「偏りの剣姫」その実力を発揮する
リディアの移動登録も終わり、ランドとしてはもう帰りたかったのだがリディアから「礼儀として世話になったから夕飯を奢る」と言われたので仕方なく商店街の方を歩いていた。
「さてランドよ、お前には世話になったしご馳走するぞ!」
「いやホント気にしなくていいんだぞ?」
「いいじゃないか、ソロ冒険者同士親交を深めるのも一興だ。この街にいる間はもしかしたら共同の依頼を受けることもあるかもしれないしな」
(できるなら遠慮したいが…)
街に来てすぐに知り合いが出来たのが嬉しいのかテンションの高いリディアにランドはそんなことを思いつつも一緒に歩いていた。
「それで、ランドはどこかいい店を知ってるか?」
リディアの質問にランドは「そうだなぁ…」と少し考えるが(あ、この間シシリアと行ったバルトさんのところに行くか…)と思い付いた。
「味も美味しくて値段も安い店を知ってるからそこに行くか?」
「そうか、ではそこにしよう。好きなものを頼むがいい!私はAランクだからな、ランドより年下とはいえCランクのランドよりも稼いでいるから心配するな!」
得意気にそう語るリディアにランドは「そうだな…流石はAランクだな」と適当に合わせて返事をしておいた。(実際は年末の討伐報酬の残りやオーガロードの討伐報酬、その他アルガスやフォルクスからの直接依頼の報酬でランドの口座にはそこらの高ランク冒険者よりも桁違いの残高があるがランドはあまり使わないので貯まる一方だった)
そうしてランドとリディアは先日ランドがシシリアと訪れた飲食店「冒険者と一輪の花」にやって来た。
「いらっしゃい!ってランドじゃないか今日はどうしたんだ?」
店に入ると店長で元Aランク冒険者のバルトがそうランドに話しかけてきた。
「こんばんは店長、いや実はこの街に来たばかりの冒険者が「どこかいい店を知らないか?」と聞いてきたのでここを紹介しようと思ってな」
「冒険者だぁ?」
バルトはそう返してからランドの横にいるリディアに気が付いて視線を向ける。
リディアはバルトに「はじめまして、リディアだ。今日はランドに世話になったので夕食を奢ろうと店を尋ねたらここがいいと言われたので来た!」と挨拶した。
「そうかい、そいつは礼儀のできたことだ」
そう返してからバルトはリディアの佇まいを眺める。
(ふむ、剣士のようだがなかなかに隙がないな…ランドほどではないが腕はあるようだ。Aランクの中から少し上といった辺りか?)
元冒険者だけあってバルトはリディアの実力をある程度は把握した。
「ランド、この嬢ちゃんなかなかの手練れだな?」ボソッ
「わかるか?」ボソッ
「ああ、だがなんだろう?腕はあるようだがなにやら少し不安定な気配もあるというか…」ボソッ
「流石店長、そこまでわかるとはな」ボソッ
「どういうことだ?」ボソッ
「まぁそれはそのうちに…「ところで店長よ」…?」
ランドがバルトとそんな会話をしてるとリディアがバルトに話しかけてきた。
「どうした嬢ちゃん?」
「先程私の佇まいを見ていたようだがあまり女性をじっくりと見つめるのは感心しないな」
「「!」」
リディアの言葉にランドとバルトは少し驚いた。バルトは決してリディアをガン見して眺めていたわけではなくさりげなく視線を向けただけなのにその事にリディアが気付いたからだ。
「気付いたのかリディア?」
「うむ、一瞬一瞬と分けてだが店長が私の動きを見ていたのは気がついたぞ」
「ほぉ…やるな嬢ちゃん」
バルトは素直にリディアが自分の動きを見逃さなかったことに感心する。
「私はソロのAランク冒険者だからな!なんて事はない!」
「(やはりAランクはあったか)そうかそれはすまなかっ…「いくら私が美女だから見とれてしまっても私には心に決めた人がいるからな!」…は?」
リディアの実力を認めて謝罪しようとしたバルトの言葉に被せるようにリディアはそう発言したのでバルトはついつい間の抜けた声を出す。
「店長の気持ちはわかる、私はこの若さでAランクになるほどの実力があり自分で言うのもあれだが美女だからな!見とれてしまうのも仕方ない。だが私はどこかにいる「あの人」を探しだして共に歩みたいのだ」
「…」
「……ハァ」
なにやら語りだしたリディアにバルトは呆気にとられ、ランドはため息をつく。
その時厨房の方からバルトの奥さんでこちらも元Aランク冒険者のローズが顔を出した。
「さっきから騒がしいね?おやランドじゃないか」
「こんばんはローズ」
「はいこんばんは、それでそちらの嬢ちゃんは誰だい?ナンパなんてしたらシシリアが泣くよ?」
「なぜそこでシシリアが出てくるかはわからんが違うぞ、彼女はこの街に来たばかりの冒険者のリディアといってな。ギルドへ道案内したお礼に夕食を奢るからと言うので連れてきただけだ」
「そうかい、まぁとりあえず座りな」
ローズとランドのやり取りを見ていたリディアは「なんだ店長、奥さんがいるのか?だったらなおさらさっきのはよくないぞ。奥さんもしっかりしないと」と言葉にする。
「は?」
リディアの言葉に今度はローズが間の抜けた声を出す。
「だか安心しろ奥さん、私は「ある人」を探していて他の男性には今のところ興味がないからな」
「ランド、この子は一体なにをいってるんだい?」
リディアの言ってる意味が解らずローズがランドにそう尋ねると「後で説明するから今は気にしないでくれ」とランドは疲れた顔で返すのだった。
それから少しして…
「ご馳走さまでした、確かに美味しかったぞランド!」
「そうかよかったな…」
ランドとリディアは注文した料理を食べ終えて店を出るところだった。
「では支払いは私がしよう、ランドは先に外に出ていてくれ」
「そうか、じゃあ先に出てるぞ(このまま逃げようかな…?)」
ランドがそんなことを考えながら外に出ようとすると「大変だランド!」とリディアが声を出した。
「どうした?」
「私は隣のダラス帝国から来たことは言ったな?」
「いや、聞いてないが?」
「そうだったか?まぁとにかく私は隣のダラス帝国出身でな、だから9月の武術大会のことも知ってるわけだ」
「そうか、でそれが今なんの関係があるんだ?」
「帝国から来て帝国の通貨をこの国の通貨に両替してた分が切れてたのを忘れてた!」
そう言ってリディアが見せてきた財布には隣の帝国の通貨はそれなりに入ってるがこの国の通貨が入ってなかった。
「つまり?」
「支払いができない!」
そう言って困った顔をするリディアにランドは「ハァ……仕方ない。バルト幾らだ?俺が払うよ」
そう言ってため息をつくランドにバルトとローズが声をかけた。
「なぁランド、俺の勘違いならいいがあの嬢ちゃんもしかして…」
バルトの言葉に続けるようにローズが…
「腕はありそうだが戦闘以外はかなり残念な子なのかい?」
流石に元Aランクなだけあってこの夫婦は今回のリディアの様子を見ておおよその察しがついたようだった。
「まぁ…見ての通りだ」
そう言ってため息をつくランドに二人は「「大変だな(ね)」」と声にするのだった。
それからランドはリディアが「宿屋はどこだ?」と尋ねたので案内し、更にもう今日は両替所も閉まっていたので宿代として幾らかのグランを手渡すことになるのだった。
「すまない、ランドには助けられてばかりだな。この借りは必ず返すぞ!」
「いや、気にしなくていいから」
「そうもいかん!高ランク冒険者として礼儀は大事だ!」
(ゴロツキを返り討ちにした戦闘以外はなに一つ高ランク冒険者らしいとこ見てないがな…)
「なにか困ったことがあれば言うがいい!このAランク剣士のリディアが力になるからな!」
「そうだな…なにかあったら頼むよ…」
「うむ、任せておけ!」
「それじゃあお疲れさん」
「ああ、それじゃあな!」
リディアが宿に入ったのを確認したランドは「なんか疲れたな…」そう呟きながら帰宅するのだった。




