わが社は修羅界、冥界、ヴァルハラからも徴兵する異常な軍隊だぁ。
この展開を知った日本政府の中の人々は快哉を上げた。遂にチマチマとして工作が実り、米中は衝突したのだ。これまで度々マッカーサーに接触し、第一生命館のマッカーサー記念室に座らせたりして
「ナニを迷っている奪い取れ!」「今度はお前が微笑む時代だぁ!」「大統領!大統領!」
と囁き続けたかいがあった言う物だ。彼の肥大化したコンプレックスと絶対に負けない相手が味方にいると言う安心感は彼をして暴走特急に変えたのである。
なのだが誤算もあった。そのマック君から「やってくれるよね?僕たち共犯だよね?」と言うお願い。アメリカ政府よりは「派兵してぇ!!!!重装備送ってないの!!!居留民死んじゃゃうぅ!!!海兵隊は自分だけでやれますとか言ってるけど無理ぃ!!」と悲鳴が届いたのだ。
日本政府としては「は?」な展開である。
「なんで?アメリカでしょ?アメリカだよね?近衛政権なの?」
「アレだけ時間あって何をしてたんだ?ヤる気あんのか?だらしねぇな」
「マック君、ちょっと勘違いしちゃったかなぁ…遺伝子は採集してるね?入れ替えるか…」
これを受けた日本政府の中心。正確には中心を支配する党の中の主要派閥の人々は頭を抱えたり、物騒な事を口に出していた。これは彼らの、そして夜逃げ後に生まれた世代を除く日本人全体の悪癖故の言葉である。
特に政治家に多いのだが、要職を占める70後半から50代の政治家に取って、アメリカとは湾岸・アフガン・イラクと大洋を自由に移動し、山を動かし、空を支配出来る、女神と50の星の加護を受けた超大国なのである。確かに夜逃げ前はすこ~しばかり翳りが見えていたが、それでも世界でかの国に軍事的に挑戦できる国は居なかった。
頭では現在の米国はかの国とは違うとは理解していても、どうしても色眼鏡で見てしまっていた。よもや泣きついて来るとは考えが至らなかったのだ。こんな姿見とうなかった…強いサム君何処?ここ?
しばしの現実逃避。だがサム君が泣きついて来ている事に変わりはない。対処をしなくてはならないのだ。それも出来るだけ穏便に迅速にだ。大規模派兵等絶対やだ!
世界を引き裂ける力を持つなら少しくらいならと思うだろう。アメリカにしても民国の上海侵攻の報に紅茶吹いてシンガポールからの上海・香港への兵力増派を指示した英国にしてもそう思っている。いるから英国もそしてフランスも米国に続いて日本に兵力派遣をせっついて来ている。
だが日本にはその様な事したくない理由が大陸の泥沼以外にもある。日本は少しでも兵力を削る可能性があるのは嫌なのだ。何故か?それは戦力回復の問題を日本が陸海空の自衛隊が抱えているからだ。
忘れて貰っては困るのだが日本国の技術にしても、そこから作り出された現在の世界とは隔絶した生産力にしても大半はチートバカがチートでポンしたものだと言う事だ。日本国は確かに2000年代から来た先進国ではある。だがその日本であっても2000年代の技術を遥かに超えるチート技術にはそう簡単には追いつける物ではないし、どうやった所で理解不能で解析を後回しにしている物さえある。
平時ならば補充はなんとかなる。整備も出来る。血反吐きながらメーカーの技術者たちは頑張ってくれている。現在当選二回目当たりで議員をしている、どっかのチート野郎が官僚たちにどつかれながら毎日書いている論文に、理工学系の先生方は目を爛々と輝かせてチート技術の解析と吸収に励んでいる。家にも満足に帰っていない。
だが戦時となれば別だ。チートバカは列島夜逃げの際、力を使い果たし大半の超チートを失ってしまった。確かに青写真生成、資源生成はまだ使えるが、嘗ての様に無限の兵力を出す事は最早出来ない。だからこそ出したくないのだ。
47都道府県(台湾が府になった)47師団、1000機体制、88艦隊。これを維持できるのは平時だからである。戦車も戦闘機も艦船もどんなに格差があろうと無敵ではない。何万人死んでも良いなら投石でも撃破出来る。事故による損失だって起きる人間だもの。それが戦時となれば機材は炎天下に置き忘れたラクトアイスになるのは明白だ。
贅沢な悩みであるが、日本国は自身の安全を保障する軍備を失いたくない、ただその一心で出し渋りを行っていた。「死ぬのは君たちだけにしてね♡お金だけは上げる」そう言う都合の良い事考えていた。だが現在、アレだけ貢いで上げた米国が芋を引いた物言いをしている。ここで手伝わねば芋煮でモンローする可能性すらある。
此処に置いて日本政府の中の人たちは決心した。限定的な戦力投射を行うと。ごく限られた兵力で最小限の軍事行動。これが今の日本に出来る精一杯なのだ…この時代の人間に取ってそれがどれだけ過剰で衝撃的な出来事かは考慮されていないとしても。一見冷静に見える中の人たちもチートに脳をやられていた。
全国に散らばる陸上自衛隊の各師団から抽出され編成された一個大隊と「後続」の輸送船団に護衛艦艇。それが日本国が上海で窮地に陥る米国に送る救援の全てだった。疑問が浮かぶだろう。輸送船が「後続」って何よ?どうやって陸自運ぶんだよと。問題は無い。全くない。チートを行う。出したく無いだけで出来ない訳ではないのだ。
1937年8月15日 男たちは狭苦しい空間に詰め込まれ降下の時を待っていた。そこには窓等と言う贅沢な物は無く、男たちの纏う装甲服…身長2メートル半に達し、プラスチール等と言うSFから来た装甲で覆われた物はエグゾスケルトンとは言えない。嘗ての世界で中止されたタロス計画が進化し続けたのであればこの様な姿になるかもしれない姿だった…の呼吸補助機能を持ってしても唯々陰鬱で息の詰まる場所であった。
そこには四人の男たちが居た。その中の一人が、彼らの為の武器弾薬に圧迫され、兜としか言えない頭部全てを覆う金属のバケツの中で、我が身を襲う運命に付いて思いため息を付いていた。
彼の名は福部3曹38歳。陸上自衛隊練馬駐屯地第1師団第1普通科連隊に配属された陸上自衛官だ。彼は所謂氷河期組と言われる世代で、チートバカによる自衛官狩りの犠牲者の一人だった。
氷河期組は問題の多い世代だった。バカ野郎が安全だと豪語するだけの、禄すっぽ実証も済んでいないナノマシンインプラント…MODと今日では呼称されている…と薬物による身体強化をぶち込まれ、やりたくも無い自衛官と言う仕事を強制された第一世代だからだ。
「なんで俺だけこんな目に会い続けてるんだ…」
故に福部3曹のため息は深い。深いだけの理由が更にある。彼は氷河期組に起こった問題の当事者にして、雑にしてトンデモナイ解決策を試された男だからである。彼は現在自衛隊が運用するナノマシンインプラントによる記憶転写に極度の拒否反応…戦闘拒否と無気力症状…を起こしたのだ。
これに安全だと豪語したチートバカと、バカに洗脳され辻脳やらパットン脳になっていた自衛隊インプラント計画推進者たちは上記したトンデモな解決策を行った。彼らは福部3曹…この時は2等陸士だが…や他の拒否反応者は、本来ならば全く兵隊には適正の無い人間、非常に温厚で暴力に抵抗のある、ともすれば臆病と言える人間だと突き止め、ならばと強烈な個性と人生経験のある記憶を転写したのだ。
チートは滅茶苦茶故にチートと呼ばれるのである。それは物理法則を超越し、現代科学から逸脱している。チートバカが自分は転生したと言っている事から分かる通り、そこにはオカルトすら含まれる。将兵の記憶を移植する等と言う事をしているので今更だが。
福部3曹の脳と魂に刻まれたのはその様な記憶、軍務と軍旗に対する忠誠と献身を生きそして死んだ兵士の記憶と経験で、それは福部3曹の人生を上書き保存するに充分な物だった。
「俺は現代人だっての…いい加減にしてくれ」
だから彼が嘆くのも無理は無い。後禁忌とされたこの処置により、福部3曹の脳の一部分にはルキウス・ドニウス・ファルクスと言う名前の紀元9年ローマ帝国軍第17軍団の百人隊長を務めたベテランの兵士が同居する事になっていた。第17軍団に紀元9年に所属していた兵士がである。
ルキウスはオスティア出身で軍務に20年奉仕した男だ。このまま行けば、後5年で人生の大半を過ごした軍団と名誉除隊で別れを告げる筈で、除隊後は年金を手に静かな農村暮らしをしたいと考えていた。彼の人生は血に塗れ過ぎていたからだ。
彼は紀元9年のその日、総司令官プブリウス・クィンクティリウス・ウァルスに引き入られ、ゲルマニアにある、陰気な沼沢地がそこかしこに口を開けるトイトブルク森の細い道を、雨に打たれてブツブツ文句ばかり言う
兵を叱咤しながら行進していた。
時が経つにつれ、雨は益々が激しくなり、雷鳴と共に嵐がやって来た。そして死も。嵐にやられ乱れきった隊列に蛮族共の矢が降り注ぐ。奇襲だ!自分達は一歩も引かなかった。盾を並べ、剣を振るい、波の様に、幾たびも幾たびも、繰り返し繰り返し、襲い掛かって来る蛮族に只管、刃を突き立て続けた。
そして最後には一人になった。軍旗を守っていた戦友は皆死んだ。腕が上がらない。肺が悲鳴を上げている。寒い、ただ寒い。それでも軍旗を軍旗を守らなければ…
「そして私はここにいる。エリシュオンからこの場所に、この体に…クソ!」
愚痴をこぼしていた筈の福部3曹の口から我知らず妙な言葉、ラテン語の響きが我知らず漏れる。時々自分に憑りつく亡霊と自分との境目が分からなくなるのだ。確かに彼が自分と同居しているお陰で絶対に馴染めないと思っていた自衛隊生活はぬるま湯の様であるし、気弱だった自分は結婚さえ出来た。妻は自分を男の中の男だと周囲には自慢している。
今回の無茶な作戦に自分が抜擢されてしまったのも彼の性だ。バケツ頭の内側で同乗する他の三人を見る。センサーが駆動し、相手の負傷の有無や、味方表示が瞬時にバケツに内蔵された画面に表示される。
自分と同じく此処にいるのは氷河期組の人間で、上の思い付きと頓智気で頭に同居人を抱えている。目の前で此方のセンサーが音を拾う程、一心に祈りを捧げているのは後藤2曹。彼の頭に居るのは、腰まで血に漬かった北方十字軍を生きぬいたドイツ騎士団員。右隣で無言で殺意を放っている岡田3曹は1043年に要塞ごと玉砕したヨムスヴァイキングで、左の吉田はアパッチのウォーチーフ
皆、戦争に毒された同居人を頭に抱えている。自分たちは氷河期組でも厄介者だ。実の所、どんなに否定しても、妻や家族と穏やかに過ごしていても、俺たちは戦場を忘れらない。だから今回もこんな所に押し込まれている。
どの様な地獄だろうと涎を垂らす猟犬は使い勝手の良い駒だ。上はそんな自分達に血の味を忘れさせたくないのだろう。
もしかしたら自分たちに対する温情と考えているのかもしれない。自衛隊しか行き場の無い異常者の群れを定年するまで野に放てないから、タップリ啜って来いと言う事なのだろうか?
そこまで思考を巡らした所でバケツの中に降下開始のアナウンスが流れる。そろそろ時間だ。ガクンとした衝撃は切り離しの合図。自分達は日本初の「成層圏」からの降下と言うか、挺身切り込みを行うのだ。
猛烈なGが体に掛かる。自分も自分の中にいる同居人も同時に苦悶の声を出す。この作戦に従事するに当たり、更に投与された薬が効果を出してくれる事を日本語とラテン語のチャンポンで祈る事しばし、自分達の詰め込まれたこの空間「降下ポッド」が逆噴射を掛けて急制動を行う。胃袋の中身が全て口に上がって来るが飲み込んで耐える。
クソの様な衝撃と共に着陸、いや墜落。死ななかったのが奇跡だとシミジミ思う。さあ時間だ。装甲服の膂力を使い、自動では開いてくれないハッチを蹴破る。戦場に飛び出した自分達の回りには余りの事態に目を白黒させる蛮族共がいる。
そうだ蛮族だ。随分と小奇麗で毛むくじゃらのゲルマンとは違い髭が無いが蛮族は蛮族だ。多分、アルミニウスの奴が遠方の部族を呼び込んだに違いない。ポッドから引きずり出したM2重機関銃を構える押金を押し込む、コイツは本当に良い武器だ頑丈で強力で、近ごろの帝国では本当に技術が進歩した。
「神よ!私は剣で説法を行います!」
戦友の後藤が何やら神に祈りながら適格に蛮族を射抜いて行く。良く知らないが彼の信じる神は余程に生贄が好きなのだろう。アレスだろうか?
岡田と吉田が血も凍る雄叫びを上げ近接戦闘用の斧を振り回しながら敵陣に飛び込んで行くのが見える。あいつ等は蛮族からの補助兵だったらしい。だが帝国軍に属している以上、命令には従える知能はあるだろう。私たちは上海に籠城する米軍を支援する為、重装備を持たない彼らを好き放題砲撃している野砲陣地を潰しに降下したのだ。
はて?上海?米軍?本当にこの森は不可思議な事が多い。いつもいつも敵も味方も入り乱れて名前さえ変わる。まあ良い。
「Ad Victoriam!」
私は強く叫んだ。何れにしろローマ(日本)が勝つのだ。




