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古い砦へ

 再生村という名前は、翌朝にはもう仕事になった。


「名前を掲げた以上、外から来る人も増える」


 ミナは作業小屋の前で、真鍮の鍵を指で弾いた。


「防壁の外を見る。古い砦まで」


 ニコが即座に手を挙げる。


「俺も」


「留守番」


「なんで」


「走るから」


「走らない」


「昨日も走った」


 ニコは言い返せず、帽子を引き下げた。


 同行するのは、アルト、ミナ、レム、ダン老人。それと、荷車を引いたロッコだった。


「あっしは商人ですぜ。危ない場所は苦手で」


「帳面に書くものがあるかも」


 ミナが言うと、ロッコは渋い顔のままついてきた。


「その言い方はずるい」


 古い砦へ続く道は、草に埋もれていた。


 アルトは倒れた道標を見つけ、土を払う。


 文字は削れている。けれど、板そのものは腐りきっていない。


「案内板に作り直せます」


「まず帰り道の目印」


 ミナは即座に用途を決めた。


 砦は、村から半刻ほど歩いた丘の上にあった。


 石壁は崩れ、門扉は片方だけ外れ、見張り穴には鳥の巣がある。だが、高い位置からは村と街道が見えた。


 レムが息をのむ。


「村が、全部見える」


「見られる場所は、守れる場所でもある」


 ミナの声が低くなる。


 アルトは砦の門扉へ近づいた。


 木は古いが、芯は残っている。鉄の蝶番は錆びているが、折れてはいない。


「門には戻せません。でも、見張り扉にできます」


「閉じ込める扉ではなく、身を隠す扉」


「はい。風よけにも」


 ダン老人が壁を叩いた。


「ここは昔、二人立てる見張り場だった。魔物じゃなく、盗賊を見たらしい」


 ロッコが帳面を開く。


「盗賊は商人の敵ですな。砦が生き返るなら、道の値段が変わる」


「値段より先に安全」


 ミナが言う。


「安全は値段になりますぜ」


「順番の話」


 アルトは門扉を切り詰め、壊れた盾の金具で補強した。折れた槍の柄を横木にし、鳥の巣があった穴を覗き窓にする。


 砦を完全に直すことはできない。


 けれど、見張りが雨風を避けて立てる場所にはできる。


 作業の途中、レムが石の床にしゃがみ込んだ。


「これ」


 土の下に、薄い金属片が埋まっていた。


 アルトが拾うと、そこには歯車と芽のような小さな印が刻まれていた。


 ロッコが顔を寄せる。


「職人印ですかね」


 ミナは鍵の輪を握った。


「知ってる?」


「いえ。でも、ただの飾りではなさそうです」


 アルトは金属片を布に包んだ。


 夕方、砦には仮の見張り扉がついた。


 覗き窓から見る村は、小さく、しかし確かに灯りを持っていた。


 レムが窓から目を離さない。


「ここにいれば、早く知らせられる」


「一人で立たせない」


 ミナが言った。


「見張りは二人組。交代時間も決める」


「俺、できる」


「できるから、決まりを作る」


 レムは少し考え、うなずいた。


 帰り際、砦の奥で冷たい風が吹いた。


 ダン老人が杖で床を突く。


 土が少し崩れ、下へ続く石段の端が見えた。


「地下があるな」


 ミナの表情が硬くなる。


「今日は入らない」


 アルトは石段の闇を見た。


 下から、古い鉄と湿った土の匂いがした。


 砦はまだ、すべてを見せていない。


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