ランドからリディアへの飴と鞭
リディア視点から
「老狼王だと!?」
私は目の前の魔物に驚きを隠せずにいた。「老狼王」は元がフォレストウルフといってもその強さは別格の魔物だ。
討伐するにはAランク冒険者パーティーが複数で当たらなければならない、流石の私でもソロでは厳しい。
「す、すぐにランドに連絡を…」
私はランドに渡された発煙筒を手にして紐を引こうとしたが…
(いやまて、多少腕がたつといってもランドはCランクだぞ?呼んだところでやられるだけだ。これ以上迷惑をかけるわけには…)
私は手にした発煙筒を戻すと剣を抜く。
「く、やれるだけの事はやってやる!」
そう決意して構える私に「老狼王」は「グルァァァァ!」と雄叫びをあげて飛び掛かって来た。
(速い!)
私は咄嗟に横に回避するが爪が私の脇腹を少しかすり鎧の一部が欠けて血が滲む。
「くっ、一撃でこの威力…王と名のつくだけの力はあるということか」
私は脇腹の痛みを堪えながら剣を向けて対峙する。
「老狼王」はすぐさまもう一度私に向かって飛び掛かってくる。
横薙ぎに迫る爪をしゃがんで回避すると背にしていた木が切断されてドスン!と落ちた。
(この威力、そうか先程のキラーグリズリーは今ので首を切り落とされたのか)
私は止まることなく襲い掛かる「老狼王」の攻撃を必死に回避しながら反撃の機会を伺うがその速度からなかなか隙が見えない。
そしてついに脇腹からの出血で私がフラついた瞬間…
ガギンッ!
「老狼王」の爪が私の剣を弾き飛ばした。
「しまっ!」
続けざまに「老狼王」の尻尾が私の体を打ち付ける、私は吹き飛ばされて木に激突した。
「グハッ!」
体中を衝撃が走り身動きがとれない、自分の勝利を確信したのか「老狼王」は「グオォォォォン!」と遠吠えをあげて私に向かって鋭い牙が並んだ口を大きく開いて飛び掛かってきた。
(これまでか…せめて私が食われている間にランドが森を出れたらいいが。そしてまだ見ぬランドさん…せめて一目お会いしたかった…)
私が死を覚悟して目を閉じたとき…
「ギャン!」
突然「老狼王」の悲鳴が聞こえた。
「え?」
私が何事かと目を開けると…
「生きてるかリディア?」
そんな声が聞こえてきた。
- - -
時は少し遡って…
ランドはリディアの向かった方向へと走りながら辺りを見回している。
「リディアはどこにいるんだろう?トルテが言っていた気配の持ち主と遭遇してなければいいが…ん?」
ランドはなにかを視界に捉えて立ち止まる。
「これは…トルテが言っていた気配の持ち主がやったのか?」
それは所々を食いちぎられて頭部が切断された巨大なキラーグリズリーの死体だった。
「これほどデカイのを仕留める奴か、早くリディアと合流しない…ドスン!…今の音は?」
ランドは大きななにかが落ちるような音を聞きその方向へと走り出す。
そうして少しして、ランドは巨大な獣の後ろ姿を捉えた。
「アイツが気配の持ち主か、ってリディア?」
ランドはその獣の向こうに倒れているリディアの姿を確認すると更に速度をあげる。
そうしてその獣がリディアに大きく口を開けて飛びかかった所でその獣の横っ面を蹴り飛ばした。
- - -
「ラ、ランド…?」
自分の目の前に現れた男にリディアは声をかける。
ランドはチラリとリディアを見てから「生きてるか、良かった」と口にする。
「な、なぜここに?」
リディアの問いにランドは「ちょっと知り合いから妙な気配を森の中から感じると聞いてな。間に合ってよかった」と返す。
その時ランドに蹴り飛ばされた「老狼王」が「グルルルル!」と怒りの声をあげる。
それを見たリディアが「に、逃げろランド!奴は「老狼王」だお前が敵う相手ではない!」と口にするがランドは「話は後だ!」と返して腰の剣を抜いた。
「グルオォォォォ!」
狩りの邪魔をされて怒ったのか「老狼王」は大きく吠えるとランドに飛びかかった。
そして「老狼王」とランドが接触したかと思ったら…
ザンッ!
そんな音と共に「老狼王」の体は左右に真っ二つに別れるとランドとリディアの左右を通り後ろにドサリと落下した。
「え?」
あまりの出来事にリディアは呆気にとられるがランドはそれをよそに「デカイ狼だな、トルテが言っていたのは多分コイツのことだな」と呟いた。
「そんな…「老狼王」をあっさりと。ラ、ランドお前は一体?」
リディアはそう口にするがランドは「とりあえず回復薬を飲めリディア」とリディアに回復薬を渡す。
「あ、ああわかった」
リディアはランドに渡された回復薬を飲むと一息つく。
「回復したか?」
ランドの言葉にリディアは「ああ、もう大丈夫だ」と答える。
「痛みとかはもうないか?」
ランドが更に質問してきたのでリディアが「大丈夫だ、もう痛みもない。それにしてもランドお前のその強さは…「そうか、それなら良かった流石に怪我をしている女性に手をあげる訳にもいかないからな」…え?」返答して更にランドになにか言おうとしたリディアの言葉をランドが遮ったかと思うと…
パンッ!
「え?」
リディアは何が起きたか一瞬解らなかった、少しして自分の頬に微かな痛みを感じてランドにそんなに強くはないが頬を叩かれたことに気が付く。
「ラ、ラン…「なぜすぐに発煙筒を上げなかった!?」…!」
昨日出会ってからずっと落ち着いた声をしていたランドの大声にリディアは驚いた。
「もし俺が間に合わなかったら死んでたんだぞ!」
「で、でも昨日から迷惑をかけてるしこれ以上迷惑をかけるわけには…「それでリディアが死んだらどうするんだ!死んだらもう汚名返上もできなくなるんだぞ!」…」
「だ、だからせめて私が食われている間にランドが逃げれれば…「リディアは俺に「女性が食われている間に逃げた卑怯者」のレッテルを貼りたいのか!」…そ、そんなことは…」
「死んだらそれまでなんだ!相手を気遣うのが悪いとは言わないが場合を考えろ!」
ランドの言葉にリディアはシュンとなる。
「全く、確かに俺はリディアよりランクは下だがそんなに信用が出来ないか?」
ランドの言葉にリディアは慌てて「ち、違う!ランドは良い奴だから信用してる」と答える。
「ならもっと俺を頼れ、もしリディアが死んでたら俺は凄く後悔するところだったぞ」
「ご、ごめんなさい」
反射的に謝ったリディアにランドは手を上に上げる。
リディアはビクッとして目をつむるがすぐに頭にポスッとなにか乗った。
「?」
リディアが目を開けると自分の頭に手を乗せたランドが「反省したならいい、さっきは叩いて悪かったな。無事で良かった」と笑顔で頭を撫でていた。
そのランドの言葉を聞いたリディアは先程までの命の危機からの恐怖感とランドの優しい笑顔に緊張の糸が切れたのか「う、うわぁぁぁぁん!ごめんなさいごめんなさい!助けてくれてありがとぉぉぉ!」と泣き出した。
ランドは泣き出したリディアに少し驚いたが…
(Aランクと言ってもまだ若いしな、今回みたいな経験は初めてなんだろう)
と考えると彼女が泣き止むまで頭を撫でてあげるのだった。




