
横浜には昔、氷の上で滑るやんちゃな妖精が居た。
その名をアイスエルフィン呼んだとね」。
そして二人は今宵、愛の世界へと誘われたのである。
あくる日、大滝スケートリンクの、
アイスエルフィンタイムがやって来た。
午後の三時頃、看板が立てられていた訳でも無いが、
大勢の人々が玲菜の滑りを見に来ていた。
すると大扉の入り口付近には、人だかりの真ん中に、
大きな円を描く様に空いていた。
そこに玲菜と真理が立っていた。
有田 裕子の姿もあった。
真理は真剣な眼差しで、玲菜の両肩を両手で押さえ、
玲菜の目を見詰めていた。
そして真理は玲菜に激を飛ばしていた。
真理、「いい、今日から今までの様に、
私は玲菜に甘い言葉を掛けない。
負けるんじゃないよ。
自分自身にそしてこの女に」と、裕子に聞こえる様に告げていた。
真理は続けて、「今日から玲菜は、精神を鍛えて行くから。
今までこの女の事が頭に引っ掛かって、
怯える毎日を過ごしていただろうが、
そんな弱気ではここに来ているファン達に、
申し訳が立たないからね。
誰が来ようが玲菜は強く生きる事。
それが竜彦の願いだから。
しっかり見せ付けてやりな。
あんたがコーチでは私の演技は上手く成らない。
この真理さんが指導なら、
こんなに切れの良い華麗な演技が出来るとね。
この女に、『私のあてつけ』と聞かれたら、
自信を持って、そうだと答えるんだいいね」と、
強調すると玲菜は自信を持って、「はい」と、答えたのであった。
その時、裕子は玲菜を睨み付けると、
真理は裕子を睨み付けて、「テメー、ガン飛ばす相手が違うだろうが。
そんなにこの子が憎けりゃ、
死んだ教え子を先に敬うべきだろー」と、大声で叫んだ。
すると周りにいたギャラリーが驚いて、裕子の顔を見た。
怯む裕子。
そして裕子に睨む真理とギャラリーであった。
今度は優しく玲菜を抱き締めた真理は、
「さあ、体の力を抜いてごらん。
やっぱり硬くなってるね。
天敵が居ても体の力を抜く努力をするの。
そうよ大丈夫。
今日はトリプルスクリューは行っては駄目よ。
天敵を意識して滑るのは初めてだから、とても危険よ。
トリプルアクセルまでなら行けるから、
さあリンクで羽ばたいて来なさい」と、言うと玲菜は目を瞑り、
「はい」と、答えて勢いよくリンクに飛び出して行った。
そして大きな歓声の中、
玲菜は大きく手を振ると、歓声の渦が巻き起こった。
それに圧倒される裕子。
今までの玲菜とは違い人気が高まり、
脚光を浴びている姿に裕子は戦いた。
そして玲菜はリンクの中央でポーズを取ると、
やはり場内は静まり返った。
そして天を仰ぎ静かに滑り出した。
曲は誰でも知っている、クラシックのナンバー四季であった。
http://www.youtube.com/watch?v=rbeunUDAUuI
バイオリンの流れと共に、優雅な姿を演出する妖精は、
春らしくグリーンユニフォームに身を包み、
クルクルと喜びながら回っていた。
レイバックスピンである。
手を広げ大空を舞う妖精の様に、観客が見ている前を滑ると、
観客は手を振っていた。
それに投げキッスをすると、観客は更に盛り上がった。
盛り上がった所で、姿勢を低く保ちシットスピン。
そして回転しながら姿勢を上げると、拍手喝采であった。
観客に笑顔で手を振ると、玲菜の名を連発された。
後ろ向きに滑走しルッツ。
連動してフリップ。
また滑走してループ。
この繰り返しを二回こなすと、イーグルの体制からバタフライ。
軽快にこなして行く姿に、裕子も夢中にさせた。
玲菜は必ず大きな拍手が沸くと、
手を振り観客に喜ばれた事を意識した。
おしゃまな格好でポーズを取りウインクをすると、
そのさり気ない仕草が、ファン達を寄り一層夢中にさせた。
優美に回り続けるその様は燦燦と降り注ぐ、
太陽の光を浴びている妖精の様であった。
乗ってくると左足を高々と上げて、
ブレードを両手で持ってビールマンスピン。
続けて足を肩の上に乗せてドーナツスピン。
そして大きく勢いを付けて滑走すると、
トリプルアクセルを一回、また滑走して二回、
そして最後のフィニッシュで三回と、
軽やかにこなすその様は人間離れしたまさに、
妖精と言われても過言では無かった。
音楽が終わる頃、中央で立ち止まりポーズを決めると、
どよめきが沸いた。
それが直ぐに拍手に変わると、玲菜は笑顔で手を振り、
リンクの外に出て行った。
リンクの外に出ると、待ち構えるファンと真理が居た。
間近で拍手される玲菜は、その人達に頭を下げた。
するとそこに裕子がやって来ると、玲菜の手を掴もうとした瞬間、
リンクのオーナーの大滝が、顔を強張らせて裕子の前に立ちはだかった。
大滝、「触るな。
あんたにこの子を指一本触れさせない」と、咎めた。
そして、「この子はもうあんたの教え子でも何でもない、
ただこの子を嫌がらせに来るだけの厄介者だ」と、暴言を吐いた。
いつもの優しいスケートリンクのオーナーでもある、
掃除のおじさんが急に態度を変えたので、
玲菜は驚いて声を出せなかった。
大滝、「あんたには解らんだろうが、この子は大滝スケートリンクの、
ホームスケーターとして、雇っている大事な子なんだ。
ここに来るのはあんたの勝手だが、睨み付けたり触れたりすれば、
この子が演技に支障を来たす。
この子を間近で見ないでくれ。
それと今度この子が夜の練習でどんな形であれ、
営業終了後に場内にあんたが進入する事が有れば、
即刻警察に通報するからな。
無論入り口にも裏口にもカメラを設置して、ワシが監視するから、
承知しておけ」と、怒りを露に警告すると、
ファンを掻き分け場内から立ち去って行った。
そして竜彦がゆっくりとファンの間から、玲菜の元に歩いて来ると、
玲菜を抱き締めながら、「おじさんも玲菜の事を心配しているんだ。
可愛い孫の様にな」と、囁くと裕子がしょんぼりしていた姿を、
目の当りにした三人だった。
そして裕子も場内から立ち去るのであった。
この時、ここに集まっていたファンに、
裕子が睨まれていた事は言うまでも無い。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html




