63話 想定外の事態
Aランク交流会のレク、王様ドッジ。特殊ルールで王様が当てられたら勝ちの、四人一組で五チーム総当たり戦。美南哀月たち一位チームの次の相手は、武蔵浦春桜たち五位チーム。アイリたちは初戦で九位チームに負けたので、優勝賞品を手に入れるためにはもう負けられない。そのための作戦会議だ。
「相手は一試合目でエレンを王様にして勝った」
「一瞬で終わったね」
相手の情報はそれぞれの特殊能力を把握している他、初戦で十三位チームと勝負したのを観戦して得ている。その勝負の展開だが、溜池彼方が味方からボールをぶんどって京橋慧練にヒットさせ、エレンが王様なのでカナタたち十三位チームの負けと審判に告げられたという、呆気ないものだった。
これではサクラたちがどんな作戦を立てていたのか見えてこない。なぜエレンを王様に据えたのか、それをカナタが一発で見破ったのはなぜか。次も同じ作戦で来るのか。限られた情報でアイリたちは相談する。
「最低限に済ませて、無事に終わらせようとした?」
九位チームの大船切裏がアイリやサクラたちには聞こえない声量でカナタに問いかける。彼は勝ちたい欲がない。夢中になって怪我するリスクを見落とすのを嫌い、つまらない代わりに平和に済ませたがる。
相手の王様に当てたら負けのルールで、迷わず王様にぶつけた。それは試合が長引いて怪我人が出るリスクを抑えようとしたためだと、コトリはカナタの狙いを見抜く。
「それにしても、よくやれたよね。一発でゲームセットなんて」
ただ、コトリが知りたいのはどうやって実現させたのか。早く負けたいのは分かったが、何を手がかりに最速で負けられたのかだ。
「ああ、偵察に来たんじゃないよ」
からくりを聞きにきたのはいずれ勝負するときに備えて、なんて策略的なものではないとコトリはカナタの警戒を解く。だが彼としては偵察でも構わなかったので平気で明かす。
「想定外の事態に、王様以外は慌てるだろ」
「じゃあ、あの一瞬で三人の表情を? よく見てるのね」
コトリは納得した。勝負に夢中で視野が狭まるのを避け周りをよく見る、カナタらしい作戦だと評価した。確かに相手を動揺させるに仲間割れは効果的だろう。当てられることが仕事の王様は相手がやる気になっても驚かない。やはり彼はエレンと分かったうえで真っ先に狙ったのだと理解した。
「……言いにいかないのか? ハヤトたちに」
「なんで?」
「元八位のお前は五位チームに負けてほしいだろ? 自分が抜けたら強くなったなんて癪に障るから」
「はぁ!? そんなこと思ってない」
アイリの加入でコトリは五位チームから弾き出された。彼らに優勝されては困る。なぜなら自分が抜けたことで強化されたと証明されてしまうからだ。だから対抗の一位チームに勝ってもらうべく聞きにきたのではないかとカナタは推測していたのだが、そんな企みなど無いとコトリは否定した。
遠くて会話は聞き取れないが声を荒げるコトリに気づいたエレンは、カナタにまた煽られているのかと察し、引き離そうと悲痛の声を上げる。強くボールを当てたせいかと心配した彼は彼女の元へ駆け寄った。
「テツジとミチルは揉めるから、今回もどっちかは外野」
「エレンが王様で水飛沫で当たりにいく作戦はバレてないはず。 ……そうする間もなくやられたからだけど」
エレンの悲鳴は演技と知りチームメイトは、カナタが引き返した後に気を取り直して作戦会議を再開する。男子二人は揃って内野にすると、日頃のいがみ合いで仲間割れを引き起こす。共存を諦めると一方を外野に回さざるを得ないが、ある程度縛りがあった方が意見を纏めやすい節もあるから、そこまで不満は無い。
「……テツジ外野だ」
「嫌だって何だ、俺も嫌だ」
「は?」
すると佐倉満は閃いた。まだ試していない、このチームだからできる作戦を。そのためにミチル自身は内野になるため必然的に酒々井鉄道が外野に決定だが、聞き間違いが口論の火種となった。
だがいちいち構っていられないのでミチルは作戦を伝える。
「紙にはサクラと書いて審判に渡す。佐倉か春桜が当てられたら、王様と言い張ればいい」
「あー、名前と苗字で二人いるから」
「当てられた方が王様って後出しできる」
今回のルールは王様に当てると負け。普通にやれば三人の内に王様は一人だが、名前が同じな点を利用すれば二人にできる。もちろん実際は一人だが、どっちのつもりで提出したかは後で明かしてそれを真実と言い張ればいい。
「……ズルくない?」
「いいんだよ勝てば」
「相手より後に出しましょう。待ってる間に確認されないように」
エレンは反対したがサクラ筆頭に他全員は乗り気だったので流された。王様の決め直しを指摘されたときのことは考えず、二人のサクラが王様のパターンにおける各メンバーの立ち回りの相談が始まった。
「外野はテツジだな。こっちの王様が誰か、探る役目で」
「ああ。どうせ耳栓してて、自分のチームの王様も分かってないだろうし」
鎌ケ谷速と小村井珠陽は、テツジの癖を軸に相手の作戦を予測する。音を遮断し集中力を上げる彼は、話し合いに参加させず分析に徹した方が活きる。味方の誰が王様か分からず内野をウロウロさせるより、誰であってもやることは同じ外野の方が適切。相手もそう考えていると読んで、テツジにバレない王様を決めることをメインにこちらの作戦を立てる。
「残り三人の誰かを考えるよりは、こっちの王様をどうやって隠すかが重要ね」
東戸寿々絵もハヤトたちの意見に賛成だ。相手の王様を見破るまで時間稼ぎをするには、テツジに見破られないよう撹乱する必要がある。
前の勝負と違い、いかに王様が相手に当てられにいくかは考えない。
「アイリはどう思う?」
チームメイトにして新入りのアイリに案があるか尋ねるも、そばにいない。見渡すと少し離れたところでカナタに絡まれていた。またいちゃもんをつけられていないか心配したスズエは急いで引き離した。
「また変なこと言われた?」
「ううん、別に……」
チームで自分だけ他校生なのは楽しくないだろうと同調を求められていたが、そのことをアイリは内緒にした。前の勝負で足を引っ張ってしまったことを気に病み、作戦会議や勝負に対し乗り気になれないと思い込んでしまったから、楽しくないのを否定しきれなかったのだ。思わぬ初見殺しに遭う能力者の世界は甘くないと思い知らされた。
だがスズエたちは悪くないから、悩みを吐き出せない。逆に悩みを察してくれたカナタといる方が、気持ち的に楽と思えてしまった。いっそ彼の真似をして、速攻で負けて終わらせたいとさえ思う。
一位チームと五位チームの勝負が始まった。ボールを持つサクラはテツジにパスし、彼は内野に返しては移動し、またパスを受け取る。まだ相手を狙わず、取られないようボールを回しつつ相手を動かして様子を見る。
スバルはこの作戦を見て、自分のチームメイトの特殊能力は高さが足りないと気づく。だからボールをカットしに飛び込めない。一方で相手はサクラとエレンが風や水飛沫を起こして跳べるから、こちらが同じ作戦に出ても彼女に防がれてしまうだろうと考えた。
そしてこのボール回しにミチルは参加していない。彼には女子二人ほどの高さに届かないのと、そもそもテツジとの連携ができないという問題があるせいと考えられた。内野の女子二人が前に寄ってパス交換をしている。
どちらかにボールを当ててアウトにして流れを変えたいが、内野から外野に移動するだけで一対二のパス交換という構図は変わらないから、流れは変わらない。
となると狙いは奥のミチル。彼を外野に追いやれば勝手にテツジと揉め始めると思われる。スバルは皆にだけ作戦を伝えるべく、内野の二人を呼んで指示を出した。
「俺がボールを取ったらミチルを倒せ。奴は王様じゃない」
勝負の流れを変えるにはパス交換の役を削る必要があり、その二人を狙うように仕向けるのが相手にの狙いと読む。どちらにせよミチルは王様ではない。そう伝えたスバルは、放物線を描くパスに向かって跳び、指先で掠ってボールを自陣に弾いた。床に落ちる前にキャッチする余裕はなく、味方に渡す代わりに彼はアウトとなった。だが彼は王様ではないので勝負は続行する。
スバルの犠牲は無駄にしない。ハヤトは初速でトップスピードに入る能力で、その勢いをボールに乗せてミチルを狙った。だが彼は狙われるのを感じ取ると、野性化の能力でパワーを上げてキャッチした。
防がれたのはハヤトたちの予想外だったが、成果は得られた。それは他の相手の反応。ミチルがアウトにならなかったことに驚いている。まるで受け止めたことを残念がっているように。
「あー、バレたな」
「もう……仕方ないわ。先に相手の王様以外を倒そう」
「だね。後一人」
思わず顔に出た自覚のあるメンバーは、もうミチルが王様ということを隠さない。けれども勝利は諦めず、こちらも相手の王様を見破り、それ以外の二人を先にアウトにしてしまおうと方針を切り替える。
当初は相手の王様に当てたらそのチームの負けというルールしかなかったが、自分の王様しか内野が居なくなったらそのチームは負けというルールが追加された。仮に王様同士が残ると先に当てた方の負けになって勝負にならないから、追加は妥当な判断だ。
そしてこの追加のおかげで、まだ勝ち筋は残っている。スバルはアウトで、後一人の王様以外を倒せばいいというリーチな状況。加えてボールは保持している。ハヤトかアイリか、見破ってその人にボールを当てればサクラたちの勝ちだ。だが逆に王様に当ててしまえば、その瞬間に負けが確定する危険な選択でもある。
「でも違う方に当てたら負けよ」
「分かってる。しっかり見ておけ」
エレンはミチルが投げる前に忠告するも、この一投で負けることはないと自信がある彼は、相手をよく見ておくよう促してアイリ目掛けてボールを投げる。狙いは彼女の足元手前。バウンドして横から抜ける軌道だ。王様でないなら避けるがもしボールに当たってもアウトにならないし、王様なら避けない。
だがボールは弾まなかった。咄嗟にアイリが能力で出したクモの糸が床に広がり、張りついたボールが離れない。結果、横を抜けて外野のテツジに回すのは失敗し相手にボールが渡ってしまった。
「上に投げろよ!」
「うるせえ! 仕方ねえだろ」
相手の内野を挟んでミチルとテツジが口論を始める。お互いルールを意識する理性は残っているおかげで、ラインははみ出さない。そんな相手をよそにアイリたちは反撃に動く。彼女らは王様がミチルと分かっているから他の二人を倒せば勝ちだ。
アイリは再びクモの糸を今度は相手の床に向かって張る。これで相手の足を封じた。これで移動できなくしたが、手は動かせる。半端な投げではキャッチされてしまいかねない。
「ごめん、捕まった」
「私も……先に飛んでおけば」
エレンたちは三人とも糸に捕まり、直立状態にされた。サクラは風を起こして飛んでおけば回避できたが、突然のことだったので頭が回らなかった。そして両足を固定されると、背中ががら空きだ。
アイリは外野のスズエにパスを出し、彼女は背後からミチル以外を狙う。サクラに当ててアウトにしたとき、審判が勝負ありと告げた。実は王様はミチルではなかったのは想定外で、相手や観客から驚きの声が出る。
「嘘でしょ!?」
「だってほら、サクラって」
「……これミチルのことだろ」
「違うよ。だったらミチルって書くし」
提出した紙に王様の名前はサクラとある。だから彼女に当てたアイリたちの負けと裁定が下るが、ミチルを狙われたときのリアクションがおかしいのと、その名前はミチルを指しているとも考えられる点から、負けではないと反論する。
だがミチルたちも言い返す。サクラとミチル、どっちでもいいように書いたから、今回はサクラのつもりで書いたと言い張った。
二人のどちらかがアウトになったら勝ちとするつもりだたことはズルの自覚があるので伏せている。ミチルがうっかりキャッチしたのを残念がったのはそのズルを測っていたがゆえなので、わけは明かせない。
結局、この勝負は無効となった。そもそも曖昧な名前で提出していたこと、そのチェックが漏れたこと、そして真相が見えてこないこと。これらを踏まえて、やり直して勝敗をつけるのも釈然としないから、両成敗という形で納めた。




