武術大会の出場者の決まり事
ゼスタの街を出たランドは簡単に整備された道をのんびりと歩いていた。メリッサから聞いた「武術大会」にはまだ日があるのでさほど急ぐ事もなく夏から秋に変わろうとしている自然の風景を眺めながら歩いていく。
「のどかなもんだ、山で暮らしてた頃を思い出すなぁ~」
そんなことを呟きながらランドは歩いていく、そして途中にあった川辺で街で買っておいたハムとパンで簡単な昼食を済ませるとまた歩き出した。
「さて、そろそろ国境が見えてきてもいい頃なんだ…「た、助けてーー!」…が?」
ランドの独り言を遮るように男の叫びが聞こえたのでランドはひとまず声のした方向に走り出した。
やがてランドは道の真ん中でオークに囲まれている団体を視界に捉えた。
どうやら行商に向かう途中の商人の馬車をオーク達が襲っているようだ。護衛と思われる冒険者数名も必死に迎撃しているが数が多くて囲いを突破出来ないようだ。
(引ったくりの次は魔物の襲撃か…フォルクスさんがいたら「お前はまたトラブルを…」とか言われそうだな…)
そんなことを思いながらも見過ごすわけにはいかないのでランドも加勢に入る。
「大丈夫か?手伝うぞ」
ランドは団体に声をかけながら腰の剣を抜いて近くのオークを切り捨てた。
突然やって来た男に冒険者達は少し驚いたが「悪いな、助かるぜ」と返して迎撃していく。
やがてランドの加勢もあってかオーク達が「不利」を悟ったのか逃走を始めた。
やがてオークはいなくなり辺りには10体ほどのオークの亡骸が転がるだけとなった。
ランドは剣を鞘に納めると「大丈夫だったか?」と団体に声をかける。
すると冒険者の中の一人で柄の長い斧を手にしている男がランドに話しかけてきた。
「すまないな、助かったぜ。商人の護衛としてついてたんだが予想外の数のオークが現れてな」
「なに気にするな、たまたま通りかかっただけだ」
男の礼の言葉にランドも気軽に返した。
「俺はこのBランクパーティー「猛獣の戦斧」のリーダーをしているザックスだ」
そう言って手を出してきたザックスにランドも「ランドだ、ソロで冒険者をしているランクはCだ」と返してその手を取った。
「Cランク?それにしては腕がたつな」
ザックスの言葉にランドは「まぁソロでやってるからその分経験が多いんだ」と返した。
「なるほどな、確かにソロならパーティーで分担することも一人でやるし経験も増えるか」
ザックスはランドの言葉に納得したようだった。後ろにいるパーティーメンバー(斥候のシル、僧侶のハンク、弓兵のナッシュ)も感心したように頷いていた。
「ザックス達はどこに向かってるんだ?」
ランドがなんとなくそう尋ねるとザックスは「さっき言った通り商人の護衛だ、グラン王国の王都へ行くまでの間のな」と答える。
「と言うことはザックス達はダラス帝国から来たのか」
「そうだ、今帝国の王都はもうすぐ「武術大会」が開かれるから血の気の多いやつが沢山来ていてな。そっちに集中する冒険者が多くてこういった護衛の依頼とかが溜まるんだよ。俺達は大会よりも無難に稼ぎたいからこうして受けてるんだ。見知らぬ奴に絡まれてソイツが強かったりして怪我でもしたら仕事にならないしな」
「なるほど、怪我のリスクのある名誉よりは確実な収入だしな」
「強さを求めないわけではないが、そこは拘りなく無難にやる方がいいからな。命あっての人生よ、まぁさっきみたいなトラブルもないことはないがな」
「生き方なんてそれぞれだ、自分が満足してるならそういうのもありだろう」
「話のわかるやつだ、依頼がなけりゃ飲みに行きたいもんだぜ」
ランドの言葉にザックスはそう笑いながら言葉にした。
「ランドさんは帝国に行くのか?」
ふいに斥候のシルがそう尋ねてきたのでランドは「まぁな、ちょっと頼まれ事をされてるので向かってるところだ。あと「さん」なんてつけなくていいぞ」と返した。
「そうか、ランドは大会に出るのか?」
「もし出るなら優勝は無理でもいいとこまで行きそうだな」
続けて尋ねてきたハンクとナッシュにランドは「さてな、気が向いたら出るかもな」とだけ返した。
そんな話をしていると馬車の確認が終わったのか商人の男がランドに声をかけてきた。
「この度は手伝ってくださりありがとうございます」
そう言って頭を下げる商人の男にランドは「気にしないでください、通りかかっただけですから」と返した。
「なにかお礼をしたいところですが私達も先を急いでますのでご容赦ください」
そう言って謝る商人に「いいですよ、そんなに大したこともしてませんから」とランドは答えておいた。
「うーむ、と言われましても商人としてなにもせずに借りを残すのもあれだしかといって商品を譲るのも…あ、そうだこんなもので申し訳ありませんが受け取って貰えますか?」
商人の男はそう言うとなにやら紐についた飾りのようなものを取り出してランドに渡す。
「これは何ですか?」
「それはダラス帝国の商人ギルドの紋章飾りです。私は商人ギルドに登録している商人なのでもし王都で宿を取られたらそれを宿屋の主人にお見せください。幾らかの割引が受けられます」
「いいんですか?」
「勿論です、但し使えるのは5回です。主人にその飾りを見せると紋章の所に主人が印をつけますので全て埋まったら効果を失います」
「わかりました、ありがとうございます。ええと…」
「申し遅れました、私商人の「ニック」と言います。ザックスさんも言ってましたが命あっての人生ですからね。命の恩人にそんなもので申し訳ありませんが」
「いえ十分ですよ。そんなに長くは帝国にいませんから少しでも出費を抑えれるのであれば御の字です」
「ランドさんは謙虚な方ですね。あ…そうだ、あとおまけとして使うかはわかりませんがこれも差し上げます」
ニックはそう言うと自分の鞄からシンプルなデザインの「鉄仮面」を取り出すとランドに手渡した。
「この仮面は?」
「それ自身はなんの変哲もない鉄仮面です」
「なぜこれを?」
ランドがそう尋ねるとそれにはザックスが答えてくれた。
「ランドがもし武術大会に出るならその仮面を使えばいいってことだよ」
「大会は仮面をつけないといけないのか?」
「ああ、基本的に出場者は仮面をつけることが義務付けられてる」
「そりゃまたなんで?」
「それはな…」
ザックスからの説明は以下の通りだった。
・大会出場者は仮面をつけて素顔を隠すこと
・理由は大会で負けた相手が自分を負かした相手を逆恨みして街中などで襲ったりしないための防止策として顔を見られないため
・だから大会出場者は基本的に当人が了承しない限り当人の回りの人物(家族や友人等)の繋がりを調べる材料となりえるので名前以外の素性は調べない。これも逆恨みした者が負かした当人の回りの人物に嫌がらせなどをさせないため。
・出場者は出場登録の時に主催者の所有する魔道具「真名の水晶」に手を当てる必要がある。これは逃亡中の指名手配の人物等が偽名で入り込まないための予防である。
「ってことだ」
「なるほど、あくまでも「腕試し」だから大会を理由としたトラブル防止というわけか」
「そういうことだ、まぁランドが出場するならって話だから気にしないでくれ。名前だって同じ名前の奴が被ってる時もあるみたいだしな。その時はダラス帝国出身かそうでないかとかは聞かれるらしいがそれもどの国かまでは聞かれないらしいし」
「つまり自分から流布しなければ名前以外は情報が出ないから正体がばれることはほとんどないわけか」
「まぁな」
「わかった、教えてくれてありがとう。もし出たくなったら参考にするよ(名前以外が知られないのは助かるしな、面倒事になってもあれだし)」
「おう、それじゃあな」
「ありがとうございました」
「気を付けてな」
「そっちもな」
そう言うと商人のニックとザックス達はランドに手を振ってランドとは逆の方向へと進んでいった。
その背中を見送ったランドは「じゃあ俺も行くか」とダラス帝国へと進んでいくのだった。




