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68話 メンバー紹介

 ゴールデンウィークのある日、三郷(みさと)楽阿(ラクア)は貸会議室に来た。今日は月に一度の報告会で、彼が発表する番が回ってきた。事前にパソコンで作成しチャットで送付していた文書を、現地に用意された送付先のパソコンで開き、プロジェクターに投影させる。聴衆は現地のみの少人数なので、マイク無しで話す。


「では先月から私たちが始めた、ノベルゲーム作成の報告と、メンバー紹介を始めます」


 ラクアは先月、すなわち中学三年生の四月に特殊能力が目覚めた。この世界には定期的に能力に目覚める人がいる。現時点でこの島の同学年では四十一人が該当する。そして同月に能力者になった同学年の六人とは"同期"という関係にあたる。そのメンバーで始めた"同期"との課外活動こと"同活"のテーマがノベルゲーム作成で、その経緯や目的、各々の役割などを話す。

 どんな活動か説明することも大事だが、この報告会は能力者の交流会の一環。能力者は島の各地に存在し、普段関わる機会がない人もいる。どんな人物でどんな能力者かを把握しておくと、いざというとき協力しやすい。

 彼らが暮らす島では不思議な出来事が起こる。超常現象と能力者は引かれ合うのか、学校や地域の垣根を越えたイベントで、力を合わせて乗り越えなくてはならない事態に直面することがある。そこで関わる機会を増やすべく、能力者同士集まるようになった。


 だから今日の報告会では、"同期"の代表として、能力者の紹介をする。ここに集まったのはラクアと同じく"同期"の代表、総勢十人だ。彼以外は聞き手となり、彼の挨拶に拍手を送る。静まると彼は報告を始めた。


「私とチシロとサクラ。最初はこの三人で何をやるか話し合って……私の趣味がゲーム作りってことから方向が決まりましたね」


 ラクアの"同期"は加入時期に若干のズレがある。能力が目覚めるタイミングはそれぞれで、早かったのは彼を含めた三人。まずは彼と水天宮(すいてんぐう)千城(ちしろ)、そして武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)を紹介するべく、能力測定器に登録された顔写真を貼りつけた資料を映す。


「……皆さんが一番よく見るのはこの写真だろうからこのチョイスってわけで。はい、そこ。手抜きとか言うなーっ」


 証明写真のようで個性のない写真だが、能力者の情報を確認するときに見かける公的な写真の方が記憶に残りやすいと考え、この報告会のために写真を撮る手間をかけなくていいと判断した、とラクアは戯けて弁明する。

 だが会場は白けている。笑いを取ろうとして失敗し恥をかいた彼は、茶番なんてなかったかのように心を落ち着かせつつ報告を続ける。次回の報告は別の人に任せようと決心した。


「と、とにかく、皆でゲーム作りたいって言ったら賛成って声が上がって……せっかくなら自分たちだけのゲームを作ろうって考えて」


 "同活"のテーマにゲーム作成を提案したのはラクアで、チシロたちが賛成したことで方向性が決まった。彼がこれまで作ったゲームはトランプのスパイダーソリティアなどの既存のゲーム。だがそれを遊びたいなら自分で作らなくてもいい。


「ノベルゲームは話を考えて、選択肢で変わるルートの先にグッドエンドかバッドエンドが待っているもの。話も結末もオンリーワンの作品になるってことで……これにしました。このソフトを入れれば、作り始めることができて」


 そこで発見したのがノベルゲームというジャンルだった。文章や絵を見て、途中に出される選択肢は回答次第で先の展開が変わる。つまり同じ作品でもプレイヤーによって展開は変わる。制作者が物語を考え、プレイヤーが展開を考えるのだ。

 ゲーム性はシンプルで、物語に独自性を持たせれば新しい作品を生み出せる。物語を考えるのに専門的な知識は要らない。ゲームを動かすプログラムは、無料でインストールできるソフトウェアに内蔵されており、難しく考えなくていいので未経験の人でも扱いやすい。この点に魅力を感じ、挑戦を決めたのだ。



「といっても作りたい物語は皆バラバラで……どれか一つに絞るのももったいないので一人一作品を同時進行することにしまして」


 共同制作ではなく個人個人で制作中と聞いて聞き手はざわめく。ゲーム作りと聞くと段階が多くて大変で、トラブルが発生したら発売を延期や中止することもある。実際どれかを選択して取り掛かる方が楽だとラクアは思っているが、チシロたちが考える作品をボツにするのももったいないと思ったから、全部作ると決めた。

 と言われてもラクア以外は未経験なら分担した方がいいのでは、と質疑応答の時間に聞きたいとメモを取る人も現れる。


「でもそんなの無理だろって、アスミが忠告しました。いつか完成させるって目標だけでは続かないって」


 彼らと同じことを考えたのは川口(かわぐち)青空澄(アスミ)。島の外から編入してきたアスミはラクアたちの一週間後に能力者と認定され、"同期"に加わった。彼女の役割を考えるために活動内容を説明したところ、制作途中で頓挫するだろうから協力したくないと反対されたのだ。

 だがアスミは発破をかけただけであり、明確に目標を決めたラクアたちには協力的になった。


「それでゴールを決めました。夏休み最終日までに、コンテストに応募すると」


 ラクアは次の資料を映す。それは彼らが利用するソフトウェアで作成したノベルゲームをホームページへ提出し、オンラインで全国のプレイヤーに遊んでもらうイベントについての説明だ。彼らもエントリーし、その応募期限までにゲームを完成させる。

 ここで制作期間が五カ月と明かされ、それなら三作品でも現実的なのだろうと多少は納得した。加えて当時は三人だったが、後にアスミたちが加入して七人体制となったわけで、人手が増えたことも安心材料だ。


「まあ、間に合わなかったら来年の応募にすればいいし、頑張ったけど駄目でしたってことにはなりませんので」


 加えてコンテストは一度きりではない。もし完成させられなくても来年までに完成を目指せば翌年に応募できる。とはいえそんな軽い心構えでは、明日から頑張る、来月から頑張るなどとモチベーションが落ちていき、いつかまた間に合わなくなって焦り、再来年の応募に逃げかねない。それこそアスミの言う挫折に直面しかねないから、今は今年のコンテストに間に合うことを目標とする。


「で、どんなゲームかというと」


 今度はゲームと作成者の紹介に移る。ゲーム性はノベルゲームゆえ似通っているものの、テーマはバラバラ。むしろこの違いこそラクアたちの紹介に適している。彼ら作成する際に最初に考えた、プレイしてどんな感情が動くゲームを目指すのかを示した。


「私は告白成功を目指す恋愛もの、チシロは周りを見返すスカッともの、サクラは自分の秘密を突き止めるミステリーもの、です」


 ラクアはゲームの登場人物のモデルが自分や知人であることは伏せてゲームのジャンルを淡々と説明する。彼の小学生時代を知る人がプレイすれば気づかれてしまうが、今回は披露しないのでバレない。

 それに披露していたらアスミたちを紹介する尺がなくなってしまう。



「それぞれにしか作れないゲームを、アスミが管理するなかで開発して……また仲間が増えました」


 次に能力が覚醒し"同期"に加わったのは新座(にいざ)黄麟(キリン)。だが人手が増えたわけではない。


「キリンも自分の作品を作りたいってことで、四本目が動き出したのです。ロボットものの」


 キリンはラクアと旧知の仲で、彼がノベルゲーム作成を始めたことは知っていた。だから"同期"に加入が決まった時点で、自分も作りたいと志願した。五人で四作品作ることになって負担は増えたが、やりたいことをやるのを優先したいから迷惑だとは思わない。


「で、最後にアカリとアイリが参加しました」


 その翌週、西浦(にしうら)あかりと美南(みなみ)哀月(アイリ)が"同期"そしてそのメンバーでの活動に加わった。この二人はアスミ同様、自分では作らず四人の支援に就く。


「アカリは景色とか表情とか、絵で表現するのを担当して……アイリは根気があるからテストプレイを担当してくれることになりました」


 二人の得意分野を活かせる役割を与え、これで七人で四つのゲームに取り掛かる体制になった。そして月を跨ぎ、以降の能力者は五月組として彼らとは別の"同期"になった。つまりメンバーは七人で確定したのだ。


「この七人で、これから本格的にノベルゲーム作りをします。以上ですが、質問ある人は……」


 全員の紹介を済ませ、資料は最後のページに辿り着くと、ラクアは報告を終えた。残すは質疑応答と講評だ。


「ヤツか……はい、ヒツギどうぞ」

「えー……」


 待ってましたとばかりに颯爽と挙手したのは今月能力者に認定されてラクアの"同期"になるには一歩遅かった氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)。能力者の仲間入りをしたばかりながら積極的な態度に周囲は期待の視線を、ラクアは緊迫して視線を向ける。しかし当のヒツギは指名されて起立したものの、いざ話そうとすると迷いが生じて唸る。


「やっぱりいいや」


 彼はアカリが留学したいこと考慮してゲーム制作の計画を立てているのか疑問に思って挙手した。けれども本人不在の場で、代わりに何人もいる前で言及すると、噂が広まり彼女に迷惑がかかるのではと考えて、暴露する前に引き下がった。そんな思考回路は周りには見えないので、奇行として映る。


「……もうさ、分かってないのに反射的に手を挙げて当てられたら"分かりません"って答える小学校低学年みたいなの止めてくれねえか」

「すいません……」


 何を質問されて何と答えようか身構えたのに肩透かしを食らったラクアはイライラしてヒツギにいちゃもんをつける。もはや発表者としてのふるまいを捨て、素が出る。叱られた彼は反省するものの、自分の知ってるラクアが垣間見えてホッとしていた。



「それって未成年はプレイできない?」

「できます健全なゲームですっ」


 十八歳未満はお断り系な作品なのかと尋ねたのは田浦(たうら)夕雅(ユウガ)。言われて確かに気になると隣の東戸(ひがしと)寿々絵(スズエ)は頷く。なお見るのが駄目で描くのはオーケーという法律があり、仮にそういう類の作品であってもラクアたちが制作することは問題ではない。

 だが作るのは全年齢対象のゲームだとラクアは回答する。ユウガたちは残念がるものの、コンテストに応募する以上は仕方ないと割り切り、質問を終えた。

 どうして今回の"同期"代表者に限って変な人が集まったのかとラクアはため息をつく。



「じゃあ講評に移って……まず初っ端の茶番だけど、今回が初めての報告で、覚えること多くてボケを笑う余裕がないときにやっても乗れない」


 京橋(きょうばし)慧練(エレン)からのごもっともな指摘を、ラクアは真っ直ぐ受け止める。


「練習したんだろうけど、ごめんね」

「いやもう……おっしゃる通りで」


 とはいえ盛り上げようとする頑張りは伝わった。タイミングを間違えただけで意欲は悪くないから、ダメ出しされても自信は失わないでほしいと励まそうとする。だがラクアは相当恥ずかしい思いをして血の気が引いており、一刻も早く席に戻りたい。


 講評も終えて席に戻ってもラクアは緊張がなかなか解れず、以降の報告は耳から耳へと抜けていき、気づけば報告会は終わっていた。



「お疲れ様」


 報告会を終えて会議室を出たラクアを、"同期"の六人が出迎えた。彼らが先ほど報告したノベルゲーム制作のメンバーで、四ヶ月をきった残り期間でコンテスト応募を目指す仲間だ。


「報告会、どうだった?」

「やり直してえ……」


 報告の資料やスピーチは皆で相談していたから内容がどんなものかは把握しているものの、聞き手の反応は現地にいた人にしか分からない。手応えはどうだったか聞かれたラクアは、弱々しく呟いた。


「あいにくこれは現実よ。ゲームみたいに巻き戻って違う選択をするなんてできない」


 過去に戻って選択をやり直したいのは、選択で展開が決まるゲームの作り手らしい意見だ。けれども彼らはゲームの中にいるわけではない。アスミの言う通り、やり直しの効かない現実を生きている。いくら嘆いても叶うことはない現実を突きつける。


「分かってるよ、現実はそういうものだって」


 やり直したいと願って叶う世界なら、ラクアは後悔していない。だから彼はゲームを作る。自分たちをモデルにした作品で、自分の未来に様々なルートを作る。

 現実の未来をゲームで先行体験することで、何が良くて何が駄目かをインプットしておき、現実での選択をベストなものにする。小学校の卒業式の終わりに、告白できないまま疎遠になっていた恋を実らせるために。

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