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白雪の物語(上)

 白雪が森の家に匿われていることを知る者は、思ったよりも多いのかもしれない。

「まずいわね」

 わたくしの言葉に、応える者はいない。

 今は布をかけてあるから、魔法の鏡も沈黙したまま。

 布を払って、そこに映るわたくしの姿を見る。古式に則った襟の高いドレスに、髪を覆い隠す被り物、その上に繊細な細工の冠を戴いた、かつては美麗だった女の姿。今は威厳のほうが強いかしら。

「鏡よ鏡、世界で一番美しい処女(おとめ)は誰?」

 いつもの確認をする。

『お妃様、それは白雪姫でございます』

「よろしい」

 布をかけなおして、ほっと息をついた。

 まだ、あの娘に毒牙は及んでいない。少なくとも、命を奪うほどのものは。


 仮初の夫とした馬鹿王は、今日も女と戯れている。

 それはまあ良い。問題は、この馬鹿が正統な後継者である白雪にも手を出そうとしている事。

「あれはわしのものだ、わしがどう扱おうとも構わぬだろう」

 それが実の娘に向ける目か?と聞いた事はあったけれど、馬鹿の答は魔女のわたくしから見てもどうかと思うようなものだった。

 わたくしは、あの娘を案じた母と契約を結んだ魔女。妃として馬鹿王の傍に立ち、閨事はスルーしつつ、馬鹿王から男としての能力を取り上げる薬を盛り続けている。

 馬鹿王が今後子をなさなくとも、問題はない。

「お妃様、王が狩りに出かけると城をお出になりました」

 すっと音もなく部屋に入ってきた侍女が、告げた。

「追いなさい」

「は」

 侍女はその場で烏に姿を変えると、わたくしが開けてやった窓から飛んで行った。

 わたくしの侍女たちは、わたくしの使い魔。仮初の夫があてがう人間たちなど、はなから信用してはいない。

「森よ、あの娘を隠しておくれ。より深く、より静かに、あの娘の血を狙うものの目から隠しておくれ」

 魔力を込めた歌を窓から歌い、風魔法に乗せて広める。

 森のざわめきが応じるのを感じ、それでもなお胸騒ぎは消えない。

 窓から外を見ているうちに半刻ほどもしただろうか、ミソサザイの姿をした使い魔が飛び込んできた。

「どうしたの」

「小人が裏切りました」

「なぜ?」

「火酒をあてがわれて」

「そう、森の魔女を裏切ったのね」

 わたくしは森の魔女。白雪をかくまったのは、わたくしの森。そこのすべてはわたくしが操るというのに、森の小人はそのわたくしを裏切ったのね。

「森が白雪を隠していますが、王が隠れ家に向かっております。お妃様が小人にお与えになった、護符を持って」

 わたくしが与えたそれを持っていれば、常の森の守りには惑わされない。

「惑いを強めましょう」

 惑いを、守りをさらに強いものにして。

「間に合いましょうか」

「今回はそれで良いでしょうが、白雪をどうにかしないといけないわね」

 使い魔はわたくしの独り言に答えなかった。

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