偶像ゲットだぜ!
「毎度お馴染み流浪の番組、ペルツルの笑っていいのかのお時間です…あのね諸君…吾輩は芸人じゃないのこんな番組終わって良いの…なんで諸君らは観るの?吾輩に恨みがあるの?今回も体を張ってあれよ?それでは全国行脚髭剃りデスマッチpart3どうぞ…前々から思ってだけど、諸君ら我輩の本体、髭だと思ってるでしょ?」
日本国から出国した場合、即座にイレイザーが送り込まれる(米英仏から)事になっており、日本国からの捨扶持だけでは生活の苦しい喋くり芸人。海で溺れ、贖罪お遍路でお見舞いされ、行く先々でチョビ髭を毟られそうになる彼の体当たりネット番組はコアな人気を博している。
チョビ髭の扱いからしてこれである。資源から国際関係まで全ての問題から解き放たれた日本国は一種の狂奔状態の中にあるのだ。それは嘗て世界の経済の頂点を極めたと日本人が思い込んだあの時代の再来であった。
なのでやる事は一つなのだ。
バンジョーの奏でるウェスタンな調べ。一人の賞金稼ぎがスイングドアを開けて陰鬱な雰囲気のサルーンに踏み入る。一瞬でヒリ付いた空気がサルーン内に立ち込める。彼は無言でカウンターに歩み寄り金を店主に放る。そして怯える店主の差し出す「エナジードリンク」を一気に飲み干すと、後ろから彼を狙おうとしていた悪漢どもを抜き打ちに撃ち倒し、壁に貼ってあった手配書を破って去っていく。
「ビックアイアンサルサパリラ…タフな野郎の飲料」
渋い、渋すぎるナレーションが硝煙の中消えて行く。ゲイリー・クーパー。まだこれと言ってヒット作を持たない映画俳優は、破格と言って良い値段で日本企業からのCMオファーを受けている。他にも彼は北海道を舞台にしたB級映画、明治日本を舞台にしたパニックムービーで、クラーク博士役のジョンウェインと共にピースメーカー片手に、札幌農学校で誕生したミュータントサメ羆と大太刀回りを行う役にも挑戦するそうだ。最大の見せ場は、迫りくるサメ羆軍団をガトリングガンを振り回して薙ぎ倒す場面らしい。
「女は海~♪」
13歳でデビューを果たした少女が古っるい唄を国営テレビの番組の中で歌っている。芸名は李香蘭。今年の朝ドラの顔として抜擢されたアイドル兼女優で、まだ確定していない自身の未来を演じた演技派としてお茶の間の人気を博している。朝ドラ自体は乱入して来た自衛隊が上海で大暴れして彼女を救助する衝撃のラストなので賛否は別れるが、少なくとも彼女は世代関係なく日本国民に受け入れられている。
以上はごく一部の成果でしかない。自業自得とは言え、全方位から敵意を向けられる国際情勢から解放された国民を慰撫する為に発動された日本国の陰謀は初動に置いてまずまずの成功を見せている。
1920年中盤から始まった本格的な才能の青田刈りは、居なくなっても問題ない有名人、後数年あればスターダムに上り詰める筈だった俳優、デビューは相当に先の子供と言って良い人間まで日本国に掻き集めている。
だがその彼ら彼女らの活躍先は幾つかの大メディアが独占する物では無かった。例外は完全に国の管理下に置かれ国営放送になったあの放送局位であろう。
日本国をこの世界に連れて来たバカは、日本国を己が理想を叶える国家に改造する過程で徹底的に放送局やらそれに付随する芸能界やらを破壊している。第四の権力等邪魔でしか無かったからだ。
焼け野原になった娯楽メディアを埋めたのは海外資本とニューメディアであった。その片割れが過去転移に伴い完全消失した事が日本国民をして暴走させていた。
故に現在の日本国のメディア産業に頂点は居ない。詰まり戦国の世!生き残った地方局、三流動画サイト、ユーチューバ残党、弱小プロダクション、その全てに天下に号令を掛ける機会がある!
そしてそれは叶わぬ欲望に身を焦がして来た修羅たちが世界に解き放たれると言う事なのである。
「良いか野郎ども!お前たち社会の底辺層に分かる言葉で話してやる!俺たちはヘンリーフォンダを逃した!ゲイリーをZ級映画オタク共に奪われた!川島芳子はVチューバで、チョビ髭は北海道ローカルにいる!俺たちは過去になった!コレが許して置けるか!」
「「否!否!否!」」
「そうだ否だ!俺たちは栄光に胡座をかき続けた奴らとは違う!俺たちは本物のテレビマンだ!本当に面白い物、視聴者を虜に出来る物は俺たちが作る!その為に必要な物は何だ!」
「「アイドル!アイドル!アイドル!」」
「そうだアイドルだ!一発で誰でも夢中にさせるアイドルが必要だ!そしてこの街の何処かに彼女がいる!」
「「カサブランカ!マイバイブル!」」
「よーし!分かってるじゃねぇか、時代遅れのボギー共!どんな手を使ってでも彼女を連れて来い!15歳だ!彼女は15歳!行けぇ!」
トレンチコートの集団がストックホルムに解き放たれる。永遠のフェムファタールを求めて。
「奥さんどうです?旦那さんが出て行って暮らし向きが良くない事は良く知ってます。悪い話では無い筈ですよ?」
「そんな…困ります…」
「ご家族含め暮らし向きは一切面倒を見させていただきます。さあサインを」
「あの子はまだ5歳なんですのよ?何でそんな子供に貴方たちは執着するんです?せめてそれを説明して下さい!」
「恋をしているんですよ…いえ誤解してもらっては困ります。包丁は仕舞って下さい。私が恋をしたのは娘さんの未来の姿です」
「未来ですか?」
「ええそうですとも。私だけじゃ無くもっと多く、男も女も彼女のら輝きにひれ伏すんです。私はね奥さん。そのお手伝いをしたい。世界の全てが永遠に彼女を忘れられない様にしたいんです」
そう彼女、キャスリーンと言う娘を持つ女性を見る東洋人の目は純粋に真っ直ぐに狂っていた。彼らは自分を見ていはするが、その目は何処か遠く幻想の何かを見ている。
「プリンセス…そう彼女はプリンセスなのです。いやレディか…兎も角もです。貴方もご一緒にわが国で朝食を取ろうではありませんか」
東洋人は夢見る様に呟いた。
伝説のあの俳優がしょうもない栄養ドリンクの宣伝に出て居る。1000年に一度のあの世界的女優が子役の頃から日本で活躍し日本語で喋っている。序でに元総統と副総統は無人島サバイバル配信で悶絶してもいる。
んほ~たまんねぇ!だが、その程度で満足しているとも言える。日本国は世界に覇を唱えられる力を持ちながら、只管に娯楽と興味の赴くままに行動する事で満足している。
ハッキリ言って不気味だ。日本に招待を受けた英米仏は直観的に日本が面倒が嫌いなだけだと理解し、如何にか引きずり出すを策謀しているが、その他はこの爆弾の対処に四苦八苦している。
また国家を上げてパンとサーカスに生きようとしているこの国家を一応の理解はした国々も、変わり過ぎた日本人を捉えかねている所がある。「未来だから」そうは思うが異様に過ぎるのだ。何かこう、自分達と決定的に違う所がある。
彼らが日本国の異様さの正体に気付くにのは、かの国を訪れた者たちの詳細な証言が取れた後の事であり、気づいて尚、見なかった事にしたいと感じるにはしばらく時間が掛かるのであった。




