第十一章、主権
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
あれから二週間が過ぎて、
大滝スケートリンクではもう、玲菜の演技を人目見ようと、
人が溢れ返っていた。
昔のスケートリンクだけに、観客設備も整っては無く、
一階は立ち見であったが、
二階席はどうにか座れる席があった。
だが差ほど人数は座る事が出来なかった。
すると竜彦と真理に囲まれてリンクに降りた玲菜は、
来てくれた観客に笑顔で両手で手を振った。
二階席にも目を向けて、手を振ると場内の歓声が沸いた。
そして音楽が鳴り出すとポーズを決めた玲菜。
その時、場内が静まり返る。
今日はタンゴのリズムで踊りだす。
シューズを氷に付けて音楽に合わせてステップを踏むと、
場内から玲菜の名を呼んでいた。
呼ばれると玲菜は投げキッスをすると、
前列に居た男性客は冷やかした。
演技が終わるとファン数人から、花束を贈呈された玲菜。
すでに横浜のフィギュアスケートのアイドルであった。
竜彦はひたすら玲菜の滑りを、デッサンする毎日であった。
そんなある日の出来事、いつもの様に滑り終えて、
リンクから上がると竜彦が待っていた。
玲菜は空かさず竜彦に抱き付くと、場内からやはり冷やかされた。
そんな姿を横で見ていた真理は、観客と同様に二人を冷やかしていた。
すると竜彦は前方の遠の何かに注目した。
そして見詰めていた。
それは女性でセミロングの黒髪で、
大きなマスクに、大きな茶色のサングラスを掛けていた。
その女性もこちらを伺っていた。
丁度玲菜はその真後ろで、竜彦に抱かれていた為に、
玲菜はその女性を確認する事が出来なかった。
だが玲菜はいつもと違う、竜彦の動きに敏感に反応していた。
玲菜、「どうしたの」と、尋ねると竜彦は、
「振り向くなよ」と、囁いて抱きながら片手で、玲菜の後頭部を抑えた。
玲菜は急に体が震えて、「まさか」と、声を発した。
その女性はまだこちらを見ていた。
隣に居た真理も二人の異変に気づいた様で、
竜彦に、「どうしたの」と、
尋ねると竜彦は、「あいつだ」と、やはり囁いた。
三人は先ほどの笑顔が失なった。
真理もその女性を見詰めた。
竜彦、「間違いない。
今にも獲物に食らい付こうとするあの目は、
玲菜を無理にでも捕獲しようとする目付きだ」と、
悟ると真理も、「そうよ、間違いないわ。
あの子が欲しいと言わんばかりの目付きね。
サングラスをしていても分るわ。
じっとこっちを伺って目を放さない」と、強調した。
竜彦は、「さていよいよ玲菜を取り戻しに、
噂を聞きつけ、様子を伺いにやって来たか」と、
悟ると真理も、「三年前と比べて洗練された玲菜の演技を見て、
興奮を隠せない様子ね」と、真理も悟った。
すると竜彦は真理に、「玲菜を頼む。
俺は関係者専用の出入り口に、車を回して来るから、
着替えが終わったら、あの女に見付からない様、
裏の関係者専用出入り口から出てくれ」と、頼むと竜彦は場内から出て行った。
真理もその女を尻目に、場内から玲菜を連れて、更衣室に玲菜を連れて行った。
玲菜を急いで着替えさせると、
足早に関係者専用の出入り口の、ドアの鍵を解除してドアを開けた。
すると竜彦が自分の車を、裏口に着けていた。
即座に真理は、ワンボックスのスライドドアーを開けて、
玲菜を先に車に乗せると、自分も車に乗り込んだ。
そしてドアを閉めると同時に、車を走らせた竜彦であった。
すると駐車場の入り口に、その女が立っていた。
それを目視すると、真理は玲菜を屈めさせた。
駐車場から道路に出る為に、車が通り抜けるのを待っている間も、
その女は車を見詰めていた。
そして竜彦は道路を左右確認をして、
駐車場から車を道路に出したのであった。
車が駐車場から遠く離れてから、玲菜はその女性を見た。
その時、玲菜の表情が重くなった事は言うまでもない。
その夜、玲菜は大滝スケートリンクのベンチに、
練習用のユニフォームを着て一人で座っていた。
俯き加減で表情が重く、いつもの元気な姿は無かった。
滑る気力も無いまま、ベンチで物思いに更けていた。
すると入り口の大扉が静かに開いた。
先ほどとは違い、マスクもサングラスも掛けていない、
紛れも無く有田 裕子がこのフロアーにやって来た。
それをベンチで見ていた玲菜は急に叫んだ。
「来ないで」。
裕子は無視して玲菜の所に駆け寄った。
裕子、「こんな所で滑っているなんてどう言う事なの。
浜松に居るとばっかり思ってた」と、
問いかけると玲菜はベンチから立ち上がり、「私は自由に滑りたいの、
もうあなたの指示は受けない、受けたくないの」と、感情的に答えた。
すると急に裕子は態度を変えて、玲菜の手を掴もうとした瞬間、
玲菜は裕子を押しのけ、この場から立ち去ろうとした。
その時、玲菜は裕子に後から手を掴まれた。
もがきその手を振り払おうとする玲菜。
それを放すまいとする裕子であったが、
玲菜は暴れて裕子の手を振り解いて、
逃げた所に大扉が開いて竜彦が場内に佇んだ。
そして玲菜は竜彦に抱きついて泣いた。
竜彦は玲菜を抱き締めながら裕子に、
「手荒な真似はよして下さい。
幾ら元あなたの教え子だとは言え、
今はもうこの子のコーチではない」と、
告げると裕子は、「あなたは誰なの」と、感情的に問い掛けた。
竜彦は冷静に、「俺の事を知らないのですか。
あなたはこの子だけしか見えない様ですね。
名古屋にお住まいと聞きましたが、名古屋の美術館でも、
この子の絵が飾られているはずだ」と、
問いかけると裕子は驚いて、「あれはあなたが描いた作品なのね。
ならば婚約者」と、尋ねた。
竜彦は頷いた。
裕子、「婚約者であろうがなんだろうが、
この子をここまでにしたのは私なのよ」と、
豪語すると竜彦は笑みを浮かべて、「予想通りの返答だ。
確かにあなたはコーチであった。
途中まではその意見が通用したが、
急にこの子の神技を目の当たりにしてからは、
この子を操つるだけの、単なる支配者に過ぎない」と、
告げると更に感情的になる裕子は、
二人の所に駆け寄ろうとした時だった。
真理が扉を開けてこの場内にやって来て、裕子の前に立ちはだかった。
真理、「あんたやっぱり裏口から入って来たんだ。
表口はクローズのプレートを掛けて、鍵を掛けて入れなくしておいた。
普段はクローズのプレート掛けて有っても、入れる様にしてあるの。
今日は態と裏口の鍵を空けて置いた。
普段は裏口だけは何時でも鍵が掛かっているの。
クローズのプレート掛けてあっても、外から明りが見えたから、
玲菜が一人で練習していると踏んで、
密かに潜入を試みたのね」と、告げると裕子は躊躇った。
続け様に真理が、「私が新しく玲菜の専属のコーチを行う事に成った、
伊丹 真理と言う者けど、どうですか以前とは見違える様でしょう」と、
答えると裕子は驚いて、「あなた今日の昼間、
私を見て元玲菜のコーチだと見抜いたのね」と、悟った。
すると真理、「だてに昔ワルやっていませんでしたから、
竜彦と同様人の表情を見れば、その人の狙いが分るけど」と、
答えると裕子は黙り込んだのであった。
玲菜の周りに着いている連中は、
一筋縄では行かないと悟ったからである。
この場の四人は落ち着く様にと、竜彦が裕子をベンチに座らせて、
後の三人は立っていた。
様子を伺いに大滝オーナーも、この場に訪れたのであった。
その時、竜彦は玲菜を抱き寄せていた。
竜彦、「事情はこの子から全て聞きましたよ。
落ち着いてお話がしたい。
相当今まで躍起になって付き纏った様ですが、
あなたはこの子の気持ちを無視して、
あなたの過去の栄光をもう一度、この子に託したい御様子ですが、
そこの所を聞きたくて、
この子をおとりに、 一人でここに居るよう指示しました。
案の定あなたは裏口から、場内に進入した様ですが、
その気持ちは今でもお変わり無い様だ」と、
尋問すると裕子は重い口を開いた、「あなたに何が解るのよ。
婚約者なんて笑わせないでよ。
この子が小さい頃から、私が目を掛けて来たその子を、
易々とつい最近現れた、婚約者なんかに奪われて堪るもんか」と、
心の内を明かすと玲菜は感情的になり、
「あなたに私の気持ちの何が解るのよ。
昔は私の良き理解者だったけど、
今はただ単に、優秀なコーチとして名を馳せたいだけの、
私をその出汁に使いたいだけに過ぎない。
私が駄目ならば、あの子を使ってオリンピックの代表選手に、
伸し上げる事しか頭に無かった。
その結果あの子は死を招いた。
私が編み出した技であの子は死んだ。
私があれ程までに、危険だからやらせては駄目だと、
忠告したはずなのに」と、
怒りを露に訴えると裕子も感情的になり、
「あれは事故よ。
あの子が柔軟体操を疎かにした結果、
事故を招いたのよ」と、自分の正当性を強調した。
竜彦、「いやそれは違う、あなたのミスだ。
紛れも無いあなたは選手の、管理義務に反している。
玲菜が危険だと主張したのにも関わらず、
柔軟体操をしっかりと、行わせそれを見届けた上で、
技を行わせ無かったあなたの過ちだ」と、
主張すると真理も、「あなたも今日、玲菜の編み出した技、
アクセルスクリューを、こなしている姿を見たでしょう。
あの技を行わせる際に、私がこの子を抱き締めて、
体の力が抜けているか、緊張していないか万全の体制で行わせるの。
緊張で少しでも体が膠着していると、
失敗して身を危険に晒してしまうの。
エッジを引っ掛けた時、一瞬の躊躇いがトラブルを招く危険な技。
でも今の玲菜の体は、その緊張感が無いから慣性で飛べるの。
あなたには解らない理屈だろうけど」と、
問いかけると裕子は、「私が指導している時寄りも、
確かにスムースに演技をこなしているわね。
それは私の当て付けなの」と、玲菜を睨んだ。
それに激怒したのは真理であった。
真理は急に座っている裕子の手を掴んで、
椅子から引きずり落とすと跪く裕子に真理は、
「テメー大概にしとけよバカヤロー。
こっちが大人しくあんたを受けいていれば、
テメーはデカい態度を示しやがって。
テメーが達成出来なかった夢を、玲菜に託すまでは上等だ。
玲菜が足を挫けば、今度は体が軽いチームメイトに技を磨かせた。
その時点であんたは玲菜を捨てたんだ。
事故が起きチームメイトを一人亡くすと、
闇雲にもう一度、玲菜に託さざる負えなく成ったあんたは、
無我夢中で玲菜をフィギュア界に、引き戻そうと必死に追いかけた。
その時点で既にあんたは、玲菜の支配者と成り代わった。
いやそうせざる負えなくなった。
自分の栄光を取り戻すために。
これっぽっちも玲菜の気持ちなど、汲んで上げやしない。
それに気づいた玲菜はあんたに、哀訴を尽かしたんだ」と、
訴えると竜彦は落ち着いて、
「いよいよタイマンの時がやって来た様ですが、
あなたの事を玲菜が敬遠している事は、
前から承知しているはずです。
あなたの今の気持ちは、無理やりにでも玲菜を連れ去り、
監禁して折檻してでも、自分の言う事を聞かせたいでしょうが、
そうは行きません。
俺は婚約者です。
つまり玲菜を指示する主権は、
俺ともう一人コーチである真理に有ります。
どんな事があろうが、気が狂ってしまっているあなたには、
玲菜の指導の主権を渡しません。
そしてもう一つ告げて起きますが、もう玲菜の味方は大勢居ます。
今日このリンクに来て見て頂いたと思いますが。
もしも玲菜をあなたが今後、傷つける様な事をするならば、
大勢の人々が監視していますから、あなたを非難するでしょう。
そこで一つあなたに忠告して置きます。
まだあなたが欲が出る前の、玲菜の大切な良き理解者に、
戻る事が出来るのならば、玲菜は自然とあなたの元へと戻るでしょう。
そうしないと玲菜との、あなたの心の距離は埋まりません」と、
告げると急に裕子は立ち上がり、
竜彦に寄り添っている、玲菜の頬を張り倒そうと手を振りかぶった瞬間、
その手を竜彦が掴んだ。
その時、竜彦は昔のワルだった時の鋭い眼光に戻った。
そして、「卑怯な真似はするな。
俺が怖くて殴れないならば玲菜を殴るのか。
俺を張り倒して見ろ。
本当に玲菜が欲しかったら、この俺を殴れ」と、言い放った。
急に殺気を感じて怖気づく裕子は、体が震え出した。
真理はその時、
「そんな程度か玲菜に対するあんたの思いは」と、呆れたのであった。
すると玲菜はより一層切なさを隠し切れずに、泣きじゃくるのであった。
その夜、玲菜はリビングのソファーで泣いていた。
予想通りの展開に呆れていた竜彦だった。
竜彦はテーブルを挟んで向かい側のソファーに座り、
玲菜の様子を伺っていた。
すると竜彦は、「何度も裕子が君の前に、
現れた時の対応をシュミレーションをしたが、
やはりこうなるか」と、語ると玲菜は、「顔を見てしまうと駄目なの。
いざ本人を前にすると、昔の事を思い出すから」と、言い訳をした。
竜彦はソファーの背もたれに背中を付けて、「悔しい思いと、
恐怖感が入り乱れて、涙が止まらないのだろ」と、悟った。
玲菜はまた感情が高まり、泣きじゃくるのであった。
竜彦、「真理も相当頭に来ていたな。
ぶん殴るかと思ってはらはらしたよ。
昔の真理ならぶん殴ってたな。
あいつもスタッフ育てて、大分大人になった様だ」と、
語ると玲菜は、「あの人、私に恨みが有るの」と、
告げると竜彦は、「まさか玲菜が裕子のチームから、
勝手に抜けたからなんて言わないよな。
そんな理由で恨むなら練習中、
裕子に殺された子の親の気持ちは、どうなるんだ」と、嘆いた。
玲菜、「あの人、急に或る時から自分が絶対的に、
主権を握らないと、気が済まなく成ってしまったの。
どんな理由があれ練習を怠ると、チームメイトを張り倒してた。
チームメイトの親ともその事で大喧嘩をして、
チームメイトはあの人から放れて行った」。
竜彦、「そして有田 裕子はまた一人になり、
頼る先は玲菜しか無くなった。
挙句にストーカー行為に走り、今に至る訳か」と、嘆いた。
玲菜、「言う事を聞かなければきっと、
私を殺そうとするわ」と、躊躇した。
竜彦、「殺してなんに成る。
殺せばもう自分が伸し上がる材料が無いんだ。
俺の策略に見事嵌ってくれた様だが」と、
答えると玲菜は驚いて、「どう言う事」と、問いかけた。
竜彦、「君は以前の玲菜とは違う。
ぎこちない滑り方では無くなり、
切れの良いシャープな演技をこなせる様に、
真理と俺で君を仕込んだ。
もし以前のままの玲菜で居て裕子に見付かれば、
無理矢理にでも玲菜を脅かして連れ去り、
海外の何処かに潜伏して、そこのスケート場を借りて、
強制的にあの神技を完璧に、マスターさせるだろう。
母親も居ない状況で裕子は君を見付ければ、
裕子の思うがままに出来る。
だが俺達が君を仕込んで神技を完璧に、
マスターさせた状態を裕子に見せ付けた。
つまり無理矢理裕子がコーチする必要が無くなった。
後は玲菜の主権を握るだけでいい。
殺したら自分がコーチとして伸し上がれないだろ。
あの神技が出来るのは、
世界中でたった一人、玲菜しか出来ない技だから。
俺達から玲菜の主権をどう奪うかに絞っている。
これで裕子が玲菜を折檻してでも、
練習させる要素が無くなった。
今直ぐにでもオリンピック予選に出場出来る程、
今の玲菜は技を極めている。
すると玲菜を説得させる為に、殴る蹴るの暴行を加えたら、
次期オリンピック予選に、出場させる事は出来なくなるので、
手荒な真似は出来なく成った。
後は君を奪えば脅かすなり、説得するなりすればいい」。
玲菜、「つまり私に竜彦君がスケートを続けさせたのは、
私自身の防衛作だった」。
竜彦、「前にも言ったろ。
裕子は玲菜がどこかで自ら、
スケートを行っていれば必ず見つけ出すと。
逆に言うと君はスケートを、
捨て切れない事を裕子は察知している。
現に浜松市のスケートリンクで、
働いている所を見つけ出している。
どんなにその街の寂れた、スケートリンクで有ろうが、
そこにスケートリンクが存在していれば、必ず彼女は調べに来る。
なので敢えてこちらから目立つ様に、
仕掛けたんだ何故だかわかるか」と、尋ねると玲菜は首を振った。
それを見た竜彦は、「最終的には君が、
毅然とした態度を示さなければ、解決しない柵だからだ。
はっきりと、『私はオリンピックには出ません。
あなたの役にも立ちません』とした、
毅然な態度を示し続けなければ、
彼女はずっと君を追い続けるだろう。
だから弱さを裕子に見せていては駄目だ。
厳しい言い方をするが、そうして泣いてばかりでは、
君は裕子を振り払えない。
君は俺に抱かれていれば、精神安定剤を飲んだ事と同じで、
一時的は不安から開放されるが、
今後はしつこく裕子に追い回されて、スケートを続けられなくなる。
結局同じ繰り返しなんだ」と、語ると竜彦はリビングから出た行った。
そんな竜彦に戸惑いを隠せない玲菜であった。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html




