ランドの不安とリディアに迫る脅威
前半・リディア視点
中盤・ランドサイド
後半・リディア視点
(どうしようこのままでは私の汚名返上が…)
リディアはランドの後ろを付いていきながらそんな感情を抱いていた、昨日出会ってから目の前にいる男にはカッコ悪い所しか見せれていない。
気配は解ったが示した方向が合ってなかったり街で迷子になりそうなのを案内してもらったり、あげくには得意気に「奢る」といった夕飯ですら両替を忘れていて払ってもらったり…
そして今日も「依頼を手伝うぞ!」と言って半ば強引に彼の依頼に同行したが今のところ大した事は出来ていないのだ。
ゴブリンの討伐はしたがそれくらい目の前の彼にも造作もないことだから自慢にもならないし先程確認のために聞かれた道順ですら間違えてしまった。
それでも彼はやや呆れつつも私を拒絶はしなかった、なんだかんだで優しい男なのだろう。
だからこそなおのこと私は彼の役に立たねばと思うのだが名案が浮かばない。
(私の探してるランドさんとは違うとしてもこのランドも良い奴だしな。少し位役に立ちたいのだが…)
そんな事を考えてると目の前の男ランドが「っとこの木が見えたということは森の中辺りまで来たか?」と立ち止まった。
ランドの目の前にはまわりの木とは圧倒的にサイズの違う大木が立っていた。
「これはまた随分大きな木だな」
私がそう言葉にするとランドは「ああ、この森で一番大きな木だ。森の中央付近にあるから目印にしやすいんだ」と答えた。
(なるほど、確かにこれほど大きければ目印にも…あ、そうだ!)
私はランドの説明を聞いて良いことを思い付いた。
「なぁランド、提案が有るんだが」
「提案?」
私の言葉にランドが聞き返してきたので私は言葉を続けた。
「うむ、ここからは二手に別れて間引きをしよう」
「え、大丈夫か?一人だと迷子にならないか?」
私の提案にランドは懸念を示すが私は「大丈夫だ、方向がわからなくともこの木があるからな」と返す。
「うーん、しかし…」
「その方が広範囲の魔物を間引きできるし効率的だから早く終わるぞ?私も少しは役に立ちたいんだ」
私がそう言うとランドは「…わかった、だがあまり無茶はするなよ?」と了承してくれた。
「わかってる」
「あと、念のためこれを持っていけ」
そう言うとランドは自分の鞄からなにやら筒状のものを取り出して私に手渡してきた、片側には紐のようなものがついている。
「これは?」
私の問いかけにランドは「発煙筒だ、もしなにかあったら紐の方を下にして引っ張れ。そうしたら上空に煙が打ち上がるから。そうしたら俺がすぐに行くからな」
「そうか、まぁ私には必要ないとは思うがな」
「使わないといけないような事が起きないならそれはそれで良いことだが、念のためだ。高ランク冒険者だと言うなら用心に越したことはないぞ」
「わかった、念のため受け取っておこう」
私はそれを自分の鞄にしまった。
「ではまたここで落ち合おう、そうだな…一時間後くらいでどうだ?」
「わかった、気をつけてなリディア」
「うむ」
私はそう言うとそこでランドと一時的に離れた。
- - -
「あぁ言っていたが、リディアは大丈夫なんだろうか?」
ランドは突然「ここから二手に別れよう」と言ったリディアを少し心配したが「まぁこの森でかなり奥まで行かない限りはさほど強い魔物もいないから大丈夫だとは思うが…ひとまず俺も少し魔物を探すとするか」そう独り言を呟くとリディアが向かった方向とは反対側に歩いて行った。
-30分後-
それから30分ほど経過して、ランドは遭遇した魔物を討伐していたが「そろそろ戻るとするか」と来た道を戻ろうとすると…
「…!」
なにやら大きな気配を感じてランドは身構えた。
(かなり大きな気配だな…敵意は感じられないが、こっちに向かってくる)
ランドはいつでも迎撃できるように剣の取っ手に手を添えた状態で気配のする方に視線をやるとガサガサッと音がして茂みの中から…
「あれ?師匠こんなところでなにやってるんですか?」
「ホントだランドだ、どうしたの?」
頭にトルテを乗せたラジが顔を出した。
「なんだ、ラジとトルテか。お前たちこそ何してるんだ?」
現れた妖精と自分の弟子に対して警戒を解いたランドがそう尋ねると「少し気になることがあって森を見回りをしてるの」とトルテが答えた。
「気になること?」
「うん、何か特殊な大きな気配を感じたからそれが何かを調べようと思って」
「大きな気配を?」
「そう、それに少し嫌な感じが混ざってるからもしかしたらなにかの魔物が変異したのかもしれない」
「そうか、ラジはトルテの護衛か?」
「はい、トルテだけだと危ないかもしれないですし。もし見つけて危険だと判断したらボクが対処しようかと思いまして」
「まぁ仮に変異した魔物がいてもラジならなんとかなるか…」
ラジは少女のような姿をしていても正体は「空竜」だ。そんじょそこらの魔物はSランク指定でも彼女には敵わないだろう。
「でも今のところそんな魔物見当たらないんですよ」
「そうね、もっとあっちなのかしら?」
そう呟く二人にランドは「この辺りはもう見て回ったんだな?」と尋ねる。
「そうですね、アリスさんたちの里からここら辺りまでは見ましたよ」
「それにランドがここにいるってことはそんなの居たらとっくに片付けてるでしょ?」
「そうだね、師匠がそんな気配のする魔物を見逃すはずないし」
(ここら辺には居ないということか…ということはもしかして)
二人の言葉に嫌な予感がしたランドは「ちょっと用事ができた、二人はこの辺りをもう少し見て回っておいてくれ。ラジ、もし見つけて自分の手に余るようなら元の姿に戻って知らせに来なさい」
ランドの言葉に二人は
「わかったわ」
「わかりました」
と返事した。
返事を聞いたランドは(杞憂であってほしいが…)と思いながらリディアが向かった方角へと全力で走って向かった。
- - -
ランドがラジ達と出会った頃…
「てぇい!」ズバッ
「とりゃあ!」ザンッ
「ふう、こんなものか?」
私は順調に遭遇した魔物を討伐しながら進んでいた。
「ふむ、そろそろ戻り始めた方がいいかな?フフ、これならランドにも「助かったよ」と言ってもらえるだろう」
私は意気揚々と先程ランドが言っていた大木に向かって歩き出すとそこに二頭の「フォレストウルフ」が飛び出してきた。二頭はなにやら大きなものを咥えておりそれを取り合っているようだ。
「なんだ?」
私は立ち止まって様子を見るが私に気付いた二頭の「フォレストウルフ」は自分たちの獲物を奪われると思ったのか私に向かってくる。
「む、小癪な!」
私はすぐさまその二頭を斬り捨てると剣を仕舞う。
「何かを取り合っていたのに突然こっちに二頭とも向かってくるとはな。それにしても、この二頭はいったいなにを取り合っていたんだ?」
私は二頭が咥えていたものを確認しようと視線を向ける。
「な!?」
それは巨大な「キラーグリズリー」の頭部だった。
「キラーグリズリーだと?まさかフォレストウルフが倒して食い漁ったというのか?」
「キラーグリズリー」は「フォレストウルフ」よりもかなり格上の魔物だ、仮に群れで襲いかかったとしてもそう簡単に勝てる相手でもない。
「何百頭といればあり得ん話でもないが…いや、違うこれはウルフの仕業じゃない!」
私はキラーグリズリーの頭部の傷を見てそれがフォレストウルフによって倒されたものではないことを悟った。
なぜならその頭部にはウルフ達の歯形こそあれど致命的な傷はない。
そして首のところがまるで巨大で鋭利な刃物なようなもので切られてるのが確認できたことからこのキラーグリズリーは何者かに一撃で首を切り落とされたのだ。フォレストウルフにこんな芸当が出来るはずもない。おそらく先程の二頭はその何者かが始末したキラーグリズリーの残骸を奪い合っていたのだろう。
「だとすれば、キラーグリズリーを倒したのはいったいどんな…「グルルルル!」…!」
そんなことを考えていた私の横の茂みから、唸り声が聞こえたかと思うとなにかが飛び出してきた。
それは外見はフォレストウルフとよく似ていたが、体の大きさやそれに比例して牙や爪も別物と言える巨大さを有した狼の魔物だった。
「こいつはまさか…」
私は目の前の魔物の正体を推測した、おそらくこの魔物は先程ランドが言っていた「冬眠前で狂暴性が増したことで変異する特殊個体」と言われる魔物。
私も本で読んだことはあるが実物を見るのは初めての魔物。
そう、目の前の魔物は長年生きた「フォレストウルフ」が変異することで体が巨大化し、力や速度も別次元へと成長した特殊個体「老狼王」だった。




