Sランクとの会話とブソウ親子の破滅の序章
ランドと「剣舞の心得」との決着がついたことに、観客席から眺めていたツバキとサイガはとても満足そうな表情を浮かべていた。
「ふふ、やはりランドさんは頼りになるわねぇ。もうこのまま家でイブキと一緒にランの護衛をしてくれないかしら♪」
「いやはや、真にあの若者の実力は未知数でありますな。このサイガ年甲斐もなく二人の勝負に若き日の昂ぶりを感じましたぞ」
「ホントにね…っといけない、決着が着ついたことだし早速動きましょうか。サイガ、先程の証文を運営の役員に渡して宣伝してきてくれるかしら♪」
「承知しました、それにしてもブソウもアホな賭けをしたものですな。敵ながら微かに同情いたします…」
「ふふ…普段の行いと私の友人の力を嘗めたのが悪いのよ♪」
「お館様とご友人だけは敵まわしたくありませんな…」
「褒め言葉として受け取っておくわ、それじゃあお願いね♪」
ツバキはそう言って微笑むと、先程のブソウとの証文をサイガに手渡した。
「では行ってまいります」
サイガは証文を受け取ると、そう答えてツバキから離れた。
ツバキはサイガを見送った後「さて、それじゃあ私は一足先に屋敷に戻って…祝宴の料理の準備をするとしますか」と呟くと、未だに興奮冷め止まぬ広場から去っていった。
その頃ランド達は、決着がついたので舞台の上にランとイブキも上がってきて…ランドに声をかけていた。
「流石やで、やっぱり強いなぁランドはんは(それにカッコエエし、益々好きになりそうや///)」
「心配はしていませんでしたが、やはり実際に目にすると本当に凄いですよねぇ…」
「ランの期待を裏切るようなことにならなくてよかったよ」
そんな会話をしている三人に、ヤスツナを含めた「剣舞の心得」の四人から「おい…」と声がかかる。
「「ん?」」
三人が反応すると、コンゴウが代表してランドに言葉を投げる。
「アンタ…本当に凄い腕をしているな。俺達四人がここまで完敗したのは初めてだ」
「ギリギリだったよ、Sランク四人に勝てたのは運も良かったからだ」
ランドがそう返すとコンゴウは「よく言うぜ…謙虚過ぎると嫌味になるぞ」と苦笑いした。
「ヤスツナ以外には、アンタは愛用の武器すら使ってなかったじゃねーか。その気になればアンタは…俺達をアッサリと殺すことも出来ただろ?」
コンゴウの言葉に後ろの二人も頷く。
コンゴウの言葉にランドは…
(流石Sランクというだけある、相手の力量の推測にも長けてるな…)
と思案したが、これ以上の謙遜は逆に失礼かと考え「殺す理由がないからな、アンタ等のリーダーにも言ったが…Sランクを減らすのは得策じゃないしな」とだけ返した。
ランドの返答に、コンゴウはニヤリと笑うと「面白い奴だ」と口にした。
「流石…ダラス帝国の武術大会の覇者は、一筋縄ではいかない曲者ということか」
「!」ピクッ…
「えっ、コンゴウお前…今なんて言った?」
コンゴウの言葉にランドは微かに反応し、ヤスツナも続いて反応した。
「…なんのことかな?」
ランドは一度惚けてみるが、そんなことでSランク冒険者である彼等が誤魔化されるわけもなかった。
「さっきのアンタの反応見逃すわけ無いだろ、あのバカ息子からも話だけは聞いてるからな…」
今度はハヤテがそう言って、ランドの鎧の胸元をコンコンと叩きながら言葉を続けた。
「本来あの親子が雇いたかったのは俺達じゃない、あのアホ親子が噂で聞いた…今年のダラス帝国の武術大会の覇者…その男を雇いたかったらしいぞ」コンコン…
ハヤテの言葉を引き継ぐように今度等
はタマモが喋り出す。
「そうよ…散々あのバカ息子に「君達は二番候補だ」なんて言われたからね。ムカついて仕方なかったわ…」
そう言ってから「まぁ…今となったらどうでもいいんだけど…」と言って言葉を続ける。
「私もさっきコンゴウから聞いたばかりだけど、さっきアナタが使ってた武器を見て確信したわ。ダラス帝国の武術大会で、圧倒的な強さで優勝した鷹の仮面をつけた剣士…その剣士の顔は謎だが、彼は青く輝くロングソードを手にしていたってね。アナタでしょ、大会覇者の「鷹の剣士ランド」は?」
「…」
タマモの言葉にランドは無言だった。
「無言は肯定とみなすわよ?」
タマモが再度ランドにそう詰める横で、ランはニヤニヤと笑っていた。
「言われてるでランドはん、違うならハッキリ言ったったらどうや?」
「…なんか楽しんでないかラン?」
「別に…ただランドはんでも言葉に詰まることってあるのが見ものなだけやで〜♪」
「それを楽しんでると言うんだが…」
ランドはランにそう言いながら、「剣舞の心得」の四人の方に仮面をつけた顔を向ける。
四人はランドの返答を待っているのか、ランドに視線を向けて見つめていた。
「で?」
「どうなんだ?」
「今更誤魔化しは無しよ?」
「なぁマジ、お前さんがダラス帝国の武術大会の優勝した奴なの…なぁなぁ?」
若干一名テンションがおかしいが、四人の質問にランドは「はぁ…」とため息をつくと周りには聴き取れない声量で答えた。
「生憎と鷹の仮面は知人に渡してもう手元にない、面倒は御免だから出来ればあまり流布しないでくれないか?」
ランドの言葉にヤスツナ以外の三人は「やっぱりか…」という顔をした。
「他国からも腕利きが集うというあの大会の覇者なら納得だ…」
「俺達にも勝てるわけだ…」
「乱暴な奴じゃなくてよかったわ、そうなら御札じゃなくて私がバラバラに…」
そう呟く三人に、ランは「ふふん♪」と誇らしげに言葉を返す。
「そうやで凄いやろ、おたくらは確かにこの国では一番の実力かもせんけどな…ウチの護衛は大陸一の実力者やで♪」ダキッ…
そう言ってランドの腰に抱きついた。
「ラン…抱きつかれると動けないんだが?」
「構わへんやん、もう決着はついたんやし(うわぁ…ついついノリで抱きついてもうたわ///)♪」
「そうは言うが…「ちょっとよろしいかな」…?」
そんなやり取りをしているランド達七人に、今回の儀式の運営の役員であろう一人が声をかけてきた。
それは他の役員に比べると少し歳を重ねた男で、なにやら印のついた服を身に着けていた。
「アンタは?」
ランドが男にそう尋ねると、それにはランが答えた。
「ランドはん、この人はシャマンはんって言ってな…前回の「洗礼の儀」の勝者の人や」
「へぇ…前回の…」
ランドがランの言葉を反芻すると、シャマンは「うむ」と頷いてから言葉を続ける。
「拝見していたが実に見事な腕でありました。それとブソウ親子から言い出した決闘についてですが、終わったならこの後の件についてランの方に話したいのだが?」
シャマンの言葉にランが「あっ、そうやね」と反応する。
「ほしたらウチはこの後、勝者として神に舞を奉納するんやんな?」
ランの言葉にシャマンは「うむ」と頷く。
「そうだな、その辺はランも既に知っているから説明はすまい。ただ今回のこの決闘で時間が少し立て込んでおるからな、舞を奉納するにしても本来より遅い時間になるかもしれん。その辺の確認をな…」
「せやねぇ、別にウチは遅くなるのは大丈夫やで」
ランがそう言うとシャマンは「そうか」と口にする。
「ならば時間がズレることになるが、予定通りこの後奉納の舞をランにはしてもら…「すまんがちょっと良いかの?」…ぬ?」
シャマンがそう言葉にしてる途中で、サイガが舞台のところへやってきた。
「お祖父様?」
祖父がやってきたことにイブキが反応すると、続いてシャマンがサイガに声をかける。
「サイガ殿、如何された?」
シャマンの言葉にサイガは「なに、お館様からお主に言伝を頼まれてのぅ…」と言うと懐から一枚の紙を出した。
「これを観客達に伝えて欲しいと頼まれたんじゃ、お館様は用は済んだと先に帰られたから…お主に後を任せるぞ」
そう言ってサイガはシャマンに紙を渡すと、ランド達にも「それじゃあ儂は先に戻っとるからの♪」と告げて去っていった。
シャマンはサイガが渡して来た紙を確認すると「ほぉ…」と呟きニヤリと笑う。
「これはこれは…こりゃあ今日奉納の舞をするのは難しいかもしれんなぁ」
「「へ?」」
シャマンの言葉にランだけでなくランドやイブキ、そして「剣舞の心得」も首を傾げる。
そんなランド達にシャマンは「まぁ見ておけ」と呟くと、懐から「拡声魔道具」を取り出して話し出した。
ランド達が舞台上で会話している同時期、観客席では様々な会話が飛び交っていた。
「ヤスツナが負けたぞ!?」
「マジかよ、あの鎧武者とんでもねーな!」
「本当に何者なんだ!?」
「くっそー、俺のパーティーに入ってくれねぇかな」
「ばーか、お前のパーティーなんかに入ったら宝の持ち腐れだろ」
「強い殿方って良いわねぇ〜」
「どんなお顔されてるのかしら?」
「ウホッ…拙者の後ろにもあの剣を味わわせていただきたい///」
「誰だ変なこと言ってるのは?」
そういった声が飛び交う中…一部の冒険者や武芸者達は一つの共有した感想を口にする。
「しかし、あれ程の戦いを見せられると気持ちが昂るものがあるな」
「確かにな、明日にでもまた討伐依頼を受けようぜ」
「だな、と言っても最近割のいい依頼してないから懐がなぁ…」
「あ、そうか…」
「無いものねだりしても仕方ねぇしなぁ、やはり地道に…「あーテステス、この場にいる皆様聴こえますか?」…ん?」
そんな時突然「拡声魔道具」によるシャマンの声が全体に響いた。
「今回のワガマ陣営とラン陣営での決闘についてだが、ここで私から皆さんにお伝えすることがあります!」
「シャマンの声だ…」
「伝えたいことってなんだ…?」
観客達がシャマンの声に集中し始めると、シャマンはそのまま言葉を続ける。
「たった今…ランの母親であるツバキ殿からの手紙を私はサイガ殿から受け取った。皆にも悪い話ではないから是非聞いてほしい!」
「「?」」
その場にいる全員が首を傾げると、シャマンは「ツバキ殿からの紙は…」と話し始める。
「今回の決闘について、もしもランの護衛が「剣舞の心得」に勝利した場合…ブソウの店の商品は今日に限り全て無料となると書かれた証文となっている」
「「えっ!?」」
シャマンの言葉に周りは反応する。
「だからブソウの店に置いてるもので、欲しいものがあるやつは今すぐブソウの店に行って手に入れてこい。今日だけのチャンスだぞ!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」
シャマンの言葉に大歓声が巻き起こった。
「マジかよやったぜ!」
「欲しい武器があったんだよ!」
「おいモタモタすんな行くぞ!」
「早い者勝ちだぁぁぁぁ!!」
「なぁ…あの鎧武者の武器ってさぁ…」
「今はそれより物資だろ!」
「そうだぜチャンスだぞ!」
「何かと物要りだからな!」
「…そうだな、まずは物資だぁぁぁ!」
ドドドドドドドドド…!!
シャマンの言葉を聞いてものの数分で、あれだけいた観客達は殆ど居なくなっていた。
「なんというか…」
「凄い速さで観客達が…」
ランド達は出ていった観客達に驚きつつボーゼンと立っていた。
そんなランドにヤスツナが声をかけてくる。
「なぁなぁ、お前さんがダラス帝国の武術大会の覇者ならもう一回俺と今から勝負を…「私達も行くわよ、ハヤテ…アンタは足速いから一足先に行って取れるだけゲットしなさい!」…おい?」
ランドの事を知って再戦を申し込もうとしたヤスツナの言葉をタマモが遮ってそう叫ぶ。
「心得た、行くぞコンゴウ!」
「おうよ、あのバカ息子にムカつかされた分は物で支払ってもらうぜ!」
「二人とも頑張ってね、ほら私達も行くわよヤスツナ!」ズルズル…
「は…離せタマモ…俺はもう一度アイツと勝負をーー……」ズルズル…
願いも虚しく、ヤスツナはタマモに引きずられて去っていった。
「「……」」
観客達に続いてヤスツナ達も去り、ランドとランとイブキ…そしてシャマンはポツンと残された。
この事を宣言することで、こうなると予想していたシャマンは「ま、こうなるか…それに私以外の役員まで居ないではないか…」と呟いた。
「これは今日は発表会の続きは無理だな、まぁそういうわけだから…今日はここまでにして奉納の舞は明日に延期だ。そちらの護衛の鎧武者殿も疲れただろう、ランも明日に備えてしっかりと休んでおくがよかろう。ではな…」
そう言うとシャマンも舞台をあとにするのだった。
シャマンを見送った三人は…
「なんだかなぁ…」
「お母はん、えげつないことするな…」
「お館様は怒らせてはいけませんね…」
そんな言葉を呟くしかできなかった。
そしてその頃、ブソウとワガマのアホ親子は…
「ワハハハハ…皆のものそうはやるでない、我が店の商品はまだまだ在庫があるのだから充分お買い求めが可能だからなぁ〜〜ヒック///」クイッ…クイッ…
「もぉ〜お父様、前祝いとは言え飲み過ぎですよぉ〜。にしても紅茶の香り付けのブランデーを入れすぎたのか少しフワフワする…ん…なんだランとイブキ、お前達もぅボクに従う準備が出来たのかぁ〜。そうかそうか…なら早速このボクの足でもなめてもらおうかなぁ〜ヒック///」ファサファサ…
ツバキとの確約の後、懲りずに前祝いでハシャギ過ぎて自分に都合のよい白昼夢を見ていた。
彼等が観客達の波に飲まれて、戻ってくるのに時間がかかった部下に結果を聞かされ、酔いが一瞬で覚めることになるのは…もう少し後となるのだった。
リン「流石はセーラ様の友人、敵には容赦無いわね…」
作者「ですね、大人って怖いですね」
リン「にしても、今回の憎まれ役は今のところ大した制裁無いわね?」
作者「どのような末路かはまだ固まって無くてですね、とりあえず第1段階として「経済的打撃」からと思いまして」
リン「ふーん」




