測られるもの
誰も喋らなかった。
市場の人間。
店主。
旅人。
子供。
全員が、同じ角度でこちらを見ている。
呼吸が揃っている。
まばたきも。
リュカは全身の毛が逆立つのを感じた。
敵意じゃない。
もっと別のものだ。
観測。
測定。
値踏み。
そんな視線。
ミアの指先が震える。
「……見つかった」
「何にだ」
返事はなかった。
代わりに。
町の奥で、鐘が鳴る。
ごぉん。
低い音。
その余韻に合わせて、人々が一斉に歩き出した。
同じ歩幅。
同じ速さ。
同じ方向。
リュカはミアの手を掴む。
「走るぞ!」
二人は町を飛び出した。
背後から足音が追う。
だん。
だん。
だん。
揃っている。
夜の街道へ飛び込む。
息が乱れる。
肺が焼ける。
それでも止まらない。
後ろの足音は、町を離れるにつれて少しずつ崩れていった。
やがて。
完全に聞こえなくなる。
二人は森の入口で立ち止まった。
ミアが木に手をつき、荒く息を吐く。
今度の呼吸は、不揃いだった。
ちゃんと苦しそうで。
ちゃんと生きていた。
しばらくして。
風が吹く。
枝葉が、ばらばらに鳴る。
その音を聞きながら、リュカはゆっくり目を閉じた。
まだ、大丈夫だと思った。
世界は、まだ揺れている。
完全には揃っていない。
だから、戻れる。
そう思った。
――そのとき。
森の奥で。
かつ。
小さな足音が鳴った。
かつ。
少し遅れて、もう一つ。
かつ。
また一つ。
一定の間で。
一定の高さで。
リュカは目を開く。
暗い木々の奥。
何も見えない。
なのに。
音だけが、近づいてくる。
かつ。
かつ。
かつ。
ミアが、小さく息を呑んだ。
「……増えてる」
最後まで見ていただき本当にありがとうございました。
ここで一旦の完結とさせていただきます。
改稿、続きのお話は少しずつ進めていきたいと考えております。
シリーズ通して初めての執筆のため表現しきれない部分が多すぎましたが、ここまで読んでいただいた読者の皆様に感謝しております。




