亡き者よりも生きる者の未来を
シリアス…?
「ガーネット様の様な名のある方が、わざわざこんな田舎まで来て下さるとは」
「村の者達も驚いていますよ」
「いえ、私など大したものではございません。改めまして、元帝国近衛騎士団長をしていたガーネットと申します」
ガーネットは目の前にいる一組の初老の男女の言葉に、そう恐縮しながら挨拶した。
翌朝、ランドとガーネットは昨晩のランドの殺気の影響もあったのか、道中で魔物や野生動物に遭遇することもなく、馬を走らせてトラッシュの故郷だという村に日が真上に上がる頃には到着した。
トラッシュの故郷はありふれたこじんまりとした村で、野生動物等から村を守る為か、簡単な木の柵で囲われていた。
ランドとガーネットが到着した時は、そんな木の柵の境目に立っていた村の若者に「あんたら誰だ?」と声をかけられ、二人はそれに説明する形で答える。
「すまない、尋ねたいことがあるのだが…」
ランドの言葉に若者が「尋ねたいことだぁ?」と返すと、ランドの隣のガーネットが言葉を発する。
「私は元ダラス帝国近衛騎士団長のガーネットと言います、横の男は私の同行者だ。この村は帝国近衛騎士トラッシュの故郷の村で間違いないか?」
ガーネットの言葉に若者は「て…帝国近衛騎士団長ガーネット、帝国最強と噂されるあの!?」と目を見開く。
ガーネットは「元だがな」と訂正してから、その若者に再度声をかける。
「再度質問する、この村は帝国近衛騎士トラッシュの故郷で間違いないか?」
「は…はい、確かにトラッシュはうちの村で育った奴です!」
ガーネットの質問に若者がそう答えると、ガーネットは「そうか…」とだけ呟き、その若者に更に質問する。
「トラッシュの…彼の事で話があってきた、彼の家族はいるか?」
「は、はいご案内致します!」
若者はガーネットの言葉にそう返すと、「ど…どうぞついてきてください!」と緊張しながら歩き出した。
「ありがとう、よろしくお願いする。行くぞランド」
「あぁ」
ガーネットは若者に礼を述べながら後ろに続き、ランドもそれについていく。
やがて歩いていた若者は、一つの民家の前に立ち止まる。
「ガーネット様、ここがトラッシュのご両親が暮らしている家です」
「そうか、案内してくれてありがとう」
「い…いえ、では私はこれで失礼します!」
ガーネットの言葉に若者はそう返すと、二人を残して村の木の柵の方へと戻っていった。
ガーネットはそんな若者の背を見送ってから、目の前の民家の方へと視線を向けると「スゥ〜…ハァ〜…」と緊張するように深呼吸をする。
「ガーネット…」ポン…
ランドは緊張するガーネットの肩に手を置くと、ガーネットに優しく声をかける。
「大丈夫だ、俺も隣にいてやるから」
「ランド…あぁそうだな…」
ランドの言葉にガーネットはそう返すと、目の前の民家のドアを軽くノックした。
…
………
そして今現在、二人はノックに反応してドアを空けた夫婦に、簡単に挨拶をしたあと中へと招き入れられて文頭の状況になっていた。
夫婦はランドとガーネットが座る椅子の前に自分達も座ると、ガーネットに対して尋ねるように声をかける。
「それでガーネット様、この度は私達にどういった御用でしょうか?」
「もしかして息子が騎士団で何か失礼な事でも?」
夫婦の言葉にガーネットは、「それは…」と少し言い淀むが、隣のランドが頷くのを確認すると、意を決したように夫婦の顔を見ながら言葉を発した。
「今回私達がお二人を訪ねてきたのは、コチラをお二人にお渡しするためです」
そう言うとガーネットは自身の懐から、綺麗な布で包まれた小ぶりの箱を取り出した。
「「これは?」」
夫婦がガーネットの取り出した包みを眺めながらそう尋ねると、ガーネットは真っ直ぐ夫婦を見つめたまま答える。
「貴方達の御子息…帝国近衛騎士トラッシュの遺骨です」
「「…っ!!?」」
ガーネットの言葉に夫婦は目を見開いて驚愕する。
「む…息子の遺骨!?」
「と…ということは…トラッシュは…息子は死んだのですかガーネット様!?」
「……はい…」
夫婦の言葉にガーネットはそう答えながら、トラッシュの両親に全てを話した。
ベットレイ王子の野望について…
ベットレイ王子が野望を隠した上辺の目的に踊らされて、自身が彼の替え玉で武術大会に出ていたこと…
それが絵空事に終わり、ガーネットは騎士団を退団したこと…
それでも諦めないベットレイの策略により、トラッシュが呪いの魔導具にて苦しんだこと…
その過程で彼と自身が敵として戦い、結果として自身がトラッシュを手に掛けたこと…
「……それが息子さんの最期でした…」
ガーネットがトラッシュの親夫婦に全てを話して聞かせると、夫婦は暫く無言で俯いていた。
ガーネットはその沈黙の間に息が詰まりそうだったが、自身の責任ということから黙って夫婦の反応を待つ。
(ガーネット…)ギュ…
ランドはそんなガーネットの手を、優しく握りながら思案する。
(今の状況はガーネットには苦痛かもしれない、だけどずっと引き摺るわけにもいかないだろう…)
そう思案するランドの思いを察したのか、ガーネットは顔こそ向けないが応えるようにランドの手を握り返した。
(大丈夫だランド、私は二人に何を言われても受け止める覚悟をしている)ギュ…
そんな二人に対して…やがて無言だった夫婦が口を開いた。
「「…………ガーネット様……」」
「っ!!…はい……」
覚悟はしていたとはいえ、夫婦の言葉にガーネットは反応する。
(きっと彼等は私を許さないだろう、だけどどれだけの罵詈雑言だろうと、例え唾を吐きかけられても私は受け止める。それが私に課せられた罰なのだから…)
ガーネットは夫婦からの制裁を覚悟して身構えていたが…
「「息子の為にありがとう御座います!!」」
夫婦から発せられたのは感謝の言葉だった。
「え?」
夫婦の予想外の反応にガーネットは、思わず目を見開いて困惑する。
そんなガーネットにトラッシュの両親は、穏やかな顔を浮かべながら言葉を口にする。
「貴女様は本当に優しい御方だ、なぁお前♪」
「えぇそうですねアナタ、ガーネット様は息子の言うとおりの方でしたね♪」
「あ…あの…」
そんな夫婦にガーネットは伺う様に声をかける。
「私が憎くはないのですか、息子さんはベットレイの野望の駒として扱われてたとはいえ…私は息子さんを斬ったのですよ?」
ガーネットの言葉にトラッシュの両親は…
「恨むとすればベットレイ王子です」
「話を聞く限り息子も貴女も、ベットレイ王子の野望に巻き込まれた被害者に過ぎません」
「ベットレイ王子は自身の私利私欲の為の行動ですが、ガーネット様は帝国近衛騎士としての忠義に従っただけですから。ガーネット様が罪悪感を抱くことはありませんよ」
「し…しかし…息子さんを直接手に掛けたのはわた…「以前息子が帰省した時、息子は私達に言っていました」……え?」
夫婦はガーネットの言葉を遮る様に言葉にすると、そのままガーネットに話し出す。
「武術大会が終わって少しした頃ですかね、息子が帰ってきて私達に言ったんですよ。「理由はわからないが、ガーネット団長が騎士団を去ってしまった。サファイア副団長が団長となり、俺が副団長になったんだ」と…」
「は…はぁ…」
夫婦の言葉にガーネットがそんな反応をすると、夫婦はそのまま言葉を続けていく。
「息子の出世を私達は喜びました、しかしその反面…貴女の様な立派な騎士のあとをお前が継げるのかと息子に声をかけました。すると息子は、私達の言葉に笑いながらこう答えました」
『いきなり団長と同じ様に出来るわけないだろ、だけど俺は俺なりに一生懸命やるさ。もしガーネット団長にまた会える時が来たら、俺の近衛騎士としての姿を見せて「流石だなトラッシュ♪」と褒めてもらえる様な騎士団にしてみせるさ、それにサファイア団長はガーネット団長の妹だけど、あの女性は書類仕事嫌いだからな♪』
「私達はそう言って笑う息子に、親としてこう忠告をしたんです。「かと言って立場を悪用したり、近衛騎士団の名を汚すような真似をするんじゃないぞ」と。すると息子は笑っていた顔を真面目に戻し…手にしていた酒を飲んでからこう言いました…」
『当たり前だろ親父お袋、ガーネット団長が残した騎士団を汚すような真似は俺はしないさ。ただ…もし俺が帝国近衛騎士の誇りを忘れ、帝国近衛騎士の名誉を汚すような事があれば…』
『そうなってしまう前に…ガーネット団長に斬られて誇り高き帝国近衛騎士のまま死んでいきたいな、帝国最強にして近衛騎士としても素晴らしいあの女性に、斬られて死ねたら帝国近衛騎士として最高の死に様だ。まぁそんなガーネット団長に斬られるような事するつもりは全くないけどな♪』
「「と…」」
「〜〜っ!!」
夫婦の言葉にガーネットは、両手を口元に持っていき小さく呻く。
トラッシュの母親はそんなガーネットの手を優しく握ると、語りかけるようにガーネットに声をかける。
「だからガーネット様、貴女もどうか気に病まないでください。私達の息子を…トラッシュを誇り高き帝国近衛騎士のまま、名誉と誇りを護ってくださり感謝致します」
「貴女が罪悪感に悩まされることを私達は望みません…どうか息子の分まで…貴女は幸せに生きてください。息子もきっと、尊敬した貴女にそれを望んでいるはずですから…」
「っ……」ボロボロ…
夫婦の言葉と手から伝わる二人の優しさに、ガーネットは涙を流しながら頭を下げる。
「……はい……はい…ありがとう御座います…御子息は…トラッシュは私なんかよりも素晴らしい誇りを持った近衛騎士でした…私は彼ほどに帝国を愛し近衛騎士としての心を強く持った者を知りません!!」
そう答えるガーネットにトラッシュの両親は、優しい笑顔を向けて「息子も喜んでいますよ」と返すのだった。
ランドはそんな夫婦とガーネットの様子を見ながら…
(息子さんが亡くなられたというのに器の大きなご夫婦だな、だからこそ息子さんも真っ直ぐに育たれたのだろうな。…にしても万が一ガーネットに暴力等で恨みをぶつけるようなら、俺が間に入るかと思ったが杞憂だったか…)
そんな事を内心で考えているのだった。
そしてそれから少し時間が経ってから、トラッシュの両親は「さぁ…暗い話はきっと息子も望んでおりません」と言葉にすると、ガーネットに笑顔で言葉を発する。
「ここからは明るく話をしましょう、そうだよなお前♪」
「そうですねアナタ、ご近所に「あのガーネット団長が来た」と自慢しましょう♪」
「へ?」
夫婦の切り替えにガーネットはポカンとした。
「いや実は私達、かねてより帝国で名のしれたガーネット団長のファンでありまして♪」
「息子が近衛騎士団に入るとなった時は、「団長のサインとか貰えない?」と頼んだほどなんです♪」
「「こうしてお会いできたのも何かの縁です、サイン貰えませんか♪」」
「は…はぁ…別に構いませんが…」
「「やったぁ〜♪」」
夫婦のハイテンションにガーネットは困惑するが、夫婦が明るくハイタッチをしてるので深く考えないようにした。
ガーネットからサインが貰える事を喜びながら、夫婦は「ところで…」とランドの方に視線を向けると口を開く。
「「家に来てからずっと無言のこの男性は一体どなたですか?」」
ランドは夫婦が自分を見ながらそう口にするので…
「あっすいません、会話の邪魔をするのもどうかと思いまして…」
そう前置いてから自己紹介をする。
「自分は冒険者のランドと申します、今回はガーネット殿の来訪に付き添う形で同行させていただいています」
「ランド…も…もしかして…貴方が今年の武術大会の優勝者…鷹の剣士ランドなんですか!?」
「は…はいまぁ一応、見ての通り普段は鷹の仮面はつけてませんが…」
「まぁまぁまぁ…ガーネット様といい鷹の剣士といい、ウチにこんな凄い方が来られるなんて♪」
「私達の村にも今年の武術大会の噂は流れてきましたよ、先程の話を聞くに…ガーネット様よりも剣の腕が素晴らしいということですね♪」
「「サイン貰えますか!!」」
「は…はぁ…いいですけど…」
「「やったぁ〜♪」」
ランドの返答に夫婦は再びハイタッチして喜んだ。
それからランドとガーネットは夫婦にサインを渡し、他の村人が「武器見せて♪」とか「凄ぇ、この剣カッコいい♪」とかの簡単な交流をした後に、木の柵のところまで同行してくれた、トラッシュの両親に見送られて村をあとにしたのだった。
― ― ―
トラッシュの両親はランドとガーネットの背中を見送りながら、やがて二人が見えなくなると…
「……トラッシュの言っていた通り、ガーネット様はとても責任感の強い女性だったわねアナタ…」
「そうだな、ランドさんもその雰囲気から人の良さが伺えた」
「だからこそ…あの人達にはこれからの人生を、トラッシュの事で引き摺って欲しくないわよね……あんな人達に認められたなんて、トラッシュは自慢の息子だわ。……本当に…真面目で……とても……良い子だった…………」
「母さん…」ギュッ…
少しずつ声が震えていく妻を、夫は優しく抱きしめる。
トラッシュの母親は夫の胸の中に顔を埋めると、とうとう堪えきれずに目から涙を溢れ出した。
「うぅ…あぁぁぁぁぁぁ~…トラッシュ…トラッシュぅぅぅぅぅ〜〜!!」ボロボロボロボロ…
「…っ!!」ツゥ…
自分の胸の中で号泣する妻を抱きしめながら、夫もその瞳から涙を流すのだった。
リン「立派なご両親ね、息子を失ったのに今を生きる人の枷にならないように気をつかえるなんて…」
作者「正直書いててちょっと切なくなりました」
ガーネット「トラッシュ…彼の来世に幸あらん事を…」
作者「まぁどうしても人の「生命」に関する要素があると、そのページはギャグにはしにくいですからね。次はいつものような雰囲気のページを書きたいと思います」
リン「アドリブのくせに…」
作者「黙らっしゃい、次の更新の内容はちょっともう考えてますよ」
リン「へぇ…どうするつもりなのよ?」
作者「まぁ決めてると言っても一つだけですけどね、とゆーわけでガーネットさん…」
ガーネット「ん?」
作者「長らくお待たせしましたね、ある程度形にできたら次の更新で…貴女が喜ぶシーンへとなりそうですよ♪」
ガーネット「へ?」
※コチラもアチラも考えないとなぁ…




