ゼスタの街での意外な再会とランスの災難
翌日、フォルクスから行き方と道筋の説明を受けたランドは午前中には王都を出るとダラス帝国へと向かって移動した。
途中までは馬車の定期便が出ていたのでそれに乗って行きゼスタの街に着いたランドはもう夕方になろうとしていたのでその日はそこで一晩泊まり次の日の朝に出ることにした。
ランドは前回臨時講師として来たときは学院の職員寮で寝泊まりしており最終日の「慰労会」の時の買い出し以外であまり街を散策していなかったので宿を取ったあと少し散策をしてみることにした。
街を見て回りながらランドは「買い出しの時は食べ物の店を回っていたから他にも色々と見たいな、そういえばこの街の名物ってなんなんだろう?生徒達に渡した防具や装飾品とかなのか…「引ったくりだー!」…ん?」
ぼんやりと独り言を呟きながら歩いていたランドの耳にそんな声が聞こえてきた。
ランドが振り向くとこちらに向かって大柄な男が女性ものの鞄を抱えて走ってくるのが目に入る。
男は自分の進路にいるランドに気が付くと「邪魔だ!退きやがれ!」と空いてる方の手を振りかぶると殴りかかってきた。
咄嗟にランドはその腕を横にかわしながらその腕を掴むと背負い投げの要領で男を投げた。
「な?」
自分より小さい男にいとも簡単に投げられた男は驚きのあまり受身をとることもできずにドスン!と地面に叩きつけられる。
「ぐへっ!」
地面に叩きつけられた男がそんな呻き声をあげたあとランドはそのままその男の腕を捻った。
「アダダダダダ!」
男は関節を極められて身動きができず悲鳴をあげる。
「全く、いい大人が引ったくりなんてするんじゃない」
ランドが男に説教してるとそこに誰かが知らせたのか二人の衛兵と一人の女性がやって来た。
「ご協力感謝します、どなたかは知りませんが後は我々にお任せください」
衛兵の一人がランドが拘束してる男の足に縄を縛り付けて身動きを封じている間にもう一人の衛兵がランドに礼を述べる。
「ご苦労様です」
ランドは男が完全に拘束されたのを確認すると極めていた関節から手を離し衛兵にそう返した。
「それにしてもお強いですね、この男は最近隣のダラス帝国から流れてきた傭兵崩れで元Bランクの冒険者なのですが」
衛兵の言葉にランドは「まぁ一応自分も冒険者ですから」と返した。
「ほぉ、となるとランクはAやBですかな?それともSランクですか?」
「いえCランクです」
「そうなのですか?それにしてはお強いですね」
「まぁ経験だけは積んでますから」
衛兵の言葉をサラッと流したランドに衛兵の横にいた女性が「あ、あのありがとうございました」と礼をのべた。
「ああ、これあなたの鞄ですか?戻って良かったですね」
「はい、彼氏と買い物をしてたのですが彼氏がトイレに行ってるときにいきなり奪われてしまって焦ったので助かりました」
「それは災難でしたね」
「ええ、彼氏は兵士なのでそばにいたら対処してくれたんでしょうけど」
「それはまたタイミングのわるい…「マリン大丈夫だったか?」…ん?」
ランドが女性に慰めの言葉をかけようとしたらそこに男性がやって来た。
ランドはその男性の顔を見ると(あれ?あの人は確か…)と考えた。
ぐるぐる巻きにされた引ったくり犯を地面に転がしている衛兵の二人がその男に声をかける。
「おいランス、お前がトイレに行ってる間にマリンちゃんが引ったくりにあったぞ。幸いこの冒険者の人が取り押さえてくれたがもっと気を付けろ」
「そう言ってもよぉ…とりあえずマリン、怪我とかはしてないか?」
「うん、大丈夫よランス。鞄もこの人が取り返してくれたわ」
「そうか、この度は彼女がお世話になりまし…ってランドさん?」
男はランドを見て驚きの声をあげる。
ランドも男には見覚えがあったので返事を返した。
「お久しぶりですランスさん。ガードさんやソードさんはお元気ですか?」
「ええ、アイツ等も元気ですよ。ランドさんはどうしてゼスタに?」
「ちょっと依頼でダラス帝国まで行く用がありましてね。今日はここで一泊して明日の朝にまた出て向かおうかと思いまして」
「そうでしたか」
穏やかに会話する二人を見て衛兵達とマリンと呼ばれた女性が声をかける。
「「なんだランス知り合いか?」」
「ランスこの人知ってるの?」
三人の言葉にランスが「ああ、少し前に話したろ?四月に俺が勤めてる学院にCランクなのにすごく強い臨時講師が来てたって」と答えた。
「ああ、今牢屋に入ってるあのゴリラをボコッたっていう臨時講師の冒険者の」
「この人がそうなのか?どうりでコイツを倒せるわけだ」
「ランスが言ってたとおり強いのね」
ランスの言葉に三人とも「この人がねぇ…」とランドに視線を向けた。
「はは、ランスさんが言うほどたいした人間でもないですよ俺は(ドルクはまだ牢屋に入ってるのか)」
ランドはそう言って愛想笑いを浮かべた。
「相変わらず謙虚ですね」
ランスはそう言って笑うのだった。
「とりあえずコイツは連行するから」
「また今度飲みに行くぞランス」
「ああ、またな」
ランスがそう返すと衛兵二人は「それじゃあな」と言って引ったくりの男を引きずって行った。(デカくて担げないので)
「じゃあ俺もこれで失礼しますね」
ランドがランスとマリンの二人にそう告げて立ち去ろうとするとランスが「待ってくださいランドさん、せっかくですしお礼として夕食をご一緒しませんか?」と誘ってきた。
「いやいやお二人のデートの邪魔になりますから」
ランドはそう言って丁重に辞退しようとしたがマリンからも「そうですよ、ご一緒しませんか?」と誘ってきた。
二人からそう言われてランドは(これ以上意固地になって断るのも失礼か)と考えて「そう言われるのでしたらご一緒させてもらいます」と受けることにした。
それから暫くしてランドは二人と食事をしたあとに別れると宿屋に戻り先程までいた二人の事を思い返していた。
「しかしランスさんとマリンさんは年末には結婚かぁ、俺もいつかは結婚するのかなぁ?…まぁその前に相手すらいないからな、まずは俺なんかを好きになってくれる物好きから探さないといけないがな」
そんなことを一人呟きながら明日は朝には出るために床につくのだった。
同じ頃、ランドに思いを寄せる女性陣は…
シシリア「ん?」
アリス「今なにか…」
ソアラ「とても貴重で…」
メリッサ「絶好の…」
ノエル「タイミングが…」
ガレリア「目の前から…」
ラジ「逃げたような…」
マーセル「そんな気がする」
となにやらシンクロしていた。
翌日、ランドは宿屋での軽い朝食を済ませるとすぐにゼスタの街を出てダラス帝国へと向かって行った。
― ― ―
一方ランドがゼスタを出てから少しした頃「冒険者養成学院」では…
「よおランス、昨日はマリンちゃんとの結婚の用意のための買い出しは楽しかったか?」
「ったく俺達より随分先に行きやがって」
ソードとガードが祝福と嫌味の半々の気持ちでそう声をかけてきた。
「僻むなよ、ああそういえば昨日街でマリンと居たときだけどちょっとしたトラブルがあったんだよ」
「あ?何があったんだ?」
「なんだフラれたか?」
「違うわ!まぁいいや続けるぞ、実は街に居たときにな俺が少しトイレで離れてたときにマリンの鞄を引ったくって逃げようとした野郎がいたんだよ」
「そりゃ災難だったな」
「で、そいつはどうなったんだ?」
「それがな、その野郎が逃げた進路に一人の冒険者がいてそいつが押し退けようとその冒険者に殴りかかったらそのままぶん投げられて返り討ちにあったんだよ」
「へぇ、その引ったくりはくたびれたおっさんかなんかだったのか?」
「いや、そこに来た衛兵のアイツらに聞いたらその野郎は隣のダラス帝国から流れてきた傭兵崩れで元Bランクらしいんだ」
「はぁ~そんな奴をアッサリ投げ飛ばして返り討ちにするとはその冒険者もよほど強いんだな」
「大したもんだ」
「だろ?それで俺も騒ぎを聞いてマリンの所に行ったらその冒険者がいたからお礼を言ったんだけど顔見て驚いたのなんの」
「なんだよ知り合いだったのか?」
「知り合いもなにも、その傭兵崩れをぶん投げて拘束してたのはランドさんだったんだよ!」
「「え、ランドさんこの街に来てたのか?」」
「ああ、なんでも依頼でダラス帝国に行く途中だったらしい。夕方になりそうだったから昨日はゼスタに泊まって今日の朝にはまた出るとか言ってたぞ」
「へえ、まぁランドさんなら納得だわな」
「確かにな、傭兵崩れがランドさんに勝てるわけねーな」
「そんでマリンと俺で今回のお礼に夕食を一緒にって誘ってな、昨日一緒に夕食食ったんだよ。お前達にもよろしく伝えといてくれだとよ」
「そうか、また会いたいな」
「そうだな、また一緒に飲みたいな」
「まぁもしかしたらダラス帝国からの帰りにまたゼスタに来るかもしれないしその時は見かけたら声かけてみたらいいんじゃないか?」
「「そうだな」」
「さて、雑談はこれまでにして今日も門番としての業務を…「先生がこの街に来てたんですか?」…へ?」
ランスが気持ちを仕事に切り替えようとしたらそこにはソアラとミーシャが立っていた。
「先生がこの街に来てたんですか?」
ソアラはもう一度ランスに向けて同じ言葉を発した。
「あ、ああ…依頼でよそに向かう途中の通り道だったとかで昨日はこの街で泊まってたらし…「どうして…?」は?」
「どうして教えてくれなかったんですかぁー!?」
ソアラはそう大声を出すとランスに詰め寄る。
「ソ、ソアラ君?」
「ソアラちゃん?」
ランスとミーシャがソアラの勢いに驚いて声をかける。
「学院長が王都に行ってる今、アピールするチャンスだったのにぃ~!しかも一緒に夕食を食べたなんてズルい~!」
ソアラはそう言うとランスの肩を持って揺さぶり出した。
「ちょちょちょ、ソアラ君離して…」ガックンガックン
テンパるランスに対してソアラは気持ちが不安定になったのか魔力が外に漏れ出して…
ドカーン!
暴発した。
ソアラはランドからもらったブローチのお陰で爆発とかの物理的ダメージを防いでいたがそれを持たないランスは数メートル吹っ飛ぶと地面に落下した。
「「ランスーー!?」」
ガードとソードが吹っ飛んだランスのもとに駆け寄った。
ミーシャも同じブローチを持っていたのでダメージはないが「ソアラちゃん落ち着いて!ランスさん吹っ飛んじゃったよ!」とソアラの肩を叩いた。
「はっ?」
ミーシャの行動で我に帰ったソアラは「ミーシャ、私何かした?」と尋ねる。
「なにかどころじゃないよ!ランド先生に会えなかったからって興奮して魔力が外に漏れてたよ!それでランスさん吹っ飛んじゃったよ!」
ミーシャが指差した方をソアラが見ると所々焦げたランスがガードとソードに支えられていた。
「おいランス大丈夫か?」
「生きてるか?」
ガードとソードの声かけにランスはゆっくりと喋り出した。
「なぁ聞いてくれよ、俺さ…年末にマリンと結婚して犬を飼うんだ。白くて大きな犬さ、そしていつか子供が生まれたらきっとランドさんみたいな立派な男に育ててやるんだ…」ガクッ
意味深な言葉を告げるとランスは沈黙した。
「ランスーー!」
「いかにもな台詞残して倒れんなーー!」
ガードとソードの絶叫が響き渡る。
それを見たソアラは「ご、ごめんなさーい!!」と慌てて謝り、ミーシャは「と、とりあえずガードさんソードさんランスさんをこちらへ!治療魔法かけますから!」と言葉にした。
ちなみにランスは気絶しただけで大事には至らず、ソアラも必死に謝ったので事なきを得た。次の日帰ってきてその報告を聞いたメリッサはソアラに反省文を書かせた。




